書籍レビュー:料理の道は険しく高かった『HOMEPAL DELUXE スタンダードクッキング 料理の基本 知恵・技・レシピ』

★★★★★

 

引っ越したらすべて自炊で食事を賄うつもりなので、図書館(といっても地域公民館の図書室)でもっとも網羅的なものを選んで借りてみました。

調理器具だけで30点以上、技術も洗う、水を切る、さらす、もどす、下茹で、塩もみ、煮る、炊く、ねかせる、まだまだ何十もの技術があり、素材も切り方も盛り方まで盛りだくさん、レシピを見るとワーキングメモリを酷使しそうな超マルチタスキング、そもそもレシピが複雑すぎて意味不明で材料も多すぎ。。。

大丈夫か!?

人間がこの世に生まれて何百万年と発展してきた料理の世界は複雑で、圧倒されるしかありませんでした。

ポテトサラダ

Q. 味がいまいち決まらない。なんだか味がぼーっとしてハッキリしない。

A.それはじゃがいもが熱いうちに下味をつけていないため。じゃがいもにしっかりとした味がついていると、あとから和えるマヨネーズの味も生きてくる。

味がぼーっとしてとかレベル高すぎでした。

この本はレシピが無駄に豪華なものが多いのですが必ず参考にはなると思います。綺麗で見やすいし、インデックスも分かりやすい。分量も完璧、調理時間の目安までついてます。欄外の一言メモは役に立つし道具の詳細な説明もすばらしい。アマゾン1円だし買ってみようかな。

 


書籍レビュー: 野菜を食うか、食わないか。。『栄養素の通になる―食品成分最新ガイド』 著:上西一弘

★★★★☆

読みやすいが公平性に過ぎるか

新生活を始めるにあたってどうしても調べておかなければいけないのが栄養素。いままで家族に任せきりでしたので、一人になるにあたって意地でも不足させたくない要素の1つです。

少し前にこれを読みました。上の本は栄養素だけでなく加齢や乳幼児、病気のことなど幅広いトピックが紹介されており、栄養素も詳しかったので、栄養素の機能としては、本書からはこれと言った新しい知見をほとんど得ることができませんでした。

絵入りで読みやすいのですが、全栄養素についてほぼ等しくページ数を割いているため、情報の過不足があります。ミネラルの紹介のほとんどが「多くの食物に含まれており欠乏はほとんどない」ということで、ページ数を浪費しているように見えます。三大栄養素にもう少しページ数を割いてほしいです。

本書を読んでも食事は玄米+大豆のコンボを中心とすることに変更なさそうなのですが、一番気になっていた、玄米や大豆に含まれるフィチン酸は「鉄の吸収を阻害することが知られていますが、体に良い働きもあるのであまり気にしない方がよいでしょう」「亜鉛は日本の食事で欠乏することはなく・・・考えられるのは・・・穀物や豆類に多いフィチン酸・・・は亜鉛の吸収を妨げる」と気にしなくていいのかするべきなのか分からない記述にとどまりました。亜鉛は全粒穀物、大豆自体にもそこそこ含まれてますので、あまり気にしないでよいかもしれません。

役に立つのは各種栄養分が多い食品をリストしてくれていることです。もうすこしバラエティが欲しいところですが、イラスト入りでは仕方ないでしょう。

貧乏生活に供えていっそ大豆と玄米と少量の野菜だけにするか?とも考えましたが、本書を読んで考えなおしました。大豆に多いn-6系脂肪酸が悪玉コレステロール(LDL)だけでなく善玉コレステロール(HDL)も減少させてしまうことがわかりましたので、脂肪分の補給の必要があります。リスクヘッジのために、乳+卵も摂っておいた方がよさそうです。概算で月+1000円の出費となりますが仕方ないですね。

ビタミンで不足しそうなのは予想通りA、B12、C、そして意外にもB2でした。Aはニンジン又は葉物野菜必須、Cはジャガイモ+ピーマンでいきましょう。本書によると果物の含有量が割と少ないです。ただし、これらは調理なしで食べられるため吸収率が良いということなのでしょう。でも果物は高いので泣く泣くカットします。B12は毎日味噌汁を作る予定ですので、これに煮干しを入れてカバー。煮干5gで1日の必要量を摂取できます。あと海苔。B2は少ないと口内炎になるそうです。私は口内炎は小さい頃しょっちゅう苦しめられてきました。含有量が多いのは乳・卵ですのでやはり外せません。

 

データを補完しながら読む必要がありましたが、これでおおざっぱな食事計画を立てることができました。全粒系穀物はビタミンB群とミネラルに富んでいて助かります。

 

 

関連書籍

巻末で紹介されている中で欲しいものをリストしました。

 

原典。やっぱいりますかねこれ。

日本食品標準成分表〈2010〉

日本食品標準成分表〈2010〉

  • 作者: 文部科学省科学技術学術審議会資源調査分科会
  • 出版社/メーカー: 全国官報販売協同組合
  • 発売日: 2010/12
  • メディア: 単行本
  • クリック: 4回
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 いずれ買います。

イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版 (Lange Textbook シリーズ)

イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版 (Lange Textbook シリーズ)

 

 

サプリメントも検討しています。バカみたいに安いから。ビタミンA、Cなんか激安です。野菜抜きにして人体実験したい欲望もあります。

サプリメント栄養管理―Nutrition Care with Supplements

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例えば、ビタミンA2500日分 1899円 一粒で10日分 0.76円/日

 

 ビタミンC10000日分 1680円 0.17円/日

【1kg】高品質ビタミンC粉末100%(L-アスコルビン酸)(計量スプーン付)

【1kg】高品質ビタミンC粉末100%(L-アスコルビン酸)(計量スプーン付)

 

 

両方足して1日1円に満たないですね。さすがに腐りそうですけど。どうしよう野菜やめようかな


書籍レビュー: よだれがでるよ!『人とミルクの1万年』 著:平田昌弘

★★★★★(‥ºั⌔ºั‥ )

 

牛、馬、羊、、、人間が家畜の乳を利用するようになって、およそ1万年が経つそうです。この本は世界の「ミルク史」なるものを地域ごとに詳述、「北方乳文化圏」「南方乳文化圏」なるミルク文明史とも言える大胆な仮説を展開していくダイナミックな書物です。いやー岩波ジュニア新書、すごいわ。

狩猟から搾乳へ

そもそも搾乳とは、狩猟文化からの劇的な転換です。動物を屠畜し食べればその動物はいなくなってしまいますが、搾乳により食物をえるということは、屠畜という単純な消費行動をやめ、家畜という資本からミルクという利子を生み出すストック化に人類が移行したことを表します。この論を読んでなるほど、こりゃすごいと感じました。乾燥のため植物性バイオマスに乏しく、狩猟から農耕に至ることのできない地域ではこのようにしてストックを生み出したのです。肉を食うよりミルクを飲んだほうが、餌からの栄養効率が3.7倍にもなるそうです。

進化の基本である淘汰圧の原理を考えれば、動物性タンパク源がほとんどない地域で乳文化が発達したというのは自然なことです。タンパク質を確保できない人類は病気で死ぬ確率が高まります。狩猟していたのでは牛も羊もいなくなり共倒れで死にます。すると、環境の厳しい地域では搾乳技術を生み出した民族だけが生き残ることができます。搾乳は難しい技術だそうですので、環境の淘汰圧が激しくない日本や北南米では搾乳する必要が無く、全然発達しませんでした。

ミルクの地域史と文明史

本書では主に西アジア(シリア)、インド、モンゴル、ヨーロッパに分けてそれぞれの乳文化の発達と変遷を紹介してくれます。特にモンゴルで筆者と懇意な家族がおり、かなり詳しい食文化が記述されています。搾乳できない雄の家畜を去勢するシーンなんか生々しくていいですよ。

ヒツジやヤギは、行動特性上、四肢を宙に浮かし、背中を地面につけると、暴れることをやめて落ちつきます。去勢は、ナイフで切れ目を入れ、睾丸を手で一気に引き抜きます。左側の桶に、引きちぎった睾丸が溜められています。(写真あり)

(中略)

引きちぎった睾丸はどうするかというと、やはり無駄にすることはありません。食べてしまいます。ミルクと一緒に似て調理します。味は、淡泊で食べやすくはあります。睾丸はタンパク質や核酸を豊富に含み、疲労回復に良いとされていますから、食べても問題ありません。

上野アメ横なんかに売ってるかもしれませんね、睾丸。

驚くのはどこの乳文化圏でも、ヨーグルトが基本になっていることです。人類が乳糖を分解できるのはたいていこどもの間だけで、成長するほどラクトース消化酵素が衰え、乳糖不耐症になるそうです。ミルクが乳幼児のための飲み物である理由です。これをヨーグルトにすると、保存性が良くなるうえに乳糖が発酵で分解され大人も食べやすいようになります。私も牛乳を買ってヨーグルトを作ってみようと思いました。種菌があれば簡単にできちゃうようです。

うまそうな食べ物たち

本編に出てくる乳製品の美味しそうなこと。クリームは洋菓子の基本ですし、チーズはヨーロッパの夏乾燥冬湿潤という気候に完全マッチし、あれだけ多様なチーズが生まれたそうです。ただチーズは買うと高い。日本には豊富な魚があったから乳製品は必須のものではありませんでした。学校給食、パン食の普及とともに乳製品も日本に広まりましたがまだまだ。必須じゃないものはどうしたって高くなります。特にバター、生クリーム、チーズは高い。

本書は文明史としても素晴らしい書物ですがそれぞれの国の食文化の紹介も舌なめずりしたくなるほど魅力的でした。インドの濃縮乳で作った乳菓、ヨーロッパの何か月もかけてできる樽みたいな形のカンタルというチーズ、食べたいものは沢山あります。死ぬまでに一度は食べてみたいです。食べて、彼らの生活や文化に思いを馳せてみたい。

 

 

関連書籍

 

類書 岩波ジュニア

パスタでたどるイタリア史 (岩波ジュニア新書)

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類書 チーズ

チーズと文明

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 著者によるさらにつっこんだ詳論

ユーラシア乳文化論

ユーラシア乳文化論

 

 

 世界の食文化。うう読んでみたい

世界の食べもの――食の文化地理 (講談社学術文庫)

世界の食べもの――食の文化地理 (講談社学術文庫)

 

 


書籍レビュー: 作ってみたいな添加物食品 『食品の裏側2 実態編: やっぱり大好き食品添加物』 著:安倍司

★★★☆☆

骨子は前著と同じ、状況は何も変わっていない

前著から9年後の続編です。相変わらず食品添加物は使われ続け、数は増えました。表紙のグラフが種類数の増加を表しています。

骨子は「市販の加工食品は添加物だらけ、安全性はもとより食生活の破壊が深刻」というもので、前著と変わりません。新しい知見も特にありません。その意味では、前著を読めば十分です。

添加物は市販されているのか?

食品添加物の実態はこの本の中身に譲るとして、私は

  • 添加物がそんなに安くて安全なのなら、私でも購入することができるだろう。
  • 添加物を実際に使って業者と同じことをしてみたい。

と強く思うのでした。そこで少し探してみました。

まず、ジュースの原料「果糖ブドウ糖液糖」は全く見つかりません。一体どこから手に入れればよいのでしょうか。というか素人が買えない添加物ってそもそも安全なんですかね。

砂糖の200倍の甘さだという「ネオテーム」は見つけました。

ミラスィーNK 1kg

ミラスィーNK 1kg

 

1kg8,800円ですが、実質的には砂糖200kg分ですから、砂糖換算ならキロあたり44円。激安ですね。100gで売ってくれたらいいのに。

 

アスパルテームは有名ですから、昔から売ってますね。

大正製薬 パルスイート顆粒袋入 200g

大正製薬 パルスイート顆粒袋入 200g

 

 

砂糖を500mlペットボトル1本あたり60g入れても後味をすっきりさせる酸味料はこちら。

無水クエン酸 1kg 食品添加物規格(食品) 純度99.5%以上 無水クエン酸 チャック式アルミ袋

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着色料はスーパーのお菓子売り場にも置いてあるほどのメジャーな存在です。

ユウキ MC フードカラーボックス 7.25ml×4

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あとは香料ですがあんまりないですね。

ユウキ MC メロンエッセンス 30ml

ユウキ MC メロンエッセンス 30ml

 

 

これだけあれば無果汁合成ジュースを作ることができます。

 

ジュース以外の食品なら、まず鉄板のこれ。

業務用 味の素 1kg

業務用 味の素 1kg

 

あとは下のタンパク質加水分解物さえ手に入れられれば、本書で言及されている塩・化学調味料と構成する「3点セット」が完成しあらゆる塩味系の食品を作り出すことができるのですが、あいにく通信販売がされてないですね。どうにかして手に入れたいものです。

 

あとは保存料。メジャーなのは安息香酸ナトリウムですが、覚せい剤的効果のある(用途は強心剤・鎮静剤)安息香酸ナトリウムカフェインしか売られていません。残念。

 

グリシンはありました!!これで保存料の効果を試せる!

 

同じ店にソルビン酸もあった!ぐっじょぶ!

 

味の素でない化調もあった。あとはタンパク質加水分解物さえあれば。

 

だれか加水分解物の入手ルートを教えてください。そうすれば、ほぼすべての実験が可能になりそうです。

 

 


書籍レビュー: バイオテクノロジーで世界征服 『モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』 著:マリー=モニク・ロバン 訳:村澤真保呂、上尾正道

★★★★★(・:゚д゚:・)ハァハァ

 

聞いたことがありますかモンサント。全世界の遺伝子組み換え企業の総本山としてよく知られた企業です。本書はモンサントについて著者が4年に渡る調査を行った結果として書かれた本です。

圧倒的情報量を訳者がさらに補強

まず本書の目玉は圧倒的な情報量です。本文が約540ページもある上に文字が小さめで、膨大な出典付き。それに加えて訳者も本書のあちこちに注と参考文献を2Pに1冊くらいの割合で紹介してくれており、巻末の参考文献もざっと100冊はありそうです。巻末の文献と本文中の文献は独立していて別物です。いったいどれだけ調べたのでしょう。1冊の本を完成させるまでに相当の労力を費やしたことがわかります。

驚くべきはこのモンサントという企業、あらゆる要素を駆使して世界的企業に成長したということです。それも合法的に。

まず国の中枢に働きかけ、環境汚染しながら利益を蓄える

第一部ではPCB、ダイオキシン、ラウンドアップ、牛成長ホルモンを通じてモンサントが巨大企業になっていく過程が書かれています。モンサントと言えば遺伝子組み換え作物(GMO)という先入観がありましたので、公害は「だいたいこいつのせい」と言っても過言ではないくらい、多くの製品を生産していたことは知りませんでした。例えばPCB。

PCBといえば日本ではカネミ油症事件で一躍有名になった有機塩素化合物です。熱にも電気にも薬品にも強い優秀な物質で、加熱冷却用媒体、溶媒、絶縁油などあらゆる工業製品に置いて広く使用されていました。しかしその安定性ゆえに分解されることなく、人体の脂肪内に蓄積されガン・皮膚疾患・ホルモン異常などを引き起こす毒物でもあります。カネミ油症事件ではPCBが漏れ油に混入、加熱によってダイオキシンに変化しこれを摂取した1万4千人に症状が現れました。日本では1975年に輸入が禁止されました。

また、ベトナム戦争で有名になった枯葉剤も彼らが作りました。枯葉剤は「2,4,5-T」という除草剤で、やはり有機塩素化合物です。2,4,5-T自体も毒性がありますが本当にまずいのはその生産過程で不純物として発生するダイオキシン類です。これがベトナムで大量に散布された結果出生異常児が大量に出現したことは有名です。が、驚いたのは40年以上もたった現代でも未だにダイオキシン類が土壌に存在し、健康被害を及ぼし続けているということです。本書で「ホットスポット」「半減期」という単語が出てくるのはまるで放射性物質のようです。前述の安定性ゆえ半減期は数十年。セシウムに匹敵します。

牛成長ホルモンについては次の本にも詳しく書かれています。これもモンサントが普及させました。

 

モンサントはこれらの怪しい物質を、政治家へのロビー活動や有毒性の情報隠蔽などのあらゆる手段を使って売り込むことに成功し、莫大な利益を上げます。

次はアメリカ制覇

第二部はアメリカ制覇への道です。

彼らの売れ筋除草剤ラウンドアップは2000年に特許が切れます。そこで彼らは除草剤と植物を抱き合わせで売り込むという商法を思いつきます。バイオテクノロジーを使って除草剤耐性の遺伝子組み換え作物を作り、それに特許を取らせてライセンス料で稼ぐ、しかも除草剤も売れるという手法です。完璧すぎます。

遺伝子組み換え作物の開発については、プロジェクトXもびっくりの臨場感ある叙述がされます。クレイジーな研究者たちは魅力にあふれています。彼らがバクテリアや遺伝子銃やらなんでも使って除草剤耐性遺伝子を組み込むための血のにじむ努力を続け、運よく生き残った作物のDNAは、特許を獲得します。

生物特許は当時アメリカで認められていませんでしたが、彼らは第一部で磨いたロビー活動の力で特許法を改正させてしまいます。

特許とは無形の財産たる発明、すなわち簡単にパクれる財産を保護するため、新規性などを要件にして、排他的な独占権を認めるものです。この「排他的」はものすごく徹底されていて、著作権よりも遥かに強力です。たとえば公権力を使って海賊品の強制的差し押さえができます。刑事裁判にかけて莫大な損害賠償を請求できます。しかも保護されるのは「アイデア」そのものですから、拡大解釈がかなりの程度可能です。著作権が具体的な作品の差し止めしかできないのとは大違いです。

例えばモンサントの遺伝子組み換え大豆がうっかりそこらへんの畑に落ち、芽を出したとします。するとその畑の持ち主は訴えられ、損害賠償を請求されます。ウソのような話ですが本当の話です。

またGMO種子は1代限りにして種を保持するな、という契約を強制します。毎年種を買わせるためです。種子の保存が見つかれば訴えられ、必ず負けます。モンサントは法務部も超強力で、何千件もこのような訴訟を起こします。

さらに、「実質的同等性」というクソのような概念をロビー活動で導入します。これは「遺伝子組み換え作物は従来の作物と(だいたい)タンパク質組成などが同じなので、安全性の検査の必要性は、従来作物と同じでよい」という概念です。この原則に従えば遺伝子組み換えに伴う安全性の検査不要!!0ドル!!素晴らしく経済的な概念です。モンサントすげぇ!シビれる!憧れるぅ!

モンサントはアメリカ中の大手種子会社を買収し、GMO市場、ひいてはアメリカ作物市場を独占していきます。

最後に世界制覇

第三部では発展途上国への進出です。本書ではアルゼンチン、ブラジル、インド、パラグアイなどを制覇する様子が描かれます。

GMOは実質上のモノカルチャー推進事業ですので同じ作物ばかり作り続け、土地が荒れます。また、除草剤をラウンドアップしか撒かないので耐性昆虫や耐性菌が必ず出現し、毎年除草剤の量を増やさなければいけない宿命にあります。GMOの導入は除草剤を減らす目的だったのに矛盾した話です。ともあれ、農薬大量投入は必然的に世界中で健康被害を引き起きしました。

アルゼンチンは大豆畑まみれになりました。海外では大豆は食用ではなく、主に飼料用です。この飼料をアメリカやヨーロッパに輸出し、大量の肉が生産されます。この過程も先に引用した「ファーマゲドン」にも詳しいです。先進国の貪欲さが途上国の貧困と荒廃を招く分かりやすい例です。

次は日本の番

WTOは世界中にアメリカの論理を広める手段として活躍しました。例えばTRIPs協定。その(意図的に)難解な条文は弁理士試験受験者を悩ませる種の一つですが、これは生物特許を全世界で認めさせるための手段でした。そんなことも知らないで勉強していた私はアホですね。

本書でも警告されていますが日本はまもなくTPPを批准します。アメリカ流を踏襲するなら、現行の(遺伝子組み換え作物不使用)の表示は外さなければいけなくなる可能性が高いです。モンサントの利益に反するためです。こんな表示があったら遺伝子組み換え作物が売れないからです。

TPPにはISDS条項というものがあります。

大企業覇権としてのTPP

投資家が国家を訴えられる条項です。TPPを批准すれば、モンサントが日本を訴えて遺伝子組み換え作物の表示をやめさせることができるようになります。今後、日本にも続々とGMOが輸入されることでしょう。GMOの栽培は国としては禁止していませんが、日本は国土が狭いので北南米のようなGMO作物の広域大量栽培をすることが経済的に不可能なのが救いです。

 

おわりに

モンサントの言い分がしょっちゅう出てきますが、どれもこれも、この本の論調と同じです。

もちろん遺伝子組み換え食品は実質的同等性により安全であるともこの本に書かれていました。

 

 

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成長著しいモンサントの株価は2008年にはテンバガーを達成します。リーマンショックを乗り越え、また2008年並みの価格に落ち着いてきているようです。

本書は企業が世界を征服する過程を描く、画期的な著作です。読むのには骨が折れましたが得るものも大きかった。膨大な参考書籍は今後の課題となりました。

 

 

参考書籍ピックアップ

ダイオキシン

ダイオキシンと「内・外」環境 ―その被曝史と科学史

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カネミ油症

カネミ油症 過去・現在・未来

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枯葉剤

ベトナム戦争におけるエージェントオレンジ―歴史と影響

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 農薬

農薬毒性の事典

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 緑の革命(収量増のみを目指したため、大規模環境破壊につながった)

緑の革命とその暴力

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グローバルバイオ企業全般

バイオパイラシー―グローバル化による生命と文化の略奪

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 戦争の黒幕企業

死の商人 (新日本新書)

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 生命特許

生命特許は許されるか

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  • 作者: 天笠啓祐,市民バイオテクノロジー情報室
  • 出版社/メーカー: 緑風出版
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 単行本
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 ライバル会社カーギル

カーギル―アグリビジネスの世界戦略

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最悪の化学事故、2万人以上死亡

ボパール死の都市―史上最大の化学ジェノサイド

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 著者の最新書

 

Our Daily Poison: From Pesticides to Packaging, How Chemicals Have Contaminated the Food Chain and Are Making Us Sick

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なお彼女はドキュメンタリーフィルムも作っています。私も見てみたいと思っています。

モンサントの不自然な食べもの [DVD]

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書籍レビュー: 反則!現場の重み『みんな大好きな食品添加物』 著: 安倍司

★★★★★

元添加物商社マンの懺悔の書

著者の安部司さんは、国立大の化学科を卒業し添加物を売る敏腕商社マンとしてバリバリ働いていました。添加物で数々の食品加工会社に大きな利益をもたらし「添加物の神様」と呼ばれていました。

ある日、こどもが食べようとしたミートボールが彼の運命を変えました。そのミートボールは、捨てられるはずのクズ肉に組織上大豆たんぱくを加えて増量し調味料や乳化剤などを投入して味と舌触りを調え氷酢酸+カラメル+化調で作ったソースもどきを加えてできた、彼の自信作でした。ゴミと大量生産される化学物質が原料なので原価が安く利益率の高い優良品でした。しかしそれを自分のこどもが「おいしい」と言って食べるのを見て、、彼は「食べたらいかん!」と言いました。

こうして彼は会社を退職し、添加物についての知識を広める活動を始めました。これが序章です。

具体例なしでも説得力大

本書には食品添加物の実際の仕様事例が数多く例示されていますが、どの添加物がこれこれこのように毒性がある、などとという具体例は一切出てきません。おそらくターゲット層を化学的知識のない層に絞っていると思われ、意図的に具体例を出していないようです。上手いマーケティングです。というのも、彼が「添加物の神様」だったという事実1点だけで本書に説得力が出るから必要ないのです。

私は昔から添加物は好きではありません。数々のコスト削減の工夫の賜物である添加物使用の実例をこれだけ大量に並べられると辟易します。

食の破壊

著者は毒性の危険性にも言及していますが、それ以上に添加物による味覚の破壊、ひいては食生活の破壊を最も憂慮しています。この視点は私と同じです。商品を遠方から運んで保管し陳列する以上、酸化防止剤や保存料の添加は避けられません(自炊すりゃいいんですが)。しかし嗜好性の強化となれば話は別です。

グルタミン酸ナトリウム。人間によって発見された最も偉大なタンパク質加水分解物からなる旨み調味料。いわゆる「味の素」です。これを単独で使用することにより我々の舌はウヒャッホーイと唸り脳が喜びます。以前に上司は「焼き鳥に味の素をかけるとすごくおいしいんだよ」という鳥を完全に無視した発言をしていました。味の素の破壊力を端的にあらわした発言です。「アジシオ」というこれまた味覚を大きく刺激する塩に味の素を加えた黄金的製品も存在します。

外食をするといつも感じます。味が濃すぎる。外食産業は売れなければ商売になりませんから、我々が求める、タンパク質加水分解物がいっぱいの脳が喜ぶ食事を提供します。必然的に味は濃くなります。

 

外食で最も中毒性のある食べ物と言えばラーメン二郎です。私も一時期食べていました。

http://image1-4.tabelog.k-img.com/restaurant/images/Rvw/20845/640x640_rect_20845914.jpg

ラーメン二郎 立川店 (らーめんじろう) – 立川南/ラーメン [食べログ]

このラーメンの旨みの正体はグルタミン酸です。

http://portal.nifty.com/2014/10/21/c/img/pc/014.jpg

自宅でできる二郎風ラーメンの作り方 – デイリーポータルZ:@nifty

店に行くと袋から「白い粉」を大量投入する光景が見られるそうです。

ラーメン二郎醤油のカネシ醤油

カネシ醤油!とオーションをラーメン二郎で使っているのですが・・

醤油にも「アミノ酸液」なる怪しい物質がふんだんに含まれているようです。大量の脂、塩、化調と中毒成分の総合栄養食品と言えます。このうち塩、油については格好の参考書籍を見つけたので今度読んでみようと思っています。

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠

 

 

話が脱線しました。本書では以上のような「うまみ」の製造方法も事細かに語られています。インスタントラーメンのスープはベースはみな同じ塩+化調+アミノ酸であり、あとは配合量をちょいと変えるだけでできあがります。白い粉しか使っていません。それっぽいラーメンの色はすべて着色料です。

大量の砂糖や果糖ブドウ糖液糖を入れて甘々でとてものめない飲料にちょいと酸味料とレモン香料を加えてやるだけですっきりとした清涼飲料水の出来上がりである、という記述も刺激的です。

http://www.asahiinryo.co.jp/products/carbonated/mitsuya_green_lemon/

例えばこれ。500mlで炭水化物47.5gです。角砂糖15個分くらいですね。

添加物をなるべく摂取しないようにするには

自炊しかありません。ただし本書では自炊だとしても十分危険であることも指摘されています。

大量生産・安価な商品に添加物が含まれないことなんてありえません。輸入食品に含まれる遺伝子組み換え作物が避けられないように、市販品を買うことによる添加物の摂取も避けられません。添加物の毒性うんぬんについては私は疑問がありますが、本書で警告されている味覚の破壊については全面的に同意します。自分の食は自分で守るしかありません。

 

途中でも述べましたが、現場の人間が書いたというのは重過ぎます。ちょっと反則的ですね。

 


書籍レビュー: 肉を食うか?世界を救うか?『ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト』 著:フィリップ・リンベリー、イザベル・オークショット

★★★★★

工業的農業の不自然さを告発する本

著者のフィリップ・リンベリーは Compassion Of World Farming という動物福祉の慈善団体の代表です。

彼がイギリス・アメリカ・中国・アルゼンチン・チリなど全世界を旅し工業的農業を行っている現場を訪ね、時には危険な目にあったり巧みな交渉をしたりしつつ、農場や工場で何が行われているかを500P近くに渡り叙述した作品です。やや過激派寄りの人と思われるのでバランスを持って読むように心がけましたが、内容は予想を大きく覆すものでした。

工業的農業?

工業的農業とここで呼ばれているものは、利益を追求した近代的大規模農業・畜産業・漁業のことです。例えば農業なら肥料・農薬・GM作物を利用した単一品種の大規模栽培を指します。(GM作物については、近いうちに関連書籍を読む予定です)

本書では工業的な農業・畜産業・漁業のすべてがカバーされていますが、動物福祉団体であることもあり特に畜産業に重点が置かれています。

私達が食べる肉のための収奪

本書の冒頭で衝撃的な指摘があります。

家畜たちは、世界で生産される穀物の3分の1、大豆粕の90パーセントと、漁獲高の30パーセントを消費する。直接、人間の食料にすれば、何十億人もの飢えた人を養える量だ。

経済成長した国の国民は肉を嗜好します。旺盛な肉需要に応えるため、数々の企業が食肉の効率的生産技術を開発してきました。

大量の肉を迅速かつ安価に生産するため、家畜の品種改良が行われました。早く育ち、沢山の子を産み、脂肪分の高い豚や牛が作られました。土地代と人件費を減らすため、家畜は狭い檻の中に押し込められ、大量の餌を投入され、身動きするスペースがほとんどないまま自分の糞にまみれて一生を終えます。

牛は草を食べて育つ生物でした。しかし穀物や大豆・トウモロコシを与えると、成長が促進され脂肪分が増えます。脂肪分は消費者の需要に応える大きな要素の一つです。霜降り肉おいしいですよね。そのため、家畜を育てるための飼料を安価かつ大量に生産する方法が必要です。

大農場があちこちに作られました。それは世界中のあらゆる安い土地に作られ、農地の開発余地を減らし、大量の地下水を汲み上げ、効率的に生産するための多量な農薬散布により地元民に大きな健康被害を与えました。我々の嗜好する肉のために、全世界で大規模な環境破壊が行われているという痛烈な指摘があります。

最大の恐怖・糞

家畜の大農場の最大の公害は「糞」です。糞については本書で最もページ数を割いて語られています。巨大農場から捨てられる糞は強力な汚染物質です。日本ではギャグとして肥溜めに落ちる様子が描かれることがありますが、動物の糞溜まりに落ちると死にます。落ちて何人も死んだ人がいるそうです。

糞は多量の窒素・リンを含み適量に使えば良い肥料となりますが、集約化した農場から排出される糞の肥料分は過剰で全部使える量ではありません。業者は排出場所に困り、大量の糞をやむなくため池などに投棄します。すると雨が降ったときに溢れ出し川に流れ、川と海が富栄養化し大量の藻が湧きます。藻が死ぬと水中の酸素が無くなり生物は住めなくなって、死の海のできあがりです。また、死んだ藻が大量に海岸に打ち上げられ、微生物が分解した後の有毒ガスで付近の住民が死亡した例もあります。海に行ったら死んだ。笑えない話です。雨が降ったら汚染物質が溢れて海に流れるのは福島原発にも通じる話です。本書には深刻な水質汚濁の実例が何件も挙げられています。

地球を救いたいなら、肉を食べる量を減らすだけでよい

本書の言いたいことを突き詰めれば「安い肉のコストは、他の誰かが負っている」ということです。工業式農業のおかげで、我々は安価に肉を食べることができるようになりました。しかし安価に肉を生産するためには、飼料、水、糞の処理などの環境コストがかかります。企業はそのコストを負っていません。あらゆる環境問題の本が言うことと同じで陳腐ですが、全世界の土地や資源が逼迫することで、いずれ我々がそのコストを払う日が来るでしょう。

東海農政局/肉や卵を生産するためにはどれくらいの家畜のエサが必要なのでしょう

牛肉1kgを育てるのに穀物11kgが必要です。我々が肉を食べる量を少し減らすだけで、大量の穀物を食用に回せることとなり食糧危機が解決します。副次的に、大農場から排出される環境汚染物質もなくなります。将来的に予想される、水を巡る争いが回避され世界が平和になります。

TPPにより牛肉の関税が38.5%→9%に、豚肉は482円/kg→50円に、鶏・卵は完全撤廃となる予定です。外食チェーンやスーパーの肉の値段が安くなることは確実なので、今後消費が大幅に増えることが予想されます。企業は最終消費者の嗜好に合わせて食料を生産しているにすぎません。すべての責任は我々にあります。肉食べますか?それとも世界を食い尽くしますか?

付録

本書は文字ばかりで構成され写真がありません。リンベリーさんの筆致は見事で動物たちの苦しみが見えてくるようですが、カラーの写真ならではのインパクトもあります。少し関連する材料を探してみました。

・鶏工場

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/78/Florida_chicken_house.jpg

Antibiotics & Human Disease: The CAFO Connection

・ケージ飼育の鶏

http://www.pewtrusts.org/~/media/legacy/uploadedimages/peg/publications/other_resource/cafochickens400lwjpg.jpg

Background and Summary: The Grain Inspection Packers and Stockyard Administration (GIPSA) Rule – Pew Environment Group

・品種改良により乳が肥大している牛

https://foodfreedom.files.wordpress.com/2009/09/mastitis.jpg?w=500

Two Million Dollar Fine for Tyson | Food Freedom

・日本の農場(松坂牛)

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関連書籍

本書で言及された本、いずれ絶対に読まなければいけないと思っている本をメモのために残しておきます。

 

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  • 発売日: 2001/02
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書籍レビュー: 鋭く的確な現場の目 『福島第一原発収束作業日記: 3.11からの700日間』 著: ハッピー

★★★★★

現場の目から見た福島第一原発事故

著者は原発作業に20年以上従事している大ベテラン作業員です。東電と交渉している記述も見られますので、作業員を束ねるチームリーダー的な立場で働いていると思われます。この書籍は彼が事故直後から現実にtwitterで書き込んでいた内容ほぼそのままで構成されており、資料価値の高い書籍です。twitterからいつアーカイブが無くなるかについての保証はありませんから、このような形で現場の声が残ることはとても貴重なことでしょう。

鋭い視点、的確な分析、ちょっと変わった口調

著者の分析力の高さは見事です。今行っている作業の非効率性と本来行われるべき対処方法を必ずセットで書きます。また社会の変化により予想される福島への影響、東電や政府のコメントの裏の意味、全て筒抜けです。

例えば2011年の時点で「今行われている作業は全て仮のものであって、ホースや継手などはすべて耐用年数が低い。必ず耐用性の高いものに取り換えなければならない。でなければすぐに劣化して汚染水が漏れるなどの被害が出る」と予告しています。この後、何度も何度も汚染水流出のニュースが流れることになります。。

「でし。」という語尾や顔文字を多用しています。本という体裁からすると若干抵抗を覚え、慣れるまで時間がかかります。しかし読んでいれば著者はごくまっとうな文章が書ける人であることは推測できるので、twitterというメディアの特性上仕方ない、と割り切るしかないでしょう。

2年後の原発は?

内容についてはこれ以上詳しく書きません。読んでください。これ以後は、原発事故のその後についての私なりの補遺です。

本が出版されてから2年。ハッピーさんはまだtwitterでの発信を続けています。

2014年末で現場からは身を引くことになったそうです。

 

フォロワーは出版時は7万人、いま8.6万人(私も今日その1人になりました)です。出版後、2倍くらいになったのではと思っていましたがそれほど増えていません。2013年時点での関心の低さがうかがわれます。

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https://www.google.co.jp/trends/explore#q=%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8E%9F%E7%99%BA

こちらはgoogleトレンドによる「福島第一原発」の人気度です。原発事故直後を100とすると2013年は3、いまは2です。2013年の時点でもうほぼ完ぺきに忘れ去られています。人の噂は75日といいますが本当ですね。

肝心の原発収束の様子ですが、一番マシだった4号機の燃料取り出しのみが2014年末に完了しています。

東電による予定は以下の通りです。

号機別のスケジュール(改訂後)

  燃料取り出し 燃料デブリ取り出し
現行目標 2013年12月(初号機) 2021年12月(初号機)
1号機
(最速プラン=プラン2)
2017年度下半期 2020年度上半期
(1年半前倒し)
2号機
(最速プラン=プラン1)
2017年度下半期 2020年度上半期
(1年半前倒し)
3号機
(最速プラン=プラン1)
2015年度上半期 2021年度下半期
4号機 2013年11月
(1ヵ月前倒し)

                           平成25年6月27日 廃炉対策推

 https://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/status/kouteihyou.html

4号機の予定ですら1年以上遅れていますから、1-3号機については2021年に終わるとはまったく思えません。これから作業員の確保はより厳しくなりますし、ハッピーさんのような優秀な作業員もどんどん辞めていきます。

 

2015年5月30日のニュースです。2013年じゃないですよ。

本書で指摘されている賃金低下による人手不足も、さらに深刻になっているようです。被爆上限を2.5倍に引き上げる改正案が今年に出されています。 www.nikkei.com

マイナンバーの施行により、作業員の確保はさらに大変になりそうですね。本書でも言及されている通り、原発業界を含む建設業界は過去持ちが多いですから、事情があってマイナンバーを持てない人間は従事できなくなるんじゃないでしょうか。

 

現在福島第一原発から海に放出されている放射性物質は

トリチウム 150億Bq/日

ストロンチウム90 27億Bq/日

セシウム137 12億Bq/日

セシウム134 4億1000万Bq/日

です。累計ではなく1日の値です。

毎日、海に流出している放射性物質の最新評価値 | 原発事故 | OSHIDORI Mako&Ken Portal / おしどりポータルサイト

復興予算も適当に使われています。

復興予算、9兆円使われず 11―13年度、需要とズレ:朝日新聞デジタル

除染が住んでいないのに無理やり帰宅させる方針も以前と変わりません。

東電はどうなった?決算資料から読み解く

せっかくなので、絶対投資対象になりそうにない東電の決算資料を読んでみます。

東電は2014年3月期、2015年3月期と大幅黒字です。あと5年で赤字を全て取り返してしまいそうな勢いです。なお、自己資本比率は去年の時点でプラスになっています

http://www.tepco.co.jp/ir/data/images/zaimu_il01.jpg

財務ハイライト|企業情報|東京電力

昨年度にプラスに転じた理由は、「原子力損害賠償支援機構資金交付金」が9,689億円特別利益に計上されているためです。なんじゃこりゃ?

http://www.tepco.co.jp/ir/tool/setumei/pdf/140430setsu-j.pdf

原子力損害賠償・廃炉等支援機構というのは、原発事故を受けて官民合同で作った(という建前の)賠償専門の機構の組織だそうです。政府が金を調達して、東電に流すための機構です。

原子力損害賠償・廃炉等支援機構 – Wikipedia

支援金は既に5兆円を超え、今でも毎月数100億~1000億円程度注入しています。今年度も支援金だけで当期純利益の2倍近い8,685億円の特別利益を計上しており、東電の黒字はまやかしです。国に頼めばいくらでも黒字を増やせるなんて詐欺同然ですね。いま粉飾決算でボロボロの東芝が喉から手が出るほど欲しい仕組みでしょう。国は東電の大株主なので、利益を上げて株価を上げたいんでしょうけど。。

今後も廃炉に向けて1基1兆円(で済むかどうかは疑問)の費用を見込んでおり、資金注入は当分の間続くと思われます。

政府の金の調達方法は国債と政府保証債権が半々です。このうち政府保証債権については毎年2,000~5,000億円という巨額のローンの入札が年2回ほど行われており、銀行がこぞって群がっています。金利は0.1%程度と低いですが、1年ローンかつ政府相手で貸し倒れの心配ほぼ0なのが魅力なのか、応募倍率は4倍程度と高いです。いかにも利権が生まれそうです。

調達した資金は無金利で東電に貸しているという建前だそうですので、政府が調達している資金の金利は税金から払われ、金融機関などを潤すということですね。で、どうせ東電に5兆円貸したお金は将来的に電気料金で支払われるんでしょうね。

 http://www.ndf.go.jp/capital/ir/kiko_ir.pdf

国から被害者に直接保証が出るのではなく、東電に金を貸して東電に払わせる、という面倒なスキームをとっているのは、政府が払うお金は0.1%の金利負担だけで済むし、賠償金は将来にわたって国民が電気料金で払ってくれることが理由だとわかりました。払う金が1/1000!なんというマジック!ついでに金融機関も潤って景気対策もバッチリですね!

ところで売上高がめちゃ伸びてます。事故当時から26.7%増です。電気使用量が急激に増えるとは思えないので、これはほぼ電気料金が26.7%上がったことを意味します。今後も円安などを理由に上げるのでしょう。JTと同じ必須品独占ビジネスモデルですが、タバコと違って市場は縮小せず海外展開する必要もない素晴らしく強固な商売です。

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二期連続増益増収をうけ株価もうなぎ上りです。

最後に引用

昨日読んだ本によれば、リスクは恐怖の大きさと起こりうる確率を掛け算して求め、数値化して比較検討するべきと主張しています。

私はその主張に疑問がありましたが、本書のエピローグの次の言葉で疑問が吹き飛びました。

原発事故に確率論なんてないよ。何百万、何千万、何億分の1であっても、原発がある限り、あした事故が起きても不思議じゃないのだから…

 


書籍レビュー: 科学者の自負をかけて 『お母さんのための「食の安全」教室』 著: 松永和紀

★★★★☆

必要ができたので食・農薬・原発関係の本をしばらく物色します。

一般向けに科学者の立場から見た食の安全を語る

放射性物質や化学物質、遺伝子組み換え食品や微生物など食の安全に関わるトピックを30ほど取り上げ、科学ライターとしての著者の知見を一般向けに読みやすく分かりやすい文章で書いた本です。

連載されていた雑誌が女子栄養大出版の月刊誌「栄養と料理」であったことから「お母さん」をターゲットにしたのだと思われますが、別に「お母さんのための」という縛りを付けてターゲットを絞る必要はないと感じました。お父さんも読んでよいと思います。 

消費者をなめすぎ

この本から大きく受ける印象は、科学者のわたくし様がアホな消費者を啓蒙してやろうという姿勢です。例えば次のような記述です。

消費者は誤解に基づき忌避し、別の食品添加物がむしろ多めに使われていることに気づかない。

消費者も反対のための「レトリック」を見破る力をつけたいものです。

いかにも高所から見下ろしたような言い方です。「消費者は~だ」という書き方が良くありません。もしアホと思っていないのであれば、もう少し別の書き方があったでしょうから。でも私は馬鹿にしていると思います。

一方、著者は

私は科学ライターでありつつも消費者です。

とも言っています。私は誤解する消費者やマスコミのレトリックを見破れない消費者とは違う存在というわけです。どうにも引っかかってしまいます。

興味深い内容だが、論理がうさんくさいことも

食中毒に関する記事はよくできています。2011年4月に生ユッケで有名になった腸管出血性大腸菌は、ほんのわずかな菌数で人に大きな影響を及ぼすこと、カンピロバクターの鶏肉保有率は32~96%(!)と超高率であること、ノロウイルスの吐瀉物は地面に落ちると粒子状に舞い上がって更なる感染を引きおこすこと。。などなど枚挙にいとまがないほどです。

しかしながら、「農薬より菌の方が怖い。農薬は気にするほどではない」「発がん性物質より塩分過多の方が問題。発がん性物質は気にするほどリスクはない」「カリウム40と水爆実験の時の放射性物質を毎日食べているのになぜ原発の放射性物質が問題なのか」という論調には同意しかねます。「AよりBの方が危ない。だからAは危なくない」という考え方よりも「Bは当然避ける。Aも避けた方が賢明」と考えた方がずっとよくありませんか?

著者の記述が意図せずに逆説的

P68の「メディアリテラシー」のコラムで、朝日新聞と福島日報の2011年9月19-20日の一面を引用し、朝日新聞の偏向を明らかにするコラムについては、

朝日新聞:「外部被爆 最高37ms 半数、年間限度量越す」

福島日報:「被ばく推計 1ms未満が6割 最高値は原発作業者か」

という見出しを紹介して、朝日新聞が恐怖を煽っている、福島日報を見ると大したことがない、という様子を目立たせようとしたようです。しかし私には「半数、年間限度量越す」がとても重大に見えます。掲載されている福島日報の記事本文(ぼやけている)には3割強が年間限度量を越していると書いてあり、朝日が若干数字を盛っているように見えます。しかし3割強だとしても相当に問題だと思います。逆に、福島日報がパニックを起こさないために数字を少なくするようにしているという印象を受けました。

また本書では、「日本のマスコミはリスク面で重要でないことで騒ぐから、基準が不当に厳しくなる」といった論調が多く見受けられますが、これは逆に、日本に対して外国がリスクのある商品を輸出しづらいという事実が見えてきます。日本には安全な物である確証が持てる者しか売れないということです。すぐ騒ぐマスコミは、我々にとってはむしろ好ましい存在だと考えられます。

買いか

一読するに値する本です。内容そのものだけではなく言説の背後に潜む思想的にも様々なことを考えさせてくれる材料にあふれた本でした。

いい加減な取材は行われておらず、資料の集め方・提示の仕方も丁寧です。できるだけ中立な視点から書こうと努めている姿勢が見えます。しかし、全体として私は上のような印象を受けてしまいました。これも著者に言わせればメディアやインターネットの情報に惑わされている影響なんでしょうかね。

 


書籍レビュー: 毎日新聞まとめ 『農から環境を考える』 著: 原剛

★★☆☆☆

取材とインタビューを交えつつ日本の農業を憂う

著者の原剛さんは1938年台南市生まれ、元毎日新聞論説委員です。あとがきによれば毎日新聞に執筆した社説、記者の目、特集などに加筆して作った本だそうです。

新聞がベースだけあって、IPCCのバート・ポリン前議長、ワールドウォッチ代表のレスター・ブラウン、インド緑の革命の主導者モンコンブ・スワミナサンなど世界的に有名な方々とのインタビューも掲載されています。

読みにくい!

この本の第一印象です。文章が独りよがりで、分かりにくいです!例えば次の文。

たとえば1960年当時、フィリピン高地の森林地帯を切り開いた農地面積は58万ヘクタールだったが、89年には390万ヘクタールに広がった。雨や風で農地の表土は浸食されていく。森林のままであれば、その量は年間2トンにとどまるが、開墾地は122トンから210トンと絶望的である。

まず何が2トン?と首をかしげました。少し戻って、浸食された土の量であるようだと分かりましたが、390万ヘクタール(九州の面積くらいです)の農地からたった210トン(お風呂1000杯分くらいです)流出したら絶望的なの???

210トンと言うのは漁船7台で捕れるサンマの量くらいのようです。

www.youtube.com

 

http://www.maff.go.jp/tohoku/nouson/sigenka/tyousa/pdf/tamen_6-7.pdf

このPDFを見ると土壌侵食量は『トン/ヘクタール』で測るようなので、2トンとか210トンとかは、おそらく年間の1ヘクタール当たりの土壌侵食量なのであろうと推測されます。自分ではわかったつもりなのでしょうけれど、不親切ですね!

具体的に場所を思い出せないのですが、日本語的に間違っている個所もあと2つほどありました。新聞記者なのに。。

内容そのものは悪くないが、平凡

地球温暖化の進行(私は懐疑的です)、大規模工事への怒り、中山間地域の農業の担い手不足、人口増と食糧不足への警告、既存の貨幣価値に縛られない価値転換など、内容はありきたりです。基礎的な知識を復習するのには良いかもしれませんが、目新しさは全くありません。

Amazonではデータしかないとのレビューがありますが、著者は農家に直接所得補償をしろとか、市民農園を発展させろとか、定住者に有利な税制を設けよ、など明確に意見表明をしています。私も一部賛成できる点はあります。

またご高齢の方に良く見受けられるのですが、私はあれをやったこれをやったと言いたがるのは何故なんでしょう。今の自分に不満があるのかなと心配になります。

買いか

買わなくていいです。これは新聞のまとめ本ですから、新聞の情報で十分です。