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薬物・アルコール依存症を持つ女性をサポートするための施設「ダルク女性ハウス」を主な舞台として、主に「トラウマからの回復」について書かれた本です。共著者の一人上岡陽江さんはダルク女性ハウスの代表で、自らも依存症の経験を持つ方でした。
依存症は、「家族の中の緊張関係」が大きな原因になることが多いです。家庭に何らかの問題があるのに、子どもが「自分が頑張らなきゃ」という思いを抱いたり、「家の恥」などが足かせになって外に相談できない。すると、子どもは外に出せない痛みを和らげるために、何らかの依存症になる。痛みを受けた人は、自分の痛みがわからなくなります。痛みを認めると死んでしまうからです。依存症は生きのびるための手段です。このメカニズムは以前読んだ本にも書いてありました。本書には、自分の痛みや他人との距離の取り方、他人への相談のやり方が分からなくなってしまった人が、どうやって回復していけばよいか、が書かれています。回復というよりも、その人に本来備わっていた、生きていく力を獲得するための指針を示す本、といった方がいいかもしれません。
本書で繰り返し述べられているテーマとして「回復とは、回復し続けること」というものがあります。心の傷は、外科処置のように「悪い場所を切り取ったからもう大丈夫!」というようにはいきません。いや外科処置でも予後は長いので同じことでした。傷も病気も完治というものはないので、一生スパンで、どうやって傷と付き合っていけばよいかが問われます。人生は長いので好調不調は必ず周期的に訪れますが、大波がやってきても船の漕ぎ方が分かれば転覆しないですみます。
ぼくは家庭に大問題はありませんでしたが、11年の結婚生活は、本書に書かれている大問題のある家族そのものでした。元配偶者との関係は対等ではなく、ほぼ、母子関係と同然だったということがわかりました。そういえばぼくの他人との距離の取り方は、ゼロか無限遠になりがちです。
また、親に生きるための知恵をほとんど教えられてこなかったので、何もかも自己流でやらざるを得ず、そのせいか自分の体の状態の把握がいまだにできません。加えて、痛みを認めると倒れてしまう状況でしばらく生きてきたので、痛みには鈍感です。近頃、周りの人たちの助けのおかげで、水分補給ができるようになったり、疲れたら休めるようになってきました。回復とは、回復し続けることでもあるし、生きる力を獲得し続けることでもあるんでしょうね。