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新聞の経済面や国際面を見ると分からないことだらけです。国際的な背景知識を知らないからです。これらを理解するためには西洋の基本を知らなければなりません。基本と言えばもちろん聖書です。
聖書と言えば旧約と新約がありメジャーなのはイエス登場後の新約の方ですが、新約は旧約を前提としていてイエスが旧約の記述を頻繁に引用しているので、旧約聖書をいつか読まなければいけないとずっと思っていました。
そこで見つけたのが次の記事内にあるサイトです。
ここの口語訳旧約聖書を少しずつ読むことにしました。旧約聖書は目次を見ると39冊もの書物の合本であり長大です。全部読むには数年かかりそうですので区切りのいいところでレビューを書いていこうと思っています。今日はまず創世記から。私は無信仰ですので文学作品として読みます。そのため信仰者の方にとっては不適切な表現が現れることが予想されます。お許しください。
ユダヤ人の歴史序章
創世記という名前から、神が世界を作った時の様子、いわゆる天地創造がずっと書かれていると考えていました。実際は天地創造は第2章で終了し、あとは第50章まで「ユダヤ人の歴史 第1巻」というような作りです。アダムとエバが知恵の実を食べて追放される一説など、現代でもしばしば用いられるモチーフの元ネタが大量に詰まっています。
知恵の実を食べたエバと、エバをそそのかした蛇と、エバからもらった知恵の実を無批判に食べたアダムに対して神はこう言います。
(第4章14~)
主なる神はへびに言われた、
「おまえは、この事を、したので、すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。
おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べるであろう。
わたしは恨みをおく、おまえと女とのあいだに、おまえのすえと女のすえとの間に。
彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕くであろう」。
つぎに女に言われた、
「わたしはあなたの産みの苦しみを大いに増す。
あなたは苦しんで子を産む。
それでもなお、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう」。
更に人に言われた、「あなたが妻の言葉を聞いて、食べるなと、わたしが命じた木から取って食べたので、地はあなたのためにのろわれ、あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。
地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、あなたは野の草を食べるであろう。
あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る、あなたは土から取られたのだから。
あなたは、ちりだから、ちりに帰る」。
いわゆる原罪というやつです。実を食べちゃったために一生どころか子子孫孫に渡るまで呪われるとはすっげえ理不尽ですよね。とくにアダムなんかただの巻き添えです。かわいそう。おまけに女に服従を強いているので男尊女卑の正当化に使われそうです。産みの苦しみ~については、出版当時の人々が「なぜ産むのは大変なのか」を納得させるのに役立ったでしょうね。
ここに限らず創世記には頻繁に「のろう」という単語が出てきます。怖い怖い。
チート仕様のユダヤ人
ユダヤ人の祖先とされる人々はみなチートです。まず長生き。
(第5章3~)
アダムは百三十歳になって、自分にかたどり、自分のかたちのような男の子を生み、その名をセツと名づけた。アダムがセツを生んで後、生きた年は八百年であって、ほかに男子と女子を生んだ。アダムの生きた年は合わせて九百三十歳であった。そして彼は死んだ。
セツは百五歳になって、エノスを生んだ。セツはエノスを生んだ後、八百七年生きて、男子と女子を生んだ。セツの年は合わせて九百十二歳であった。そして彼は死んだ。
130歳とか105歳で子供産んで900歳以上生きています。元気すぎます。彼らに限らず本書の登場人物の年齢はめちゃめちゃです。
ヘブライ人の直接の祖先とされるヤコブは、天使が突然襲ってきて決闘し勝ちます。
(第32章22~)
彼はその夜起きて、ふたりの妻とふたりのつかえめと十一人の子どもとを連れてヤボクの渡しをわたった。すなわち彼らを導いて川を渡らせ、また彼の持ち物を渡らせた。ヤコブはひとりあとに残ったが、ひとりの人が、夜明けまで彼と組打ちした。ところでその人はヤコブに勝てないのを見て、ヤコブのもものつがいにさわったので、ヤコブのもものつがいが、その人と組打ちするあいだにはずれた。その人は言った、「夜が明けるからわたしを去らせてください」。ヤコブは答えた、「わたしを祝福してくださらないなら、あなたを去らせません」。その人は彼に言った、「あなたの名はなんと言いますか」。彼は答えた、「ヤコブです」。その人は言った、「あなたはもはや名をヤコブと言わず、イスラエルと言いなさい。あなたが神と人とに、力を争って勝ったからです」。ヤコブは尋ねて言った、「どうかわたしにあなたの名を知らせてください」。するとその人は、「なぜあなたはわたしの名をきくのですか」と言ったが、その所で彼を祝福した。
あまりに唐突で何のことかさっぱりわからなかったのですが天使が突然やってきて決闘したらしいです。するとイスラエルという別名を与えられ、彼は今日に至るまでユダヤ人の伝説の人となりました。
これ本当に教会で教えてるんでしょうか
チート仕様には性的な側面もあります。イスラエルという別名のヤコブは正妻ラケル・その姉レア・ラケルのつかえめビルハ・レアのつかえめジルパ4人全員と子をもうける絶倫野郎です。
アブラハムの甥ロトに関するエピソードもやばいです。
(第19章29~)
こうして神が低地の町々をこぼたれた時、すなわちロトの住んでいた町々を滅ぼされた時、神はアブラハムを覚えて、その滅びの中からロトを救い出された。
ロトはゾアルを出て上り、ふたりの娘と共に山に住んだ。ゾアルに住むのを恐れたからである。彼はふたりの娘と共に、ほら穴の中に住んだ。時に姉が妹に言った、「わたしたちの父は老い、またこの地には世のならわしのように、わたしたちの所に来る男はいません。さあ、父に酒を飲ませ、共に寝て、父によって子を残しましょう」。彼女たちはその夜、父に酒を飲ませ、姉がはいって父と共に寝た。ロトは娘が寝たのも、起きたのも知らなかった。あくる日、姉は妹に言った、「わたしは昨夜、父と寝ました。わたしたちは今夜もまた父に酒を飲ませましょう。そしてあなたがはいって共に寝なさい。わたしたちは父によって子を残しましょう」。彼らはその夜もまた父に酒を飲ませ、妹が行って父と共に寝た。ロトは娘の寝たのも、起きたのも知らなかった。こうしてロトのふたりの娘たちは父によってはらんだ。姉娘は子を産み、その名をモアブと名づけた。これは今のモアブびとの先祖である。妹もまた子を産んで、その名をベニアンミと名づけた。これは今のアンモンびとの先祖である。
おいおい・・・
チンコの皮を切って勝利したヤコブの息子たち
ユダヤ教には重要な儀式「割礼」があります。包茎手術です。割礼はアブラハムが神から土地や子孫を得る引き換えとして行った契約とされています。
(17章9~)
神はまたアブラハムに言われた、「あなたと後の子孫とは共に代々わたしの契約を守らなければならない。あなたがたのうち男子はみな割礼をうけなければならない。これはわたしとあなたがた及び後の子孫との間のわたしの契約であって、あなたがたの守るべきものである。あなたがたは前の皮に割礼を受けなければならない。それがわたしとあなたがたとの間の契約のしるしとなるであろう。あなたがたのうちの男子はみな代々、家に生れた者も、また異邦人から銀で買い取った、あなたの子孫でない者も、生れて八日目に割礼を受けなければならない。あなたの家に生れた者も、あなたが銀で買い取った者も必ず割礼を受けなければならない。こうしてわたしの契約はあなたがたの身にあって永遠の契約となるであろう。割礼を受けない男子、すなわち前の皮を切らない者はわたしの契約を破るゆえ、その人は民のうちから断たれるであろう」。
迷惑な神様です。ところで神はしょっちゅう「しるし」を求めますが、本書の中には「私が思い起こすために」しるしを残しておいてくれ、という記述も出てきます。つまり神は忘れやすい。全知全能という割には能力が低いように思えます。全知全能であるゆえに情報量が多すぎて個別対処が難しいから識別子を残しておいてくれということなんでしょうか。
割礼に関して一つエピソードがあります。ヤコブの子供たちに関する話です。
ヤコブの娘デナはシケムという町で凌辱されます。犯人であるシケムが厚かましい奴で、デナを妻にしたいと言い出すクソ野郎なのです。デナの兄たちはシケム一味に向かってこう言います。
(34章13~)
しかし、ヤコブの子らはシケムが彼らの妹デナを汚したので、シケムとその父ハモルに偽って答え、彼らに言った、「われわれは割礼を受けない者に妹をやる事はできません。それはわれわれの恥とするところですから。ただ、こうなさればわれわれはあなたがたに同意します。もしあなたがたのうち男子がみな割礼を受けて、われわれのようになるなら、われわれの娘をあなたがたに与え、あなたがたの娘をわれわれにめとりましょう。そしてわれわれはあなたがたと一緒に住んで一つの民となりましょう。けれども、もしあなたがたがわれわれに聞かず、割礼を受けないなら、われわれは娘を連れて行きます」。
そしてデナ欲しさにシケム一味は町を巻き込んで全員で割礼を受けます。その結果、
(34章25~)
三日目になって彼らが痛みを覚えている時、ヤコブのふたりの子、すなわちデナの兄弟シメオンとレビとは、おのおのつるぎを取って、不意に町を襲い、男子をことごとく殺し、またつるぎの刃にかけてハモルとその子シケムとを殺し、シケムの家からデナを連れ出した。そしてヤコブの子らは殺された人々をはぎ、町をかすめた。彼らが妹を汚したからである。すなわち羊、牛、ろば及び町にあるものと、野にあるもの、並びにすべての貨財を奪い、その子女と妻たちを皆とりこにし、家の中にある物をことごとくかすめた。
復讐完了。読んでいるこっちが痛くなってきます。
オナニーすると死ぬ
オナニーというと日本では「自己満足」とほぼ同義に扱われています。語源が聖書に出てくるオナンという人物が行った行為にある、ということまでは知っていましたがその意味は全く知りませんでした。
オナンはヤコブの子ユダの次男で、ヤコブの孫にあたります。ユダはオナンの兄エルのために、タマルという妻を迎えます。しかしエルは素行不良であったために、神に殺されます(理不尽)。そこでユダはオナンに、タマルと一緒になれ、彼女に子を産ませろと迫ります(理不尽)。ところがオナンは兄嫁の子を作るのが嫌でした。
(第38章6~)
ユダは長子エルのために、名をタマルという妻を迎えた。しかしユダの長子エルは主の前に悪い者であったので、主は彼を殺された。そこでユダはオナンに言った、「兄の妻の所にはいって、彼女をめとり、兄に子供を得させなさい」。しかしオナンはその子が自分のものとならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄に子を得させないために地に洩らした。彼のした事は主の前に悪かったので、主は彼をも殺された。
つまり彼のやったことは自己満足ではなく、長子の子孫を絶やさないための慣習や相続権が子に渡らない立法への、彼なりの反抗でした。反抗する相手はもちろん神です。そして死にます。理不尽。
オナニーってロックで反体制な行為だったんですね!!
このあとエジプトのナンバーツーとなるヤコブの子供ヨセフの活躍が描かれ、ヤコブやヨセフが死んで第一部完となります。第二部はそのまま次の巻「出エジプト記」に引き継がれるようです。続きも期待しています。
口語訳聖書は大体においてストレスなく読めます。口語訳といえども1950年代のものですから、難しい表現が混じることもあります。意味不明な箇所が全くないわけではありませんが、十分通読に耐えるクオリティであると感じました。無料で公開されています。
kindle版は表紙がダサいですね。
関連書籍
関根先生による訳と注解です。第一印象を大事にしたいので、聖書を全部読み終わった後に手を付けます。