書籍レビュー: 嫉妬されると死ぬ 『ギリシア神話』 著: 中村善也・中務哲郎

★★★★☆

 

岩波ジュニア新書2冊目。ジュニアと言えど内容は普通の新書と全く変わりません。著者の一人中務哲郎(なかつかさてつお)さんは、どこかで聞いた名前だと思ったら放送大学(ここも中退しそう)で西洋古典文学の授業でギリシャ篇を担当していた方ですね。先生からはとてもいいお話を聞けました。

放送大学 授業科目案内 ヨーロッパ文学の読み方―古典篇(’14)

いまはradikoという便利なツールがありますので授業は誰でも無料で効くことができます。

Radikool – radiko録音ツール

こいつを使えばタイマー録音もできます。放送大学は良質な授業が揃っていてとても良い学習アイテムです。

昔話

ギリシャ哲学を学びたいという野望があるので、背景知識として必須と思われるギリシャ神話についてどうしても知っておきたくて読みました。本書はギリシャ神話を愛・罪と罰・生と死などのテーマからとらえるという構成になっていますが、単にぶつ切りにするのではなく導入~神~英雄~人間~各テーマというよく練られた構成となっており非常に読みやすかったです。

ギリシャ神話は我々いうところの「昔話」に相当します。しかし日本の昔話は民話の寄せ集めで、名前の固定した登場人物はいません。紀元後8世紀に古事記が成立してやっと固有名詞付きの昔話が出現します。ギリシャ神話は紀元9世紀には記録が残ってますから彼らの知恵には恐れ入りますね。

神大杉

ギリシャ神話には膨大な人物が登場します。適当に画像検索すると目の痛くなりそうな系図が見つかりました。

http://harmonyatsugi.web.fc2.com/kyusoku/016graecia.gif

パンドラの箱の謎

 

実際にはもっといます。これ全部覚えるのはすぐには無理ですので、少しずつ慣れていくしかなさそうです。

ギリシャ神話の「神」はほとんど人間と変わりません。旧約聖書では神が自分に似せて人間を作りましたがギリシャ神話においては人間の誕生については特に語られません(上の図ではプロメテウスが作ったことになっていますが、本書ではこの説が比較的新しい作り話であると懐疑的です)。どうやらギリシャ人が自分たちに似せて神話を作ったようです。神は恋もするし全知全能じゃないし不死ではありません。上の系図から分かるように唯一神ではなく大量に存在します。違うところと言ったら、有名なゼウスの雷をはじめとしてみな特殊能力が使えることくらいでしょうか。サイヤ人みたいなものと考えればいいかもしれません。それから生殖方法は異常です(後述)。

神増え過ぎ

ギリシャ神話は旧約聖書なんてレベルじゃないほど人や神が死んだり生まれたりします。まず上の系図でいうとカオスが自然発生します。キリスト教徒はえらい違いですね。カオスは我々が思い浮かべるカオス(混沌)とは違い、すべての発生元の大きな穴、むしろ「何もない」というくらいの意味と思われます。

ここからが恐ろしくて、ギリシャ神話の世界では必ず何かから何かが生まれます。即ちカオスからガイアがポンと生まれるわけですがまあこれは穴から出てきたってわけだからまだ分かります。次にガイアからウラノスやらポントスやらが生まれます。ここまでもまだわかりますが、さらにガイアがその子ウラノスと夫婦の営みをしてその右側の大量の訳わからんものが生まれたことになっています。一番下にはドラクエにもいるキュクロプス(サイクロプスとも読む)やFFにもいるヘカトンケイルやらの名前も見えます。

サイクロプス.jpg

モンスター/サイクロプス – ドラゴンクエスト モンスターパレード 攻略 Wiki

 

http://www.square-enix-shop.com/jp/ff-tcg/card/cimg6/6-052u.png

FINAL FANTASY ⅩⅢ | タイトル別カードリスト | ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム(FF-TCG)

 

お前ら変なもの産み過ぎ。

 

また下ネタになってすみませんが、神の生殖能力は滅茶苦茶で、神がと交わってできた神すらいます。何だよ岩って!生物ですらない。他にもクロノスがウラノスのチンコを切り落としたらそこから泡が発生して生まれたアフロディテとか、そんな話ばっかりで現代人から見ると引きます。ちなみにアフロディテは美の神ですよ。チンコなのに。

最強の神として各地でシンボル化されているゼウス(私がまず思い出すのはスーパーゼウス)も超絶倫で、あちこちで子供を残します。シカになったり牛になったり、時には雨になるなどという謎の変装をして可愛い女の子を襲うのです。ゼウスが女の子に言いよる話はこの本だけで10回くらい出てきました。現代だったら確実にけしからん話ですがギリシャ神話には日常茶飯事。むしろ私たちの常識が間違っているんじゃないかと思わせられるほどです。神を通した生命賛歌と捉えるのが妥当かもしれません。

触らぬ神に・・・

なお旧約聖書と同様、人間が神に逆らうと大体死にます。ところがギリシャ神話の神は人間的だから余計にたちが悪い。例えば機織りの名手アラクネは女神アテネを機織りで打ち負かしたため嫉妬されて死にます。子供が多いことをレト神に自慢したニオベはレトに嫉妬され14人の子供全員を弓で射殺されます。すっげえ理不尽ですが、いずれも神に対する「傲慢」を突かれて罰を受ける、という共通点があるため、因果応報とみてよいのかもしれません。神に嫉妬されないように気を付けよう。

 

 

 

参考書籍

優れた本ですがやっぱり生の物語にはかなわない。紙面の都合で仕方ないですが物語をもっと引用しまくってほしかった。

 

 というわけで次はこれですかね。石井桃子さんですし外れるわけがない。

ギリシア神話

ギリシア神話

 

 

 さらに補強するならこれか。でも前著で十分な気もする。

ギリシャ神話集 (講談社学術文庫)

ギリシャ神話集 (講談社学術文庫)

 

 

これもよさそうなんだけどブルフィンチって人が作ったまとめだから生の物語はどのくらい収録されてるんだろう。。?

ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)

ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)

 

 

最終目標はこれ。

イリアス〈上〉 (岩波文庫)

イリアス〈上〉 (岩波文庫)

 

 

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

 

 

 本書のレビュー先で紹介されていました。これも読みたい。

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 


書籍レビュー: プロセスとしてのリーマンショック『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人』 著: アンドリュー・ロス ソーキン 訳: 加賀山 卓朗

★★★★★

上巻のレビューから一か月も経ってしまいました。原書は1冊にまとまってるのですがこの本は記述量が半端じゃないので2冊に分けたのは賢明だと思います。

プロセスとしてのリーマンショック

下巻は役者が全員そろっているので上巻のようにエキセントリックな人物紹介はなく、登場人物が動き回りながらあちこちで巨大企業が倒れていきます。本書は上巻で述べたように、主として登場人物のとった行動に焦点が置かれていますので、構造的な問題は他の本で補わなければなりません。もしくは次のサイトを泣きそうになりながら読んでみようかとも思います。

サブプライム住宅ローン危機 – Wikipedia

本書から分かる範囲で簡単にまとめます。

サブプライム証券の価値暴落により破綻寸前のリーマン・ブラザーズに対して政府は政治的な理由で「助けてやんない。金融機関同士で何とかしな」とメッセージを出し、他の金融機関は株が暴落したリーマンを買おうとするも結局サブプライム証券の評価損の大きさが怖くてどこも手を出さず、リーマン・ブラザーズは2008年9月15日をもって破産します。

同様のサブプライム系証券に手を出していた大手保険会社AIGも破綻寸前までいきますがこちらはこれ以上危機を広げたくない政府による大量融資で80%が国有化(東電みたいな感じ)され、ギリギリのところで救われます。

大手投資銀行モルガン・スタンレーも資金不足となり死亡寸前までいきますがここはなんと三菱東京UFJが90億ドルの融資を決定し生き残ります。取引成立が祝日前だったので、三菱東京UFJはモルガン・スタンレーまで90億ドルの小切手(こわすぎ!!)を届けることで危機を回避しました。三菱東京UFJはいまでも22%の議決権を占める筆頭株主です。

金融機関が倒産するということは、経済の血液たる金の流れがストップするということです。リーマン・ブラザーズの倒産は内臓が一つオシャカになったことに相当します。例えば胃がんになったと言ったところでしょうか。AIG、モルガン・スタンレーが救われていなければさらに肺がんと肝臓がんがダブルパンチで襲ってくることに相当すると考えてよさそうです。まず死にます。間一髪で切除されて助かりました。

リーマンショックという出来事は、上手な人がまとめれば5行くらいで片付いてしまう出来事だと思います。本書は危機の端緒、フレディマックとファニーメイが国有化された2008年9月7日から、7000億ドルの不良債権を国が買い取る緊急経済安定化法案が成立する2008年10月3日までの話ですので、わずか4週間の出来事をこんな超分厚い本で語っています。

この本は歴史書だと感じました。まさに塩野七生さんの言うところの「プロセスとしての歴史」です。

すなわち構造的な理論書の補強として出来事を配置するのではなく、もっぱら出来事そのものを叙述することを目的とする本です。そこで必要となるのは、正確性と情報量の多さ、事実の多層性交錯性、登場人物の背景や性格、とった行動と彼らの思考です。著者の取材力には感心するしかありません。日本文で800Pくらいありますものね。

後知恵野郎はよく笑う

財務長官ヘンリー・ポールソンは今後長い間に渡って批判されるでしょう。なぜリーマンを救わず、他の金融機関は救ったのか、、と。しかしそれは結果論に過ぎません。リーマンを救うことは大きなモラル・ハザード(どうせ救われるんだから俺たちも無茶しちゃうぜーって他の金融機関が思うこと)に直結するというジレンマでポールソンは苦しんでいました。

ポールソンに限らずニューヨーク連邦準備銀行総裁ティモシー・ガイトナー、連邦準備制度理事会ベン・バーナンキも歴史の1点1点で彼らのベストを尽くし、できることを最大限にやり切ったのではないかと感じさせられます。

彼らを「あの時こうやればよかったのに」と、後知恵で非難することは簡単です。それは結果が分かっているからです。我々は現在を生きていて、未来を正確に予測することはできません。金融市場は大量の人間の意志という永遠に予測不可能な存在達の集合体です。非難する奴に言いたい「お前明日株が上がるかどうか分かるの?」

エピローグには、JPモルガンの代表ジェレミー・ダイモンのとても印象的な引用文が掲載されています。

重要なのは批評家ではない。ものごとを成し遂げるのに人がどこで躓いたか、どうすればもっとうまくできたか、そういう粗探しはどうでもよい。名誉はすべて、実際にアリーナに立つ人にある。その顔は汗と埃、血にまみれている。勇敢に戦い、失敗し、何度も何度もあと一歩で届かないことの繰り返しだ。そんな人の手に名誉はある。なぜなら失敗と弱点のないところに努力はないからだ。常に完璧を目指して現場で戦う人、偉大な熱狂を知る人、偉大な献身を知る人、価値ある志のためなら自分の身を粉にして厭わない人…結局最後に勝利の高みを極めるのは彼らなのだ。最悪、失敗に終わっても少なくとも全力で挑戦しながらの敗北である。彼らの魂が眠る場所は、勝利も敗北も知らない冷たく臆病な魂と決して同じにはならない。

――セオドア・ルーズベルト

 

私は感銘を受け、次の本を読みたくなりました。

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫)

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫)

 

映画版を見たことがあります。1945年8月14~15日。天皇を崇拝しクーデターを起こして最終的にピストル自殺する畑中をはじめとして、結果を知っている現代の私達から見れば、彼らは一見滑稽に見えかねない思考で行動します。しかし彼らは決して道化でもないし馬鹿でもない。私はあの時間を極限まで凝縮して生きた人たちの生き方考え方を知りたいと思いました。

 

 

 

関連書籍

リーマンショック一番の功労者。彼がいなければ世界同時不況はもっと深刻になっていたかもしれません。いつか絶対読む。

ポールソン回顧録

ポールソン回顧録

 

 

 最近ガイトナーの回想録も出ました。超イケメン。これも絶対読む。

ガイトナー回顧録 ―金融危機の真相

ガイトナー回顧録 ―金融危機の真相

 

 

 ゴールドマン・サックスの本もある。これも読みたい。

訣別 ゴールドマン・サックス

訣別 ゴールドマン・サックス

 

 

でもこれらを読む前に基礎知識が必要です。次の本は図書館の入り口の無料譲渡本コーナーで手に入れたので近いうちに読みます。

金融入門 (岩波新書)

金融入門 (岩波新書)

 

 

これも必要

国際金融入門 (岩波新書)

国際金融入門 (岩波新書)

 

 

まずこれだけあれば十分かな?

入門 企業金融論: 基礎から学ぶ資金調達の仕組み

入門 企業金融論: 基礎から学ぶ資金調達の仕組み

 

 

 バーナンキが良さげな本を書いているので読みたい。

連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録

連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録

 

 


書籍レビュー: 発達障害者が読むと人生変わるかも『成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群』 著:広沢正孝

★★★★★(*’∀’人)

著者の広沢正孝さんは順天堂大の精神科医・教授です。専門は精神病理学・保健学。他に統合失調症関連の本も書いています。

発達障害者の精神構造を明らかにする目標で書かれた本

タイトルから一般向けの単行本的なものを想像していましたが内容はバリバリの医師向け医学書でした。でも最高に面白かったし、人生が変わるかもしれないほどの衝撃を受けました。いいですね医学書。もう医師にはなれないけど医師になるための勉強がしたくなりました。

この本はいわゆる「発達障害あるある本」とは一線を画します。まず発達障害者に対して一般の人間がどう接すればいいか、発達障害者はどのようにして社会に適応すればいいかという実践的な要素は皆無です。1冊かけて、発達障害者の精神構造を明らかにするための考察が膨大な参考文献とともに行われていきます。文献はほとんどが英語圏・ドイツ語圏のもので日本のものも精神医学系の雑誌が多く、医学書はみんなそうなんでしょうけれど著者の情報収集力の高さとそれを統合する力には驚嘆しました。

folk physicsとfolk psychology

書くべきポイントは大量にあってまだ自分の中で消化できていないので本書を貫く重要概念の2点に絞って書きます。1点目はである「folk physics」と「folk psychology」という概念です。これはBaron-Cohen(サイモン・バロン=コーエン)の提唱した概念だそうです。

これは脳が対象を認識する働きを2つの領域に分割して捉える考え方です。folk physicsは「庶民物理学」つまり対象が物質的存在としてどのような働きをするかということを捉える働き、folk psychology「庶民心理学」は対象を社会的存在としてとらえようとする働きを指します。大まかに言ってfolk physicsは分類し細部を突き詰める働き、folk physicsは共感し統合する働きです。

バロン=コーエンによれば、一般人は2つの働きをバランスよく発達させ、重なり合わせることで対象との適切な距離や二面性、多層性などを認識することができますが、発達障害者はfolk psychologyが障害されており物事をfolk physicsを使ってしかとらえることができません。物事は様々な観念の集合体としては捉えられず、バラバラのままです。

タッチパネル的自己

folk physicsへの偏りという仮説をベースにして、実際の臨床例から筆者が提示した理論が「タッチパネル的自己」です。これはある患者が次のように自己を認識していたことによるものです。

このころA氏は、主治医に以下のように述べた。「僕の頭はタッチパネルで、縦横に規則正しくアイコンが並んでいます。その1つひとつに重要な内容が入っていて、僕は必要な時に必要なアイコンにタッチするんです。そうするとそこにウインドウのように世界が開けていき、僕はそこを生きて、そこで仕事をするのです。それが社会人の僕です。つまりプログラマーの僕ですよ。先生もご存知のプログラマーってやつで生きている僕なんです。(中略)別の部分をタッチすると、そのウインドウにまた僕がいます。全体としてタッチする順番が決まれば、僕の1日は順調に流れます。でも今は順番が滅茶苦茶で、タッチパネルの情報もどこに入っているのかわかりません。これは危機です。」

A氏の自己イメージ図が添付されていました。HTMLで再現してみます。

6:30AM
朝の支度

7:12AM
電車通勤

8:23AM
駅から会社

8:45AM
仕事前

9:00AM-5:20PM
仕事

0:20PM-1:20PM
昼食

(予備)

(今日はパス)
SF活動

6:05PM
帰り道

7:03PM
電車通勤

7:55PM
駅から自宅

(今日はパス)
秋葉原

8:45PM
夕食

9:20PM
入浴

10:00PM
ブログ

(予備)

 

以上の2理論は衝撃的でした。なにしろこの2つから発達障害者にまつわる諸症状がほぼ全て演繹可能だからです。米田先生の著書の1点集中・極端なコントラスト理論では説明不足なところも補えそうです。

演繹例1

私の例を挙げます。私はきわめて受動的です。他人との関わり方は典型的にな積極奇異(積極的だが挙動不審だったり躁状態だったり変な感じのこと)で、話しかけるまでは時間がかかりますが一旦他人と関係を築くと自己が他人に取り込まれ、自己を喪失します。もうブログの存在がばれたって構わないので書くと、いま隣の部屋にいる元妻との関係が完璧にそうです。私は元妻に思考体系を依存し、子供からは「自分の考えが無い」と非難されバカにされました。

一方、私は自己喪失どころか過剰なまでの自己保持を表すことがありました。例えば私は大学休学後復学し1年通いましたがその時収入はありませんでした。ところがその時元妻がある事情で働けなくなり解雇されました。ところが私は収入が全くない状態で、1年間大学に通い続けました。お金は消費者金融で借金した後に破産して踏み倒しました。今思うとぞっとする行為です。生活が首の皮1枚で繋がっていた状態です。ふつうは収入が無ければ働きますが私は働くことを選ばず、それまでの世界であった大学を保持することを選びました。しかも収入もないのに帰りにゲーセンに寄っていました。私は音ゲー中毒者だったので、この世界を手放すこともできませんでした。さすがにキャッシング枠が無くなったので1年後は中退して就職しました。

以上の行為はタッチパネル的自己で説明が可能です。私の自己はタッチパネル風に分割されおり、「大学生の自分」「音ゲー奏者の自分」「夫としての自分」が独立して存在していて、統合されていません。したがっていとも簡単に「夫としての自分」を切り離して生活を顧みず大学に行ったりゲーセンに行ったりすることが並立して可能となります。

自己に一貫性が無いことが発達障害者の本質です。これは本当に衝撃で、いろんなことがひっくり返りそうな思いがしました。

少し前から発達障害と分裂病(統合失調症)との類似点を感じていましたが、本書では分裂病はあくまで一般人が自己を中心とした心的構造の保持ができなくなった状態、すなわち「定型発達者が陥る病気」であることが示され、すっぱり切り捨てられてしまいました。

一貫性が無いことから多重人格との類似もできそうですが、多重人格は幽遊白書の仙水忍の例からも分かるように、普通の人間がトラウマ的出来事から逃避するために自分の一部を隔離するものとして自らが生み出す適応的行為です。ところが発達障害者は先天的に一貫性が無いのですから話が違います。

様々な精神医学書を読んで示唆するところを得たいと思っていましたが、この知見によって「定型の人の話だし・・・」と一つのフィルターを感じながら読まなければいけなくなりました。できるのかな。

自動的に空気を読むJavascript、必死で空気を読むJava

プログラムの話です。JavaScriptは定型発達者言語、Javaは発達障害言語だと思いました。

JavaScriptは動的型付け言語です。定型人オブジェクトにはあらかじめ「常識」という一連のメソッドが備わっており、適当なメソッド名を与えると何らか「常識」に沿って動作することが期待されています。「常識」には明示的な宣言無しにつけたり外したりすることが可能です。定型発達者は2行で実装できてとても便利です。

var teikei = function(){};

teikei.prototype = 常識; //実装完了。うらやましいなおい!

var man = new teikei;

if(上司が来た)

{

 man.空気読め(); //軽快に動作

 man.率直に意見 = nothing; //動作しなくなる。正しい態度。

}

一方Javaは静的型付け言語で、オブジェクトのメソッドはあらかじめすべて定義しておかなければなりません。「常識」はすべて明確な実装がされている必要があります。一つでもなければ悲鳴を上げてエラーリターンするのです。

class PDD implements 常識 //PDDは発達障害の略語です

{

 public 空気読め()

 {

   if(一人でいるとき)

  {

    何もしないでいい;

  } 

  else if(二人でいるとき)

  {

    相手の気持ちを考える();

    会話を途切れないようにする();

   if(相手が怒ったら?)

   {

     どうしよう

   }

    etc…

  }

  else if(10人でディスカッション)

  {

    無理

  }

 else

  {

     想定外。パニック

  } 

 }

 public 率直に意見()

 {

   いつも通りに発言();

 }

}

interface 常識

{

 public 空気読め();

 public 率直に意見();

}

 

class 実社会()

{

  public static void main (String args[])

 {

   PDD man = new PDD();

  if(上司が来た)

  {

   man.空気読め(); //大変な条件判断。フリーズの恐れあり。

   man.率直に意見(); //消せない。

  }

 }

}

なんという冗長性。ちなみに私はJavaを使ったことはありませんが、類似言語のC#は毎日仕事で使っています。とても使いやすい原語です。書きながらJavaScriptを習得するのに手間取った理由もなんとなくわかりました。

発達障害者は適応するために大量の「常識」を実装する必要があります。これは私が大量に本を読みたい理由です。無数の言語による配線を張り巡らせておけば、何かどこかに引っかかるかもしれない、、という期待があるためです。

私が読む本はほとんどが図書館で借りた本ですがこの本ははじめて「買って定期的に読み直さなければいけない」と思わせる本でした。地味な本ですが全文暗記したいくらいの気持ちがします。だからといって何かが好転したりするわけではないのですが。

 

 

参考書籍

本書の基礎となったバロン=コーエンさんが書いた本。

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

  • 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,水野薫,鳥居深雪,岡田智
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 単行本
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何回も引用されていた本。教師のため、って書いてあるけど中身は濃いみたい。

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

  • 作者: バルクミン,ギルスティーブンソン,ジュリアリーチ,Val Cumine,Gill Stevenson,Julia Leach,斉藤万比古
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本
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これも何度も引用されていた。高い。分厚い。

総説 アスペルガー症候群

総説 アスペルガー症候群

  • 作者: アミー・クライン,サラ・S・スパロー,山崎晃資,フレッド・R・ヴォルクマー,小川真弓,徳永優子,吉田美樹
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2008/05/30
  • メディア: 単行本
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これも多数引用。発達障害者のほとんどは天才ではないが、何か得るものがあるかも。

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

 

 

 よく名前を聴く本。読んでみたい。

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

 

 

広沢先生の本。

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

 

 

これも引用あり。上の本と合わせて分裂病を知るために。

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

 

 

発達心理学。自分の発達過程がどのくらい一般とずれているのかを確認するのに有益。

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

  • 作者: R.J.ハヴィガースト,Robert J. Havighurst,児玉憲典,飯塚裕子
  • 出版社/メーカー: 川島書店
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 単行本
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書籍レビュー: 先生ちょっと美化入ってます!『ぼくらの中の発達障害』 著: 青木省三

★★★☆☆

 

広汎性発達障害や関連する精神病・心理学については考えるヒントにするためたくさん読みます。

著者の人柄の良さがにじみ出てる

青木省三さんは精神科医です。専門は思春期青年期精神医学と精神療法です。ので、本書で引用されている例は思春期~20代前半くらいの患者が多いように見受けられました。

序盤の発達障害と定型発達は連続していて、切れ目がない→でも、その程度が強ければ異質なものとなりうる、という理論は腑に落ちました。だれでも大なり小なり精神疾患的な物を抱えています。色々な精神病の本を読んで参考にしようと思っていた私の考えが補強されました。

ちくまプリマ―新書というのは初めて知りましたがヤングアダルト向けの新書だそうですね。なので語り口調が「~してほしい。」とか「僕は~だ。」とかちょっとアツいです。苦手ですがヤングメンに合わせてくれてるのですからいい人なんだろうなぁと思いました。実例でも時には1か月何の反応ももたらさない患者の言い分を辛抱強く聴き、彼らの立場を理解し一緒に問題を考えて、わずかずつでも彼らに変化をもたらしていった青木さんのまごころには心打たれます。青木さんのおかげで頭を打ち付ける自傷行為などの二次障害を克服した患者さんも沢山いるようですね。

ちょっと美化しすぎでは

いくつか納得できない個所があります。

青木さんは発達障害者を「表と裏のない純粋な人」とラベル付けていますが、これはどうなんでしょう?発達障害者だって表と裏はあります。内面での葛藤についてはおそらく定型発達者と同じです。ただし思考の方向性やアウトプットが間違っているため、表と裏のつもりなのに裏と裏に見えるような発言をしてしまうのです。

また、次の記述には全面的に反対です。それは特別支援級の自閉症を持つ生徒がバスの中で誰彼敵わず毎日「おはようございます」と言ってピリピリしているバスの中の空気をやわらげた、というエピソードについての青木さんの感想です。

人に対して内面を隠すという「自閉」は定型発達と呼ばれる人の中にあるものであり、逆に広汎性発達障害で「自閉」を持つと言われる人の中にこそ、内面を隠さず人と繋がり情報を伝達する可能性があると、僕には思えてならない。

美化しすぎ!集団生活の秩序という観点から見れば、間違った情報やその場にそぐわない情報を伝達しまくる発達障害者は、トラブルの原因にこそなれ集団の雰囲気をよくすることなんてレアケースです。

例えばまたリーマンショックの例で申し訳ないですが経営が危ないという噂のある世界的な銀行の頭取が発達障害だったとして、記者会見で「経営は盤石です」と言わず「一週間で資金が尽きます。破産です」と言ったらどうなります?全世界で取り付け騒ぎが起きて経済大崩壊ハルマゲドン、長期ズンドコ大不況に陥ったのちに頭取は1年後の回想録で「俺は真実を伝えたんだ。。」と書きベストセラーになるに違いありません。というわけで発達障害は迷惑です。話はそれますが金融マンというのは発達障害者が絶対になれない職業の一つですね。トレーダーなら向いてますけど。

わたしは「発達障害者はリーダーにするな」とか「仕事をしないという選択肢も尊重されるべきだ」という米田さんの方が好みです。

青木先生は集団生活になじめない発達障害者をケアし、その菩薩のような人格で彼らを集団内にとどまらせる力を持ったすばらしい人間だと思います。でも個人的には集団なんか出ちゃえばいいじゃん。と思うのです。

それに根本的な問題として、周りにケアしてほしくありません。発達障害者にどう接すればいいか、なんて考えてほしくありません。配慮されるなんて屈辱です。

すっごくいい人なのにごめんなさい。

 

 

関連書籍

 

青木さんの他の著書で読んでみたいもの。

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

 
大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

 

2冊目はあまりよくない言い方をすると「精神科医はどのように発達障害者を見ているのか」を知るために必要と思いました。


書籍レビュー: エヴァ好きが書いた一夜漬け用テキスト『グラフィック ミクロ経済学』著: 金谷貞男・吉田真理子

★★★★☆

 

私には野望があります。大学中退という負い目をバネに、あらゆる分野の知識について学部卒以上の知識をつけたいという野望です。ゼロからのスタートです。

そもそも大学で教えられている政治・経済・文学・歴史学・哲学・心理学・語学・物理学・化学・生物学・工学・医学などなどの学問は、興味のない分野など存在しません。どれも面白そうです。しかも、長いこと生きているとどの学問も自然と生きていく上での必要性を痛感する出来事にぶちあたります。不思議なものです。

まず経済学が必要になりました。個人的な金銭的行き詰まりのせいです。金を儲けたいので株や企業分析の勉強をしましたが、企業がどのように市況に影響を受けるのかわからない。それに新聞の経済欄で言っていることも全然わからない。なんでアメリカは利上げするの?中国はどうして在庫作り過ぎてバブルになったの?株安と円高がスパイラルで進行してるんだけど為替レートはどういう思惑で動くわけ?なんで株と連動してるのさ。未だに全く分かりません。いまリーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)を読んでますが背景知識がないので面白さが半減しているような気がしてなりません。

というわけで経済学が必要です。株は短期的にはギャンブル要素が強いので学んだからといって儲けられるようになるわけではないのですが、長期的視点が欲しいことと、「なぜ」が分からないと気持ち悪くて仕方ないです。

 

さて経済学には大きく分けてマクロ経済学とミクロ経済学があります。ニュースでわけわからんのはほとんどマクロ経済学の話題っぽいのでマクロ経済学の本を買ってみました(読み終わり次第レビューします)。ところが目次に「マクロ経済学のミクロ的基礎付け」なんてものがあります。じゃあミクロ経済学先に勉強しなきゃダメじゃん。そこでブックオフで200円と投げ売られていたこの本を手に取ってみました。

わかりやすいが、役立つのかどうか全く分からない

非常に分かりやすいテキストでした。市場の基本的な理論にはじまって家計・生産・費用・独占・厚生のトピックに分けて、タイトル通りグラフを大量に導入して丁寧に説明してくれます。おかげで一通りの理論について「理解」することはできました。比較的短時間で読めるので、一夜漬けにぴったり、試験でもそれなりの点数を取ることは可能です。

ただし本書では明らかに不足です。何が不足かと言うと、例示が現実離れしており(後述)、グラフの意味を極めて分かりやすくするためだけの例に終始しています。おかげさまで理解は楽ですが、現実にどう適用していいのか全くわかりません。他にもっと詳しい本を買って補強する必要ができました。また経済学というのは限界生産性逓減の法則やら完全競争の前提やら情報の完全性やら現実に適用できるのかとても怪しい原理の上に成り立っていることもよくわかりました。あまり厳密に議論すると現実と乖離すること間違いありません。いまのところ、どの理論も話半分で「本当かどうか分からないけど覚えておく」くらいのつもりで理解しました。

エヴァマニア

投票者がシンジ君、レイさん、アスカさんの三人であるとしましょう・この三人が部屋に飾る花を投票によって選ぶとしましょう。・・・

とか

5000円の価格の時、アスカ水産の供給量は図1.10のC1(10尾)で示されます。また、カヲル漁業の供給量は図1.10のF1(2尾)で示されます。・・・

とか、登場人物名が全部エヴァンゲリオンです。また、本書で扱われる財はすべて伊勢エビと牛肉です。

このせいで理論は理解しやすいのですがどの例も現実離れして浮いてしまっています。イメージがわかないのが残念です。。

 

 

参考書籍

次はこれ。幸い、田舎な私の地域の図書館に何故か置いてあったので、長期で借りて読破するつもりです。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

 

 

 でもこれも捨てがたい。4320円768ページ。分厚い。高い。

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

  • 作者: N.グレゴリーマンキュー,N.Gregory Mankiw,足立英之,柳川隆,石川城太,小川英治,地主敏樹,中馬宏之
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2013/03/22
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
 

 

ミクロ経済学の発展。

財政学 改訂版

財政学 改訂版

 

 

国際関係や貿易などはマクロ経済学を学んでからっぽいのでまた次の機会に。


書籍レビュー: ざわりとする生物学『カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学』 著: D・サダヴァ他

★★★★★٩(๑❛ᴗ❛๑)۶ 

 

高校の時生物が苦手でした。覚えることが多く暗記ばかり、計算が無いしイメージできず辛い。世界史と並んで毎回赤点寸前の劣等科目でした。もちろん大学入試には使わず、うっちゃっておいた領域の一つです。

しかし食や環境の本を読むにつけ色々な主張の生物学的根拠に一々疑問を持ってしまい、本当にそうなんけ、間違ってるんとちゃうんかい、一体どこまで妥当なの?と考え生物学の必要性を痛感しました。その後いろいろ物色してこの本に辿りつきました。

本書はLIFEという向こうではポピュラーな生物学テキストの抄訳です。 MITでは全員(生物学専攻以外の学生も含む)がこの教科書で学ぶそうです。

Life: The Science of Biology

Life: The Science of Biology

 

本シリーズ全5巻で、この教科書の約半分をカバーします。第1巻である本書では生物の基本のキである細胞を取り扱う、「細胞生物学」というタイトルがついています。

生物すごすぎ

内容は見事というしかありません。いや生物学が専門の人から見たら物足りないとか翻訳がダメとか言うんでしょうが私のような生物初心者にとっては最大級のインパクトがありましたよ。生物すげぇ!

まず丁寧な図解。しかもカラー。文字だけではわけのわからんカタカナ語の羅列にしか見えない複雑な反応系が図に落とし込まれることで脳に優しい形に変化し、葉緑体のホラーな生物工場っぷりやファゴサイトーシスのキモさ、クエン酸回路の美しさや膜内タンパク質の不気味さを存分に味わうことができます。

そして生物の奇跡。超蝶々複雑であると同時に美しくキモく絶妙なバランスで安定を保つ完璧な構造をしています。人間がどんなに頑張って作業ラインを組み立てたって敵いそうにない最強の物質生産・消費工場です。しかもこれがあらゆる生物の微小な細胞一つ一つに備わっているなんて!何十億年という地球環境の厳しさによって絶え間なく破壊され続けてもそれに抗って生き延びてきた生命の所業ということなんでしょう。

空気を読む細胞

(以下は生物学に詳しい方にとっては当たり前の内容です)

最も感動したのは好気呼吸における正のフィードバック・負のフィードバックの仕組みを読んだ時でした。

好気呼吸をざっと説明します。我々が炭水化物や脂肪類を食べると唾液や胃酸などでグルコース(ブドウ糖)に分解され、それが各細胞に行き渡ってエネルギーに変換されます。細胞内では次の図のような複雑な反応が行われています。これは単細胞生物のような原核生物を除いた全生物ほぼ共通です。

呼吸 – Wikipedia

目が痛くなりそうな図ですね。細胞内ではまずグルコースを炭素数半分のピルビン酸*2に分解し(解糖系、上図の左半分の反応)、それをミトコンドリア内のクエン酸回路(上図の右下の反応)に放り込んで二酸化炭素まで分解します。グルコースに蓄えられていたエネルギーは解糖系とクエン酸回路で各種物質と結びついたH+として化学的に保持された後、これらはミトコンドリアの電子伝達系(上図の右上の反応)を通じて大量のエネルギーを生み出します。

こんな超複雑な化学反応を連続して安定的に起こすためには、バーのマスターなんか目じゃないくらい各種物質を絶妙な割合で混合し、しかもその状態が恒常的に持続する必要があります。どれか1つの中間物質が少なくなる・過剰になるだけで、分子のバケツリレーが止まり細胞は死にます。おそろしい。

生物はフィードバック機構という化学的な仕組みを取り入れこの問題を解決しました。すべての反応には酵素が関わります。酵素とは化学反応を円滑に進めるための生体触媒です。矢印一つ毎に別々の酵素が関わっていると考えて良いです。好気呼吸においては、各所の産生物がいろんな場所の酵素にくっつき、反応速度を速めたり(正のフィードバック)、遅くしたり(負のフィードバック)するのです。

http://homepage2.nifty.com/nutriology/top-page/molecular-nutriology%286%29/kouso-10.gif

サブページ 1

上図は負のフィードバックの例です。例えるなら、ドラえもん(上の図の最終産物D)を量産する工場があったとします。ドラえもんを1日100体製造するペースを保ちたいのに、今日は組み立てラインの工員(上の図の酵素Ⅰ~Ⅲ)が頑張りすぎて正午なのに80体も製造してしまったとします。すると最終産物であるドラえもん自身が「お前ら働き過ぎ!休め!」と言いながら工員にくっついて邪魔をします。以後はラインの速度が低下し1日100体という計画をずれることなく見事操業時間を終了することができました。これが負のフィードバックです。

最終産物自らが酵素に働きかけ、自立的に物質の流れを制御する…なんてエレガントで美しいの!感動しました!いわば細胞内の物資たちが勝手に空気を読み、永遠の秩序を保つわけです。空気の読めない発達障碍者のみなさん、あなたが生きているということは、あなたの身体の中の物質は立派に空気読みまくってるわけですよ!誇ってください!

ざわざわする

このような奇跡は一方で危うさを感じさせます。ちょっとバランスが崩れたら死ぬんじゃないか。実はその通りで、1カ所の酵素が機能不全であるだけで慢性的な難病になることが多いのです。バランスが崩れるの怖い。すぐ死ぬ。同じことは宇宙に関する本を読むたびにも思います。地球があと少し太陽からはなれていたら寒くて死ぬし、少し近づいていたら焼け死んでる。本質的にスケールのでかい本を読むといつも気分がざわつきます。最悪の想像ばかりしてしまい、ああ1秒後に死ぬかも。次の瞬間に世界が終わるかも。という気持ちになります。我々は無数の奇跡の上に生きていると強く感じさせられる本でした。

化学知識と原書

本書の欠点は高校程度の化学の知識が必須であることです。私はたまたま化学で大学受験したので何とか読めましたが、そうでないと厳しいでしょう。

でも原書には化学の基礎知識の章が1つもうけられてますね。

Life: The Science of Biology

Part One. The Science of Life and Its Chemical Basis

  1. Studying Life
  2. Small Molecules and the Chemistry of Life
  3. Proteins, Carbohydrates, and Lipids
  4. Nucleic Acids and the Origin of Life

さすがは1冊で独習できる書の揃ったアメリカ。ちゃんと完結していてすばらしい。いずれ原書も読んでみたいものです。訳者がこの本を読むのは化学を高校で勉強した人間だけだぜって仮定したからなのか、紙面の都合(こっちかな)で大事な1章をばっさりカットしたことは欠点の一つです。

 

しかしそんな欠点なんぞ全く気にならない内容でした。すばらしい。生物すごすぎる。まじすげぇ。まずはこのシリーズを5巻全部読破することが目標です。

 

 

 

全部読み終わったらこれかな。

 

キャンベル生物学 原書9版

キャンベル生物学 原書9版

 

 16200円1728ページ!!たけーーー。なげーーーー。

 

Campbell Biology (10th Edition)

Campbell Biology (10th Edition)

  • 作者: Jane B. Reece,Lisa A. Urry,Michael L. Cain,Steven A. Wasserman,Peter V. Minorsky,Robert B. Jackson
  • 出版社/メーカー: Benjamin Cummings
  • 発売日: 2013/11/10
  • メディア: ハードカバー
  • この商品を含むブログを見る
 

原書は10版がすでに出てるじゃん!買うならこっちだね。でも3万円。死ぬ。100ページ当たり約200円と考えれば安いかも。でも一度に15冊大人買いするのと同じ意味だからやっぱり死ぬ。アメリカamazonでは絶賛されています。

 


書籍レビュー: オナニーするなよ!絶対だぞ!『口語訳旧約聖書 創世記』

★★★★★

 

新聞の経済面や国際面を見ると分からないことだらけです。国際的な背景知識を知らないからです。これらを理解するためには西洋の基本を知らなければなりません。基本と言えばもちろん聖書です。

聖書と言えば旧約と新約がありメジャーなのはイエス登場後の新約の方ですが、新約は旧約を前提としていてイエスが旧約の記述を頻繁に引用しているので、旧約聖書をいつか読まなければいけないとずっと思っていました。

そこで見つけたのが次の記事内にあるサイトです。

ここの口語訳旧約聖書を少しずつ読むことにしました。旧約聖書は目次を見ると39冊もの書物の合本であり長大です。全部読むには数年かかりそうですので区切りのいいところでレビューを書いていこうと思っています。今日はまず創世記から。私は無信仰ですので文学作品として読みます。そのため信仰者の方にとっては不適切な表現が現れることが予想されます。お許しください。

ユダヤ人の歴史序章

創世記という名前から、神が世界を作った時の様子、いわゆる天地創造がずっと書かれていると考えていました。実際は天地創造は第2章で終了し、あとは第50章まで「ユダヤ人の歴史 第1巻」というような作りです。アダムとエバが知恵の実を食べて追放される一説など、現代でもしばしば用いられるモチーフの元ネタが大量に詰まっています。

知恵の実を食べたエバと、エバをそそのかした蛇と、エバからもらった知恵の実を無批判に食べたアダムに対して神はこう言います。

(第4章14~)

主なる神はへびに言われた、

「おまえは、この事を、したので、すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。
おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べるであろう。
わたしは恨みをおく、おまえと女とのあいだに、おまえのすえと女のすえとの間に。
彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕くであろう」。

つぎに女に言われた、

「わたしはあなたの産みの苦しみを大いに増す。
あなたは苦しんで子を産む。
それでもなお、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう」。

更に人に言われた、「あなたが妻の言葉を聞いて、食べるなと、わたしが命じた木から取って食べたので、地はあなたのためにのろわれ、あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。
地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、あなたは野の草を食べるであろう。
あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る、あなたは土から取られたのだから。
あなたは、ちりだから、ちりに帰る」。

いわゆる原罪というやつです。実を食べちゃったために一生どころか子子孫孫に渡るまで呪われるとはすっげえ理不尽ですよね。とくにアダムなんかただの巻き添えです。かわいそう。おまけに女に服従を強いているので男尊女卑の正当化に使われそうです。産みの苦しみ~については、出版当時の人々が「なぜ産むのは大変なのか」を納得させるのに役立ったでしょうね。

ここに限らず創世記には頻繁に「のろう」という単語が出てきます。怖い怖い。

チート仕様のユダヤ人

ユダヤ人の祖先とされる人々はみなチートです。まず長生き。

(第5章3~)

アダムは百三十歳になって、自分にかたどり、自分のかたちのような男の子を生み、その名をセツと名づけた。アダムがセツを生んで後、生きた年は八百年であって、ほかに男子と女子を生んだ。アダムの生きた年は合わせて九百三十歳であった。そして彼は死んだ。
 セツは百五歳になって、エノスを生んだ。セツはエノスを生んだ後、八百七年生きて、男子と女子を生んだ。セツの年は合わせて九百十二歳であった。そして彼は死んだ。

130歳とか105歳で子供産んで900歳以上生きています。元気すぎます。彼らに限らず本書の登場人物の年齢はめちゃめちゃです。

ヘブライ人の直接の祖先とされるヤコブは、天使が突然襲ってきて決闘し勝ちます

(第32章22~)

彼はその夜起きて、ふたりの妻とふたりのつかえめと十一人の子どもとを連れてヤボクの渡しをわたった。すなわち彼らを導いて川を渡らせ、また彼の持ち物を渡らせた。ヤコブはひとりあとに残ったが、ひとりの人が、夜明けまで彼と組打ちした。ところでその人はヤコブに勝てないのを見て、ヤコブのもものつがいにさわったので、ヤコブのもものつがいが、その人と組打ちするあいだにはずれた。その人は言った、「夜が明けるからわたしを去らせてください」。ヤコブは答えた、「わたしを祝福してくださらないなら、あなたを去らせません」。その人は彼に言った、「あなたの名はなんと言いますか」。彼は答えた、「ヤコブです」。その人は言った、「あなたはもはや名をヤコブと言わず、イスラエルと言いなさい。あなたが神と人とに、力を争って勝ったからです」。ヤコブは尋ねて言った、「どうかわたしにあなたの名を知らせてください」。するとその人は、「なぜあなたはわたしの名をきくのですか」と言ったが、その所で彼を祝福した。

あまりに唐突で何のことかさっぱりわからなかったのですが天使が突然やってきて決闘したらしいです。するとイスラエルという別名を与えられ、彼は今日に至るまでユダヤ人の伝説の人となりました。

これ本当に教会で教えてるんでしょうか

チート仕様には性的な側面もあります。イスラエルという別名のヤコブは正妻ラケル・その姉レア・ラケルのつかえめビルハ・レアのつかえめジルパ4人全員と子をもうける絶倫野郎です。

アブラハムの甥ロトに関するエピソードもやばいです。

(第19章29~)

こうして神が低地の町々をこぼたれた時、すなわちロトの住んでいた町々を滅ぼされた時、神はアブラハムを覚えて、その滅びの中からロトを救い出された。
 ロトはゾアルを出て上り、ふたりの娘と共に山に住んだ。ゾアルに住むのを恐れたからである。彼はふたりの娘と共に、ほら穴の中に住んだ。時に姉が妹に言った、「わたしたちの父は老い、またこの地には世のならわしのように、わたしたちの所に来る男はいません。さあ、父に酒を飲ませ、共に寝て、父によって子を残しましょう」。彼女たちはその夜、父に酒を飲ませ、姉がはいって父と共に寝た。ロトは娘が寝たのも、起きたのも知らなかった。あくる日、姉は妹に言った、「わたしは昨夜、父と寝ました。わたしたちは今夜もまた父に酒を飲ませましょう。そしてあなたがはいって共に寝なさい。わたしたちは父によって子を残しましょう」。彼らはその夜もまた父に酒を飲ませ、妹が行って父と共に寝た。ロトは娘の寝たのも、起きたのも知らなかった。こうしてロトのふたりの娘たちは父によってはらんだ。姉娘は子を産み、その名をモアブと名づけた。これは今のモアブびとの先祖である。妹もまた子を産んで、その名をベニアンミと名づけた。これは今のアンモンびとの先祖である。

おいおい・・・

チンコの皮を切って勝利したヤコブの息子たち

ユダヤ教には重要な儀式「割礼」があります。包茎手術です。割礼はアブラハムが神から土地や子孫を得る引き換えとして行った契約とされています。

(17章9~)

神はまたアブラハムに言われた、「あなたと後の子孫とは共に代々わたしの契約を守らなければならない。あなたがたのうち男子はみな割礼をうけなければならない。これはわたしとあなたがた及び後の子孫との間のわたしの契約であって、あなたがたの守るべきものである。あなたがたは前の皮に割礼を受けなければならない。それがわたしとあなたがたとの間の契約のしるしとなるであろう。あなたがたのうちの男子はみな代々、家に生れた者も、また異邦人から銀で買い取った、あなたの子孫でない者も、生れて八日目に割礼を受けなければならない。あなたの家に生れた者も、あなたが銀で買い取った者も必ず割礼を受けなければならない。こうしてわたしの契約はあなたがたの身にあって永遠の契約となるであろう。割礼を受けない男子、すなわち前の皮を切らない者はわたしの契約を破るゆえ、その人は民のうちから断たれるであろう」。

迷惑な神様です。ところで神はしょっちゅう「しるし」を求めますが、本書の中には「私が思い起こすために」しるしを残しておいてくれ、という記述も出てきます。つまり神は忘れやすい。全知全能という割には能力が低いように思えます。全知全能であるゆえに情報量が多すぎて個別対処が難しいから識別子を残しておいてくれということなんでしょうか。

割礼に関して一つエピソードがあります。ヤコブの子供たちに関する話です。

ヤコブの娘デナはシケムという町で凌辱されます。犯人であるシケムが厚かましい奴で、デナを妻にしたいと言い出すクソ野郎なのです。デナの兄たちはシケム一味に向かってこう言います。

(34章13~)

しかし、ヤコブの子らはシケムが彼らの妹デナを汚したので、シケムとその父ハモルに偽って答え、彼らに言った、「われわれは割礼を受けない者に妹をやる事はできません。それはわれわれの恥とするところですから。ただ、こうなさればわれわれはあなたがたに同意します。もしあなたがたのうち男子がみな割礼を受けて、われわれのようになるなら、われわれの娘をあなたがたに与え、あなたがたの娘をわれわれにめとりましょう。そしてわれわれはあなたがたと一緒に住んで一つの民となりましょう。けれども、もしあなたがたがわれわれに聞かず、割礼を受けないなら、われわれは娘を連れて行きます」。

そしてデナ欲しさにシケム一味は町を巻き込んで全員で割礼を受けます。その結果、

(34章25~)

三日目になって彼らが痛みを覚えている時、ヤコブのふたりの子、すなわちデナの兄弟シメオンとレビとは、おのおのつるぎを取って、不意に町を襲い、男子をことごとく殺し、またつるぎの刃にかけてハモルとその子シケムとを殺し、シケムの家からデナを連れ出した。そしてヤコブの子らは殺された人々をはぎ、町をかすめた。彼らが妹を汚したからである。すなわち羊、牛、ろば及び町にあるものと、野にあるもの、並びにすべての貨財を奪い、その子女と妻たちを皆とりこにし、家の中にある物をことごとくかすめた。

復讐完了。読んでいるこっちが痛くなってきます。

オナニーすると死ぬ

オナニーというと日本では「自己満足」とほぼ同義に扱われています。語源が聖書に出てくるオナンという人物が行った行為にある、ということまでは知っていましたがその意味は全く知りませんでした。

オナンはヤコブの子ユダの次男で、ヤコブの孫にあたります。ユダはオナンの兄エルのために、タマルという妻を迎えます。しかしエルは素行不良であったために、神に殺されます(理不尽)。そこでユダはオナンに、タマルと一緒になれ、彼女に子を産ませろと迫ります(理不尽)。ところがオナンは兄嫁の子を作るのが嫌でした。

(第38章6~)

ユダは長子エルのために、名をタマルという妻を迎えた。しかしユダの長子エルは主の前に悪い者であったので、主は彼を殺された。そこでユダはオナンに言った、「兄の妻の所にはいって、彼女をめとり、兄に子供を得させなさい」。しかしオナンはその子が自分のものとならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄に子を得させないために地に洩らした。彼のした事は主の前に悪かったので、主は彼をも殺された

つまり彼のやったことは自己満足ではなく、長子の子孫を絶やさないための慣習や相続権が子に渡らない立法への、彼なりの反抗でした。反抗する相手はもちろん神です。そして死にます。理不尽。

オナニーってロックで反体制な行為だったんですね!!

 

 

このあとエジプトのナンバーツーとなるヤコブの子供ヨセフの活躍が描かれ、ヤコブやヨセフが死んで第一部完となります。第二部はそのまま次の巻「出エジプト記」に引き継がれるようです。続きも期待しています。

口語訳聖書は大体においてストレスなく読めます。口語訳といえども1950年代のものですから、難しい表現が混じることもあります。意味不明な箇所が全くないわけではありませんが、十分通読に耐えるクオリティであると感じました。無料で公開されています。

 

kindle版は表紙がダサいですね。

関連書籍

関根先生による訳と注解です。第一印象を大事にしたいので、聖書を全部読み終わった後に手を付けます。

旧約聖書 創世記 (岩波文庫)

旧約聖書 創世記 (岩波文庫)

 

 

 


書籍レビュー: プロセスとしての歴史『ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上)』 著: 塩野七生

★★★★★

塩野七生さんによる「ローマ人の物語」文庫版、全43巻中の3巻です。「ハンニバル戦記」というタイトルですが、まだハンニバルは登場しません。文庫版では単行本の第2巻を上中下の3つに分け、上にあたる本書の記載量は150P程度と少なめです。

アフリカ北部の大国カルタゴとの戦闘

本書は紀元前264~219年が舞台となります。ローマは現在のイタリア半島全体をようやく支配し、それなりの大国になりつつある段階でした。一方、アフリカ北部の大国カルタゴは靴の先っぽにあたるシチリア島の西半分を支配し、地中海の制海権を得ようとしているところでした。地中海支配の重要拠点であるシチリア島を巡って、二国が激突するのが第一次ポエニ戦役(前264~241)です。

第一次ポエニ戦争 – Wikipedia

ここまで陸戦のみでイタリアを統一してきたローマにとっては初の海戦主体の戦争となります。カルタゴは商業大国で財貨も兵士(傭兵)も豊富で、海の経験も長いため海軍がめちゃ強いです。一方ローマは海戦は初めてです。どう考えたって負けそうなのですが、勝ってしまうのです。。

特に戦役序盤で活躍した「カラス装置」に私はおったまげました。ローマ人が発明した兵器?で、大きな板の先端に刃物を付けて、それを船の先っぽに可動式になるように取り付けたものです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f0/Corvus.svg/517px-Corvus.svg.png

コルウス – Wikipedia

自軍と敵軍の船が近接したら、こいつを下ろします。刃物が敵軍の船に刺さり抜けなくなります。すると自軍と敵軍の船が接続され、相手の船と白兵戦を挑めるようになります。つまり海戦を陸戦に変えてしまったのです!すげぇローマ人!カラス装置の活躍により、第一次ポエニ戦争序盤のカルタゴ勢は壊滅的打撃を受けました。頭いいなあー。

不慣れな海戦で戦わずして座礁し多くの犠牲者を出すなど紆余曲折の末、ローマ人はシチリア半島の制圧に成功します。中巻以降では現在のスペインを植民地化し力を蓄えたハンニバル率いるカルタゴ勢の逆襲が始まりそうなので、読まないうちからワクワクしてしまいます。

私が高校世界史を全く理解できなかったわけ

単行本版の序文にあたる『読者へ』で、「プロセスとしての歴史」について言及されています。

歴史への対し方については主に二通りあり、一つ目は自らの主張が先に存在し、例証として歴史を使うやり方。「君主論」を著したマキアヴェッリが典型とされています(私はまだ読んだことがありません)。概して、記述量が簡潔になります。

二つ目は歴史を手段とせず、叙述を目的とするやり方。「ローマ史」のモムゼン、「ローマ帝国衰亡史」のギボン(二人とも知りません。。)が例として挙げられています。概して、記述量が膨大になります。これを「歴史はプロセスにある」という考え方として、塩野さんは後者の立場を取ると言っています。

そしてこの2点と全く異質の観点によって教えられるのが高校世界史です。最大の目的は「短期間で世界中の歴史の概要を習得すること」。私は次の記述を読んで確信しました。その試みは不可能です

ちなみに、一年間で世界中の歴史を教えなくてはならないという制約があるのはわかるが、日本で使われている高校生用の教科書によれば、私がこの巻すべてを費して書く内容は、次の五行でしかない。

――イタリア半島を統一した後、さらに海外進出をくわだてたローマは、地中海の制海権と商圏をにぎっていたフェニキア人の植民都市カルタゴと死活の闘争を演じた。これを、ポエニ戦役という。カルタゴを滅ぼして西地中海の覇権を握ったローマは、東方では、マケドニアやギリシア諸都市をつぎつぎに征服し、さらにシリア王国を破って小アジアを支配下におさめた。こうして、地中海はローマの内海となった――

これが、高校生ならば知らないと落第する、結果としての歴史である。これ以外の諸々は、プロセスであるがゆえに楽しみともなり考える材料も与えてくれる、大人のための歴史である。

こりゃ理解できるわけありません。人間の動きや社会の仕組み、人々が何を考え、どうやって行動してきたか、すべてドッスンに潰されたマリオカートのごとく圧縮されぺちゃんこになり行間から排出されてしまっています。

 

大久保駅の近くに、第一教科書という店があります。

http://www.daiichikyokasho.co.jp/img/img_main.jpg

教科書供給、販売なら第一教科書へ

ここは駐車場を改造したようなスペースにずらっと教科書が並んでいて、少しそそられる雰囲気の店です。会社に向かう道の途中にあるので、気になっていました。

ここで山川の世界史教科書を買おうかどうか迷っていたのですが、本書を読んで決心がつきました。買いません

高校時代には歴史書を読んでおけばよかった。プロセスが書かれている本なんて高校や地域の図書館、近くの本屋にいくらでもあったのですから。あれから10数年経ちましたがこれからでも遅くありません。気長に沢山読んでいこうと思います。

 

 


書籍レビュー: 優れた歴史入門書『砂糖の世界史』 著: 川北稔

★★★★★

20冊セレクトした岩波ジュニア新書の中から、1冊目を読みました。

 

砂糖にはじまり世界システムに至る

本書は前評判通り、優れた歴史入門書でした。砂糖という不思議な食べ物が価値を持ち「世界商品」となり金の成る植物と化してから、ヨーロッパ諸国がプランテーション用の植民地を奪い合う数々の戦争の原因となったり、プランテーション用の労働力として連れてこられた奴隷たちが今日の中米の人口分布を形作ったり、様々な歴史の「熱量」と呼ぶべき物語が紡がれていく様子は、驚くべきものでした。世界の歴史を「砂糖」という側面から覗いてみるだけでも、数えきれないほどのドラマが込められているのです。ダイナミックでエキサイティング。欲を言うなら、あと2倍の紙面を使って欲しかったですね。

経済を通して世界が結び付く

この本から学んだ収穫は2つあります。1つは、近代の大きな歴史の流れは必ず経済と共にあること。金の流れが支配の構造を生み、また対立の原因となって戦争に至ります。

2点目は「世界商品」が世界の大きさを小さくすること。全世界で売れる商品は流通を活発化し、コストを下げるためにあらゆる工夫がされ、国々の距離を縮め、関係を密にします。まだ飛行機のなかった時代に、イギリスではインド産の茶に中米産の砂糖を入れて一般民衆が飲んでいました。世界を股にかける出来事です。

いま世界商品と言うと、例えばiPhoneが相当するでしょうね。世界中で売れる価値を手にしたものが世界を征服するのは、昔も今も変わりません。

 

 

参考文献

川北さんが本書を執筆するにあたり、参考にした手法はウォーラーステインの「世界システム論」です。私もいつか読んでみたいと思っていた本でした。

近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立―

近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立―

 

って、訳したの本人じゃん!!!!気付かなかった。

 

 類書。

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)

 

 

次はこれを読んでみたいな。

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

 

岩波新書は、読みたいものを古いものから順にセレクトしまくっている最中です。いずれ記事にします。


書籍レビュー: 作ってみたいな添加物食品 『食品の裏側2 実態編: やっぱり大好き食品添加物』 著:安倍司

★★★☆☆

骨子は前著と同じ、状況は何も変わっていない

前著から9年後の続編です。相変わらず食品添加物は使われ続け、数は増えました。表紙のグラフが種類数の増加を表しています。

骨子は「市販の加工食品は添加物だらけ、安全性はもとより食生活の破壊が深刻」というもので、前著と変わりません。新しい知見も特にありません。その意味では、前著を読めば十分です。

添加物は市販されているのか?

食品添加物の実態はこの本の中身に譲るとして、私は

  • 添加物がそんなに安くて安全なのなら、私でも購入することができるだろう。
  • 添加物を実際に使って業者と同じことをしてみたい。

と強く思うのでした。そこで少し探してみました。

まず、ジュースの原料「果糖ブドウ糖液糖」は全く見つかりません。一体どこから手に入れればよいのでしょうか。というか素人が買えない添加物ってそもそも安全なんですかね。

砂糖の200倍の甘さだという「ネオテーム」は見つけました。

ミラスィーNK 1kg

ミラスィーNK 1kg

 

1kg8,800円ですが、実質的には砂糖200kg分ですから、砂糖換算ならキロあたり44円。激安ですね。100gで売ってくれたらいいのに。

 

アスパルテームは有名ですから、昔から売ってますね。

大正製薬 パルスイート顆粒袋入 200g

大正製薬 パルスイート顆粒袋入 200g

 

 

砂糖を500mlペットボトル1本あたり60g入れても後味をすっきりさせる酸味料はこちら。

無水クエン酸 1kg 食品添加物規格(食品) 純度99.5%以上 無水クエン酸 チャック式アルミ袋

無水クエン酸 1kg 食品添加物規格(食品) 純度99.5%以上 無水クエン酸 チャック式アルミ袋

 

 

着色料はスーパーのお菓子売り場にも置いてあるほどのメジャーな存在です。

ユウキ MC フードカラーボックス 7.25ml×4

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あとは香料ですがあんまりないですね。

ユウキ MC メロンエッセンス 30ml

ユウキ MC メロンエッセンス 30ml

 

 

これだけあれば無果汁合成ジュースを作ることができます。

 

ジュース以外の食品なら、まず鉄板のこれ。

業務用 味の素 1kg

業務用 味の素 1kg

 

あとは下のタンパク質加水分解物さえ手に入れられれば、本書で言及されている塩・化学調味料と構成する「3点セット」が完成しあらゆる塩味系の食品を作り出すことができるのですが、あいにく通信販売がされてないですね。どうにかして手に入れたいものです。

 

あとは保存料。メジャーなのは安息香酸ナトリウムですが、覚せい剤的効果のある(用途は強心剤・鎮静剤)安息香酸ナトリウムカフェインしか売られていません。残念。

 

グリシンはありました!!これで保存料の効果を試せる!

 

同じ店にソルビン酸もあった!ぐっじょぶ!

 

味の素でない化調もあった。あとはタンパク質加水分解物さえあれば。

 

だれか加水分解物の入手ルートを教えてください。そうすれば、ほぼすべての実験が可能になりそうです。