書籍レビュー: 自傷は戦いの履歴だ『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』 著: 松本俊彦

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ぼくには自傷について「他人にアピールするためもの」という偏見がありました。間違っていました。

著者の考える自傷の定義は次の通りです。

「自傷とは、自殺以外の目的から、非致死性の予測をもって(「このくらいであれば死ぬことはないと予測して」)、故意に自らの身体に直接的に軽度の損傷を加える行為のことであり、その行為が心理的に、あるいは対人関係的に好ましい変化をもたらすことにより、その効果を求めて繰り返される傾向がある」(P32)

自傷は前向きに行うものでした。彼らは、生きていけないほどつらい気持ちに抵抗して、生きるために自傷します。自傷行為の最大の特性は、非致死性です。自殺企図とは無縁のものです。髪をいじる、頭を掻くなど気持ちを鎮めるための自己刺激は多くの人が行っていると思いますが、あれを強烈にしたものが自傷行為なのだなと感じました。自分では抱えきれずどうしようもない闇に対抗するための孤独な手段でした。

次の記述には心揺さぶられました。

その傷跡は戦士の傷跡、あなたなりに「生きるか、死ぬか」の疾風怒濤を生き延びるための戦いの傷跡です。そして、いま現在あなたが生きているということは、その戦いの勝者は間違いなくあなたなのです。(P253)

とはいえ自傷はエスカレートすると生命の危機につながりますので、自傷を和らげるための方法についても多くのページが割かれています。最も基本となるのは「依存先を増やす」こと。誰も信頼できず相談もできないことは自傷のリスクを増加させます。最も気持ちを和らげられる方法は、信頼できる他人に話すことです。しかし、ただ1人に依存してしまうと、その1人の調子が悪くなったり離れて行ったりしたとき、すぐ暗闇に真っ逆さまになります。信頼できて安心できる他人は、多いほどよいです。

パートナーにSOSを出しても反応がいまいちなら保健センターや精神福祉センターに相談しましょう、不快に感じる人間関係は捨てましょう、家族から離れることが必要なら生活保護を受けてでも離れましょうなどとサクッと書いてあって気持ちがよいです。

解離への対処方法、深呼吸や筋トレ、瞑想などの「置換スキル」と呼ばれる気持ちのそらし方などの記述も充実しています。おすすめの1冊です。

 

 

 


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