★★★☆☆ 横になっちゃった
近くの公民館に『少年少女世界の名作文学』全集が揃っていました。
荘厳な眺めです。こういうのを見ると手に取りたくなりますよね。様式美ですよね。こども用の文学全集というのはだいたい昔に編集されたものですので、概して文章が綺麗です。それを期待してこの全集を読破してやろうと一度決めました。
最初200ページは「アラビアン=ナイト」でした。千夜一夜物語としても知られるこの話は、女性不信で毎晩女性を部屋に連れるなり殺してしまう恐ろしい王様のところへ行ったシェヘラザードという女性が毎晩毎晩合計1001の面白い話をして王様を楽しませ、王は続きが聞きたくなって殺すのをやめるというストーリーです。アラビアに伝わる昔話集という位置づけでしょう。
実は千夜一夜の名前は伊達じゃなく原典は岩波文庫で全13巻もあるという超大作です。しかしこの全集には200ページしかありません、、つまり抜粋なのです。上のようにあんなにたくさん本が詰まっているのに、世界中の話を詰め込んだら抜粋を免れないとは、一体物語とはどのくらい存在するのでしょう。
読んでみると本文も凝縮されていました!例えばシンドバットの冒険。次の超展開をご覧ください。
わたしは、また船で海に乗り出した。そのうちに、あらしがきた。ものすごい大波に押し流された。ガツーン!メリメリッ!と、船が岩にぶつかった。
「あっ!」
そこはさるの島だった。数えきれないほどのさるどもが、岩の上から船の中へ飛び込んできた。さるどもは、あばれまわって、帆をずたずたに破ってしまった。
わたしたちは船から逃げ出して、島の奥深いところまで逃げ込んだ。大きなほら穴が見つかった。
こんな調子で超簡潔にものすごいスピードで話が進んでいきます。シンドバットは7回冒険をしますが毎回難破してそこで必ず宝を見つけ必ず金持ちになるというお約束を漬け込みまくった話でした。
アラビアと言えばイスラム教、本書もイスラムな要素があちこちで出てきます。たとえば「りこうなダリラと娘のゼブラ」の記述です。
明くる日、ダリラは、あまさんのかっこうになって、白い毛織のマントを着け、太い数珠を首にかけ、手に水を入れたツボを抱えて広場へ出かけた。このツボの中には、小さい金貨が入れてある。
「ありがたや、ありがたや・・・アラーの神様は、ありがたや・・・」と大臣の屋敷の前で大きな声を張り上げた。
このあとダリラはこの金貨を使って口八丁手八丁で門番に自分を神の使いと思いこませ、人をだましまくります。アラーアラー言って神の使いを装うなんてめっちゃ神の冒涜で、今を時めくイスラム国には禁書にされてしまいそうです。これが余裕で流通していたアラビア世界のイスラム信仰は、かなりライトだったと思われます。千夜一夜物語の発祥は8世紀ごろと言われています。他にも「魚が取れないからアラーにお願いしろよ。アラーなら魚くらい取ってくれるだろ」などという困った時のアラー頼み的記述も見受けられました。
「アリババと7人の盗賊」は「開け、ゴマ」で有名ですね。この話、かなり荒唐無稽でした。隠し財産を入れたほら穴が開く盗賊の呪文「開け、ゴマ」を盗み聞きしたアリババは財宝を盗んで貧乏を脱出します。兄の金持ちのカシムがそれを聞くと欲が出て、真似して「開け、ゴマ」を唱え財宝を手に入れるものの、嬉しさで呪文を忘れ洞窟から出られなくなり、盗賊に見つかってなんとバラバラに惨殺されます。
アリババは山のほら穴に行ってみた。びっくりした。兄のカシムの、ばらばらにされた体を袋に入れると、あわてて町へ帰ってきた。
カシムの家では、おかみさんが待っていた。
「うちの人は?」
「こんな姿になっちゃった!」
「あーん!」
あーんじゃねぇよ!まるでドラクエを見ているようです。どこまでも簡潔すぎます。
この後盗賊が兄カシムの死体を探して追ってくるのですが、モルギアナという召使の機転で、なんと靴屋にカシムの死体を縫わせて「バラバラじゃないからこいつじゃねぇ」と盗賊に思わせて一時を凌ぐという離れ業を披露します。モルギアナさんぱねぇ。
若くて美しいという設定のモルギアナさんの挿絵をご覧ください
昔のこども向け小説は絵がとってもきれいですね。
他にはギリシャ神話やオデュッセイアなどが入っていたのですが重複するのでスキップしました。また、どの話も編者のフィルターを通してあまりに圧縮されすぎていてとても悔しいので、残念ですがこのシリーズはこれ1冊でやめにして、世界の名作は全訳か原文で読むことを目標にします。