書籍レビュー: 著者の熱意に感服 『マクロ経済学(New Liberal Arts Selection) 』 著: 斎藤誠ほか

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経済学たのしい

経済学は一生かけて学んでいきたい学問の一つです。個人的な経済危機を何度も経験し、近いうちにド貧乏暮らしを余儀なくされそうな自分としては金にはうるさくありたい。金がどのように世の中を回っているのか知りたい。巷に溢れる怪しい経済論議の胡散臭さを見破れるようになりたい。政策担当者はどう考えて税制や所得分配を立案しているのかを知りたい。世界の金持ちはどう考えて資産を動かしているのか知りたい。好況と不況はなぜ起こるのか知りたい。経済関連は知りたいことばかりです。

ミクロ経済学が個人や1企業などの小さい単位の需要と供給を扱う学問だとすれば、マクロ経済学とは国単位や世界単位の経済を扱い、主にGDPの大小を議論する学問です。本書は1章まるまる90ページほど使って、SNA(国民経済計算)などの統計の重要性について説くかなり革新的な教科書でした。その後古典的なマクロ経済学を丁寧に説明した後、それらをさらにミクロ経済学を使って詳述していく「マクロ経済学のミクロ経済学による基礎付け」という章にかなりの分量が割かれています。ここから文字の大きさが小さくなり数式が増え、ぐっと読むのにエネルギーがかかるようになります。なぜこのような構成にしたのかは随所の前書きやあとがきに詳しく、斎藤教授の熱意が伝わってきます。

分量が多いので1日20分、3か月くらいかけて少しずつゆっくり読みました。後半はそれなりに数学を使うため苦しいですが、物理学に比べれば大したことはありませんでした。大学中退の私でもなんとか理解できます。といってもあと2回は読まないと内容が頭の中をただ通り過ぎただけになってしまいそうなので、何度も読もうと思います。

そのモデル正しいの?

他の社会科学もそうなのかもしれませんが、経済学はモデル化の学問です。これまでの経済学者の功績とは、人々の欲望の総和である経済というでっかいバケモノを、グラフと数式を使って単純化したモデルに落とし込む作業の集積でした。ほとんどのモデルには無理があるように見えます。というのも「合理的期待形成」だの「長期的には必ず均衡に至る」だの、人間に合理性を求め過ぎです。人間は非合理的な存在ですよ。みんなが頭いいわけじゃないですし頭のいい人間だってわけのわかんないことしますよ。読めば読むほど本当にこの数式でいいの?という疑問がどんどん湧いていきます。これは経済学を勉強する前にジョージ・ソロスの本なんか読んじゃったからだと思います。彼は経済学理論にかなり懐疑的でした。

しかし力学や電磁気学のようなモデルがないと思考する基盤すら生じません。オリジナリティが言語の蓄積を前提としてしか生じないのと同じです。ですのでこれらのモデルと頭に入れておいてから、ああでもないこうでもないと悩むのが健康的なのだと考えて、繰り返し本書を読むことにします。

 

本書は経済学部4年生くらいの内容までカバーし大学院入試にも十分耐えうる内容だそうです。4年分と思えば値段も手ごろですし社会人には極めておすすめできる一冊です。

 


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