書籍レビュー:『つながりの作法―同じでもなく 違うでもなく』 著:綾屋 紗月, 熊谷 晋一郎

★★★★★( ºωº )

自閉症スペクトラム者(本書では「アスペルガー症候群」と記載されています)の綾屋紗月さんと、脳性まひの熊谷晋一郎さんの共著です。本書では書かれていませんがお二人はパートナーだそうです(Wikipediaより)。

本書は「つながり」について書かれた本です。綾屋さんと熊谷さんの身体的なつながりの疎・密の過剰の話から始まり、社会的なつながりの話へ展開して、いかに適度な「つながり」を模索してゆけば良いのか、方法論と分析、試みについて書かれています。

一つのテーマは「当事者研究」です。当事者研究とは

自分の身の処し方を専門家や家族に預けるのではなく、仲間の力を借りながら、自分のことを自分自身がよりよく知るための研究をしていこうという実践(P102)

と定義されています。

自閉症、脳性まひなどに限らず、マイノリティは当事者運動やグループを作り、いままでマジョリティに抑圧されていた自らのアイデンティティを再定義することができますが、いったん当事者がカテゴライズされてしまうと、用語やカテゴリーが硬直化し「お前はほんとうの自閉症じゃない!」という本質主義に陥る恐れがあり、またせっかくマジョリティからの圧力から逃れたのに、グループができればそこで力関係が発生し、新たな圧力が登場することは必至です。

二人は現代フェミニズム(上野千鶴子さんの言説だそうです)を例にとり、カテゴリーとは「常に暫定的なもの、差異化をして絶えず線を引き直さなければいけないもの」と捉えます。これを実践するのが、当事者研究である、と主張します。簡単に要約すると、安全なコミュニティの中で「語り」と「解釈」を繰り返すことで普遍的なパターンを見出し、一方では変えられない差異を見出したりする活動のことなのですが、具体的な実践活動がどのようにされているかについては、本書を読んでみてください。

ここからは個人的な感想です。

綾屋さんはあらゆる刺激を等価に受け取り、あらゆる情報が大量にインプットされ、それらを統合することができず、頭がフリーズしてしまうそうです。

ぼくもアスペルガーの診断を10年近く前に受けていますが、外界の刺激についての情報の感じ方は綾屋さんとは逆で、情報量が極端に少ないのです。脱水症状も熱中症も疲労も全部「眠い」で済ませてしまうし、色や質感の感覚にも乏しいし、文章内で形容詞をほとんど使いません。数名から言われましたが、ぼくの文章を読んだ人は堅くて淡々とした印象を受けるそうです。なので綾屋さんの文章は、第一印象では、言いたいことはよく分かるのですが冗長で読みずらく感じました。熊谷さんの文は論理構造があらかじめ決まっていると思われる四角い文章なので、すらすら読めました。

ところが綾屋さんの書いた第6章は死にたいスパイラルに落ち込むまでの過程が超詳しく書かれていて、当事者研究でいう所の「部分引用」にあたる言葉が頻発し、落ち込みました。そのまま外出したら、外界の音や意味や光や色が怖くなりました。人の顔を見るのも厭だし、咲いてる花や葉の色が眩しいし、立て看板や広告の文字をみると不安になるし、音楽を聞いていても腹が立つ。

ぼくは小さいころ、感覚過敏でした。雷が鳴れば光が怖くて座布団3枚の下に顔を隠したし、ドラクエやFFのエンカウント音と光が怖くてプレイできなかったし、寝室にチクタク言う時計があって毎日眠れませんでした。

感覚過敏は大きくなると治るとよく言われますが、ぼくも中学生くらいから症状が治まっていきました。しかしこれは治まったのではなくて、「感覚を殺して無視するようにした」のだと気づきました。具合が悪くなると、感覚過敏が蘇るからです。あらゆる色や匂いや音が襲ってくる感覚は、ぼくにもあったのでした。忘れていました。体力のあるときは、感覚過敏があると生きづらいので、無意識下で感覚をねじ伏せてしまえるのでしょう。しばらくして調子が良くなると、ハイコントラストで針が振りきれ切っているような世界はどこかに行ってしまいました。

そんなことが分かったので久しぶりに★5+をつけました。良い本です。

 

参考文献

当事者研究の実践書。本書に引用されていたセリフに印象深いものが多かったので、ぜひ読んでみたいです。

 

これも近いうちに読みたいです。


書籍レビュー:『微分積分(理工系の数学入門コース 1)』著:和達三樹

★★★★☆

微分積分の復習用です。

厳密さはガン無視して、微分積分の最低限の知識を身に着けるのに最適です。これ1冊でイプシロンデルタ法から多変数関数の微積分、無限級数までほぼ網羅的なおさらいができます。巻末には公式集もついており至れり尽くせり、数学をツールとして使う工学系学生にとってはもってこいの1冊です。

昔、大学で指定図書だった「解析入門」はガチガチの理論書で、足し算とはこういうものだと公理にしておきます、というレベルから話が始まるため、計算ができるまでに超大な推論の回り道を抜けないといけなくて、ぼくにはまったく理解できませんでした。本書のような概論を先に読んでおけばよかったですね。

 


書籍レビュー:『入門線形代数(放送大学テキスト)』著:隈部正博

★★★★☆

放送大学で使われているテキストです。放送大学はよい教授陣が揃っているので、テキストは概してよくまとまっています。

著者の隈部先生の授業で以前に数学基礎論をとったこともあったので、信頼してこのテキストで勉強しました。初学者にも読みやすく具体例を頻繁に交えながら書かれており、かつ一般性を失わないように行列をn次に拡張した場合の証明もなされており、幅広い読者が読むことのできるテキストです。大学時代は機械的に行っていただけの行・列基本変形の意味、階数・次元や線形独立・従属、線形写像のあたりの説明は分かりやすく、授業で大いに役立てることができました。

しかし先生の体力が途中でなくなったのか、終盤3章の固有値、基底変換、対角化については全然ページが割かれておらず、そこだけが残念です。他の本で補う必要がありそうです。


大学編入を目指す生徒さんの試験勉強を手伝います

理工系大学の3年次編入を目指す生徒さんの家庭教師を受け持つことになりました。

試験範囲は大学教養レベルの数学、物理、英語、化学です。数学と物理を中心に、全教科を教えることになりそうです。12年ぶりに勉強することになって、高校数学すら危うい段階から急いで復習しています。すでに線形代数を何度か教えました。線形代数はたまたま放送大学で途中まで学習していたので、なんとか授業が形になりました。

学生時代よりも長い時間勉強しているように感じます。あのとき分からなかったことも、いま読み返してみると落ち着いて意味が頭に入ってきます。20そこそこで学問の意味なんてぼくには理解できませんでした。学び直しにはもってこいで、趣味と実益を兼ねられるよい仕事です。


書籍レビュー:『躁と鬱』著:森山公夫

★★★☆☆

著者は1934年生まれの精神科医、陽和病院元院長、現名誉院長の森山公夫さんです。2014年刊行です。

著者は、単極性のうつ病というものは存在しないという立場に立っています。躁とうつはいずれも、「焦燥→努力→焦燥…」「孤立→焦燥→孤立…」といったスパイラルを形成する点、24時間生体リズムの崩壊であるという点で同じであり、これらが循環をなして躁うつ病を形成すると言っています。

躁うつ状態を日常からの「転調」と捉え、吉本隆明やシェークスピアなどを引用して美しい躁うつ病理論を構築したことは見事というほかなく、読み物としては面白いのですが、じゃあ具体的にどうすりゃいいんだというと「寝ろ」「生活リズムを整えろ」くらいしか言及がありませんでした。それができてたら苦労せんわ!!

著者は薬物療法にも懐疑的で、それはそれでよいのですが、対症療法しないなら患者本人の深層心理に向き合って長い対話を続けていくしかないことは以前読んだレインの本にも書いてあったのに、対話についてはぜんぜんページが割かれていませんでした。

病気を理解するには、概念を作って言葉を割り当ててあげないと、治療するにも雲をつかむようだしデータの蓄積もされません。偉大なる先人たちによって医学用語が定義されていったから今日の医療があることは分かります。分かりますが、それでも本書はやや概念論に傾き過ぎている気がしました。それから、文章がわかりにくいです。わりと致命的です。わからなくて上手くまとめられませんでした。

Amazonレビューでも、患者さんに「思弁的にすぎる」と書かれていました。やっぱそうだよねー

関連書籍

精神科医がうつ病になった本だそうです。

主人公が孤独からリズム崩壊していく話だそうです。


書籍レビュー:『金閣寺』著:三島由紀夫

★★★☆☆

京都旅行に行ったとき金閣寺に寄らなかったので、どんな寺なのかなと思って読みました。1950年の金閣寺放火事件をモチーフとした小説です。三島がマッチョになりかけている途中で書いた小説らしいです。彼の長編作品を読むのはこれが初めてです。

主人公はきもいです。金閣寺に妄執と言っていいほどの執着があります。これから女性と初体験というときに、彼にとっての永遠の美の象徴である金閣がイメージとして現れ、不能になるという設定でした。しかも2回も。この設定自体きもい。クライマックスでは金閣の美について何Pにも渡って饒舌に語られ、ぼくは高校の同級生でNHK教育テレビの出演者や番組について長々と説教を垂れてくる友人のことを思い出しました(彼はいい人です)。

三島の日本語は美しく精緻ですが、ぼくには理解力や感受性が足りず、高尚な美について理解できませんでした。巻末の解説で「三島はその溢れる言語宇宙できもい人間を的確に描写してるんだぜ!(意訳)」と書いてありましたが本当なんでしょうかね。

現代が舞台だったら主人公はオタで、永遠の美=二次元キャラに翻訳されるであろうと思います。想いのままの妄想をぶつけられる点で金閣とよく似ています。世界的文学作品にこんなこと言ってごめんなさい。あと金閣にもごめんなさい

大槻ケンヂが三島にハマってた理由がよくわかりました。

サウンドはいいんだけどなぁ。。


書籍レビュー:『あたらしい自分を生きるために アサーティブなコミュニケーションがあなたを変える』 著:森田汐生

★★★★★

ぼくは自分の気持ちを伝えることが苦手です。言語表現能力が足りないことも理由の一つですが、もっと深刻なのは「言ってはいけないのではないか」という思い込みがあることです。例えば体調が悪くても「心配させてはいけないから言わない」という選択肢を選んでしまうことがあります。

これは間違っていました。

本書に登場する概念「アサーティブネス」とは、「相手も自分も大切にして気持ちや意見を伝える(P10)」ことです。

アサーティブネスの「4つの柱」として、本書では次の4つが挙げられています。

①誠実であること……自分の気持ちに嘘をつかず、いやなことはいや、うれしいことはうれしいと、自分で認めてもよい、と考える。気持ちにフタをしない。「私はどう感じたか」を伝える。

②率直であること……伝えたいことを相手に伝わるように伝える。相手にわかるように伝えるためには、「もっと家事を手伝ってほしい」と曖昧にではなく、「ゴミは、改めて頼まなくても毎朝外に出してほしい」のように、具体的に話す。

③対等であること……誰に対しても、目上でも目下でも、社会的立場が強い人にも弱い人にも、対等に話す。自分を卑下しない。③は、アサーティブネスがアメリカの公民権運動や女性解放運動から生まれたことに由来します。

④自己責任を持つこと……言葉と行動を一致させる。できないと思ったら「できない」、途中で気持ちが変わったら「気持ちが変わった」と、率直に言う。

「体調が悪いことを言わない」のは、アサーティブネスに照らすと①(つらいのにつらいことを隠す)③(心配させない、のは相手を対等と思っていない)の2点に違反しています。

アサーティブネスは権利と責任をコインの裏表に例えています。「責任を取る覚悟ができた上で、初めて権利は行使でき」、「自分に『まちがう権利』を認めるのなら、まちがえたあとの責任をどうとるかを考える必要があります(P34)」。自分で考え、正しいと思った権利を行使して、その結果も正当なものとして引き受け、自分も相手も尊重しながら次のステップに進める、クリエイティブで健全な姿勢だと感じました。

この本には感心しましたが、よくよく考えるとパートナーが毎日実践していました。見習います。


書籍レビュー:『母がしんどい』 著:田房永子

★★★★★

田房永子さんの代表作?です。

紹介文には「毒親との戦いを記録したコミックエッセイです。」とあるので、一体どのような母親なのだろう、と期待して読みました。

田房さんの母は、読めば読むほど元配偶者にそっくりでした。似ているエピソードがいくつかあります。

こどもが中学校に通っている時、担任とトラブルになりました。詳しいことは忘れましたが、担任が顧問をしている部活に勧誘されたのを断ったら、担任にイヤミを言われた、という程度のことだったと記憶しています。元配偶者は、これを聞いて、担任に殴り込みをかけ、中学校をやめさせました。公立中です。転校先の私立中でも、部活で人間関係のトラブルがあったため、やめさせました。この子は、それ以後学校に通っていません。もっと正確に言うと、通わせませんでした。

元配偶者はこどもと自分との切れ目が無く、こどもが攻撃されたことと自分が攻撃されたことを同一視し、自分が攻撃されたことと同様にふるまいました。元配偶者はいつも「こどもの自主性が大事」といっていましたが、こどもの自主性は無視されていました。中学校でのトラブルは、こども自身が解決するべきでした。担任がクソだったことは事実なので、こども自身の力で考えて、その結果、学校に行くのをやめたと判断するなら、その決断は尊重されるべきでした。元配偶者は、こどもの力をスポイルしました。残念ながらぼくには当時、元配偶者の行動を止める根拠も判断力もありませんでした。

元配偶者は、こどもが親を慕っていることがわかっているから、言うことを聞かせるために、こどもを一人置き去りにするという罰を与えることがありました。置き去りにした時の様子を、こどもとぼくの前で事細かに説明したこともあります。こどもに生活力が無いことを分かっていて「この家を出て一人で生活すればいい!」という脅しをかけることもありました。

こどもにこういう罰を与えたこともありました。

ピアノ

一番不安定だった子には、あまりに言うことを聞かないので元配偶者が「殺してやる」と言ったこともありました。この子は、生きるために、「殺してやる」とおうむ返しして、逆上しました。包丁を持ち出してこどもに言うことを聞かせたこともあります。

 

内容紹介になっていませんがこのようなことを想い出しながら読んでいました。

Amazonレビューには壮絶な毒親体験記がいくつも書かれていて、ここだけで読み物として成立します。

そういえば元配偶者の愛読書の一つはこれでした。

元配偶者の親もアル中暴力父+父に告げ口する母とたしかに毒親でしたが、自分もそうであるとは、彼女にはわからなかったようです。こどもを殴らなければいいわけじゃないですよ。本書にもお母さんは永子さんのことを「殴りはしない」と書いてあってぞっとしました。


はてなからWordPressへの移転(2) 書き換えプログラム公開

続きです。

書き換えプログラム公開

はてなからWordpressに移行する時、いくつかの障害を乗り越える必要がありました。これを自動的にエクスポートファイルを書き換えることで解決するプログラムを作りました。次の3点の機能を実装しています。

  • パーマリンクの形式がはてなとwordpressで異なるため、インポートしても記事が表示されない不具合を直す
  • はてなのブログカードがWordpressでは表示されないので、テキストリンクに変換する、またはPz-LinkCardプラグイン用のリンクに書き換える
  • はてなキーワードへのリンクを全削除する(はてなブログproを使っていない人向け)

プログラムはこちらです。Windows専用です。exeファイルが入ってるのでダウンロード時に警告が出るかもしれませんが、ウイルスは検出されませんでした。

はてな to WordPress

簡単に使い方を書いておきます。

まずはてなブログからエクスポートしたファイルを用意します。

20160925_3

次にHatenaToWP.zipファイルを解凍して、HatenaToWP.exeを起動します。

20160925_4

「選択…」を押してさっき用意したファイルを選択します。

20160925_5

「ブログカードの取り扱い」は、テキストリンクに変換するか、ブログカードにするか好きな方を選択してください。「Pz-LinkCard形式」を選択する場合は、事前にWordPressの「プラグイン」からPz-LinkCardをインストールしておいてください。

「変換」ボタンを押すと0.5秒ほどで変換が終了します。入力ファイル名に

WP_

を頭に挿入したファイルが作成されます。この例ではWP_rokujo.hatenadiary.com.export.txt という名前になりました。

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あとはこのファイルを、Wordpress

ツール→インポート→Movable Type と TypePad

からインポートして、終わりです。

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当ブログではこの機能を使って、ほぼ前のブログの体裁を保ちつつ移行することに成功しました。

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ブログカードのソーシャルカウント機能が動作していないのが気になりますが、動作には問題ありません。いずれ修正できたらします。

このツールを使って、はてなからWordpressへ引っ越すための敷居が下がることを望んでいます。機能追加の要望や不具合があればぜひ報告してください。治します。ただし、不具合修正のためには、面倒ですがあなたのブログのエクスポートファイルをデバッグ用にメール送付してください。ブログはもともとweb上で公開しているものですから特に問題ないと考えていますが、デバッグ後は責任をもってデータを消去いたします。

 

今後の課題としては、

  • はてな上に保存されている画像の一括取得機能とリンクの置き換え
  • ブログ内リンクのアドレス自動書き換え

の機能があると便利なのですが、手間がかかるのでまだ実装していません。

レンタルサーバー、独自ドメインについて

レンタルサーバーは月500円程度、独自ドメインは年1500円程度で取得できます。独自ドメインはお名前.comというサイトで登録しましたが、ここは1年目の料金が17円~からと激安なのに、2年目以降の料金が跳ね上がったりすることがあります。

料金はこちらを参考にして下さい。.net、.org、.bizなどは2年目以降も安いですが、.websiteは1年目99円なのに2年目以降2980円、.onlineに至っては2年目以降4980円です。注意してください。


書籍レビュー:『セクシャル・マイノリティ Q&A』編著:LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト

★★★★★

Q&Aという形式をとって、セクシャル・マイノリティの人が、社会生活を送るために具体的にどのような困りごとがあるのか、どう対応していけばいいのか、ということを主に法律家の立場から解説する本です。

セクシャル・マイノリティと謳っていますが実際にはほぼLGBTの人たちへの情報集でした。「LGBTの人が、マジョリティのために作られた社会制度の上にどうやって乗っかっていくか」がメインとなっています。例えば、

  • 心の性別と体の性別が違うときにはどのような手続きを取ればよいか?
  • 修学旅行のとき寝室をどうしよう。。
  • 自分が死んだときパートナーに財産を残すにはどうしたらいい?

といった、LGBTが日本で送る生活の中で必ずぶつかるであろう、社会的圧力や法的障害に対応するためのアドバイスが書かれています。ぼくはいまパートナーと法的にいえば事実婚状態なのですが、財産や任意後見制度、信託など事実婚についても適用できるアドバイスも多く、参考になりました。

途中にLGBT当事者によるコラムが挟まれていますが、彼らに共通しているのは、周りがみなバカにしている・異常だと思われる・誰にも相談できないことによる疎外感です。性別違和を感じニューハーフとなった後、男性学に出会いそのまま大学→修士まで修めてしまった宮田りりぃさんのコラムが一番面白かったです。

華やかな夜の都会で働く人々とのかかわりを通して、魅力的な女性/男性のイメージや恋愛関係が意図的・計画的に演出されていく様を間近で見ることが面白くてたまらないという感じでした。

本書に書かれているアドバイスはどれも個別で具体的なものですが、どのQ&Aにも執筆者さんの根底に「相談者さんの人格を大事にしたい」という思いが感じ取れます。それは、序盤の概論で次のように書かれている箇所に凝縮されていると思いました。

仮にマジョリティの人たちの方が多いとしても、多いからといって、それが「正しい」とか「普通」だとか「自然」だということにはなりません。人が、自分のことをどの性別だと思うか、また、誰を好きになるかということは、その人にとってとても大切なことです。そして、その人がどう生きるかといった、その人の人間としての尊厳(人間が人間らしくあること)に大きく関係することです。ですので、そのことについて、周りの人たちが「正しくない」とか「変」とか「不自然」だといったり、「こうあるべき」と決めつけたりすることは許されません。(P11)

マジョリティ側からかけられる圧力は、彼らの習慣に基づいたものに過ぎません。自分と他人の習慣が異なると、自分を否定されたようにに感じる人が多いので、数をたのんで「正しくない」だの「変」だのとマイノリティを攻撃して自分を保つ、という構造をよく見かけます。

誰一人同じ人間なんていないんだから、お互いを尊重できればそれでいいのにね。