CDレビュー: Yes – Maginification(2001)

★★★★★

 

プログレバンド、イエス18枚目のスタジオアルバムです。

新しい試み

本作はオケを大々的にフィーチャーし全体的に美しい仕上がりとなっています。特に1、8、9曲目は大作であり構成も上手でさすがと言うしかない出来栄えです。間にいやな感じのしないポップな曲も交え、これまでのキャリアの総集編と言えるアルバムではないでしょうか。

オケも単純に盛り上げるために入れてるわけではなく、現代映画音楽のように面白い和音構成を混ぜてきたり一筋縄ではありません、これは特に8曲目Dreamtimeの後半で顕著です。

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この曲は中盤の展開が今までにないパターンでこのアルバムでは一番好きです。前進していくバンドはいいですね。

もう少しびっくりさせてくれるものがあると歴代1位を付けたかもしれません。とはいえ、キャリア後半のイエスのアルバムの中では抜きんでている1枚です。

 

 

プログレッシブロックの他のCDレビューはこちらです。


書籍レビュー: 信用創造ってなんだ 『金融入門』 著: 岩田規久男

★★★★★

 

岩田規久男さんは経済学者。現在(2015年)、日銀副総裁です。任期は2018年まで。

副総裁:岩田規久男(いわたきくお) :日本銀行 Bank of Japan

本書は貨幣とは何か、というところから始まります。銀行の役割、金融とは何かの解説とその必要性、金利や金融市場とは何か、などなどを経て最終的にはマクロ経済学と金融政策にまで至ってしまう非常に射程の広い本です。専門用語のオンパレードですが繰り返しも多く、付いていくための工夫もされています。欲をいうならもっと図やグラフが多ければさらに分かりやすいのですが、ページ数の都合を考えると仕方ないでしょう。

金融ってなんですか

読んで字のごとく「金の融通」です。Aさんはお金が足りないが、Bさんはお金が余っている。Aさんは1か月後に金が入る当てがあるが、今すぐお金が入るわけではない。Bさんは金が余っているが、1か月寝かしておくのも勿体ない。そこでBさんはAさんに金を貸して、Aさんが1か月後返す時に一定の利子を取って儲けたい。

しかしAさんは本当に金を返してくれるのかどうか信用できない。夜逃げされたらおしまいだ。でもAさんの収入状況を調べるのはとても手間がかかる。Aさんからしてみても、Bさんがどんな人かわからないし暴利を要求されるかもしれない。支払いが遅れるとスマキにされて東京湾に沈められるかもしれない。

そこで登場するのが、銀行をはじめとする専門の金融機関です。調査のプロフェッショナルにより調査コストを抑え、AさんとBさんのような顧客を多数抱えてマッチングさせ、仲介料を取る仕事、それが金融だということが序盤で説明されています。この方式ならAさんは金を借りる機会が増え、Bさんは安全に資産を運用でき、銀行は仲介で儲けられる。3者が得するという関係になります。

銀行は貨幣を創造する

私全く分かってなかったんですが、銀行が会社に融資する時って、銀行が貨幣を文字通り「創造」するんですね。金を借りたい企業が銀行に行って融資を頼み、審査が終わると次のようになります。

…銀行が企業Aに100万円貸し出すとしてみよう。銀行はこの貸し出しを、企業Aに預金口座を開設させ、その預金口座に100万円だけ入金することによって実行する。この企業Aへの預金口座の入金は、単に、企業Aの預金口座に100万円と印字するだけであり、銀行は1円の現金も必要としない。

えー!!!知らなかった!!!てっきり、銀行は顧客が預けた金全額がプールされていて、そこにある金額を上限として貸し出せるんだと思ってました!

信用の力で金が生まれる

もう少し読み進めていくと謎が解けました。銀行には顧客の預金全額が常に存在するわけではありません。顧客の数が多ければ、顧客が預けている金の何%かを持っていさえすれば日常の引き出しには十分応じることができますので、銀行にある現金は少ない量でよいのです。残りは貸してしまって利子をつけ儲けることができます。なので、上記のような「突然預金が100万円増えた」なんてことをしてしまっても、顧客が日常使用する金額さえ銀行内に存在すれば業務が十分成り立つわけです。こうして銀行は貨幣を創造し、利潤を極限まで高めます。この創造機能が信用です。そこに存在しない金をあたかも存在するように変える、「ない」を「ある」に変換する機能が信用だと言えます。

「あの銀行はやばい」という噂が流れるとこの信用が崩れ、顧客が預金を引き出しまくると銀行は潰れます。顧客が預けているお金全部が銀行にあるわけではないからです。信用は現物を遥かに超える量のお金を生み出しますが、前提が崩れると何もかも無くなります。危ういですね。

他にも、今私が金を借りている消費者金融、すなわちノンバンクは何故~銀行系列って言うのかなと思ってましたが、それはノンバンクが必ず銀行に金を借りて営業しているから、でした。ですのでノンバンクは金の又貸しです。親玉の銀行に利子を払わなければいけませんので、金利が高いのは当たり前というわけです。

基本的なことで知らないことだらけだったので、非常に良い本でした。1999年に発行された本ですが古さが気になりません。90年代ですからバブル崩壊はストック過剰の調整だった、などの考察も載っています。おすすめの1冊です。岩田さんが今の国債や手形を買いまくる量的緩和をどう思っているか、知りたいものです。

 

 

関連書籍

わかりやすかったので、次はこれを読んでみようと思います。

国際金融入門 (岩波新書)

国際金融入門 (岩波新書)

 

 

推進派でしたか。

リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済

リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済

 

 

 これも面白そうですね。

昭和恐慌の研究

昭和恐慌の研究

 

 

金融と言えばこれ。以前立ち読みしたことがありますが、この本を読んでからにすればよかったと後悔しています。またゆっくり読みたい。

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

 

 


CDレビュー: The Rough Guide to Calipso & Soca (1999)

★★★★★

 

ラフガイドシリーズを手あたり次第聞いてみる枠、今回はカリプソとソカです。

カリプソってどんなプソ?

カリプソとはそのまんまカリブ海の音楽です。レゲエをちょっと早くしてマイルドにした感じかなぁと思っていたらやっぱりレゲエのルーツだそうですよ。

ソカはソウル+カリプソから分岐したもの。16ビートをきつくしてディスコ的要素が強化されておりタバスコをかけたようにラテン風味が増しています。こちらはトリニダード・トバゴが発祥だそうです。本アルバムだと9曲目以降がソカ、8曲目までがカリプソです。

 

私はカリプソが好みです。何となくしか歌詞が分からないですが8曲目Voices From The Ghettoなんて歌詞これめちゃめちゃシビアなんじゃないのかなと感じたので調べてみたらやっぱりきついものでした。

The sun rises slowly over the hills,
Everywhere is golden sunlight but still
Most nights with sad tales are crowded
Their days with dark clouds are shrouded
They don’t smile and they never will,
Only vultures get their fill.
Empty promises is what they hear
No running water from year to year
Hearts that know one desire –
That if there is a Messiah,
Someday He’d hear their whispered prayer.

Cupboard always bare and scanty
Ten people in a one-bedroom shanty
Forced to sell on the pavement
No vacancies, no employment
Can’t tell firecracker from gunshot
Blood does flow when things get hot
Ah ‘fraid to look out mih window
To hear voices from the ghetto…

[Crying,] crying [crying] ay Lord, Lord [crying] crying, voices from the ghetto
[Crying,] crying [crying] Lord, Lord, Lord [crying] aye ay, voices from the ghetto
Help us Father! Oh, Lord!

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マジで夢も希望もありませんが曲を聴いていただければわかるように、めちゃんこ明るいです。そしてSandraさんのこの恰幅のよさ。素晴らしいですね。どんな状況でも明るくなれそうです。

この曲に限らずカリプソは社会的メッセージの強い曲が多いようです。

 

4曲目Cyar Take Datもよかった。

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歌詞の一部を見つけたので貼っておきます。こちらも骨太です。

I work my finger to the bone for me country
I squeeze blood out of stone for me country
The people in authority
mashing up my family
So much a years that we sweat and toil
Is we blood and tears what till the soil
But we still suffering
And we children can’t see the way, hey
I wake up in the morning and it’s more unemployment
I cyar take dat
I wake up in the morning and it’s more retrenchment
I cyar take dat
When they going to stop all this humiliation
I cyar take dat
Wake up in the morning more frustration
I cyar take dat…No!

Ain’t taking that, so
People ain’t taking that (x4)

 

 

ラフガイドシリーズだけでは芸が無いので、ちょっと気になる変なアーティストを発掘しました。次回それを聴いてみます。

 

ワールドミュージックの他のCDレビューはこちらです。


書籍レビュー: 苦しいことは良いことだ 『力学 (物理入門コース1)』 著: 戸田盛和

★★★★★

物理入門という触れ込みだが。。

12年ぶりに物理の勉強本です。目標は学士卒業くらいの知識をつけること。理由は知らないことが嫌だからです。

市内の図書館にあったので、次にどんな勉強が必要か目を通して調べるためにとりあえず取り寄せてみたのですが、数学入門を読んで微積分をなんとなく思い出したのでもういいかな?と思って試しに読んでみました。

大学初年度向けの初心者向けという触れ込みだったのですが12年も経つと数式は忘れていて難しすぎ!微積分の公式はなにも説明なしでポンポン使われるし微分方程式も「~の解は~なので~」と勝手に解いてしまうし苦しいよう。1982年の本なので、当時の大学1年生にとってはちょろい本だったのでしょうが、私達ゆとり一歩手前の世代は微分方程式なんて知らんよ、数学入門でもついてくのヒーコラだったよ、と思いつつ苦行だと思ってなんとか読み通すことはできました。高校では習わないベクトルの外積を1から定義してくれていたので助かりました。

読むのが苦行というのは頭を使うということですから苦しんだ分効果は非常に高くしかも達成感のあるもので、終盤の剛体の運動のところではバットにどのようにボールを当てると手に衝撃が加わらないのか、という問題やビリヤードの問題などとても面白い例題が書かれていて、なんとか理解できた時にはエキサイトしました。

一番面白かったのは歳差運動ですね。なぜ地球ゴマの円盤が周りコマ自体も別の運動をするのか、ということが明らかになります。

歳差 – Wikipedia

さらに地球の歳差運動を別の原理で導き、地軸は僅かな速度で回転していて、1万年くらいすると北極星から外れてしまうということを導いたときには感動しました。天体論は必ずスケールのでかい話になるので心がぶわっと広がります。そういえば大学時代の知り合いに天文部の部長がいました。彼が天体に惹かれる理由が分かった気がします。彼の名前を思い出したので検索してみたら、宇宙学者ではなく、塾講師になっていました。。

https://www.youtube.com/watch?v=xHK_ppa7vk8

当時よりも声が高くて喋るのが早い。元気にしていたようでよかった。

 

一般的なことを言うと、高校のときに数学と物理で受験した人ならきっと読めます。大学1年の授業と並行するもよし、春休み中に読むもよし。それでも高校とはかなりギャップがありますのでこれで慣れておくのは有効です。

 

 

参考文献

さて教科書っていうのは得てして内容が詰まり過ぎているので何回でも読まなきゃいけません。本書も3回は読み返したいのですが今日が返却日だったので残念ながら手放さざるを得ませんでした。そういう意味で図書館で借りたのは失敗でした。買わなきゃダメ。

私が教科書にしたいのはこの本です。

ファインマン物理学〈1〉力学

ファインマン物理学〈1〉力学

 

ところがこの本5分冊で1冊3000円以上もするのです。痛い。ところが検索しているうちになんと、原書が全文web公開されていることが分かりました!!

The Feynman Lectures on Physics

うおおカルテック(カリフォルニア工科大)すばらしい!神!というわけでこのサイトの記述を何度も読み返すことにします。時間かかりそう。

 

その前に数学を復習しないと話になりません。理工書は荷物を減らすため一度大半を売ってしまいました。今思うと愚行です。一冊だけ残っていたこれで復習をするつもりです。

解析入門 原書第3版

解析入門 原書第3版

 

 

 

 


CDレビュー: Paul Motian Trio – One Time Out (1989)

★★★☆☆

 

ジャズドラマーPaul MotianのComplete Remasteredシリーズ5枚目です。6枚目はEnrico Pieranunziさんのボックスとかぶっているので実質最終アルバムとなりました。

混沌としすぎ

本アルバムもかなりフリーに偏ったジャズです。1曲目One Time Outからして意味不明です。ていうか、トリオなのにドラムとサックスとギターってなんだよ。ベースとなる音など全く存在せず、なんだかよくわからない音の群れがそこら中に散らばっているような印象を受ける曲でした。

2曲目If You Could See Me Nowもベース音が無いためしっとりしているようで中空のような印象、ハンカチが空に舞ってますねぇ。

前2枚に続きBill Frisellのギターが入りますが、本アルバムでは切なさ成分がありません。全然和音を弾いてないからかもしれません。

わけわかりません、という印象以上のものを掴むことができませんでした。私にはフリージャズはまだ早いのかもしれません。でもAnthony Braxtonさんのアルバムは時々ツボったんだよなあ。波長が合わなかっただけなのかもしれません。

 

4曲目。一番混沌してる

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次の現代ジャズ枠はちょっと趣向を変えてみようと思っています。

 

 

ジャズの他のCDレビューはこちらです。


数独ソルバー続々

昨日も数独ソルバー野続を作業していましたが、もう無理だ!プログラムにバグがあって必ずフリーズしてしまう!と頭がパンクして、昨日は京王のダイヤDBを作って眺める作業に逃避してしまいました。

疲れたので答え見てやる!とweb検索すると引っかかったのが次のサイトでした。

nihemak.hatenablog.com

例えば空のマス目の数が30、そこに入る候補の数の平均が4になるとすれば探索範囲数は下記のようにしぼられます。(これでも処理時間は相当かかります。)
 42391158275216203514294433201(9の3乗)→1152921504606846976(4の30乗) 

ああ、これは時間がかかるのも当たり前ですね。9*9のマスしかないならブラウザ上でも処理時間は全然かからないでしょ、と思っていたのが甘かった。天文学的数字になるんじゃしょうがないです。

私がとった方法は「候補が複数あればそれに応じて分岐を作成、数字を入れていって矛盾があればその分岐は無効、最後まで残った分岐を採用」というやり方ですが、これは分岐が天文学的数字になってメモリも処理時間もバカみたいに食います。で、ブラウザに「反応が無いですよ」と言われてしまってアウトとなりました。

この記事を読んで、数独ソルバーというのはルールの実装は実に単純なので「いかにして処理の無駄をなくし正解を素早く見つけるか」が勝負になるということがわかりました。

来週もチャレンジしてみよう。

 

10行で解くおそろしいコードもあるらしいです。すごい

 

ブラウザ上で実用になる程度のjavascriptのコードが書けたら自分としては満足です。

 

(追記)K, Perl, Rubyなら2行なんてバカみたいなコードもあります。世界広すぎ

ShortestSudokuSolver


フィスコレポートを読む セレクト 3680ホットリンク、3076あいホールディングス

 

3680 ホットリンク(ギャンブラー向け)

hottolink

今流行りのビッグデータを取り扱う会社です。何のデータを扱うかと言うとtwitterやfacebook、weiboなどのソーシャルメディアや、2chも分析対象に入っているそうです。

これらを分析してアウトプットたる企業に売りつけるデータは何かというと、

クチコミ@係長

クチコミ@係長 | 業界No.1ソーシャルメディア分析ツール | 株式会社ホットリンク

画像でかいですね。

 

http://www.hottolink.co.jp/wordpress/wp-content/themes/hottolink/2015/img/service/kakaricho/index/fig01-03.png

口コミ情報を企業に提供するそうですよ。マーケティングにご活用ください、月額料金10万円~。ビッグデータという割にはすごく役に立つのかどうか分かりません。

もういっちょ

http://www.hottolink.co.jp/wordpress/wp-content/themes/hottolink/2015/img/fig-service-emining-promo.png

導入実績No1リスクモニタリングサービス「e-mining」 | 株式会社ホットリンク

リスクマネジメントという触れ込みですので、主に風評被害を事前にキャッチするためのツールのようです。これも月10万円~。

アメリカのSocialgistという会社を買収したため、来期の売上が突然2倍になるそうです。Socialgistは世界中のブログや掲示板などのデータを漁って解析する企業です。世界で唯一weiboのデータにフルアクセスできることが強みだそうです。ここの買収に伴うのれん償却やライセンス料発生で2Q決算は売上高の1割を超える特大の営業赤字となりました。でも期末予想は強気の変更なし。大丈夫なんでしょうか。ちなみに株価は予想利益ベースでも63バイト高すぎです。ギャンブル性が強いですね。

3076 あい ホールディングス(ブラックボックス)

あいホールディングス株式会社

セブン&アイではありません、あいです。景品表示法に引っかかりそうですが問題ないようです。

事業は7つと多岐に分かれていますが稼ぎ頭は監視カメラなどのセキュリティ機器事業、診察券発行などのカード機器事業、カッティングマシン・ラベルプリンタなどを作成する情報機器事業です。

いずれも非常に独自性が高いからなのか、利益率が非常に高く直近の2015年6月期決算では17.2%を記録してます。しかも2期連続で30%以上の成長率、脅威ですね。

成長産業はまずセキュリティ機器。監視カメラの需要は高まる一方で、特に賃貸マンションや大手企業(食品偽装や進研ゼミ漏洩などのせい)への需要が期待されています。

カード機器事業も地方銀行でキャッシュカード発行機の需要が高まりつつあるらしく、急成長中です。さらに、情報機器事業はカッティングマシン(個人向けペーパークラフト作成用らしい)の消耗品類の売上+新規顧客開拓が貢献し、来期は45%の伸びを見込んでいるそうです。

主力産業が全部成長産業である上に、同社はM&Aで有力な企業を取り込みさらに成長を続ける方針だそうです。

来期の予想が非常に控えめな成長率2.4%ですが売上は25.8%増を見込んでいます。おそらく大きなM&Aをするのでしょうがここの欠点は企業のサイトがテキトーで今後何をやるのかさっぱりわからないことです。もっとIRサイトを充実してもらいたいものです。

総合的に見ると企業を見る目と成長性はありそうだが内情がよくわからないので気持ち悪いという印象です。経営陣を信頼できるなら買ってもいいかもしれません。

 

 

ホットリンクは面白いですが投資対象としてはかなり危険でした。あいホールディングスは筋がよさそうですがIRが貧弱なのが残念です。また来週。

 

来週注目している決算は次の通りです。

10/13

4645 市進ホールディングス 2Q (塾業界その2)

10/14

3048 ビックカメラ 本決算 (BS11の元親分)

3387 クリエイト・レストランツ・ホールディングス 2Q (M&Aで巨大化する外食)

7581 サイゼリヤ 本決算 (高成長外食)

10/15

2930 北の達人 2Q (持ってます。マーケティングの雄)

 


京王ダイヤ改正とか

TrainNavi2

更新しました。2015/09/25に行われた京王線系列のダイヤ改正に対応しました。

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なぜこんなものを作るかと言うとダイヤを目で見て愛でるためです。時刻表は昔から好きです。おそらく時刻表は数字で表現されているからでしょう。何駅から何駅までは何分とか調べてるとうひょーってなります。このPHPアプリケーションを作ったのはプログラミングの修行のためもありますが動機のほとんどは趣味です。グラフィカルに列車っぽいものを走らせてみたら面白くていつまでも見ていられそうです。いまのところ実物の列車には興味はありません。

脱線しました。9/25改正の目玉は準特急の停車駅の増加です。笹塚と千歳烏山に止まるようになりました。でも速度は落ちていません不思議。ひそかに区間急行が仙川に止まるようになりました。快速が八幡山で待避するようになり全然快速じゃなくなりました。しかも京王新宿ではなく新線新宿から発車するようになりました。快速停車駅の住人はあの大深度ホームまで降りるのはたいへん。

私はいま京王線沿線には住んでいませんが以前に相模原線沿線の多摩ニュータウンの西の果ての駅からさらに山を18分のぼった所に住んでいました。当時は橋本直通特急などなく新宿から八王子と高尾行の準特急が10分おきに出ていて、それに乗ると調布でダッシュ乗り換えを強いられる不便なダイヤでした。9/25改正で橋本発の準特急が笹塚に止まり、しかも笹塚では都営線行の急行が待ち構えているという超便利なダイヤになっていて何だよチクショウという感じです。

当時は朝7時発くらいの最ラッシュ時間帯の急行で通勤していました。京王線は複々線化されていないため、この時間の急行は急行とは名ばかりで調布を出るころには本線から合流した電車と合わせて超過密ダイヤとなっており通常の半分の速度で運転します。15.5kmを35分かけて走ります。のろすぎ

で、京王は首都圏の列車混雑度の上位にはランクインしていませんがあれは各駅停車の混雑度平均ですから嘘の値です。急行はJR首都圏路線にほぼ匹敵する混雑率300%で身動きが取れず、橋本の時点ですでに満席の列車では座席の前に立たざるを得ずしかも後ろから押されるため電車が傾くと壁ドンならぬ窓ドンは必至です。荷物から手を放すとあれよあれよとどこかに行ってしまうおそれがあります。過密はしょうがないですがノロいのが致命的でとてもげんなりする朝ラッシュでした。

そんな列車に乗っていたら南平で人身事故なる放送が入り調布を目前にして電車が止まったことがありました。まだ調布が地上駅だった時代ですので平面交差に入れない電車は動けなくなり、そのまま2時間ほど閉じ込められました。その後もダイヤ乱れにより新宿についたのは3時間後。体調が悪くなり搬送された乗客もいたそうです。そんな思い出のある京王のダイヤを視覚化して眺めるのは至福です。8時前後の超過密ダイヤをJRや小田急と並べてみると京王のノロさが際立ち、キャッキャウフフ


書籍レビュー: わかりやすい哲学者列伝107傑『哲学大図鑑』 著: ウィル・バッキンガム 訳:小須田健

★★★★★

 

以前「経済学大図鑑」という本を読みました。これがなかなか面白かったのでこのシリーズ、全部読んでみたくなりました。分厚くてでかいので時々1冊読む程度のペースで全部読もうと思っています。

 

哲学は私にとって昔から気になる分野です。というのも私は頭が悪い、特に論理的思考力に問題があるという自覚がありますので、論理の原理原則を追求し思考の基盤となる(と信じている)哲学をどうしても学びたかったのです。そしてそれは、ふつーの人が当たり前に考えている常識のようなものへの架け橋になると考えていました。私にとって全く理解できない常識がどんなものか完全に解体してしまえば理解できるようになるかもしれないという期待があります。哲学が本当にそんなものなのかどうかについてははまだ結論は出ていません。

そこでまず西洋哲学の概説書を読んでみようと思いました。古本屋の100円コーナーにカバーなしで捨て置かれたような状態になっていたこの本が目に留まりました。

西洋哲学史 (上巻) (岩波文庫 (33-636-1))

西洋哲学史 (上巻) (岩波文庫 (33-636-1))

 

ゴミ箱から救い出すような気持ちで購入し上下巻とも読んでみましたが、意味不明でした。死にそうになりながら最後まで読みましたがさっぱりわかりません。私の頭が足りないのか訳が悪いのか著者がアホなのかすらわかりません。ここから得た知識は「人間どんなことを基盤にしても生きられるものなのだなあ」という分かったような口をきくことくらいでした。

数年経ち、目に留まったのが本書です。経済学大図鑑と同じく、年代順に107人もの哲学者をずらずらと並べ、ひたすら解説していくというスタイルをとります。本書はシュヴェーグラーのものとは違い、極めて分かりやすかったです。著者は経済学大図鑑の人とは違いますが訳は同じ小須田さんです。訳者の専門ど真ん中だったことも分かりやすさに寄与しているようです。

分量は哲学者によって異なり、一人当たり1P~6Pの解説がなされます。著者が重点的に解説しようと思った人については長くなっているようです。ブッダや老子、田辺元、和辻哲郎、イスラム思想家など東洋の思想家についても取り上げられているのが特徴的です。訳者のあとがきによると著者は哲学の根本特徴である「理性的推論」に重点を置き、解説もこの視点からなされ類書と比べるとかなり斬新な解釈がなされているそうです。

以下では私が気に入った哲学者を5人紹介します。

5位 ウイリアム・ジェイムズ(1842-1910)

ジェイムズはアメリカ人。「プラグマティズム」という、真理を有用性に認める立場を確立した哲学者です。彼は、真理は絶対的1つのものではなく時と共に移り変わるものであると考えます。例えば地球が平らだと信じられていた時代はそれが真理であり、その時代においては十分機能していました。しかし時代が進みコロンブスの時代では地球が平らである解釈していたのでは不都合が起きます。そこで真理は「地球は丸い」へ変化することが要請されます。ここからジェイムズは、真理とは内在するものではなく我々の観念の中に「生じる」ものである、真理は真理に「なっていく」、様々な出来ことによって「真理にされる」ものであると推察します。

ジェイムズの論理の魅力的な点は、この考察から真理がダイナミックで動的なものとなる点です。一見して荒唐無稽な信念もその有用性が評価されれば彼の論に照らせば真理となります。新しい真理が次々と生まれますし、多様な真理の束が構成されることが期待されます。ただしその真理の有用性は、非常に厳密に評価されなければなりません。そして、信念が本当に真理であるのかどうかは私たちが生きている現在には決して評価しえず、あとになって振り返ってはじめて真理であったかどうかが分かります。とても厳しい考えですが、豊富な可能性を感じさせるジェイムズの考え方は好きになりました。

自分のなすことがちがいをもたらすかのようにふるまえ。そうすればそうなる。

4位 デイヴィド・ヒューム(1711-1776)

スコットランドのエディンバラ生まれのヒュームは、「イギリス経験論者」と言われるそうです。当時支配的だった考え方はデカルトによって打ち立てられた「合理主義」でした。人間が「生得概念」をもって生まれてくるとし、これを原理としてあらゆる知識には理性によって到達できるという理性バンザイな考え方でした。ヒュームは、そんなもんないんじゃね?とこれらを攻撃します。

例えば「AがBを引き起こす」という言明があったとします。例えば「明日になると太陽が昇る」という言明です。これは経験的には必ずそうなのですが未来永劫続くとは限りません。なぜなら未来の事象は観察できないからです。ヒュームはこれを突き詰めて、「科学的・帰納的推論はすべて論理的ではない」と結論します。どこまで推論を厳密にしても、論理的でない以上、それは信念もしくは蓋然的な習慣に過ぎません。科学が習慣にすぎないという主張はラディカルでびっくりするものでしたが、言われてみればその通りです。

ただしヒュームは科学が習慣だからと言ってそれが無意味だと説くわけではありません。むしろ理にかなったことであると考えていました。私達が信念によって引き出した結論は「論証的な結論と同じくらいに精神にとって満足のゆくものなのだ」と述べています。なんだかジェイムズとかぶってますね。ヒュームのことも、私がそう信じたいので気に入ったのでしょう。

習慣は人間生活の偉大なガイドだ。

3位 ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889-1951)

ドイツはウィーン生まれのウィトゲンシュタインは、高機能自閉症の疑いがあると言われています。これだけでも気になる人なのですが、本書の解説によれば彼が目指したのは 「世界と言語の構造化」です。おお、めっちゃシステム化ド直球やん!しかも、両者はすべて構成要素に分解可能であると言い切っているそうです。希望が持てます。

ウィトゲンシュタインは、世界は命題で成り立っていると考えました。命題とは「波平はハゲだ」のように真偽が決定できる主張のことです。これを主著『論理哲学論考』の冒頭で「世界とは成立していることがらの総体だ」と表現しているそうです。

さらにウィトゲンシュタインは言語が世界を「写像」化していると主張します。写像とは数学的にはある世界の1つのものと別世界の1つのものを、1対1で対応させることです。つまり言語は世界のマッピングであるというわけです。地図を思い起こしていた抱ければよいと思います。地図上では、現実世界と紙の上の世界が1対1で対応しています。言語と世界は独立した論理形式をもつが、写像の働きにより私たちは世界を語ることができると彼は考えました。

私の言語の限界が私の世界の限界だ。

ところが世界が命題で成り立っているので、言語も命題で成り立っている、したがって真偽が判断できないこと、例えば倫理学や宗教は言語で語りえないとヴィトゲンシュタインは結論してしまいました。

語りえないことについては沈黙するほかない。

後年ヴィトゲンシュタインはこの考えを改めていくらしいですが、本書では詳しく触れられていません。言語によるマッピング・写像という考え方は私の世界観と激しくマッチするのでとても興味がありますが、のちにどうして考えを変えていったのかとても興味のある人です。

2位 ジャン=ポール・サルトル(1905-1980)

フランスの現代哲学者サルトルは、ボーヴォワールとの奇妙な生活が取り上げられることが多いようですが、本書によれば彼は「自由」を考え抜いた哲学者であったようです。

実存は本質に先立つ。

サルトルはペーパーナイフを例にとって上記の言明の説明をしました。ペーパーナイフの本質は包装を開くことです。効率的に包装を開くためには、人間工学的にデザインされた持ち手や、スムーズに切れる鋭い刃が必要です。そしてこれを設計するためには、ペーパーナイフの本質を理解する職人という実存が必要です。言い換えると、ペーパーナイフは目的・本質が先行し結果として実存しているのではなく、人間という実存が先立っているということです。

西洋で本質とされるのはもちろん神です。サルトルは神が先にあったのではない、人間が先にあるのだ、と考える無神論者でした。神は人生に目的を与えます。神学者はそれを人間の本質と考えます。サルトルはそんな強いられた本質なんかやなこったと考える人間でした。

自由には制約があります。例えば私たちは羽をもたないので飛べません。食わなければ死にます。しかし有限とはいえ私たちには選択の自由があります。無意識的に習慣のまま行動するのではなく、どう行動するか選択に向き合わなければならないというのがサルトルの主張でした。このため彼は政治的活動に積極的に関与していくそうです。

人間は自由の刑に処せられている

また、自由とは責任を伴うものです。なぜなら外部的なものに制約されないということは、同時に外部に自分を正当化する根拠が何もないということだからです。自分の行動に言い訳は許されません。なかなかヘビーな概念ですが、これは以前読んだ「7つの習慣」で言われていたことと全く同じですね。

自由についての彼の考え方は大好きです。フランスの個人主義はサルトルの影響を強く受けているそうです。私がなんとなくフランスに憧れて大学でフランス語を選択したのはあながち間違っていませんでした。彼の著作は必ず読んでみたいと思います。

1位 ゲオルク・ヘーゲル (1770-1831)

ヘーゲルはいわゆる「ドイツ観念論」と呼ばれる学者の代表だそうです。昨日の記事でも書きましたが、ヘーゲルは「弁証法」の提唱者です。弁証法は、あらゆる観念は完全なものではありえずかならず矛盾を含むものである、という考えを基礎とします。かれは観念を「定立」と呼び、内部の矛盾を「反定立」と呼びました。そしてこの矛盾は「綜合」という一層豊かな内容を持った観念が、もともとの観念それ自体から出現して解消する、というプロセスを辿ると考えました。「定立」の観念は私たちの理解が足りなかったために「反定立」が見えてきたのであって、「綜合」によってより正確な観念が把握できるようになったと考えます。これが弁証法です。

真理とは全体だ。

この論理の何が魅力かというと、その発展性です。定立はどこまでも拡大させることができますが、どこまでいっても「綜合」の余地があるということですから、無限大に広がることができます。そのイメージに私は魅了されてしまいました。動的に自己増殖可能な観念、それを身につけられたらどれだけ素晴らしいことか。

番外 フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)

キリスト教に壮大なケンカを売った人間です。本書で唯一爆笑した人物でした。死後の世界を信じているために現実の世界を置き去りにしているキリスト教や、「真」なるものが存在すると主張し現実世界はくだらないものだとするプラトン達のことが本当に気に入らなかったようです。すげー厨二めいたものを感じますがぜひ読んでみたい思想家でした。

振り返って

気に入った哲学者には偏りがあります。ジェイムズ、ヒューム、サルトル、ニーチェといわゆる「真なるもの」への私の疑念がそのまんま形になっているようです。ヘーゲルの思想は憧れです。ますますもって歴史を学ぶことの必要性が明らかになりました。

次は彼らの思想を原著でたくさん読んでみたいですがきっとすごく難しいんだろうなあ。

 

 

参考書籍

 

今回は多いです。100冊くらい読みたい本が増えた

 

ジェイムズ

ウィリアム・ジェイムズ入門―賢く生きる哲学

ウィリアム・ジェイムズ入門―賢く生きる哲学

 

 

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

 

 

ヒューム

人性論 (中公クラシックス)

人性論 (中公クラシックス)

 

 

社会契約論: ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ (ちくま新書 1039)

社会契約論: ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ (ちくま新書 1039)

 

 

ウィトゲンシュタイン

論理哲学論考 (岩波文庫)

論理哲学論考 (岩波文庫)

 

 

ウィトゲンシュタイン入門 (ちくま新書)

ウィトゲンシュタイン入門 (ちくま新書)

 

 

サルトル

 

嘔吐 新訳

嘔吐 新訳

 

 

サルトル 失われた直接性をもとめて シリーズ・哲学のエッセンス

サルトル 失われた直接性をもとめて シリーズ・哲学のエッセンス

 

サルトル本の邦訳はあんまり出てないのでフランス語を極めないとだめかも

 

ヘーゲル

精神現象学

精神現象学

 

 

歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)

歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)

 

 

使える 弁証法

使える 弁証法

 

 なんじゃこりゃ

 

ニーチェ

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫)

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫)

 

 

道徳の系譜 (岩波文庫)

道徳の系譜 (岩波文庫)

 

 

善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)

善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

他に気になった人。

 

ゴータマ・シッダールタ(釈迦)

スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳 (講談社学術文庫)

スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳 (講談社学術文庫)

 

 

トマス=アクィナス

神学大全I (中公クラシックス)

神学大全I (中公クラシックス)

 

 

モンテーニュ

エセー 1 (岩波文庫 赤 509-1)

エセー 1 (岩波文庫 赤 509-1)

 

 

ウルストンクラフト

フェミニズムの古典と現代―甦るウルストンクラフト

フェミニズムの古典と現代―甦るウルストンクラフト

 

 

ルソー

エミール 上 (岩波文庫)

エミール 上 (岩波文庫)

 

 

ショーペンハウアー

意志と表象としての世界〈1〉 (中公クラシックス)

意志と表象としての世界〈1〉 (中公クラシックス)

 

 

ソシュール

一般言語学講義

一般言語学講義

 

 

ラッセル

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

 

 

クワイン

ことばと対象(双書プロブレーマタ3)

ことばと対象(双書プロブレーマタ3)

 

 

 デリダ

声と現象 (ちくま学芸文庫)

声と現象 (ちくま学芸文庫)

 

 

リオタール

ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム (叢書言語の政治 (1))

ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム (叢書言語の政治 (1))

 

 

 ボーヴォワール

決定版 第二の性〈1〉事実と神話

決定版 第二の性〈1〉事実と神話

 

 


書籍レビュー: 構造改革と止揚 『ローマ人の物語 (6) ― 勝者の混迷(上)』 著: 塩野七生

★★★★★

 

6冊目の舞台は紀元前133~88年までが舞台です。ポエニ戦争が終結し地中海の覇者となったローマを待ち受けるものは、、なんと国内問題でした。

日本とかぶってる

対外的には大した戦争も無く見た目は平和であったローマですが、平和であるゆえにある問題に悩まされることになりました。それは貧富の差です。

まず、第一次ポエニ戦役によって属州となったシチリアから税として納められた小麦が、小規模農家に打撃を与え中産階級が没落します。彼らは失業者となり、ローマに流れ込みます。

さらにポエニ戦争が終結し、戦時の特例であった直接税が廃止されます。この直接税は累進課税であったので、富裕層の金が余ります。金が余った人間が考えることは投資です。ローマは小麦農家が滅び大規模なオリーブや葡萄酒農場が発展しつつあったので、ここに金が流れ込みます。さらにこの時期、連戦連勝の戦争で得た奴隷という超低価格な労働者が入ってきました。彼らを農場で働かせた富裕層はぼろ儲けし、ポエニ戦役の前後で最富裕層と最下層の格差は10倍から500倍以上へと大拡大してしまいました。

小泉構造改革とTPPでボロボロな日本の中産階級と、アベノミクスで大儲けした日本の富裕層と完全に重なる構図です。ローマのこの後の事態を探ると日本がこれからたどる道が見えるかもしれません。

構造改革とその結果

さてこの事態を憂慮していたのは、ポエニ戦争の英雄スキピオの甥にあたるグラックス兄弟です。彼らは最も権力のある執政官ではなく、護民官という平民のトップに選出された後、様々な改革を行います。例えば、大農園の土地を再分配して自作農を増やし、中産階級を復興させるための農地改革法。日本の戦後の農地改革に似ていますね。また、小麦を貧民に二束三文で売ってセーフティーネットを作る穀物法。これは生活保護の思想です。また、平和になり軍事的な負担があまり意味のなくなる中で、同盟都市だけに課された1割の税金は不公平となったため、同盟都市に一律にローマ市民権を与えるという法律の制定。いずれも平等を目的とした素晴らしい法律だと思いました。

しかしこれは全て富裕層の既得権益を削る法案です。富裕層はすべてローマ市民です。ローマ市民の有力者が勢揃いする元老院はいい顔をしません。どうしたかというと、グラックス兄弟は元老院の陰謀により暗殺されました。マジかよ。

グラックス兄弟の弟ガイウスが失脚させられるまでの著者の考察は現代の私達にも通じるものがあります。耳が痛いです

二面作戦*1の一つは、ティベリウス*2のときも使われ、いつでもどこでも有効であった作戦である。護民官ガイウスの政策は、票集め、人気取り政策、権力の集中、権力の私物化であるという声を広めた。現代イギリスの研究者の一人は、次のように書いている。

「無知な大衆とは、政治上の目的でなされることでも、私利私欲に駆られてのことであると思い込むのが好きな人種である」

好きなのは無知な大衆に限らないと、私ならば思う。これより70年後の話になるが、ローマ史上最高の知識人であり、私の考えでは最高のジャーナリストであったキケロでさえ、この種のことが「好きな人種」の一人であったのだ。要は、教養の有無でも時代の違いでも文化の違いでもない。目的と手段の分岐点が明確でなくなり、手段の目的化を起こしてしまう人が存在する限り、この作戦の有効性は失われないのである。

同盟者戦役とアウフヘーベン

彼らが暗殺され、穀物法以外の改革案は葬り去られました。その後しばらくたって、格差問題は内乱となって表面化します。「同盟者戦役」と呼ばれる争いが起きます。

軍制改革(詳細は マリウスの軍制改革 – Wikipedia を参照)を経てローマ市民と同盟国の市民はますます格差が激しくなり、同盟国ではローマ市民権を求める声が高まりました。しかし既得権益層の多いローマ側はちっともそれを認めようとしません。認めようとすればグラックス兄弟のように殺されてしまうほど元老院の権力は強大でした。

紀元前90年、とうとう同盟国が爆発します。

The Growth of Roman Power in Italy.jpg

Social War (90–88 BC) – Wikipedia, the free encyclopedia

赤い部分が同盟国ですが、これらが一気にローマに反旗を翻します。同盟国はローマの戦術を知り尽くしていますから、どの戦場も激戦となりほぼ互角の戦いとなります。ローマ側はやむなく、同盟国に市民権を一律に認めることで事態を収束させ、2年で戦いは終わりました。

この事態に私はびっくらこきました。一昨日に読み終わった「哲学大図鑑」という哲学者をひたすら紹介していく本(明日感想を書きます)で一番気に入ったのがヘーゲルという人で、彼が有名にした「弁証法」という理論は乱暴にまとめると「矛盾を統一してより高い次元に至る(日本語で止揚、ドイツ語でアウフヘーベンというそうです)」というものでした。国内の矛盾が戦争となり、それをローマ市民権による結びつきという新しい次元に移行したローマは、まさにこの過程を辿っています。弁証法は歴史的なものだと書いてありましたが本当にそうでした。

本書はハンニバル戦も終わりドラマティックな戦いこそないものの、構造的な転換を地味に描き出す画期的な章でした!下巻はスッラ、ポンペイウスという人物が活躍するそうです。次も楽しみ。

 

*1:元老院がガイウスを失脚させるための作戦。2つ目はもっとエグい。本書参照のこと

*2:ガイウスの兄。元老院に失脚させられ暗殺された