書籍レビュー:『その後の不自由』著:上岡陽江・大嶋栄子

★★★★★

薬物・アルコール依存症を持つ女性をサポートするための施設「ダルク女性ハウス」を主な舞台として、主に「トラウマからの回復」について書かれた本です。共著者の一人上岡陽江さんはダルク女性ハウスの代表で、自らも依存症の経験を持つ方でした。

依存症は、「家族の中の緊張関係」が大きな原因になることが多いです。家庭に何らかの問題があるのに、子どもが「自分が頑張らなきゃ」という思いを抱いたり、「家の恥」などが足かせになって外に相談できない。すると、子どもは外に出せない痛みを和らげるために、何らかの依存症になる。痛みを受けた人は、自分の痛みがわからなくなります。痛みを認めると死んでしまうからです。依存症は生きのびるための手段です。このメカニズムは以前読んだ本にも書いてありました。本書には、自分の痛みや他人との距離の取り方、他人への相談のやり方が分からなくなってしまった人が、どうやって回復していけばよいか、が書かれています。回復というよりも、その人に本来備わっていた、生きていく力を獲得するための指針を示す本、といった方がいいかもしれません。

本書で繰り返し述べられているテーマとして「回復とは、回復し続けること」というものがあります。心の傷は、外科処置のように「悪い場所を切り取ったからもう大丈夫!」というようにはいきません。いや外科処置でも予後は長いので同じことでした。傷も病気も完治というものはないので、一生スパンで、どうやって傷と付き合っていけばよいかが問われます。人生は長いので好調不調は必ず周期的に訪れますが、大波がやってきても船の漕ぎ方が分かれば転覆しないですみます。

ぼくは家庭に大問題はありませんでしたが、11年の結婚生活は、本書に書かれている大問題のある家族そのものでした。元配偶者との関係は対等ではなく、ほぼ、母子関係と同然だったということがわかりました。そういえばぼくの他人との距離の取り方は、ゼロか無限遠になりがちです。

また、親に生きるための知恵をほとんど教えられてこなかったので、何もかも自己流でやらざるを得ず、そのせいか自分の体の状態の把握がいまだにできません。加えて、痛みを認めると倒れてしまう状況でしばらく生きてきたので、痛みには鈍感です。近頃、周りの人たちの助けのおかげで、水分補給ができるようになったり、疲れたら休めるようになってきました。回復とは、回復し続けることでもあるし、生きる力を獲得し続けることでもあるんでしょうね。


書籍レビュー:『つながりの作法―同じでもなく 違うでもなく』 著:綾屋 紗月, 熊谷 晋一郎

★★★★★( ºωº )

自閉症スペクトラム者(本書では「アスペルガー症候群」と記載されています)の綾屋紗月さんと、脳性まひの熊谷晋一郎さんの共著です。本書では書かれていませんがお二人はパートナーだそうです(Wikipediaより)。

本書は「つながり」について書かれた本です。綾屋さんと熊谷さんの身体的なつながりの疎・密の過剰の話から始まり、社会的なつながりの話へ展開して、いかに適度な「つながり」を模索してゆけば良いのか、方法論と分析、試みについて書かれています。

一つのテーマは「当事者研究」です。当事者研究とは

自分の身の処し方を専門家や家族に預けるのではなく、仲間の力を借りながら、自分のことを自分自身がよりよく知るための研究をしていこうという実践(P102)

と定義されています。

自閉症、脳性まひなどに限らず、マイノリティは当事者運動やグループを作り、いままでマジョリティに抑圧されていた自らのアイデンティティを再定義することができますが、いったん当事者がカテゴライズされてしまうと、用語やカテゴリーが硬直化し「お前はほんとうの自閉症じゃない!」という本質主義に陥る恐れがあり、またせっかくマジョリティからの圧力から逃れたのに、グループができればそこで力関係が発生し、新たな圧力が登場することは必至です。

二人は現代フェミニズム(上野千鶴子さんの言説だそうです)を例にとり、カテゴリーとは「常に暫定的なもの、差異化をして絶えず線を引き直さなければいけないもの」と捉えます。これを実践するのが、当事者研究である、と主張します。簡単に要約すると、安全なコミュニティの中で「語り」と「解釈」を繰り返すことで普遍的なパターンを見出し、一方では変えられない差異を見出したりする活動のことなのですが、具体的な実践活動がどのようにされているかについては、本書を読んでみてください。

ここからは個人的な感想です。

綾屋さんはあらゆる刺激を等価に受け取り、あらゆる情報が大量にインプットされ、それらを統合することができず、頭がフリーズしてしまうそうです。

ぼくもアスペルガーの診断を10年近く前に受けていますが、外界の刺激についての情報の感じ方は綾屋さんとは逆で、情報量が極端に少ないのです。脱水症状も熱中症も疲労も全部「眠い」で済ませてしまうし、色や質感の感覚にも乏しいし、文章内で形容詞をほとんど使いません。数名から言われましたが、ぼくの文章を読んだ人は堅くて淡々とした印象を受けるそうです。なので綾屋さんの文章は、第一印象では、言いたいことはよく分かるのですが冗長で読みずらく感じました。熊谷さんの文は論理構造があらかじめ決まっていると思われる四角い文章なので、すらすら読めました。

ところが綾屋さんの書いた第6章は死にたいスパイラルに落ち込むまでの過程が超詳しく書かれていて、当事者研究でいう所の「部分引用」にあたる言葉が頻発し、落ち込みました。そのまま外出したら、外界の音や意味や光や色が怖くなりました。人の顔を見るのも厭だし、咲いてる花や葉の色が眩しいし、立て看板や広告の文字をみると不安になるし、音楽を聞いていても腹が立つ。

ぼくは小さいころ、感覚過敏でした。雷が鳴れば光が怖くて座布団3枚の下に顔を隠したし、ドラクエやFFのエンカウント音と光が怖くてプレイできなかったし、寝室にチクタク言う時計があって毎日眠れませんでした。

感覚過敏は大きくなると治るとよく言われますが、ぼくも中学生くらいから症状が治まっていきました。しかしこれは治まったのではなくて、「感覚を殺して無視するようにした」のだと気づきました。具合が悪くなると、感覚過敏が蘇るからです。あらゆる色や匂いや音が襲ってくる感覚は、ぼくにもあったのでした。忘れていました。体力のあるときは、感覚過敏があると生きづらいので、無意識下で感覚をねじ伏せてしまえるのでしょう。しばらくして調子が良くなると、ハイコントラストで針が振りきれ切っているような世界はどこかに行ってしまいました。

そんなことが分かったので久しぶりに★5+をつけました。良い本です。

 

参考文献

当事者研究の実践書。本書に引用されていたセリフに印象深いものが多かったので、ぜひ読んでみたいです。

 

これも近いうちに読みたいです。


書籍レビュー:『躁と鬱』著:森山公夫

★★★☆☆

著者は1934年生まれの精神科医、陽和病院元院長、現名誉院長の森山公夫さんです。2014年刊行です。

著者は、単極性のうつ病というものは存在しないという立場に立っています。躁とうつはいずれも、「焦燥→努力→焦燥…」「孤立→焦燥→孤立…」といったスパイラルを形成する点、24時間生体リズムの崩壊であるという点で同じであり、これらが循環をなして躁うつ病を形成すると言っています。

躁うつ状態を日常からの「転調」と捉え、吉本隆明やシェークスピアなどを引用して美しい躁うつ病理論を構築したことは見事というほかなく、読み物としては面白いのですが、じゃあ具体的にどうすりゃいいんだというと「寝ろ」「生活リズムを整えろ」くらいしか言及がありませんでした。それができてたら苦労せんわ!!

著者は薬物療法にも懐疑的で、それはそれでよいのですが、対症療法しないなら患者本人の深層心理に向き合って長い対話を続けていくしかないことは以前読んだレインの本にも書いてあったのに、対話についてはぜんぜんページが割かれていませんでした。

病気を理解するには、概念を作って言葉を割り当ててあげないと、治療するにも雲をつかむようだしデータの蓄積もされません。偉大なる先人たちによって医学用語が定義されていったから今日の医療があることは分かります。分かりますが、それでも本書はやや概念論に傾き過ぎている気がしました。それから、文章がわかりにくいです。わりと致命的です。わからなくて上手くまとめられませんでした。

Amazonレビューでも、患者さんに「思弁的にすぎる」と書かれていました。やっぱそうだよねー

関連書籍

精神科医がうつ病になった本だそうです。

主人公が孤独からリズム崩壊していく話だそうです。


書籍レビュー: わかりやすく情報も的確 『図解 よくわかる大人のADHD』 著:柳原洋一、高山恵子

★★★★★

 

ぼくは小学校の時多動でした。授業中にはじっとしていないし、質問される前に答えをすぐ言ってしまうこどもでした。運よく、小学校の担任が多動を面白がってくれる教師だったので、嫌な思いはせずにすみました。

中学校に入って多動は治まっていたと考えていましたが、この本を読んだら全然治まっていなかったことがわかりました。

ADHDの主な「困りごと」として挙げられているのは次の10項目です。

  1. 集中できない:話を聞いている途中で内容がわからなくなる
  2. 計画的にできない:物事の優先順位がつけられない
  3. 人の話が聞けない:思いついたことをすぐに言いたくなる
  4. 先延ばしにする:面倒な用事に手が付けられず、なかなか着手できない
  5. 忘れっぽい:今なすべきことを意識し続けられず、自分の役割や置かれた状況を忘れてしまう
  6. 飽きっぽい:刺激や変化の乏しい状況に耐えられない。単純作業ができない。
  7. 自制が効かない:何事にもはまりやすく、ゲーム・お酒・買い物などの依存症になりやすい
  8. プランが立てられない:アイデアはあるが具体的な形にするのがおっくう
  9. 事故にあいやすい:ケガをしやすい、交通事故を起こしやすい
  10. 退学・失業・離婚が多い:ドロップアウトしやすく長続きしない

いかがでしょうか。1~5については現時点でもぼく自身に身に覚えがあります。かつては7、8でも困っていました。

本書は、成人してもこれらの症状が治まらない人を対象にしています。日本では極端に認知度が低く、精神科医でも知らない人が多数で、2008年にADHDの治療薬の一つであるリタリンが成人に投与禁止になるほどでした。本書が書かれた2012年時点で、やっとストラテラという薬剤が成人に投与可能となりました。

ADHDの患者には併存障害を抱える人が7割と極端に多く、ASDの発症率は5倍と非常に高確率です。症状自体も自閉症スペクトラムの症状と重なることが多いです。脳機能の偏り、という観点で見れば重なるのも納得がいきます。

ADHDにはドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が関わっていると言われています。多動なんだからドーパミンが多いんじゃないの?と思っていましたが、逆にドーパミン等が少ないことが原因だそうです。コンサータ・ストラテラは、それぞれドーパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害を担い、神経伝達を活性化します。抗うつ薬であるSSRIがセロトニンの再取り込み阻害を行うのと原理は同じです。

本書の優れている所は、具体的に日常の「困りごと」を解決するためにどうすればいいかかなり細かく書いてあることです。例えば、

  • 約束や期限を忘れやすい→webカレンダーのスケジューラーやリマインダーを使おう!
  • なくしもの、忘れ物が多い→色別にファイルを作って保管しよう!重要なものは赤!
  • うっかりミスが多い→指示や約束を必ず文面に残そう!やむを得ず口頭で済まさなければいけないときは必ず復唱しよう!
  • 時間配分ができない→時間に余裕を持たせること!1時間かかる作業は1時間半や2時間予定を取って余裕を持たせて、余ったら休憩しちゃおうよ!

このほかにもたくさんのヒントになることが書かれています。発達障害の入門用と思われる書籍の中では記述が丁寧で、情報量も多くしかも優しさにあふれている優れた書籍です。冒頭の「10の困りごと」に当てはまる人本人やその家族、もしくは大切な人がADHDの症状をもつ人には、自信を持って薦められる1冊です。

 

(追記)1点腹が立ったところがあります。P112-113の「女性のADHDは生きにくい」という項目です。

日本では(中略)家庭に入った女性は皆、家事ができて当たり前と考えられてきています。ですから、「できて当たり前」の掃除や洗濯をきちんとこなすことができないADHDの女性に対し、世間の風当たりは強いものです。

(中略)

職場仲間や上司のサポートをしたり、コピーをとったりといった雑務を率先して引き受け、正確に早くこなす女性社員は高く評価されますが、こうしたことが苦手な女性社員を見る目は、おのずと厳しくなります。

家事にせよ、会社の雑務にせよ、立場が男性であれば、できなくてもそれほど責められることはないでしょう。(P112)

この本が出版された2013年の時点でも、女性の役割、とやらを押し付ける風潮があるわけ!?古すぎない!?

社会なんて生物進化みたいに人間が恣意的に行き当たりばったりで決めてきた慣習の積み重ねに過ぎないっていうのに、女性であることだけで「世間の風当たり」に翻弄されなきゃいけないなんてばかくさいです。

男性も女性もない、その人独自の個性が尊重される世の中になってほしいものです。

 

参考書籍

amazonだと並みいるノウハウ本を押しのけて目につく関連本はこれです。

脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方

脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方

  • 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 単行本
  • 購入: 31人 クリック: 757回
  • この商品を含むブログ (71件) を見る
 

 


書籍レビュー: 社会リズムを安定させる『対人関係療法でなおす 双極性障害』 著:水島広子

★★★★☆

 

双極性障害は概日リズムに大きな影響を受けます。一度睡眠不足になると大抵は躁の症状が出るので、睡眠時間の確保が重要となります。

本書はさらに「社会リズム」という概念を導入し、転居・トラブル・人間関係のストレスなどをリズムの乱れとみなして、躁うつエピソード再発のリスク要因ととらえます。

双極性障害の患者さんは、感情の振れ幅が大きくそれに振り回されます。それは病気の症状なので仕方のないことです。ですので、感情を安心して表出できる環境を作ることが必要です。例えば「前向きに頑張って」とか「笑っていてほしい」などという言葉は、「後ろ向きになるな」「悲しむな」と言う意味になりますので言語道断でダメです。

SRM(ソーシャル・リズム・メトリック)という社会リズム管理表をつけることを推奨されています。f:id:Lithium_carbonate:20140722201446j:plain

社会リズム療法 – Lithium-carbonate’s Blog

この表、生活時間帯が固定化され過ぎていて窮屈ですね。安定はするのでしょうけれど、これを守ること自体がストレスになるような気がします。

 

タイトルの「なおす」というところに違和感がありましたが、読み進めると「なおす」のではなく「症状を和らげる」ための本であることが分かりました。疑問点はいくつかありますが著者の人に寄り添う気持ちが感じられる本です。

 

 

 

 


書籍レビュー: 自傷は戦いの履歴だ『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』 著: 松本俊彦

★★★★★

 

ぼくには自傷について「他人にアピールするためもの」という偏見がありました。間違っていました。

著者の考える自傷の定義は次の通りです。

「自傷とは、自殺以外の目的から、非致死性の予測をもって(「このくらいであれば死ぬことはないと予測して」)、故意に自らの身体に直接的に軽度の損傷を加える行為のことであり、その行為が心理的に、あるいは対人関係的に好ましい変化をもたらすことにより、その効果を求めて繰り返される傾向がある」(P32)

自傷は前向きに行うものでした。彼らは、生きていけないほどつらい気持ちに抵抗して、生きるために自傷します。自傷行為の最大の特性は、非致死性です。自殺企図とは無縁のものです。髪をいじる、頭を掻くなど気持ちを鎮めるための自己刺激は多くの人が行っていると思いますが、あれを強烈にしたものが自傷行為なのだなと感じました。自分では抱えきれずどうしようもない闇に対抗するための孤独な手段でした。

次の記述には心揺さぶられました。

その傷跡は戦士の傷跡、あなたなりに「生きるか、死ぬか」の疾風怒濤を生き延びるための戦いの傷跡です。そして、いま現在あなたが生きているということは、その戦いの勝者は間違いなくあなたなのです。(P253)

とはいえ自傷はエスカレートすると生命の危機につながりますので、自傷を和らげるための方法についても多くのページが割かれています。最も基本となるのは「依存先を増やす」こと。誰も信頼できず相談もできないことは自傷のリスクを増加させます。最も気持ちを和らげられる方法は、信頼できる他人に話すことです。しかし、ただ1人に依存してしまうと、その1人の調子が悪くなったり離れて行ったりしたとき、すぐ暗闇に真っ逆さまになります。信頼できて安心できる他人は、多いほどよいです。

パートナーにSOSを出しても反応がいまいちなら保健センターや精神福祉センターに相談しましょう、不快に感じる人間関係は捨てましょう、家族から離れることが必要なら生活保護を受けてでも離れましょうなどとサクッと書いてあって気持ちがよいです。

解離への対処方法、深呼吸や筋トレ、瞑想などの「置換スキル」と呼ばれる気持ちのそらし方などの記述も充実しています。おすすめの1冊です。

 

 

 


書籍レビュー:『双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本』 著:加藤忠史

★★☆☆☆

 

初めて知る人にはいいと思いますが通り一遍のことしか書かれておらず新しい知見を得ることができませんでした。躁状態にあまりスポットが当たっていないことと薬の情報が全然ないことが不満です。

 

 

こちらをお勧めします

 


書籍レビュー: 実務寄りでバランスの取れた入門書『躁うつ病はここまでわかった 第2版』 編:加藤忠史

★★★★★

 

ここのところ仕事が詰まっていて時間が取れませんでしたが何とか読めました。

躁うつ病の簡単なイントロから薬物、治療法、体験記とQ&Aからなる躁うつ病の入門書です。編者の加藤先生が書いている「躁うつ病の原因はどこまでわかったか」「躁うつ病Q&A」は特に充実しており読みごたえがあります。

時間がないので印象に残った点だけ簡単に書いておきます。

・躁うつ病はうつ状態の方がきつい、一般的なうつ病と比べても症状は急性で自殺企図率も2倍ある。単極のうつ病と誤診されやすく、抗うつ薬を投与すると躁状態が過剰になって危ない。

・患者は母親の期待に応えようと「いい子」を演じていることが多い、母親は概して過干渉。

・加藤先生の説では、ミトコンドリアのDNA欠失(後天)によるカルシウム濃度のコントロール不全が原因なんじゃね?とのこと。2012年時点で、徐々に浸透してきている考え方らしい。

・加藤先生は年に4回以上の周期がある「ラピッドサイクリング」患者を診ていた経験から、我々の脳にはもともとうつ状態なら気分を上げる、躁状態なら気分を下げる神経の機能が脳に存在し、これが弱ると躁うつ病になるのでは、という仮説を立てている。納得できる。

・敷島カエルさんの闘病体験期では「気分の波がなくなることはないが、激しい波をさざ波にすることはできる」と述べていらっしゃる。さざ波、というのはいい表現だと思った。

・進化論的に見ると、季節性の躁うつ病は冬に長く寝て過ごすことができ、春には躁になって食料を確保できるという点で病気のない人よりも適応したのではないか、という面白い考え方もある。

 

以上です。今後はもっとたくさん本を読んでいこうと思います

 


書籍レビュー: わかりあえてない『一緒にいてもひとり―アスペルガーの結婚がうまくいくために』 著:カトリン・ベントリー

★★☆☆☆

 

タイトルに惹かれました。

オーストラリアに旅行中だったスイス人の著者カトリンとオーストラリア人のギャビンが出会い数日で恋に落ち、結婚したところから物語が始まります。

著者の夫ギャビンは天才型のスペクトラム星人です。会計の仕事も投資も超出来るし、テニスも上手い。ジョークのセンスもある。そしてカッコいい。しかし結婚式でジョークのつもりでディープキスをしたり、大好きなゴルフのことをいつまでもしゃべり続けたり、子供が病気になるといつもと違うパターンだからパニックになったり、と振幅の非常に大きな人物です。

ギャビンは天才型ですから自信に満ちており、カトリンの言うことに全く妥協しません。口論があれば自分は絶対に悪くないと言い張ります。疲れたカトリンは故郷のスイスに帰ろうと一時は決心しますが、紆余曲折あってギャビンがアスペルガーと診断され、なあんだじゃあしょうがないわね、と納得してまた元に戻る、というのが大筋の話です。訳が悪いのか、本文がもともとひどいのか、論旨が分かりにくく読み進めるのが困難でした。

 

本全体から2人は全然分かりあえてないんだなぁと感じました。

最初の息子マークが生まれたときの描写です。

ギャビンはマークの小さな手や足で遊び、ついには空中に少し投げ始めました。(中略)彼は、腕の中の赤ん坊がただの遊び友だちではなく、感情や考えをもった小さな人間だとは思わなかったのです。その子が将来自分を見上げて、援助とリーダーシップを求めてくるだろう、父親に自分を理解してほしい、友達になってほしいと言ってくるだろうとは思っていなかったのです。(P80)

これひどくないですか?

ギャビンは子供をモノ扱いしたって断言してますよ?

本文を読めばギャビンは子供をとても愛していたことがわかりますし、つい嬉しくなって赤ん坊が身体的に弱い存在だって忘れちゃっただけじゃないですか?もちろん危ないから止めるべきですが。

次のページにも首をかしげました。

ギャビンに心の理論がないことを示す面白い出来事がありました。出産から5日後、私は数時間の外出を許されたので、ギャビンに服を持ってきてほしいと頼みました。そうすればアイスクリームショップに行けますから。彼はサイズ8の超ピッタリのジーンズとミッキーマウスのTシャツを持ってきました。妊娠中あまり体重は増えませんでしたが、このジーンズがはけるとは思えませんでした。(P81)

え?

それ心の理論関係なくないですか?

いつもサイズ8のものをはいてるから、やった!いつものサイズあったよよかった!っていう気持ちで持ってきてくれたのでは?

 

心の理論とはこういう奴です

本書、「ギャビンには心の理論がないから~」という記述が散発します。著者さんは、心の理論=思いやりの心って短絡して考えているようですし、しかもギャビンに他人を思いやる気持ちがまるでないような記述がたくさんあります。分かってくれなくて当然、だから「一緒にいてもひとり」というわけです。第16章のタイトル「身体はあるけど心はない」という題が心なさをひきたてています。

これは間違いです。

心はあります。表現することが難しいのです。

ないって言いきってほしくありません。

すごく悲しいです。

書いているうちに腹が立ってきたので星をもう一つ下げました。

「ASの人は違う方法で愛情を表現する」など理解を示す記述もあるのですが、それもギャビンに定型と同じ方法を取らせて解決するなど、ストレス負荷の高い方法を取らせているのでなんだかなぁ。

 

わたしの結婚は一体なにがいけなかったのか、どうすればよかったのか、何らかの示唆が得られれば良いと思いましたが、むしろ定型の人と理解し合うことが余計に難しいと思わされました。

わたしはパニックになるといわゆる自閉的行動をします。言葉が明瞭に出なくなったり、頭をふるふるしたり、目の色が乾いたり自分でも気づいていない症状がでるそうです。

この行動は「怖い」という印象を抱かせるそうです。

理解できない。怖い。だからやめてちょうだい。子どもも真似するでしょ。あんなふうになってはいけないよ。

こんな気持ちが相手の根本にあったら分かりあうなんて不可能です。

一体どうすればよかったのか、まったくわからなくなりました。残念です。

 


書籍レビュー: よくわからなかった『よくわかるパニック障害・PTSD』 著:貝谷久宣

★★☆☆☆

 

恥ずかしながらほとんど知識がないので入門書っぽいものをセレクトしました。

パニック障害についてはこれといった原因は分かっていません。人間が恐怖や不安から回避するための機能の誤作動と考えられています。まだ仮説の段階です。動悸・息切れ、過呼吸、目まい、離人症状、緊張、脱力などが主な症状です。厄介なのはパニック反応自体が恐怖や不安を引き起こすために、その反応の回避のためにパニック反応が起こり、またその反応の回避のためにパニック反応が起こり、、と無限に連鎖していって最終的には動けなくなってしまうことです。

PTSDはいわゆる「トラウマ」体験による症状が1か月以上続いた場合と定義されており、診断基準も明確です。フラッシュバック(現在のように再体験)、回避・麻痺(関連する事柄を避ける、無反応)、覚醒亢進(眠れない、神経過敏など)が主な症状です。

いずれもうつ症状を伴うためSSRI(パキシルとか)が有効です。知りませんでした。薬の種類と診断基準については本の厚さの割に非常に詳しいです。逆に言うとそれ以外の情報量が不足しています。薬のことは知ってるし診断基準を知ったって素人判断じゃダメなんだから書いたってしょうがないっつーか。

たとえば規則正しい生活リズムが大事とか3食食べようねとか入浴しろ運動しろアルコール飲むなとか様々な指示がありますがそんなん誰でもわかってるしできたら苦労しないわボケー!家族の協力と支えが不可欠っつたって家族が当てにできない人間はどうするんじゃー!

あと圧倒的に少ないのは実際の患者の声!ちょろんと8P分しかなくしかも要所要所ぼかしてあって全然参考にならねー!

やっぱり入門本はだめだと思いました。通り一遍の知識は手に入りますがそんなんじゃしょうがないんだよな。

あとこういう本って必ず前向きになろうぜって書いてあるんだけど前向きにならざるを得ないんだよね後向きになった瞬間にマイナススパイラルに入ることが分かってるんだから。

 

関連書籍

まあ順当にここらへんがいいんでしょうね。

不安障害の認知行動療法〈1〉パニック障害と広場恐怖―患者さん向けマニュアル

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不安障害の認知行動療法〈2〉社会恐怖―患者さん向けマニュアル

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  • 作者: ギャビンアンドリュース,ロッコクリーノ,リサランプ,キャロラインハント,アンドリューペイジ,Gavin Andrews,Andrew Page,Rocco Crino,Lisa Lampe,Mark Creamer,Caroline Hunt,古川壽亮,マーククリーマー
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不安障害の認知行動療法〈3〉強迫性障害とPTSD

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  • 作者: ギャビンアンドリュース,ロッコクリーノ,リサランプ,キャロラインハント,Gavin Andrews,Rocco Crino,Lisa Lampe,Mark Creamer,Caroline Hunt,古川壽亮,マーククリーマー
  • 出版社/メーカー: 星和書店
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PTSDの臨床研究―理論と実践

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洋書で一番人気のあるやつ

The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma

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乗るのが怖い 私のパニック障害克服法 (幻冬舎新書)

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森田療法 (講談社現代新書)

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パニック障害、うつ病は腸のバイ菌が原因―マンガと図解でやさしくわかる

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