書籍レビュー:『誰も懲りない』著:中村珍

★★☆☆☆

2冊目です。

フィクションかノンフィクションか、否定も肯定もしていないと筆者が言っているので、そう解した上での感想を書きます。

『お母さん二人いてもいいかな?』と同様に、読みづらく、何を言っているのかわからなくなることが何度もありました。素人のぼくから見ても遠近に違和感のある絵がたくさん存在し、気持ち悪くなりました。読ませる漫画にすることって、難しいんですね。

では内容に注目することとなりますが、この物語は、いかに主人公の登志子がお父さんを好きか、を長々と見せつけられる物語でした。登志子の父が登志子を虐待し、母は自分も殴られるから登志子を庇うことができない。母は虐待に耐えかねて登志子を連れて離婚したと思われます(経緯はぼかされています)が、その際に他の男と浮気したことを、登志子は成人してからも許さず、母に暴言を吐き続け、殴り、踏みつけます。父を捨てた母を許せないからです。どんだけお父さん好きなの!

母の浮気相手と少しの間破局したときだけ、母への評価が180度変わって凛とした表情に変わります。で、浮気相手と続いていたことが発覚するとまた母への恨みを爆発させます。登志子にとって、お父さん以外の男はゴミなのでした。お父さんは最初から最後までイケメン風に書かれていました。お父さんには虐待されていたはずなのに、ずっと連絡を取りあっていました。

レビューで話題になっている「ものさし」の話は、「誰もが自分のものさしで他人の心を測る」といった相対主義で、しかもその「ものさし」は『容赦なく変わらない』『誰かのために目盛が改まることはきっとない』と決めつけられているものでした。徹底した拒絶でした。

とどめに作品の最後で「家族を否定していいのも肯定していいのも私だけなんです」と書かれてしまうと、もう何も言えなくなりました。。

じゃあなんで書いたの。

 


書籍レビュー: 『お母さん二人いてもいいかな?』著:中村キヨ(中村珍)

★★☆☆☆

漫画家・ライター・エッセイストの中村キヨさんによる漫画です。年上の女性と3人の子供を10年育てた『私生活をエッセイ風に漫画化した』作品です。

c71さんが読んでいたのでぼくも読みました。一緒に考えました。

もやもやする本

中村さんの本を読んだのは初めてです。

これはぼくの理解力が足りないのだと思うのですが、全体的に読みにくかったです。時系列は前起きなく飛ぶし、セリフの構成も見づらい。LGBT向けの本の体裁をとっていますが、レズビアンについては中心的なテーマではない。「分かる人に分かればいい」というスタンスなのかもしれませんが、難しかったです。

前半~中盤にかけては子どもたちへの愛情を強く感じました。子どもたちの描写も、表情に乏しいものの、かわいかった。しかし、愛情があるからって何をしてもいいわけではありません。

c71さんのブログにも書かれていますが、トナ君に出生の秘密を打ち明けるシーンはいやでした。もしぼくがトナ君だとしたら、言わないでほしかったし、ぼくが親の立場だとしても、言いません。

あの状況で「出生の秘密を聞きたいか、聞きたくないか」と言われて「聞きたくない」と答える子どもはいません。だって、中学生の時点で、聞きたいか聞きたくないかを判断する能力なんてないですよ。子どもが愛されてることは毎日の生活で本人がよく分かってるんですから、愛を盾にして大人の事情を背負わせる必要なくないですか?子どもが、親のバックグランドを背負わされて、いくつになっても親から身動きが取れなくなっている状況っていっぱいあるんですよ。

お前はお前、うちはうち、お前に語る権利なんかないと言われたら、そうですね、ごめんなさい、何にも言えませんけれど。

もう一点ひっかかたのは、P144から、パートナーのサツキさんと中村さんの関係を、中村さんがママ友に言おうとしたときに、サツキさんが中村さんを諫めるシーンです。

「あなたがママ友だちに『あの子たちの親』としてカミングアウトした瞬間、あの子たちは自分の意志と一切関係なく家庭環境を晒し上げられるんです!親によって!」(P145)

「子どもたちが自発的に『うちのままは女同士で結婚したんだよ』と自発的に言うまでは、あの子たちの『隠す権利と自由』を私たちは死守すべきなんです!」(P146)

サツキさんの言い分はもっともです。中村さんも正しさを認めています。すると、この本の存在意義が疑われます。だってこの本は子どもたちと自分たちのプライバシーを切り売りした作品だからです。作品中にはその気になれば居所や関係性を特定できるような要素が紛れ込んでいます。危険です。

子どもたちを守りたいのなら、この本を出さなきゃよかったのでは?

 


書籍レビュー:『これが物理学だ!マサチューセッツ工科大学「感動」講義』著:ウォルター・ルーウィン 訳:東江一紀

★★★★☆

物理を生徒さんに楽しく教えられたらいいなあ、という想いで読みました。

著者のウォルター・ルーウィンさんは1936年オランダ生まれの物理学者で、MITの教授です。彼の物理未修者向けの講義はユニークな実験を必ず交えており、世界中にファンがいます。

例えば次の動画を見てください。15kgの鉄球を振り子の先に付けて手を放し、鉄球が戻ってきても元の高さを超えることはない、というエネルギー保存の法則を体を張って証明しています。

「私はエネルギー保存の法則を100%信じている。鉄球の速さが0にならなければ、これは私の最後の講義となる」

「物理学は正しかったので私は生きているぞ!じゃまた来週!」

すごい人です。このような実験がどの講義でも行われているというのですから、MITの人は恵まれていますね。

「あの人は教壇で爆発するんですよね。…あの疾走感は今でも首の後あたりに残っています」(P17、教え子談)

本書は前半で、講義の内容をまとめたと思われる、ニュートンの4法則や電磁気、音など物理学の基礎にまつわるトピックが豊かに記述されています。ウォルター先生は虹が好きで、虹のできるメカニズムや作り方、白い虹や二重虹について熱く語る第5講が特徴的でした。

後半はウォルター先生の専門分野であるX線宇宙物理学についての話で、東京ドームより大きな気球を飛ばしてX線を検出したり、星が終わるとき何が起こるのか、重力崩壊から中性子星を経てブラックホールになる過程の詳述など、スケールが大きすぎて頭がおかしくなる話がいっぱいでした。

ブラックホールについては

・ブラックホールの中心には、体積がゼロで密度が無限大の「特異点」なるものがある

・ブラックホールを観測する人間から見ると光の速度が遅くなって波長が長くなるので、ブラックホール付近にいる人は赤く見える。ブラックホール付近にいる人からは外部が青く見える。

・ブラックホールにもっと近づくと赤(赤外線)を通り越して可視光を外れ、透明人間になる

・ただし透明人間になる頃には、重力で体が引きちぎられる。これをスパゲッティ現象という

という怖い知識が身に付きました。

ウォルター先生はユダヤ人で、一族をホロコーストで半分亡くしています。第1章には彼の壮絶な過去も描かれています。ホロコーストを笑い飛ばす映画である『ライフ・イズ・ビューティフル』には不快感を覚える、という記述を読んで、そーだよな、ごめんなさい、と思いました。

内容はすばらしいし、ウォルター先生の講義もすばらしいのですが、本書には2点欠点があります。1点目は図が少ないこと。物理学の本なのになぜか縦書きということもあり、イメージが湧きにくく読むのに労力が必要です。2点目は、訳が雑なこと。特に要のはずの物理用語周りの訳が読みにくく、「光が大気圏を通り抜ける間に空気分子を『飛び散らせる』」(P24)という明らかな誤訳もありました。残念です。

彼のことを知りたければ、講義を視聴するのが一番だと思います。

https://www.youtube.com/channel/UCliSRiiRVQuDfgxI_QN_Fmw

力学、電磁気学、波動についての講義や子供向けの講義など、約100件の講義が無料で公開されています。英語ですが字幕も付いていますので、ちょっとだけ英語が読める人なら十分ついていけます。ぜひご覧ください。

一点、忘れないようにしたいことを引用しておきます。

質問があるたびに忘れずにこう言った「すばらしい質問だ。」教える者が何より避けたいのは、学生は愚かで自分は賢いという驕りを、学生たちに感じさせてしまうことだ。(P385)


書籍レビュー:『英文法・語法のトレーニング 基礎講義編』著:風早寛

★★★★★

語学は慣れが全てだと思っています。誰でも慣れればマスターすることができます。なぜならこの文章を読んでいるあなたは日本語を慣れだけでマスターしているからです。でも慣れだけだと時間がかかります。だってあなたが日本語をまともに話せるようになるには少なくとも10年はかかりましたものね。

ここで登場するのが文法です。文法はある言語についてネイティブが無意識にやっている慣習をまとめて体系化したものです。「最低限これだけ覚えとけばいいよ!」という骨組みのようなものです。どんな言語でも、必要最低限の文法を学ぶのには1年もかかりません。文法をまず最初に覚えると楽です。文法は語学学習のショートカットのためのツールです。

文法は慣習ですので、どうしても覚えるしかないことがたくさんでてきます。例えば「giveは第4文型を作る」「I am possibleという英語はない」のはなぜか?という理由としては、突き詰めると「みんながそうしているから」としか言えません。

日本語だって慣用のかたまりです。

あんまり知られてない?! 日本語で外国人がくじけるとこ

英語と比べると日本語は文の形は自由だし活用はむちゃくちゃだし主語はいらないしフリーダムです。英語って文型5つしかないんだよ、必ずだよ、楽だよね。

ということを授業で話そうかなと思いながら読んでいました。

本書は「基礎講義編」と銘打っているように中学修了程度の生徒が読むことを想定しています。易しく読めますが対話形式にもかかわらず内容は深く、覚えるしかない表現も相当カバーされているので、これ1冊を数回まわしたらセンター英語の文法問題は9割以上解けちゃうんじゃないかな、という印象を受けました。5文型、分詞、仮定法の解説に特にページが割かれています。Lesson50の分詞「長文読解に応用する」は英文に慣れていないとつまづきやすい「これは分詞なの?述語動詞なの?どっちなの」かを解決する方法が明快に説明されていました。大学受験用の英文法で使う用語を全部忘れたので復習用に読んだのですが、面白い本でした。

あとで気がつきましたが、著者は速読英単語と同じ風早寛さんでした。速読英単語は受験時代にお世話になった単語集ですので懐かしいです。

 


書籍レビュー:『新微分積分Ⅰ、Ⅱ』(高専の教科書)

★★★★★

全国の高専で使われている数学の教科書です。Ⅰが高校の数Ⅲ+α(テイラー展開など)に相当し、Ⅱは理系大学1・2年の微積分の範囲をカバーします。

説明は簡潔かつ的を射ていて、理解しやすいです。計算が確実にできるようになることが重視されており、「実戦で使える数学」としては最強の教科書だと思います。大学で指定される教科書は証明や記述が回りくどかったり分かりにくかったりすることが多く挫折した経験があるので、大学ではじめにこの教科書を使ってくれればよかったのに、と思うほどです。

さすがに終盤の微分方程式では紙面が足りず、難しい公式が天下りに振ってくることもありますが、ページが数式で埋まることなく進むのでむしろ都合が良いです。もっと学びたい人は理論を他の本で埋めてください。


書籍レビュー:『ファインマン物理学を読む 力学と熱力学を中心として』著:竹内薫

★★★☆☆

生徒さんに面白い物理の授業をしたいのでファインマン物理学を読みたいのですが、いきなり読んでも太刀打ちできないだろうから、先に概論を読んでおくことにしました。原書は無料で公開されていますがチャプター1だけ読んだところで時間が無くて続きを読めていませんし。

ファインマン物理学は1冊400ページくらいのものが5冊もある大著です。著者の竹内薫さんは物理学者で、いかにファインマンさんが優れた学者なのかよく分かっています。良い手引書です。ですが、体系だっていないので結局「ファインマンさんはすごいんだぜ!」ということが理解できる、ということが最大の収穫となりました。ほかには

・相対論、量子力学はノリノリで書いているが、磁力については苦しい

・量子コンピュータは面白いらしい(が、肝心の内容については説明が雑でよくわからん)

・エネルギーとは何か、とは、物理学では説明できない

・物理学は実験して測定して理論を裏付けるから、計算が超大事

ということを学びましたが、各トピックの内容がペラいので消化不良です。長いけど5巻セットを読んだ方が満足度が高いだろうと予想されます。

 

もうこのシリーズはお腹いっぱいなので、高いけど買うしかないですね


概論からはじめる

ぼくが学校の授業や塾で学んだことは、

「Aと聞かれたらBと答えよ」

という1対1対応の知識の集合体でした。知識は直線的で体系化されにくく、運よく直線が交差して網目になれば全体像が見えますが、たいていの場合は見えません。ぼくは受験も仕事も、学習内容を単調作業に落とし込み、バカの一つ覚えを100、1000、10000通り蓄積することで力技で乗り切りました。受験範囲は有限なので、閉じた範囲のことを覚えれば済むから楽でした。

大学の勉強はこれでは乗り切れません。学問の世界は作業ではありませんし、無限です。ぼくは有限の世界に慣れていたので、学問の世界は広すぎて掴むことができず、ついていけなくなりました。

世界を把握するためには全体像が見えていないといけません。そのためにはざっくりとした概論が必要です。概論は地図のようなもので、これがあれば道に迷うことなく、目的地にたどり着けます。

c71さんの授業はまず概論から始まります。基本概念や「この知識は何のために必要なのか?」ということを先に教えてから、例題を少しだけ解いて、生徒さんが理解できたらすぐ次へと進んでいきます。概論が核心をついていて無駄が一切ないので、学校で2週間以上かけて教えることが15分で終わってしまいます。

大学編入を目指す生徒さんを教えていても概論の必要性を感じます。いま何をしているのか、これから何が必要なのか、が分かれば、演習は生徒さん自身の力でできます。細かい技術にとらわれていると、いま何をしているのか、どこにいるのか見失い、学ぶ意欲が無くなります。いつも、いま学んでいることの意味を教えていきたいと思っています。

ぼくは障害特性もあって全体像の把握が苦手です。教えるためには大幅な先回りが必要で、たくさんの書籍を読まないといけません。毎日、この教材を読み終わってない、次はあれを読んで理解なきゃ、と焦ります。


書籍レビュー:『その後の不自由』著:上岡陽江・大嶋栄子

★★★★★

薬物・アルコール依存症を持つ女性をサポートするための施設「ダルク女性ハウス」を主な舞台として、主に「トラウマからの回復」について書かれた本です。共著者の一人上岡陽江さんはダルク女性ハウスの代表で、自らも依存症の経験を持つ方でした。

依存症は、「家族の中の緊張関係」が大きな原因になることが多いです。家庭に何らかの問題があるのに、子どもが「自分が頑張らなきゃ」という思いを抱いたり、「家の恥」などが足かせになって外に相談できない。すると、子どもは外に出せない痛みを和らげるために、何らかの依存症になる。痛みを受けた人は、自分の痛みがわからなくなります。痛みを認めると死んでしまうからです。依存症は生きのびるための手段です。このメカニズムは以前読んだ本にも書いてありました。本書には、自分の痛みや他人との距離の取り方、他人への相談のやり方が分からなくなってしまった人が、どうやって回復していけばよいか、が書かれています。回復というよりも、その人に本来備わっていた、生きていく力を獲得するための指針を示す本、といった方がいいかもしれません。

本書で繰り返し述べられているテーマとして「回復とは、回復し続けること」というものがあります。心の傷は、外科処置のように「悪い場所を切り取ったからもう大丈夫!」というようにはいきません。いや外科処置でも予後は長いので同じことでした。傷も病気も完治というものはないので、一生スパンで、どうやって傷と付き合っていけばよいかが問われます。人生は長いので好調不調は必ず周期的に訪れますが、大波がやってきても船の漕ぎ方が分かれば転覆しないですみます。

ぼくは家庭に大問題はありませんでしたが、11年の結婚生活は、本書に書かれている大問題のある家族そのものでした。元配偶者との関係は対等ではなく、ほぼ、母子関係と同然だったということがわかりました。そういえばぼくの他人との距離の取り方は、ゼロか無限遠になりがちです。

また、親に生きるための知恵をほとんど教えられてこなかったので、何もかも自己流でやらざるを得ず、そのせいか自分の体の状態の把握がいまだにできません。加えて、痛みを認めると倒れてしまう状況でしばらく生きてきたので、痛みには鈍感です。近頃、周りの人たちの助けのおかげで、水分補給ができるようになったり、疲れたら休めるようになってきました。回復とは、回復し続けることでもあるし、生きる力を獲得し続けることでもあるんでしょうね。


書籍レビュー:『今日から使える物理数学』著:岸野正剛

★★★★★

物理数学を平易な言葉で解説することを目指したと思われる書籍です。

これ1冊で

  • 微分方程式
  • ベクトル解析
  • 複素関数
  • フーリエ解析

のエッセンスをざっと掴むことができる、という野心的な本でした。数式は理工学系のカタい教科書の半分以下、でも意味分からん省略はされてないし、したとしても必ずフォローが入っている親切な本で、非常に読みやすいです。しかも力学、電磁気学、量子力学(ちょっとだけ)で実際に使われている場面にも触れることができます。数学でよくある執拗な厳密さはなく、ひたすら「数学はこうやって使うと楽だよ!便利だよ!」と数式を道具に使うことに徹することを学びました。

物理数学のイントロとしては最適だと思います。ぼくは複素関数やフーリエ解析を大学で学習する前に退学してしまったので、なんとなく理解するために役立ちました。250P程度の紙面では限度があるため、4分野の他の詳しい書籍も読んでみないといけないでしょう。

 

 

次はこれ



書籍レビュー:『力学の考え方』著:砂川重信

★★★☆☆

120ページしかないし力学のおさらいに良いかと思ったのですが、あまりお勧めできません。力学の基礎~慣性モーメントのあたりは直感的でそれなりに面白かったのですが、終盤の波動~解析力学のあたりは数式が難しいし説明は飛びまくりで、逆に難しく感じました。

ときどき砂川先生が内容を大きく離れて物理について熱く語るのが印象的でした。こんな風に物理のことを好きになれたらいいなあと思いますが10年くらい学習しないと無理

物理屋は、考えられる無数の微分方程式の中から、神の意図したただひとつの微分方程式を選び出し、それを自然法則と認める。これが物理学者の仕事である。このように無限の可能性の中から、ただひとつの微分方程式を選び出す才能は、真白なキャンバスの中から微妙な曲線を取り出す画家の芸術的才能に類似している。(P18)

 

 

最初の一冊には次の本を読むのが良いと思います。

レビューも以前に書きました

書籍レビュー: 苦しいことは良いことだ 『力学 (物理入門コース1)』 著: 戸田盛和