Anthony Braxton With The Northwest Creative Orchestra – Eugene (1989)

★★★★★

即興演奏サックス奏者アンソニー・ブラクストンのボックス

Amazon.co.jp: Anthony Braxton : Complete Remastered Recordings
の7枚目で、8曲79分にわたるライブ版。どの曲も “Composition No. 112” のように意味のないタイトルが付けられていて、見た目は情緒が全くないように思える。またブカブカ訳わからんインプロが続くのかと思ったら、3曲目で衝撃を受けた。単純な拍子のベースが1本入っただけで、突然ストーリー性が附加されたのだ。曲全体に1つの筋が通り、一見目茶目茶なようで分かりやすくなる、不思議な体験をした。

ここから考えると、曲の体をなしていないようなインプロ曲は、てめーが聴きながらバックグラウンドを想像しろ、音が発せられるコンテキストは自分で考えるんだ、というメッセージなのではないかと思った。奏者にも創造力が求められるが、リスナーにも想像力が求められる。通りで聞くのが苦しいと思ったよ。

同様の体験は7曲目でも起きた。こちらはドラムが恒常的にリズムを刻んでいるため、そこから我々に蓄積されたドラム体験が喚起され、曲のイメージを大幅に膨らませてくれる。なので他と比べて聴くのがとても楽だった。

普通の曲とインプロ曲の関係は、漫画と小説の関係に似ている。漫画は視覚イメージを絵に固定する。この人物はこういう顔、この場面ではあんな表情、、そのため我々に残されている想像力の余地が少ない。一方、小説には視覚イメージが用意されていない。そこに書いてあるのは概念の集合体で、具体的なイメージは全くない(ラノベは除く)。そのため我々の想像力を使わなければ読むことが不可能である。同様に、普通の曲はコードもメロディーもサビも、歌なら歌詞も用意されている。視覚的イメージはないが聴覚的イメージはすべて用意されている。しかしインプロ曲はこれらがほとんど欠けている。我々のいままでの音楽体験を総動員して、想像力で音の背景、意味、これらを補完して聴かなければならない、ということが分かった1枚だった。ありがとうブラクストンさん。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。