書籍レビュー: たぶん当事者専用『無限振子 精神科医となった自閉症者の声無き叫び』 著: Lobin H.

★★★★★( ˘•ω•˘ )

 

表紙買いです。この表紙すごく気になりました。

この本には呼ばれていたのだと思います。自閉症関連の本では現時点で最強です。

 

著者のLobinさんはカナー型自閉症かつ高機能、なんと精神科医です。プライバシー保護のため仮名にされているのが実に残念ですが仕方ないです。表紙イラストもLobinさんによるもののようです。ああやっぱりな。

背表紙も目を突き刺します

Photo_2

無限振子: 続・織田真理的生活

 

中身は著者の半生記とも呼べるもので私なんかよりよっぽど苦しい人生を送っているわけですが、一番心を打ったのは本文の文体から感じられる雰囲気全部です。私の文章とそっくりなのです。特徴的な分かち書きを多用する、話が飛ぶし指示代名詞がどこから来たのかわからなくなるし、自分の中の固定観念っぽいものを他の人間もまるで分かっているかのような口調で書くし、とにかくユーザーに優しくないのです。終盤にサポーターの先生2名(常識人)の解説があるのでこれを読むと彼女の文章が一層引き立ちます。

人に対する”love”という感情は、私の中には存在しません。物は愛します。物には簡単に”love”を抱きます。でも人には、せいぜい”like”までです。その男子にも、ただその目立っているカリスマ性の様なものに惹かれ、例の通り、私はその人を真似しようとしました。(P26)

分かりますかこの違和感?文面からは分かりづらいけどなんとなく感じる普通の文章とのずれ。全く言語化できなくて申し訳ありませんが何か違うんです。

なお本全体を読んだ感じだと、彼女のなかにloveは存在しています。特にセラピストの坂本先生やP69に出てくる「同じ世界に居る」人に向けられた気持ちはどう考えてもloveでした。ただ表出方法が普通の人と違うだけです。そう考えると一般的な言語であるloveという言葉に当てはめるのは適当ではないかもしれません。同様の理由でlikeも適当ではありません。

内容の詳細については直接読んでいただきたいので書きません。手記の内容は超ブログといったような感じで精神力を絞って泣いて泣きながら書いたことが推測されるような大作です。P80-81の障害者センター見学の様子は感動的でした。

 もう1点だけすごく気になったところを引用します。

わたしが最も印象に残っているものは「あなたは自閉症とはどういうものだと考えていますか?」という質問です。私は暫く考えて、「自分の事も他人の事も解らない」と答えました。咄嗟に答えた事ですが、今も正にこれがASDの本質だと、私は思っています。

わたしは未だに何故家を出たのかわかりません。もう3か月も経ちましたが総括に至っていません。人に説明できたことがありません。言いたくなくて言ってないのではないのです能力的に言えないのです。置いて行かれたこどもにとっちゃひどい話ですが理由もわからずとにかく出ました。

自分も他人も解らない。これが本質であることには疑いが全くありません。なんでみんな「~~~だからさ!!!!」って明確に理由説明できるん?そして理由を他人にも求めるん?

まともに解説できなくてごめんなさい

 

 

(追記)参考書籍

 Lobinさんは「仮面」を使って生きていたと告白しています。他人にとって理解されないであろう自分を覆い隠し、生きていく上で必須の社会性を自動化させるためのツールです。「仮面」の元ネタはこれです

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

 

わたしも身に覚えがあり過ぎるのでこれも読んでみないといけません。

 

Lobinさんが好きだったというねこぢるの作品です。前から思っていましたがこれは自閉症と親和性の高い作品です。うちにもありましたがこどもに良くないという理由で廃棄しました。もう一度読みたいです。

ねこぢる大全 上

ねこぢる大全 上

 
ぢるぢる日記

ぢるぢる日記

 

なぜよくないかというとねこぢるは首をつって自殺しました。夫の手記です

自殺されちゃった僕

自殺されちゃった僕

 

 

 


書籍レビュー: 2002年の自閉症認識『ぼくはうみがみたくなりました』 著:山下久仁明

★★☆☆☆

 

自閉症の青年・淳一と女の子、老夫婦を軸に展開する小説です。

随所に現れる淳一のこだわりエピソードの描写の細かさから、施設の人か親かどちらかだなぁと思っていたらやはり、作者は自閉症の息子の親でした。文章全体から啓蒙思想が強く感じられます。

自閉症を知る入門書として2002年時点では最適だったかもしれません。老夫婦の夫、ちょっと説教気味な園長先生は作者の心理を一番投影した人物だと思います。私はこの園長先生のセリフ、ところどころ違和感をもちました。

「自閉症の人の場合、特に子供の頃はそんな状態なんだって、ボクは思うようにしている。いろんなことがどうにもならなくて、仕方なく自分の世界の中に楽しみを見つけることしかできない。それが自分の中に閉じこもっているように見えるから、他の病気と同じように受け取られてしまう」(P106)

~しかできない??仕方なく????

なんでそんな上からなん?

彼らのこだわり行動って、本当にそれが好きだから、こそだよ!!??

「だからさ、人間は自分の下に線なんて引いちゃいけないんだ。自分の背負うべき分のハンディの確率まで背負ってきて生まれてきてくれた1/100の存在に感謝しなきゃいけないんだ。わかってくれるかな?」(P132)

感謝?

なんで?

当人は感謝されたいなんて思ってないよ?

親御さんは大変なので彼らには感謝しなきゃいけないと思うけど。

 

あとこういう淳一のモノローグ。

ぼくの名前はあさのじゅんいちです。

ぼくはおしゃべりがにがてです。

リアルさを求めているわけではないんだけど、わざとらしい。

 

詳しくはネタバレになるので書けませんが、極めつけはラストです。私はこのラスト、最悪だと思います。なぜ一般人の価値観の枠組みの中の感動的な物語に彼らを回収するのでしょうか。そうすればウケるからでしょうか。涙を誘えるからでしょうか。それとも作者本人がそのような物語の中に昇華されたいという願望があるのでしょうか。

なぜ彼らを彼らの文脈の中に置いてやらないのでしょうか。

 

明日実さん、お母さん、弟の描写はよかったので★2つとしました。淳一を兄に持つために空白の存在にされた弟の話についてはもっと突っ込んでもよかったのではないでしょうか。

自閉症系の本は本人か、医者の書いたものじゃないとだめ。創作物は感動モノ、泣ける文脈で消費されるためのものだからもういや。反省。

 

Amazonのレビューは満点です


書籍レビュー: 第三の思考!?『自閉症の脳を読み解く―どのように考え、感じているのか』 著:テンプル・グランディン

★★★★★( ✧Д✧)パターン!

 

テンプル・グランディン(1947-)さんの本は初めて読みます。

彼女は最も成功した部類の高機能自閉症者です。動物学博士号持ちの学者さんで、家畜が苦しまないようにという思いで「締め付け機」を開発し、北米の肉牛は彼女が開発した装置で処理されているそうです。この機械にはかなり思い入れがあるようで、本書でもあちこちで断片が登場します。彼女の著書は邦訳本だけでもかなりの数が出版されていますし、映画も出ています。

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この本を読んで彼女のファンになったのでいずれ絶対に見ます。

本書はタイトル通り自閉症を脳科学を中心に語る本ですが、彼女の自伝的な記述や、自閉症の歴史、自閉症者がどのようにして発達していけばよいか、などその話題は多岐に渡ります。

精神分析から脳科学へ

自閉症診断については、ここ数十年で大きな変化がありました。カナーとベッテルハイム(特に後者)が自閉症の権威者であった20世紀中~後期は、自閉症の原因の半分くらいは「親の愛情不足」が原因とされていたそうです。その背後にはなんでも親のせいにしてしまいがちな精神分析論があったようです。ベッテルハイムに至っては親が子供を虐待すると自閉症になるとまで言っていたそうです。

しかし精神分析の大家フロイトは、精神分析はいずれ生物学的分析にとってかわられると予言していたそうです。彼は

「われわれの心理学的な暫定仮説はすべて、いずれは有機的担体という土台の上に基礎づけられるべきであることを、想い出さねばならない」

なんて言ってたそうです。精神分析は科学が進歩するまでの一時しのぎに過ぎないと彼は考えていました。そして、脳科学の発展の現時点での成果が、本書に記されています。

2008~2010年にニューヨーク市コロンビア大学医療センターの機能的MRI研究センターにて、上側頭回(じょうそくとうかい、発話の音を意味のある言語に処理する聴覚系の部位)の機能的MRIスキャンを受け、その活性化を測定しました。その結果、自閉症の被験者15人+対照群12人のうちから、14人を自閉症と判定することに成功したそうです。まだ精度は100%ではありませんが、脳を検査することで自閉症の「バイオマーカー」を見つける技術は、すでに発明されているそうです。

グランディンは典型的な視覚優位の人で、建物を見ただけで設計図を書くことができてしまうそうです。彼女は脳をスキャンした結果、さまざまな領域を繋ぐ白 質錐体路というところの接続が過剰であり、視覚野に繋がる回線の数が多いため視覚記憶が優れている証明されました。しかし過剰はどこかの欠乏とトレードオフです。彼女は左側側室が右側側室よりも50%以上長いため、頭頂葉が圧迫され、作業記憶(ワーキングメモリ)が妨害され、身体の動作や同時に作業をこなすことが苦手だそうです。自閉症患者は大抵の場合脳の大きさがアンバランスであるため、脳の検査によって自分の特性を正確に知ることが期待されます。

自閉症者と感覚処理問題

テンプル・グランディンさんは「予想していない大きい音」が突然聞こえることに弱かったそうです。例えば、いつ割れるか分からない風船。これを読んで、私がRPGをプレイできなかったことと全く同じである、と知り大変驚きました。

そういえば風船は苦手でした。想い出せば他にもあります。私は雷が苦手です。いつ光るか分からないからです。小さい頃は雷が鳴ると必ず布団や座布団を顔にかぶせて目をつむっていました。今は目をつむるほどではありませんがやはり苦手です。

携帯電話の着信音やバイブレーションも苦手です。特に、メールを送信した後、必ず短い時間の間に返信が返ってくることが分かっている場合です。近いうちにおきる、大きな音や皮膚への刺激が嫌なのです。なので私はメールを送信した後、必ず携帯電話を離して置いたり鞄に突っ込んだりします。現在の話です。

出会った人の中には、耳に入ってくる音がだんだん大きくなったり小さくなったりして、接続不良の携帯電話で話しているように聞こえたり、花火の大音響のように聞こ えたりするという人がいた。体育館に行きたくないのは、スコアボードのブザーの音が板だからだという子供もいた。母音しか口に出せない子供もいたが、おそらく子音が聴き取れなかったのだろう。こういう人々のほぼ全員が自閉症で、蓋を開けてみれば、自閉症の人の10人中9人が、1つ、あるいはいくつかの感覚処理問題を抱えている。

残念ながら感覚障害はほとんど研究されておらず、脳のどの部分が関わっているのか、自閉症だとなぜ感覚障害がおきるのかはほとんど研究されていないそうです。しかし、自閉症者に感覚障害、特に視覚や聴覚の過敏、アンバランスが存在することはほぼ間違いないらしく、グランディンは興味深い持論を展開していきます。第四章に詳しく書かれています。

個人的には感覚過敏はとくに精神的に不安定な時期に一層過敏になるという実感があります。ごく小さい頃と、最も危機的だった20代前半にひどく炊飯器から発せられる電子音も我慢できないほどでした。逆に、過敏であることが精神的に不安定さをもたらすのかもしれませんし、研究が待たれるところです。

第三の思考「パターン思考」

もうひとつ面白い仮説がありました。「3種類の思考仮説」です。一般的には、思考は「言語思考」「視覚思考」の2パターンがあると考えられています。言語が左脳、視覚は右脳が担当するということはよく言われますね。グランディンは先に述べたように視覚思考の人間です。しかし彼女は自閉症の研究を続けるうちに、もう一つの思考パターンがあるのではないかと考えました。それは「パターン思考」です。

例えばプログラミング。

シリコンバレーのあるIT関連企業で講演をした後で、どうやってコードを書くのか社員の何人かに尋ねた。プログラムのツリー構造全体を実際に思い浮かべ、それから、頭の中でそれぞれの枝にひたすらコードを打ち込むという返事が返ってきた。パターン思考者だ。

私はプログラマーですが、まさにこの通りです。一度プログラム構造さえ考えついてしまえばあとは単純作業ですので、音楽やら外国語リスニングやら「ながら」で作業することも楽々なのがプログラマーのいいところです。バグが出たときは構造の考え直しですので無理ですけど。

円周率を22514桁暗唱したダニエル・タメットは外国語の習得も得意だったそうです。

タメットは、たとえば、ドイツ語を独学で学んでいる時には、「小さくて丸いものは『Kn』で始まることが多い――Knoblauch(ニンニク)、Knopf(ボタン)、Knospe(つぼみ)――」ことに気づいた。長くて薄いものは「Str」で始まることが多く、たとえばStrand(海浜)、Strasse(道路)、Strahlen(光線)がある。パターンを探していたというのだ。

ドイツ語は私も鋭意勉強中ですので、大いに参考にします。そういえば、私は「試験」が得意でした。いずれ振り返りで書くつもりですが、「試験」というパターンが私に「合って」いたのです。大学入試では明らかに他人よりも少ない時間の学習で簡単に高得点を取ることができ、のめりこみました。ただしそれは今思えば、問題のパターンを覚えていったにすぎず、学問の本質など全く理解していませんでした。ただ闇雲に問題の数を解きさえすれば、本質が分からなくたってテストで点数を取るのはカンタンでした。今思えば、この表層的なパターン抽出への過剰適応が、大学に入った後に矛盾を起こしてしまうことになったのだ、と本書を読んで結論付けることができました。これはまた後日考察と共に詳述するつもりです。

社会スキルも大事だよ!!

グランディンは自閉症の特質をうまく生かせば、活躍の場は開けていると述べます。なんとも希望の持てる内容ですが、そのためには脳の特性を早期に知り、適切な教育を受けることが必要であると言っています。さらに、就労のためには他人とうまくやるスキルは必須ですので「言い訳をしない」「人と仲良くする」「感情をコントロールする」「マナーに気を付ける」などの基本的社会スキルは大事であるとも語ります。きびしいです。でも彼女の意見に耳を傾けることは、自閉症者にとって大きな力となることは間違いありません。他にも大量の興味深い話題がありましたが面白くてあっという間に読めてしまいました、とても面白い一冊でしたので、彼女の他の著書も読んでみたいですね。

 

 

関連書籍

グランディンさんの本

自閉症感覚―かくれた能力を引きだす方法

自閉症感覚―かくれた能力を引きだす方法

  • 作者: テンプルグランディン,Temple Grandin,中尾ゆかり
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本
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我、自閉症に生まれて

我、自閉症に生まれて

  • 作者: テンプルグランディン,マーガレット・M.スカリアーノ,Temple Grandin,Margaret M. Scariano,カニングハム久子
  • 出版社/メーカー: 学研
  • 発売日: 1994/03
  • メディア: 単行本
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動物が幸せを感じるとき―新しい動物行動学でわかるアニマル・マインド

動物が幸せを感じるとき―新しい動物行動学でわかるアニマル・マインド

  • 作者: テンプル・グランディン,キャサリン・ジョンソン,中尾ゆかり
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: 単行本
  • 購入: 5人 クリック: 40回
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 数字が得意なタメットさん

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)

 

 

本書で紹介されていた、言葉を話さない自閉症少年の話です。読みたいけど和訳が無いので仕方がないから洋書。

How Can I Talk If My Lips Don't Move?: Inside My Autistic Mind

How Can I Talk If My Lips Don’t Move?: Inside My Autistic Mind

 

 

 


書籍レビュー: ソローを取り込みたい『作家たちの秘密: 自閉症スペクトラムが創作に与えた影響』 著: ジュリー・ブラウン

★★★★★(*´﹃`*)

あの作家は自閉症スペクトラムなのか

自閉症スペクトラムの疑いがある、もしくは診断を受けた作家について分析した本です。著者のジュリー・ブラウンさんはアメリカのライティングの教師で、あまり有名な人ではないようで、米amazonでも探すのに苦労する本です。よくこの本を発掘できたなぁ。

本書で大きなトピックとして取り上げられている作家は次の8名です。

  • ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)
  • ヘンリー・デイビッド・ソロー(1817-1862)
  • ハーマン・メルヴィル(1819-1891)
  • エミリー・エリザベス・ディキンソン(1830-1886)
  • ルイス・キャロル(1832-1898)
  • ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865-1939)
  • シャーウッド・アンダーソン(1876-1941)
  • オーパル・ウィットリー(1897-1992)

アンデルセン(童話)、ソロー(森の生活)、メルヴィル(白鯨)、キャロル(不思議の国のアリス)は有名ですね。もちろん彼らが自閉症スペクトラムなんて知りませんでしたが。ウィットリー以外は全員著作権切れの作家ですので、原文がネット上で全文公開されてて私たちでも根性出せば読める環境にあります。

著者によれば、彼らに共通する創作の特徴をまとめると次の通りです。

  1. 感覚的な障害やコミュニケーションに難があることがかえって作品に独自性を与えている。
  2. 考え方が固定的で柔軟性を書く。自己満足的で伝わりにくい。原稿が汚い。
  3. 表層的、象徴的な物語が得意。人間心理を深く追求する作品は苦手。
  4. 脈絡のない展開をする物語や散発的な出来事を描く短編小説は得意。大きな筋の通った長編小説は苦手。

正直なところ、欠点だらけにしか見えません。4の最たるものは「不思議の国のアリス」でしょう。私はまだ読んだことはないのですが。この作品のように脈絡が無かったりして不条理なのが実際の人間社会なのであるという筆者の主張にも頷くところはあります。

巧みな語り口というもののない自閉症の人々の作品は、実はより現実的なのだと示唆しているようでもあります。彼らの物語は、より偶発的だからこそ、よりリアルなのです。

1のような独自性によって彼らは偉大な作家となりえたのだし、2、3のようなことは他の作家にも言えることで個性の一つです。

ソローの食事

個々の作家で一番驚いたのは以前から気になっているソローでした。それは代表作「森の生活」について分析している一説でした。ここはそれ自体興味深い記述なのですが、私が気になったのは彼の作家性とあまり関係のない1点です。少々長いですが引用します。

ソーンとグレーソンによれば、アスペルガー症候群の人のストレスが制御不能なレベルに達すると、ある一定の言動が表面化していきます。『森の生活』は、ソローが不安の対処法として、どんな言動をしてきたかを示す一覧表とも読めます。

  • 関心の領域が狭く、一定の事象や習慣、もしくはその両方に固執する(ウォールデン湖、自然、読書、執筆)
  • ある一定のやり方で、物事や出来事を表現させようとする(自分の望むような家を建てる、毎日のスケジュールを思いのままにたてる)
  • 何かするための自分のルールを決める(すべてのことを自分でやり、助けを求めない)
  • 同じ事を何度も何度もするのを好む(起床、水泳、食事、労働、散歩、睡眠)
  • 限られた食べ物しか食べない(ニンジン、米、豆、ジャガイモ
  • 大きな音と人ごみをひどく嫌う(静寂の森で過ごすことを選択する)
  • 無駄な労力を使わず、努力も最低限にして、どうしてもやりたい活動だけに集中する(ウォールデンでやりたいことだけに没頭する)

そう、食べ物です。

私が最近リサーチしている理想のコストパフォーマンス高の食物と完全に一致しているのです。。


ジャガイモは調理が必要ですがビタミンCが豊富でそれなりにエネルギーも含み常温保存可能という優秀な食材です。調理可能な環境であれば、コメと豆で賄えないビタミン類の補給源は安くて保存も効くニンジンとジャガイモで決まりだな、と考えていた所だったので本当に衝撃でした。また、上に箇条書きで書いたことはすべて今私が考えている理想と合致しますので彼の著作は全部読み漁りたい、それもできるだけ原文で、という熱意が湧き上がってきました。

ここに注釈付きの原文すべてが置いてあるようです。暗記してしまいたいくらいです。膨大な関連記事もあります。やはりコアなファンが沢山いるようですね。

孤独の嗜好と理解の渇望

私は少し前まで自閉症スペクトラムに寄りかかった自意識を作ることを拒否していました。私は私であってラベリングしたって何の意味もないと思っていました。しかしいざ関連本を読み始めてみるとあまりにも共感できることが多すぎて面食らっています。ネット上では自閉症スペクトラム同士の連帯が出来つつあり、民族自決並みのアイデンティティがコミュニティの中で生まれつつあります。私はまだこのような展開に対して抵抗があります。自分の独自性が、自閉症スペクトラムというラベルに吸い取られてしまうような気がするからです。自分が自閉症スペクトラムなのか、自閉症スペクトラムが自分なのか分からなくなるのが怖いのです。それはデブとかハゲとか出っ歯とか(マイナスの意味を植え付けられている言葉ばかりですが、私はマイナスだと思っていません)いう自分の一特性にすぎないのに、自分がそのラベリングそのものに抽象化されてしまうのは嫌です。でも特性そのものについては、もっともっと知りたいし、twitterやブログでも同種の障害を持つ人のことはフォローしてしまいます。感情は相反します。

著者がソローについて、全く同じ点を指摘しています。彼は一貫して孤独を好みますが、一方で自分について知ってほしいという願望も読み取ることができるというのです。確かに「森の生活」を出版したこと自体がそうです。私がブログ上で文章を書くのもそうなのです。次の記述は孤独と理解を求めることとの対立をよく表しています。

ソローはひとりの生活という自分の嗜好を、独立独歩の高貴な哲学から生まれた発想だと主張しています。が、ソローが結核になり、人生の終わりを両親の家で迎えようとしていたとき、ソローの心は世界中から好意を注いでくれた人々のおかげで安らぎを得ました。妹のソフィアはこう言っています。「友人や近所の人々が自分を気にかけてくれたことに、彼はとても感動していました。人々に対して随分違った感情を持つようになり、もし自分が(こんなに人々が気にかけてくれるものだと)知っていたら、よそよそしい態度など取らなかったのにと言っていました」

 

なんだかソローの話ばっかりになってしまいましたが、他にも「自己同一性拡散」に悩まされるオーパル・ウィットリーの話や、「ひどい狂気は、このうえない正気」と主張して自己愛を突き詰めざるを得なかったエミリー・ディキンソンの話、一般人は抽象から具象に進むが自閉症スペクトラム者は具象から抽象へ進む、、などなど興味深い話に溢れた一冊でした。おすすめです。

当然のこと、日本文学者や思想家にも自閉症の疑いがある人間は沢山いると思います。研究している人がいたら文章を読んでみたいですね。

 

 

関連書籍

いっぱいあります。

 

 まずこれ

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

 

 

 アンデルセン

完訳アンデルセン童話集 1 (岩波文庫 赤 740-1)

完訳アンデルセン童話集 1 (岩波文庫 赤 740-1)

 

 

 ソロー

市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)

市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)

 

 

メルヴィル そういえば放送大学でこの作品について中間レポートを書きました。偶然とは思えません。

書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)

書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)

 

 

 アンダーソン

ワインズバーグ・オハイオ (講談社文芸文庫)

ワインズバーグ・オハイオ (講談社文芸文庫)

 

 

そのほか関連人物

ダニエル・タメット自伝

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)

 

 

テンプル・グランディン自伝

我、自閉症に生まれて

我、自閉症に生まれて

  • 作者: テンプルグランディン,マーガレット・M.スカリアーノ,Temple Grandin,Margaret M. Scariano,カニングハム久子
  • 出版社/メーカー: 学研
  • 発売日: 1994/03
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ジェイムズ・ジョイスも自閉症スペクトラムだったそうです。

ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

 

 

 


書籍レビュー: システム化しまくれ!『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』 著: サイモン・バロン=コーエン

★★★★★

自閉症スペクトラムの最新知識が欲しかったのでこの本は読んでみたかったです。ようやく手に入れました。さまざまな医師の間で必ず話題に上る著者サイモン・バロン=コーエンさんの日本語の書籍の中では一番新しいと思われます(でも2011年出版、原著は2008年)

内容はまず実例を提示したのちに、自閉症の概念の歴史や測定方法、心理学・生物学的な考察と最後に介入(支援)まで幅広く浅く、でもポイントはバッチリおさえてある良書といえるでしょう。

アンドリュー君に共感

つい先ほど食料についての記事の続きを突然思い立って投稿したのですが、これは実例に出てくるアンドリュー君のエピソードを読んで触発されたからです。

自閉症スペクトラムの例として出てくるアンドリュー君はかなり優秀な部類で、イギリスの学校(中学校相当?)を退学した後、独力で大学に入りました。自然科学の能力が非常に高いのに、雑談はできないし教師を質問攻めにしたり同級生と衝突してイジメにあったりしていたそうです。

彼は常に同じものを食べる。それは全粒粉のビスケットとミルク。彼は、健康を維持するために必要なすべてが補給でき、極めて経済的である彼独自の食事方法を守っている。彼は、彼自身の視点だけでしか考えないので、自分の奇妙な味覚を人がどう思うか全く気にしない。

これを読んで、うわやってること自分と全く同じじゃん!と衝撃を受けたのでした。うんうん。やるよねーそういうこと。

私の現在の主食は玄米です。玄米は、一般的には不味くて食べられないと不評ですが、私は玄米だけ食べれば生きていけるのなら、玄米以外には何もいらないと考えます。ごはんがススムくんを筆頭としてふりかけ、タクアン、梅干し、卵と醤油などなどご飯に添えるものは数多くあります。これはごはんだけだと一本調子で退屈するから人類が編み出した舌へのオーケストレーションと言えるでしょう。でも私はご飯だけでいくらでも食べられます。おかずすら必要ないと思えるくらいです。同様の理由で、食パンにバターやマーガリン、ジャム、マヨネーズ、シナモンなどをかけずとも、むしろトーストせずともいくらでも食べられます。小麦粉ももしかしたらそのまま食べられるかもしれません。でもアルファー化してないから消化悪くてダメかな?

共感化ーシステム化仮説

自閉症の原因を説明するものとして、5つの仮説があるそうです。本書では5つとも説明されていますが、サイモン・バロン=コーエンさん「共感化ーシステム化仮説」を一番推しています。これは以前読んだ広沢先生の本とほぼ同じ見解です。広沢先生がバロン=コーエンの書籍にかなりを負っているので当たり前と言えば当たり前なんですけれど。ただし、広沢先生は患者の一人が語っていた「タッチパネル」という概念にインスピレーションされて、独自の解釈をされています。

共感化ーシステム化仮説とは、文字通り社会化を「共感」「システム化」という2つの概念に分類し、自閉症スペクトラム者を「システム化」に特化したものとして見るという立場を取る仮説です。

「システム化」とは、分析と規則性への希求です。抽象化のシステムなら言語の文法(大好き)、数的なシステムなら時刻表(大好き!アプリケーションも作った)、自然のシステムなら天気のパターン(毎日チェックしてる)、収集のシステムなら石の種類の分類(CD集めてます)、などなどが例として挙げられています。規則性・ルールに注目してそれらを組織化し、システム化することが大好き!ということです。これらは細部の注意に向けられがちですので、一般化、ざっくりとした理解が難しいということだそうです。

自閉症スペクトラム者は「共感」のシステムが遅れがちということですが、残念ながらシステム化への機能の集中によってなぜ共感が遅れるのか、については記述がありません。ページ数の都合だと思います。

少し前に読んだ「心の理論」が欠如しているとする仮説「マインドブラインネス仮説」も5つの仮説のうちの1つです。

「マインドブラインネス仮説」と比べて「共感化ーシステム化仮説」が優れているところは、自閉症スペクトラムを「欠如・欠陥」ではなく「目的の違い」としてとらえていることです。更に言えば「システム化」は時間をかけていくらでも拡大することが可能ですから、「共感」を獲得することすら可能である、という非常に希望に満ちた概念であるとともに、私の実感とも合致するものです。「欠陥」ではなく「違い」とみなすなんて素敵じゃないですか!

日本人が有利な点と不利な点

「マインドブラインネス仮説」は共感が苦手であることを説明する点では優れていますが、1点変だなと思うことがありました。それはP91の「成人版 視線からの心の読み取りテスト」です。

画像が無いので苦しくも文字で説明します。西洋人の目だけ抜き出した写真が載せられていて、これは「すまないと思っている」「うんざりしている」「興味がある」「ふざけている」のどれを表しているのか、という問題でした。このほかにもう1問ありましたが、私は正解しました。日常だと実感として人の心が全然読めないというのに、です。

ここで一つ思いついた仮説があります。日本は漫画文化が栄えています。私も沢山読みました。漫画は感情を写実的に表し、登場人物がそれを社会通念に合わせて解釈する、しかも売らなければいけないメディアとしての性質上、非常に分かりやすいという特徴があります。このおかげで、私は静的な表情をパターン化しシステム化することに成功したんじゃないのか、と考えました。

ところが日常生活の表情は動的で、0.1秒で変化してしまいます。漫画のように解釈を待ってくれません。しかも日本人は表情に乏しい。西洋人のボディーランゲージや表情の豊かさは少しドラマや映画を見りゃ分かります。したがって、表情を読む機会に大きく欠けます。

ということは私に欠けている能力は西洋人のドラマや映画をたくさん見れば補えるのか?という疑問が生じます。これはやってみないとわかりません。箱の中の世界が現実に結びつかないような気もします。

静的な画像処理能力はきっとマンガを読めばつきます。たくさん漫画を読みましょう。これを応用して動的に処理できればいいんですが、実際にどうしたらいいのかわかりません。今後の課題です。

簡易チェックテスト

巻末に自閉症スペクトラム指数(AQ)の測定テストが収録されています。50点満点で32点以上だとアスペルガー・高機能自閉症が疑われます。私は41点でした。平均は女性で15点、男性で17点だそうです。

ここにも同じものがありますので、興味のある方はテストしてみてください。ちなみにこのテストはあくまで「目安」ですので、32点以上だからと言って必ず自閉症スペクトラムというわけではありません。医師の診断は必要です。とはいえ、高得点ならかなり蓋然性が高いと思います。

 

 


書籍レビュー: 心は4分割できるか『心の理論』 著:子安増生

★★★☆☆

他人の心を読む仕組み

著者の子安増生さんは教育学者。幼児・児童の認知心理学・発達心理学が専門のようです。

本書で紹介される「心の理論」とは、「他人の心を読むしくみ」のことです。自己の心的作用の成り立ちを示している本ではありません。自閉症患者には欠けていると言われるこの理論、一体どんなものなのか興味があって手に取った本です。

この理論を提唱したのはサイモン・バロン=コーエンという学者です、、ってまたあんたか!!次の本で散々引用されていました。

バロン=コーエンの書籍は1冊図書館から借りてきたところなので、近いうちに読みます。

彼は心を読む働きを次の4つに分類しました。

a) 意図検出器(ID) 視覚・聴覚・触覚を利用して、「動くもの」の目標や願望を予測する。主に危機回避のための機構。

b) 視線方向検出器(EDD) 他人の視線を検知し、自分を見ていること、他のものを見ていることを認識する。

c) 共有注意の機構 (SAM) aとbより高次。事故、他者、他の物(または他者)の三者間の関係を利用した心の仕組み。例えば、指さしをして他の物に他者の注意を引く、など。他人と同じ物事を共有する、いわゆる「共感」もここに含まれるようだ。

d) 心の論理の機構(ToMM)  cより上位に位置し、最も高次。他の人の心の状態の知識に基づいて行動するための心の仕組み。「AさんがXと思っているとBさんは思っている」など、複雑な入れ子構造を理解するために必要な能力。

バロン=コーエンは以上4つの機構に心を分割しているそうです。自閉症では、主にcとdの機構が欠如しているとのこと。

薄いくせに冗長

さて本書ではa~dを順に解説していくわけですが、わかりにくかったです!というのも、読者を飽きさせないようにするためか、関連する映画のストーリーを挿入したり、心理学の教授を作者が訪問する(ちょっと自慢入ってるかも)様子などを交えたりするのですが、はっきり言って必然性がないです。おかげでただでさえ130Pと薄い本書の内容がさらにペラペラになるという始末です。ネタ本がはっきりしているので、そっちを読んだほうが確実にためになりそうです。むむーー。

心の論理の機構テスト

しかし本書でも1点ショッキングな事実がありました。d)の本チャン心の論理の機構を簡単にテストできる質問がありました。

ジョンとメアリーは公園にいた。その公園にはアイスクリーム屋さんと、彼のバン(車)があった。メアリーはアイスクリームを買いたかったが、家にお金を置いてきてしまった。アイスクリーム屋さんはメアリーに「悲しまなくてもいいよ。後でお金を持ってきてアイスクリームを買えばいい。おじさんは、午後ずっとこの公園にいるだろうから」と言った。メアリーは喜び、「午後にお金をもってアイスクリームを買いに来る」と言った。

メアリーは家に帰って行った。ジョンは公園に残っていたが、アイスクリーム屋さんが公園から去ろうとしているのを見て驚き、「どこへ行くの?」と聞いた。アイスクリーム屋さんは「バンを教会の前まで運転していくんだ。ここにはアイスクリームを買ってくれる人がいない。教会の外なら少しは売れるだろう」と言った。

アイスクリーム屋さんは、教会まで運転をしていく途中、メアリーの家の前を通りかかった。メアリーは窓から外を見ており、バンを目にしたので、「どこへ行くの?」と聞いた。アイスクリーム屋さんは「教会へ行くところだよ。そこならもっとアイスクリームが売れるかもしれないからね」と答えた。ジョンは、メアリーがアイスクリーム屋さんと話したことは知らない。

ジョンも家に戻り、お昼ごはんの後宿題の勉強をしていた。自分だけではできないことがあったので、ジョンは手伝ってもらおうと思ってメアリーの家に行った。玄関にメアリーのお母さんが出てきた。「メアリーはいますか?」「あら、出ていったところよ。アイスクリームを買うと言っていたわ。」

質問:ジョンはメアリーを探しに行きました、ジョンはメアリーがどこに行ったと思っているでしょうか?

 

スクロールしてから答えを書きます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは「公園」です。「アイスクリーム屋さんが公園にいるとメアリーが思っている、とジョンは思っている」「メアリーはアイスクリーム屋さんは教会にいると知っている、ということをジョンは知らない」と考えるのが自然です。でも私は間違えました。教会だと思ってしまいました。

というのも、この文章ってノイズが多すぎるんですよね。私は昔から文章の特定の部分にだけひっかかって、現代文の文章問題ではポイントを3つ書かなければいけない所を同じことを3回書いてしまうということが多かったことを覚えています。メアリーのお母さんとか宿題とかお昼ごはんとかアイスクリーム売れないとか要らん情報ですよね。ノイズにかき回されると、話の関係が分からなくなることは多いです。読み返せる文章なら何度か確認することでこれを回避できますが、日常会話となるともっとノイズ情報が膨れ上がるし前に戻ることができません。

自閉症と心の理論|心理カウンセラーのブログ

このサイトにあるような、余分な情報を削り取った課題なら間違えません。

ああこれが、私が文脈を理解できなくなる原因の一つなんだ。心の理論は全く理解できないのではなく、理解のスピードが非常に遅いんでしょうね。一つ参考になりました。スピードの観点から論じられている書籍はあるのでしょうか。そんな書籍があったらきっと感動します。

心の理論というのは通常人間にとって最も重要な事項ですから、引用文のように余分な情報が多くても、いわば感覚が研ぎ澄まされるように要点を抽出し、入れ子の構造を素早く作ることができるのでしょう。自閉症スペクトラム患者は、心の動きにあまり重点をおかず、すべての言葉に等しく重み付けをしているのかもしれません。

 

小説をたくさん読んだ方がいいのかな。きっと苦手なんだろうな。読んでも読めてないことが多いんだろうな。人の心の動きの全パターンを網羅するつもりでかからないと、だめなのかもしれない。

 

 

参考書籍

 

ネタ本。本書よりもこっちを読んだ方がよさそうです。ただ、訳が悪いらしいのが欠点。。

自閉症とマインド・ブラインドネス

自閉症とマインド・ブラインドネス

  • 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,長野敬,今野義孝,長畑正道
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 単行本
  • クリック: 15回
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 視線について。

まなざしの心理学―視線と人間関係

まなざしの心理学―視線と人間関係

 

 

 


書籍レビュー: 発達障害者が読むと人生変わるかも『成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群』 著:広沢正孝

★★★★★(*’∀’人)

著者の広沢正孝さんは順天堂大の精神科医・教授です。専門は精神病理学・保健学。他に統合失調症関連の本も書いています。

発達障害者の精神構造を明らかにする目標で書かれた本

タイトルから一般向けの単行本的なものを想像していましたが内容はバリバリの医師向け医学書でした。でも最高に面白かったし、人生が変わるかもしれないほどの衝撃を受けました。いいですね医学書。もう医師にはなれないけど医師になるための勉強がしたくなりました。

この本はいわゆる「発達障害あるある本」とは一線を画します。まず発達障害者に対して一般の人間がどう接すればいいか、発達障害者はどのようにして社会に適応すればいいかという実践的な要素は皆無です。1冊かけて、発達障害者の精神構造を明らかにするための考察が膨大な参考文献とともに行われていきます。文献はほとんどが英語圏・ドイツ語圏のもので日本のものも精神医学系の雑誌が多く、医学書はみんなそうなんでしょうけれど著者の情報収集力の高さとそれを統合する力には驚嘆しました。

folk physicsとfolk psychology

書くべきポイントは大量にあってまだ自分の中で消化できていないので本書を貫く重要概念の2点に絞って書きます。1点目はである「folk physics」と「folk psychology」という概念です。これはBaron-Cohen(サイモン・バロン=コーエン)の提唱した概念だそうです。

これは脳が対象を認識する働きを2つの領域に分割して捉える考え方です。folk physicsは「庶民物理学」つまり対象が物質的存在としてどのような働きをするかということを捉える働き、folk psychology「庶民心理学」は対象を社会的存在としてとらえようとする働きを指します。大まかに言ってfolk physicsは分類し細部を突き詰める働き、folk physicsは共感し統合する働きです。

バロン=コーエンによれば、一般人は2つの働きをバランスよく発達させ、重なり合わせることで対象との適切な距離や二面性、多層性などを認識することができますが、発達障害者はfolk psychologyが障害されており物事をfolk physicsを使ってしかとらえることができません。物事は様々な観念の集合体としては捉えられず、バラバラのままです。

タッチパネル的自己

folk physicsへの偏りという仮説をベースにして、実際の臨床例から筆者が提示した理論が「タッチパネル的自己」です。これはある患者が次のように自己を認識していたことによるものです。

このころA氏は、主治医に以下のように述べた。「僕の頭はタッチパネルで、縦横に規則正しくアイコンが並んでいます。その1つひとつに重要な内容が入っていて、僕は必要な時に必要なアイコンにタッチするんです。そうするとそこにウインドウのように世界が開けていき、僕はそこを生きて、そこで仕事をするのです。それが社会人の僕です。つまりプログラマーの僕ですよ。先生もご存知のプログラマーってやつで生きている僕なんです。(中略)別の部分をタッチすると、そのウインドウにまた僕がいます。全体としてタッチする順番が決まれば、僕の1日は順調に流れます。でも今は順番が滅茶苦茶で、タッチパネルの情報もどこに入っているのかわかりません。これは危機です。」

A氏の自己イメージ図が添付されていました。HTMLで再現してみます。

6:30AM
朝の支度

7:12AM
電車通勤

8:23AM
駅から会社

8:45AM
仕事前

9:00AM-5:20PM
仕事

0:20PM-1:20PM
昼食

(予備)

(今日はパス)
SF活動

6:05PM
帰り道

7:03PM
電車通勤

7:55PM
駅から自宅

(今日はパス)
秋葉原

8:45PM
夕食

9:20PM
入浴

10:00PM
ブログ

(予備)

 

以上の2理論は衝撃的でした。なにしろこの2つから発達障害者にまつわる諸症状がほぼ全て演繹可能だからです。米田先生の著書の1点集中・極端なコントラスト理論では説明不足なところも補えそうです。

演繹例1

私の例を挙げます。私はきわめて受動的です。他人との関わり方は典型的にな積極奇異(積極的だが挙動不審だったり躁状態だったり変な感じのこと)で、話しかけるまでは時間がかかりますが一旦他人と関係を築くと自己が他人に取り込まれ、自己を喪失します。もうブログの存在がばれたって構わないので書くと、いま隣の部屋にいる元妻との関係が完璧にそうです。私は元妻に思考体系を依存し、子供からは「自分の考えが無い」と非難されバカにされました。

一方、私は自己喪失どころか過剰なまでの自己保持を表すことがありました。例えば私は大学休学後復学し1年通いましたがその時収入はありませんでした。ところがその時元妻がある事情で働けなくなり解雇されました。ところが私は収入が全くない状態で、1年間大学に通い続けました。お金は消費者金融で借金した後に破産して踏み倒しました。今思うとぞっとする行為です。生活が首の皮1枚で繋がっていた状態です。ふつうは収入が無ければ働きますが私は働くことを選ばず、それまでの世界であった大学を保持することを選びました。しかも収入もないのに帰りにゲーセンに寄っていました。私は音ゲー中毒者だったので、この世界を手放すこともできませんでした。さすがにキャッシング枠が無くなったので1年後は中退して就職しました。

以上の行為はタッチパネル的自己で説明が可能です。私の自己はタッチパネル風に分割されおり、「大学生の自分」「音ゲー奏者の自分」「夫としての自分」が独立して存在していて、統合されていません。したがっていとも簡単に「夫としての自分」を切り離して生活を顧みず大学に行ったりゲーセンに行ったりすることが並立して可能となります。

自己に一貫性が無いことが発達障害者の本質です。これは本当に衝撃で、いろんなことがひっくり返りそうな思いがしました。

少し前から発達障害と分裂病(統合失調症)との類似点を感じていましたが、本書では分裂病はあくまで一般人が自己を中心とした心的構造の保持ができなくなった状態、すなわち「定型発達者が陥る病気」であることが示され、すっぱり切り捨てられてしまいました。

一貫性が無いことから多重人格との類似もできそうですが、多重人格は幽遊白書の仙水忍の例からも分かるように、普通の人間がトラウマ的出来事から逃避するために自分の一部を隔離するものとして自らが生み出す適応的行為です。ところが発達障害者は先天的に一貫性が無いのですから話が違います。

様々な精神医学書を読んで示唆するところを得たいと思っていましたが、この知見によって「定型の人の話だし・・・」と一つのフィルターを感じながら読まなければいけなくなりました。できるのかな。

自動的に空気を読むJavascript、必死で空気を読むJava

プログラムの話です。JavaScriptは定型発達者言語、Javaは発達障害言語だと思いました。

JavaScriptは動的型付け言語です。定型人オブジェクトにはあらかじめ「常識」という一連のメソッドが備わっており、適当なメソッド名を与えると何らか「常識」に沿って動作することが期待されています。「常識」には明示的な宣言無しにつけたり外したりすることが可能です。定型発達者は2行で実装できてとても便利です。

var teikei = function(){};

teikei.prototype = 常識; //実装完了。うらやましいなおい!

var man = new teikei;

if(上司が来た)

{

 man.空気読め(); //軽快に動作

 man.率直に意見 = nothing; //動作しなくなる。正しい態度。

}

一方Javaは静的型付け言語で、オブジェクトのメソッドはあらかじめすべて定義しておかなければなりません。「常識」はすべて明確な実装がされている必要があります。一つでもなければ悲鳴を上げてエラーリターンするのです。

class PDD implements 常識 //PDDは発達障害の略語です

{

 public 空気読め()

 {

   if(一人でいるとき)

  {

    何もしないでいい;

  } 

  else if(二人でいるとき)

  {

    相手の気持ちを考える();

    会話を途切れないようにする();

   if(相手が怒ったら?)

   {

     どうしよう

   }

    etc…

  }

  else if(10人でディスカッション)

  {

    無理

  }

 else

  {

     想定外。パニック

  } 

 }

 public 率直に意見()

 {

   いつも通りに発言();

 }

}

interface 常識

{

 public 空気読め();

 public 率直に意見();

}

 

class 実社会()

{

  public static void main (String args[])

 {

   PDD man = new PDD();

  if(上司が来た)

  {

   man.空気読め(); //大変な条件判断。フリーズの恐れあり。

   man.率直に意見(); //消せない。

  }

 }

}

なんという冗長性。ちなみに私はJavaを使ったことはありませんが、類似言語のC#は毎日仕事で使っています。とても使いやすい原語です。書きながらJavaScriptを習得するのに手間取った理由もなんとなくわかりました。

発達障害者は適応するために大量の「常識」を実装する必要があります。これは私が大量に本を読みたい理由です。無数の言語による配線を張り巡らせておけば、何かどこかに引っかかるかもしれない、、という期待があるためです。

私が読む本はほとんどが図書館で借りた本ですがこの本ははじめて「買って定期的に読み直さなければいけない」と思わせる本でした。地味な本ですが全文暗記したいくらいの気持ちがします。だからといって何かが好転したりするわけではないのですが。

 

 

参考書籍

本書の基礎となったバロン=コーエンさんが書いた本。

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

  • 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,水野薫,鳥居深雪,岡田智
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 単行本
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何回も引用されていた本。教師のため、って書いてあるけど中身は濃いみたい。

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

  • 作者: バルクミン,ギルスティーブンソン,ジュリアリーチ,Val Cumine,Gill Stevenson,Julia Leach,斉藤万比古
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本
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これも何度も引用されていた。高い。分厚い。

総説 アスペルガー症候群

総説 アスペルガー症候群

  • 作者: アミー・クライン,サラ・S・スパロー,山崎晃資,フレッド・R・ヴォルクマー,小川真弓,徳永優子,吉田美樹
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2008/05/30
  • メディア: 単行本
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これも多数引用。発達障害者のほとんどは天才ではないが、何か得るものがあるかも。

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

 

 

 よく名前を聴く本。読んでみたい。

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

 

 

広沢先生の本。

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

 

 

これも引用あり。上の本と合わせて分裂病を知るために。

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

 

 

発達心理学。自分の発達過程がどのくらい一般とずれているのかを確認するのに有益。

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

  • 作者: R.J.ハヴィガースト,Robert J. Havighurst,児玉憲典,飯塚裕子
  • 出版社/メーカー: 川島書店
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 単行本
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書籍レビュー: 先生ちょっと美化入ってます!『ぼくらの中の発達障害』 著: 青木省三

★★★☆☆

 

広汎性発達障害や関連する精神病・心理学については考えるヒントにするためたくさん読みます。

著者の人柄の良さがにじみ出てる

青木省三さんは精神科医です。専門は思春期青年期精神医学と精神療法です。ので、本書で引用されている例は思春期~20代前半くらいの患者が多いように見受けられました。

序盤の発達障害と定型発達は連続していて、切れ目がない→でも、その程度が強ければ異質なものとなりうる、という理論は腑に落ちました。だれでも大なり小なり精神疾患的な物を抱えています。色々な精神病の本を読んで参考にしようと思っていた私の考えが補強されました。

ちくまプリマ―新書というのは初めて知りましたがヤングアダルト向けの新書だそうですね。なので語り口調が「~してほしい。」とか「僕は~だ。」とかちょっとアツいです。苦手ですがヤングメンに合わせてくれてるのですからいい人なんだろうなぁと思いました。実例でも時には1か月何の反応ももたらさない患者の言い分を辛抱強く聴き、彼らの立場を理解し一緒に問題を考えて、わずかずつでも彼らに変化をもたらしていった青木さんのまごころには心打たれます。青木さんのおかげで頭を打ち付ける自傷行為などの二次障害を克服した患者さんも沢山いるようですね。

ちょっと美化しすぎでは

いくつか納得できない個所があります。

青木さんは発達障害者を「表と裏のない純粋な人」とラベル付けていますが、これはどうなんでしょう?発達障害者だって表と裏はあります。内面での葛藤についてはおそらく定型発達者と同じです。ただし思考の方向性やアウトプットが間違っているため、表と裏のつもりなのに裏と裏に見えるような発言をしてしまうのです。

また、次の記述には全面的に反対です。それは特別支援級の自閉症を持つ生徒がバスの中で誰彼敵わず毎日「おはようございます」と言ってピリピリしているバスの中の空気をやわらげた、というエピソードについての青木さんの感想です。

人に対して内面を隠すという「自閉」は定型発達と呼ばれる人の中にあるものであり、逆に広汎性発達障害で「自閉」を持つと言われる人の中にこそ、内面を隠さず人と繋がり情報を伝達する可能性があると、僕には思えてならない。

美化しすぎ!集団生活の秩序という観点から見れば、間違った情報やその場にそぐわない情報を伝達しまくる発達障害者は、トラブルの原因にこそなれ集団の雰囲気をよくすることなんてレアケースです。

例えばまたリーマンショックの例で申し訳ないですが経営が危ないという噂のある世界的な銀行の頭取が発達障害だったとして、記者会見で「経営は盤石です」と言わず「一週間で資金が尽きます。破産です」と言ったらどうなります?全世界で取り付け騒ぎが起きて経済大崩壊ハルマゲドン、長期ズンドコ大不況に陥ったのちに頭取は1年後の回想録で「俺は真実を伝えたんだ。。」と書きベストセラーになるに違いありません。というわけで発達障害は迷惑です。話はそれますが金融マンというのは発達障害者が絶対になれない職業の一つですね。トレーダーなら向いてますけど。

わたしは「発達障害者はリーダーにするな」とか「仕事をしないという選択肢も尊重されるべきだ」という米田さんの方が好みです。

青木先生は集団生活になじめない発達障害者をケアし、その菩薩のような人格で彼らを集団内にとどまらせる力を持ったすばらしい人間だと思います。でも個人的には集団なんか出ちゃえばいいじゃん。と思うのです。

それに根本的な問題として、周りにケアしてほしくありません。発達障害者にどう接すればいいか、なんて考えてほしくありません。配慮されるなんて屈辱です。

すっごくいい人なのにごめんなさい。

 

 

関連書籍

 

青木さんの他の著書で読んでみたいもの。

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

 
大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

 

2冊目はあまりよくない言い方をすると「精神科医はどのように発達障害者を見ているのか」を知るために必要と思いました。


書籍レビュー: 何だよ自分やっぱりアスペルガーじゃん『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える』 著: 米田衆介

★★★★★(ノ≧ڡ≦)てへぺろ

 

著者の米田衆介氏は明神下診療所の院長です。実はこの人、8年ほど前に私にアスペルガー障害であると診断を下した医者です。自閉症・アスペルガー関連の書籍を探していたらなんと明神下診療所の院長が本出してる!けしからん!これは読まなければ!と全面対決する気持ちで手に取ったわけですが、、結果は完敗でした。

アスペルガーの3つの特性

米田さんは一般的によく使用される自閉症の「三つ組み」仮説、すなわち

・社会的相互交渉の障害(他者と上手く関われない、興味が無い)

・コミュニケーションの障害(会話や意思の伝達の困難)

・想像力の障害(空気が読めない)

は、現実に表れている症状を分類したことに過ぎず原因そのものではないと述べ、いくつかの仮説を並べた後に次の三点にまとめられる「情報処理過剰選択説」を現場で使用していると述べます。

・シングルフォーカス特性……注意、興味、関心を向けられる対象が、一度に一つと限られていること

・シングルレイヤー思考特性……同時的・重層的な思考が苦手、あるいはできないこと

・ハイコントラスト知覚特性……「白か黒か」のような極端な感じ方や考え方をすること

げー。全部当てはまるじゃん。。私は愕然としました。

というのも、私は8年間、アスペルガーなんてラベルに意味はない、私は私だ。人とまともな人間関係を構築することも頑張ればできるだろうし、想像力だって豊かになれるはずだ、だからいわゆる「定型」の人の考え方身の振り方を努力して身に着けるんだ、だからそんなラベル貼るなよ!!!という思いで頑張ってきたつもりでした。アスペルガーはその言葉が新聞で出回るようになって以来、ぜーーったい悪い意味で使われると思っていたらやっぱりその通りになりました。

しかし私の努力は方向性が悉く間違っているため失敗し努力は水の泡となり、絶望感やいじける気持ちやらが募るばかりでした。方向性が間違っているということも田さんは以上の特性の帰結の一つの例として挙げています。

で、この本を読んだわけですが完敗です。間違いなくこの3つの特性を私は備えてます。ああやっぱり、逃れられないね。自分の特性の一つとして受け入れるしかないね。受け入れた上で自分に何ができるか、考えるしかないね。

臨床例1000件は伊達じゃない

正直言ってこの本はきついです。アスペルガー者(と呼ぶことにしたそうです)はできることは少ない、あれはできないこれができないといろいろ述べられますが、実感としてすべて正しいです

正直に言って、アスペルガー者に高度なマネージメントや、創造的なプロジェクトを任せるのは、その本人にかけがえのない才能があって、他の人間ではどうしても目的が達成できないような場合や、古いシステムを徹底的に破壊して合理的な新しいシステムを廃墟の上に立ち上げる必要な創造的破壊を狙う場合以外には、職場にとっては利益が無いのではないかと推測されます。

正しい。

「働くのをやめる」という環境庁性もあるということを、忘れないことです。働くのがうまくいかないのですから、働かないという選択肢もあっていいはずです。

正しい。

このあたりの内容は絶望的で当事者の反発を受けること必至でしょう。私も反発していました。でも正しい。

私はアスペルガーであると診断を受けたもののだからと言って特別な支援が受けられるわけでもありませんでした。8年かけて、周りと合わせる努力は無駄、摩擦が起きるのは仕方がない、改善されることはなさそうだ、だから周りとの関係をできるだけ希薄にするしかないね、という結論に達しつつありました。この本はその結論を大きく後押しすることとなりました。

感情、共感、想像力って一体なんだよ

この本の優れているところは特にラストの3章です。アスペルガー者は「想像力」「感情」「共感」が無いと言われますが、著者は「じゃあ共感とか想像力っていったい何さ?」といういう疑問を投げかけます。

実際には、共感という言葉はあまりにも曖昧に使われすぎていて、それが正確に何を意味するのか、科学的に意味のあるやり方で定義することができないという問題を無視するわけにはいきません。

私は「感情が無い」と言われたことがありますが決してそんなことはありません。感情はあります。共感もできます。ただし、著者の言うように『質が違う』のです。

定型発達者(本書では「健常者」と呼ばれています)は共感も感情も無意識のうちに勝手に湧くものですが、私は意識しないとそれができないのです。これは先の「情報処理過剰選択説」の「シングルフォーカス特性」および「シングルレイヤー思考特性」で十分に説明できます。すなわち話を聞いたり目で見たときに健常者はまるで2コアCPUのように情報を並列処理し同時に感情やら共感やらが湧くわけですが、アスペルガー者は1コア、シングルスレッドCPUしか持てないわけです。話を聞くか感情を動かすかどっちかしかできません。これも、訓練すればwindowsのようにミリ秒単位で動作を切り替えまくる疑似マルチタスクができるようになるんでしょうけど、切り替えにエネルギーが食われて非効率になることは必至です。そういえば私はここ1年で10kgも痩せてしまいましたがエネルギーを使い過ぎているのかもしれません。

 

この本には★10くらいつけたい気持ちです。米田先生ありがとうございます。生きるのが10倍楽になりそうです。8年前、注意不全で水筒のお茶をぶちまけてカーペットに染みを付けてしまってごめんなさい米田先生!もうカーペットは取り換えたのでしょうか!?

 

自分がアスペだと思う人は明神下診療所に行く前に本書を読んでください。超おすすめです!