書籍レビュー: 発達障害者が読むと人生変わるかも『成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群』 著:広沢正孝

★★★★★(*’∀’人)

著者の広沢正孝さんは順天堂大の精神科医・教授です。専門は精神病理学・保健学。他に統合失調症関連の本も書いています。

発達障害者の精神構造を明らかにする目標で書かれた本

タイトルから一般向けの単行本的なものを想像していましたが内容はバリバリの医師向け医学書でした。でも最高に面白かったし、人生が変わるかもしれないほどの衝撃を受けました。いいですね医学書。もう医師にはなれないけど医師になるための勉強がしたくなりました。

この本はいわゆる「発達障害あるある本」とは一線を画します。まず発達障害者に対して一般の人間がどう接すればいいか、発達障害者はどのようにして社会に適応すればいいかという実践的な要素は皆無です。1冊かけて、発達障害者の精神構造を明らかにするための考察が膨大な参考文献とともに行われていきます。文献はほとんどが英語圏・ドイツ語圏のもので日本のものも精神医学系の雑誌が多く、医学書はみんなそうなんでしょうけれど著者の情報収集力の高さとそれを統合する力には驚嘆しました。

folk physicsとfolk psychology

書くべきポイントは大量にあってまだ自分の中で消化できていないので本書を貫く重要概念の2点に絞って書きます。1点目はである「folk physics」と「folk psychology」という概念です。これはBaron-Cohen(サイモン・バロン=コーエン)の提唱した概念だそうです。

これは脳が対象を認識する働きを2つの領域に分割して捉える考え方です。folk physicsは「庶民物理学」つまり対象が物質的存在としてどのような働きをするかということを捉える働き、folk psychology「庶民心理学」は対象を社会的存在としてとらえようとする働きを指します。大まかに言ってfolk physicsは分類し細部を突き詰める働き、folk physicsは共感し統合する働きです。

バロン=コーエンによれば、一般人は2つの働きをバランスよく発達させ、重なり合わせることで対象との適切な距離や二面性、多層性などを認識することができますが、発達障害者はfolk psychologyが障害されており物事をfolk physicsを使ってしかとらえることができません。物事は様々な観念の集合体としては捉えられず、バラバラのままです。

タッチパネル的自己

folk physicsへの偏りという仮説をベースにして、実際の臨床例から筆者が提示した理論が「タッチパネル的自己」です。これはある患者が次のように自己を認識していたことによるものです。

このころA氏は、主治医に以下のように述べた。「僕の頭はタッチパネルで、縦横に規則正しくアイコンが並んでいます。その1つひとつに重要な内容が入っていて、僕は必要な時に必要なアイコンにタッチするんです。そうするとそこにウインドウのように世界が開けていき、僕はそこを生きて、そこで仕事をするのです。それが社会人の僕です。つまりプログラマーの僕ですよ。先生もご存知のプログラマーってやつで生きている僕なんです。(中略)別の部分をタッチすると、そのウインドウにまた僕がいます。全体としてタッチする順番が決まれば、僕の1日は順調に流れます。でも今は順番が滅茶苦茶で、タッチパネルの情報もどこに入っているのかわかりません。これは危機です。」

A氏の自己イメージ図が添付されていました。HTMLで再現してみます。

6:30AM
朝の支度

7:12AM
電車通勤

8:23AM
駅から会社

8:45AM
仕事前

9:00AM-5:20PM
仕事

0:20PM-1:20PM
昼食

(予備)

(今日はパス)
SF活動

6:05PM
帰り道

7:03PM
電車通勤

7:55PM
駅から自宅

(今日はパス)
秋葉原

8:45PM
夕食

9:20PM
入浴

10:00PM
ブログ

(予備)

 

以上の2理論は衝撃的でした。なにしろこの2つから発達障害者にまつわる諸症状がほぼ全て演繹可能だからです。米田先生の著書の1点集中・極端なコントラスト理論では説明不足なところも補えそうです。

演繹例1

私の例を挙げます。私はきわめて受動的です。他人との関わり方は典型的にな積極奇異(積極的だが挙動不審だったり躁状態だったり変な感じのこと)で、話しかけるまでは時間がかかりますが一旦他人と関係を築くと自己が他人に取り込まれ、自己を喪失します。もうブログの存在がばれたって構わないので書くと、いま隣の部屋にいる元妻との関係が完璧にそうです。私は元妻に思考体系を依存し、子供からは「自分の考えが無い」と非難されバカにされました。

一方、私は自己喪失どころか過剰なまでの自己保持を表すことがありました。例えば私は大学休学後復学し1年通いましたがその時収入はありませんでした。ところがその時元妻がある事情で働けなくなり解雇されました。ところが私は収入が全くない状態で、1年間大学に通い続けました。お金は消費者金融で借金した後に破産して踏み倒しました。今思うとぞっとする行為です。生活が首の皮1枚で繋がっていた状態です。ふつうは収入が無ければ働きますが私は働くことを選ばず、それまでの世界であった大学を保持することを選びました。しかも収入もないのに帰りにゲーセンに寄っていました。私は音ゲー中毒者だったので、この世界を手放すこともできませんでした。さすがにキャッシング枠が無くなったので1年後は中退して就職しました。

以上の行為はタッチパネル的自己で説明が可能です。私の自己はタッチパネル風に分割されおり、「大学生の自分」「音ゲー奏者の自分」「夫としての自分」が独立して存在していて、統合されていません。したがっていとも簡単に「夫としての自分」を切り離して生活を顧みず大学に行ったりゲーセンに行ったりすることが並立して可能となります。

自己に一貫性が無いことが発達障害者の本質です。これは本当に衝撃で、いろんなことがひっくり返りそうな思いがしました。

少し前から発達障害と分裂病(統合失調症)との類似点を感じていましたが、本書では分裂病はあくまで一般人が自己を中心とした心的構造の保持ができなくなった状態、すなわち「定型発達者が陥る病気」であることが示され、すっぱり切り捨てられてしまいました。

一貫性が無いことから多重人格との類似もできそうですが、多重人格は幽遊白書の仙水忍の例からも分かるように、普通の人間がトラウマ的出来事から逃避するために自分の一部を隔離するものとして自らが生み出す適応的行為です。ところが発達障害者は先天的に一貫性が無いのですから話が違います。

様々な精神医学書を読んで示唆するところを得たいと思っていましたが、この知見によって「定型の人の話だし・・・」と一つのフィルターを感じながら読まなければいけなくなりました。できるのかな。

自動的に空気を読むJavascript、必死で空気を読むJava

プログラムの話です。JavaScriptは定型発達者言語、Javaは発達障害言語だと思いました。

JavaScriptは動的型付け言語です。定型人オブジェクトにはあらかじめ「常識」という一連のメソッドが備わっており、適当なメソッド名を与えると何らか「常識」に沿って動作することが期待されています。「常識」には明示的な宣言無しにつけたり外したりすることが可能です。定型発達者は2行で実装できてとても便利です。

var teikei = function(){};

teikei.prototype = 常識; //実装完了。うらやましいなおい!

var man = new teikei;

if(上司が来た)

{

 man.空気読め(); //軽快に動作

 man.率直に意見 = nothing; //動作しなくなる。正しい態度。

}

一方Javaは静的型付け言語で、オブジェクトのメソッドはあらかじめすべて定義しておかなければなりません。「常識」はすべて明確な実装がされている必要があります。一つでもなければ悲鳴を上げてエラーリターンするのです。

class PDD implements 常識 //PDDは発達障害の略語です

{

 public 空気読め()

 {

   if(一人でいるとき)

  {

    何もしないでいい;

  } 

  else if(二人でいるとき)

  {

    相手の気持ちを考える();

    会話を途切れないようにする();

   if(相手が怒ったら?)

   {

     どうしよう

   }

    etc…

  }

  else if(10人でディスカッション)

  {

    無理

  }

 else

  {

     想定外。パニック

  } 

 }

 public 率直に意見()

 {

   いつも通りに発言();

 }

}

interface 常識

{

 public 空気読め();

 public 率直に意見();

}

 

class 実社会()

{

  public static void main (String args[])

 {

   PDD man = new PDD();

  if(上司が来た)

  {

   man.空気読め(); //大変な条件判断。フリーズの恐れあり。

   man.率直に意見(); //消せない。

  }

 }

}

なんという冗長性。ちなみに私はJavaを使ったことはありませんが、類似言語のC#は毎日仕事で使っています。とても使いやすい原語です。書きながらJavaScriptを習得するのに手間取った理由もなんとなくわかりました。

発達障害者は適応するために大量の「常識」を実装する必要があります。これは私が大量に本を読みたい理由です。無数の言語による配線を張り巡らせておけば、何かどこかに引っかかるかもしれない、、という期待があるためです。

私が読む本はほとんどが図書館で借りた本ですがこの本ははじめて「買って定期的に読み直さなければいけない」と思わせる本でした。地味な本ですが全文暗記したいくらいの気持ちがします。だからといって何かが好転したりするわけではないのですが。

 

 

参考書籍

本書の基礎となったバロン=コーエンさんが書いた本。

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

  • 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,水野薫,鳥居深雪,岡田智
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 単行本
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何回も引用されていた本。教師のため、って書いてあるけど中身は濃いみたい。

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック

  • 作者: バルクミン,ギルスティーブンソン,ジュリアリーチ,Val Cumine,Gill Stevenson,Julia Leach,斉藤万比古
  • 出版社/メーカー: 中央法規出版
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本
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これも何度も引用されていた。高い。分厚い。

総説 アスペルガー症候群

総説 アスペルガー症候群

  • 作者: アミー・クライン,サラ・S・スパロー,山崎晃資,フレッド・R・ヴォルクマー,小川真弓,徳永優子,吉田美樹
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2008/05/30
  • メディア: 単行本
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これも多数引用。発達障害者のほとんどは天才ではないが、何か得るものがあるかも。

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

アスペルガー症候群の天才たち―自閉症と創造性

 

 

 よく名前を聴く本。読んでみたい。

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

 

 

広沢先生の本。

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

統合失調症を理解する―彼らの生きる世界と精神科リハビリテーション

 

 

これも引用あり。上の本と合わせて分裂病を知るために。

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)

 

 

発達心理学。自分の発達過程がどのくらい一般とずれているのかを確認するのに有益。

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

ハヴィガーストの発達課題と教育―生涯発達と人間形成

  • 作者: R.J.ハヴィガースト,Robert J. Havighurst,児玉憲典,飯塚裕子
  • 出版社/メーカー: 川島書店
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 単行本
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CDレビュー: Metallica – Reload(1997)

★★★☆☆

メタリカ7枚目のアルバムです。前作Loadに続き76分とほぼフル時間での収録です。

1曲だけ大当たり

やはり心に残る曲は少ないです。1曲目Fuelでは「イエッヘー」なんて言っちゃって今回もちょっとはじけ過ぎです。5枚目Metallicaで見せたスローの中にも硬派魂の見える作風はどこに行ってしまったのか、気が抜けてダルいだけのナンバーが延々と続きます。このだるさも7曲目Carpe Diem Babyくらい弛緩していればそれなりに聴けますが、残念ながら中途半端な曲が多いですね。

1曲だけ良い曲がありました。9曲目Where The Wild Things Areです。「かいじゅうたちのいるところ」とは関係ないようです。他の曲が凡庸なメタルとポップの中間くらいの領域から出ないのに比べて、この曲はかなり浮いています。ダルダルをそのまんま幻想的かつ退廃的な水準までパラメーターを振り切った名曲ではないでしょうか。シングルカットもされないマイナーな曲のようですが何故でしょう?


Metallica – Where the Wild Things Are – YouTube

ビデオクリップを探してビックリしました。演奏風景一切なしでこれは退廃的なんてレベルじゃないですね。歌詞と完全に一致しているある意味直球な内容です。

ハズレが多いのでアルバム全体の評価は低くなりますがこの1曲はメタリカの表現力を大きく見せつけた曲と言えるでしょう。今後に期待です。

 

 

ロック等の他のCDレビューはこちらです。


CDレビュー: Yes – Open Your Eyes(1997)

★☆☆☆☆

Yesの15枚目のアルバムです。このアルバムの前にライブアルバムであるKeys to Ascension 1Keys to Ascension 2 がリリースされていますが、飛ばしました。スタジオ新曲も入っているらしいですがとりあえずスキップです。

中途半端過ぎ。ひどい

なんと1曲も心に残る曲がありませんでした。前作で抱いた期待は一体どこへ行ってしまったのか。どの曲もふつー。ふつーすぎる。演奏は上手なんだけど、何も響いてこないよ!どうしたの!?

ラストSolutionはトラックに入った時23分47秒とわが目を疑う数字でどんな大作がやってくるのかと期待したけど、本編は普通に5分で終わってあとは環境音+たまにボーカルの超手抜きボーナストラックじゃん!もうダメダメ!書くことなし!

 

 

プログレッシブロックの他のCDレビューはこちらです。


ハーバード・クラシックス

生ゴミを出したんです。ゴミ置き場に。

そしたら立派な装丁の本が30冊くらいゴミ置き場に置いてありました。ゴミ置き場は二段構えで本は上の段にあったためゴミにまみれず無傷でした。背表紙は全部横文字だったので日本のものではなく海外のものでしかも全集的な何かのようでした。そういえば1階に初老の白人さんが半年くらいまえに越してきたのできっと彼が出したのかと。文学全集と言えば日本でも教養を見せびらかすために買って読まずインテリアと化していることがよくありますよね。部屋が狭くなったのでやむなくゴミに出したのだと判断し、これは勿体ないお宝だと思って私はヒイヒイ言いながら全部自分の部屋まで運びました。

持ち帰った私は今後読む時間があるかどうかもわからないし難しそうだけれどいつか読破してやるんだと気鋭に満ちていましたが本を確認するとカビまるけでモノによっては黒い虫っぽい者も沸いていてとても読めないし他の本に影響が出そうな有様でした。なんだ保存状態が悪かったのが捨てられた原因だったのかと暗澹たる気持ちで本を元のゴミ置き場に戻しました。私には暗い気持ちとバキバキの両腕が残りました。

 

背表紙に書いてあった「HARVARD CLASSICS」で検索をかけると、1909年に出版された全集であることが分かりました。

ハーバード・クラシクス – Wikipedia

内容を確認するとギリシャ喜劇や国富論、千夜一夜物語、ロウソクの科学、オデュッセイア、君主論、コーラン、孔子、シェイクスピアなどなど読みたいものばかりです。以前に読んだ「ソクラテスの弁明・パイドン」も入ってます。ああ釣り逃した魚は大きい。残念だ。。と思っていたらなんと全作品全文公開されていました!!!

Download The Harvard Classics – Harvard Classics 365

神!神過ぎる!GOD!!Dieu!!하느님!!よく考えたらどれも古典で著作権切れてるので無料で当然っちゃ当然なのですがでもデジタルデータになってるなんて感激!

 

本作品をセレクトしたハーバード学長のチャールズ・エリオットは「教養の基礎は、5フィートの本棚に収まる蔵書と、1日15分の読書により得られる」と言ったそうです。15分をどう作るかが勝負になりそうですが一生かけてでも読んでみたいと思います。


書籍レビュー: 先生ちょっと美化入ってます!『ぼくらの中の発達障害』 著: 青木省三

★★★☆☆

 

広汎性発達障害や関連する精神病・心理学については考えるヒントにするためたくさん読みます。

著者の人柄の良さがにじみ出てる

青木省三さんは精神科医です。専門は思春期青年期精神医学と精神療法です。ので、本書で引用されている例は思春期~20代前半くらいの患者が多いように見受けられました。

序盤の発達障害と定型発達は連続していて、切れ目がない→でも、その程度が強ければ異質なものとなりうる、という理論は腑に落ちました。だれでも大なり小なり精神疾患的な物を抱えています。色々な精神病の本を読んで参考にしようと思っていた私の考えが補強されました。

ちくまプリマ―新書というのは初めて知りましたがヤングアダルト向けの新書だそうですね。なので語り口調が「~してほしい。」とか「僕は~だ。」とかちょっとアツいです。苦手ですがヤングメンに合わせてくれてるのですからいい人なんだろうなぁと思いました。実例でも時には1か月何の反応ももたらさない患者の言い分を辛抱強く聴き、彼らの立場を理解し一緒に問題を考えて、わずかずつでも彼らに変化をもたらしていった青木さんのまごころには心打たれます。青木さんのおかげで頭を打ち付ける自傷行為などの二次障害を克服した患者さんも沢山いるようですね。

ちょっと美化しすぎでは

いくつか納得できない個所があります。

青木さんは発達障害者を「表と裏のない純粋な人」とラベル付けていますが、これはどうなんでしょう?発達障害者だって表と裏はあります。内面での葛藤についてはおそらく定型発達者と同じです。ただし思考の方向性やアウトプットが間違っているため、表と裏のつもりなのに裏と裏に見えるような発言をしてしまうのです。

また、次の記述には全面的に反対です。それは特別支援級の自閉症を持つ生徒がバスの中で誰彼敵わず毎日「おはようございます」と言ってピリピリしているバスの中の空気をやわらげた、というエピソードについての青木さんの感想です。

人に対して内面を隠すという「自閉」は定型発達と呼ばれる人の中にあるものであり、逆に広汎性発達障害で「自閉」を持つと言われる人の中にこそ、内面を隠さず人と繋がり情報を伝達する可能性があると、僕には思えてならない。

美化しすぎ!集団生活の秩序という観点から見れば、間違った情報やその場にそぐわない情報を伝達しまくる発達障害者は、トラブルの原因にこそなれ集団の雰囲気をよくすることなんてレアケースです。

例えばまたリーマンショックの例で申し訳ないですが経営が危ないという噂のある世界的な銀行の頭取が発達障害だったとして、記者会見で「経営は盤石です」と言わず「一週間で資金が尽きます。破産です」と言ったらどうなります?全世界で取り付け騒ぎが起きて経済大崩壊ハルマゲドン、長期ズンドコ大不況に陥ったのちに頭取は1年後の回想録で「俺は真実を伝えたんだ。。」と書きベストセラーになるに違いありません。というわけで発達障害は迷惑です。話はそれますが金融マンというのは発達障害者が絶対になれない職業の一つですね。トレーダーなら向いてますけど。

わたしは「発達障害者はリーダーにするな」とか「仕事をしないという選択肢も尊重されるべきだ」という米田さんの方が好みです。

青木先生は集団生活になじめない発達障害者をケアし、その菩薩のような人格で彼らを集団内にとどまらせる力を持ったすばらしい人間だと思います。でも個人的には集団なんか出ちゃえばいいじゃん。と思うのです。

それに根本的な問題として、周りにケアしてほしくありません。発達障害者にどう接すればいいか、なんて考えてほしくありません。配慮されるなんて屈辱です。

すっごくいい人なのにごめんなさい。

 

 

関連書籍

 

青木さんの他の著書で読んでみたいもの。

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

僕のこころを病名で呼ばないで―思春期外来から見えるもの (ちくま文庫)

 
大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

大人の発達障害を診るということ: 診断や対応に迷う症例から考える

 

2冊目はあまりよくない言い方をすると「精神科医はどのように発達障害者を見ているのか」を知るために必要と思いました。


書籍レビュー: エヴァ好きが書いた一夜漬け用テキスト『グラフィック ミクロ経済学』著: 金谷貞男・吉田真理子

★★★★☆

 

私には野望があります。大学中退という負い目をバネに、あらゆる分野の知識について学部卒以上の知識をつけたいという野望です。ゼロからのスタートです。

そもそも大学で教えられている政治・経済・文学・歴史学・哲学・心理学・語学・物理学・化学・生物学・工学・医学などなどの学問は、興味のない分野など存在しません。どれも面白そうです。しかも、長いこと生きているとどの学問も自然と生きていく上での必要性を痛感する出来事にぶちあたります。不思議なものです。

まず経済学が必要になりました。個人的な金銭的行き詰まりのせいです。金を儲けたいので株や企業分析の勉強をしましたが、企業がどのように市況に影響を受けるのかわからない。それに新聞の経済欄で言っていることも全然わからない。なんでアメリカは利上げするの?中国はどうして在庫作り過ぎてバブルになったの?株安と円高がスパイラルで進行してるんだけど為替レートはどういう思惑で動くわけ?なんで株と連動してるのさ。未だに全く分かりません。いまリーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)を読んでますが背景知識がないので面白さが半減しているような気がしてなりません。

というわけで経済学が必要です。株は短期的にはギャンブル要素が強いので学んだからといって儲けられるようになるわけではないのですが、長期的視点が欲しいことと、「なぜ」が分からないと気持ち悪くて仕方ないです。

 

さて経済学には大きく分けてマクロ経済学とミクロ経済学があります。ニュースでわけわからんのはほとんどマクロ経済学の話題っぽいのでマクロ経済学の本を買ってみました(読み終わり次第レビューします)。ところが目次に「マクロ経済学のミクロ的基礎付け」なんてものがあります。じゃあミクロ経済学先に勉強しなきゃダメじゃん。そこでブックオフで200円と投げ売られていたこの本を手に取ってみました。

わかりやすいが、役立つのかどうか全く分からない

非常に分かりやすいテキストでした。市場の基本的な理論にはじまって家計・生産・費用・独占・厚生のトピックに分けて、タイトル通りグラフを大量に導入して丁寧に説明してくれます。おかげで一通りの理論について「理解」することはできました。比較的短時間で読めるので、一夜漬けにぴったり、試験でもそれなりの点数を取ることは可能です。

ただし本書では明らかに不足です。何が不足かと言うと、例示が現実離れしており(後述)、グラフの意味を極めて分かりやすくするためだけの例に終始しています。おかげさまで理解は楽ですが、現実にどう適用していいのか全くわかりません。他にもっと詳しい本を買って補強する必要ができました。また経済学というのは限界生産性逓減の法則やら完全競争の前提やら情報の完全性やら現実に適用できるのかとても怪しい原理の上に成り立っていることもよくわかりました。あまり厳密に議論すると現実と乖離すること間違いありません。いまのところ、どの理論も話半分で「本当かどうか分からないけど覚えておく」くらいのつもりで理解しました。

エヴァマニア

投票者がシンジ君、レイさん、アスカさんの三人であるとしましょう・この三人が部屋に飾る花を投票によって選ぶとしましょう。・・・

とか

5000円の価格の時、アスカ水産の供給量は図1.10のC1(10尾)で示されます。また、カヲル漁業の供給量は図1.10のF1(2尾)で示されます。・・・

とか、登場人物名が全部エヴァンゲリオンです。また、本書で扱われる財はすべて伊勢エビと牛肉です。

このせいで理論は理解しやすいのですがどの例も現実離れして浮いてしまっています。イメージがわかないのが残念です。。

 

 

参考書籍

次はこれ。幸い、田舎な私の地域の図書館に何故か置いてあったので、長期で借りて読破するつもりです。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

 

 

 でもこれも捨てがたい。4320円768ページ。分厚い。高い。

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

  • 作者: N.グレゴリーマンキュー,N.Gregory Mankiw,足立英之,柳川隆,石川城太,小川英治,地主敏樹,中馬宏之
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2013/03/22
  • メディア: 単行本
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ミクロ経済学の発展。

財政学 改訂版

財政学 改訂版

 

 

国際関係や貿易などはマクロ経済学を学んでからっぽいのでまた次の機会に。


CDレビュー: The Rough Guide To Scottish Folk(2000)

★★★★★

 

今回のワールドミュージックはスコティッシュフォークです。フィドルとバグパイプとを多用していることが特徴です。

グレート・ハイランド・バグパイプ – Wikipedia

 

電子音に郷愁を馳せてしまった

9曲目のThe Tannahill Weavers – Good Drying Setの後半のバグパイプ三昧を聴いて、ものすごく懐かしい気分に囚われました。

(残念ながらyoutubeになかったので、試聴の出来るamazonへのリンクです)

 

この耳の奥をくすぐるしかしなんとなく居心地のいい中毒性の音、、聴き続けているうちにわかりました。これ、単純なノコギリ波と同じ音じゃん!そしてノコギリ波といえば、初代ファミコンだ!

www.youtube.com

(ノコギリ波で一番先に思いついたソフト)

わたしゃファミコンに郷愁を感じてしまっていた!普通は人工物たる創作から雄大な景色やら大自然やらを想起するものですが私は逆に純人工物を想起してしまいました。まじでGood Drying Setを聴き続けていると後半は完全にファミコンです。なんだかなあ。感覚どうかしてるのかな。でも懐かしいものはしょうがない!

 

そのほか、現代的アレンジで堕落してしまっている曲もいくつかあるけど、13曲目のThe Quiet Manなんかもフィドルが熱い燃え燃え曲でいい感じです。

 

(これもYoutubeにないのでやむなくAmazonのリンクです)

 

全体的に明るく元気でおすすめ。民族音楽はお祭り的要素が大きいですから、みんなで踊れるような曲が多くていいですね。

 

 

ワールドミュージックの他のCDレビューはこちらです。


書籍レビュー: ざわりとする生物学『カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学』 著: D・サダヴァ他

★★★★★٩(๑❛ᴗ❛๑)۶ 

 

高校の時生物が苦手でした。覚えることが多く暗記ばかり、計算が無いしイメージできず辛い。世界史と並んで毎回赤点寸前の劣等科目でした。もちろん大学入試には使わず、うっちゃっておいた領域の一つです。

しかし食や環境の本を読むにつけ色々な主張の生物学的根拠に一々疑問を持ってしまい、本当にそうなんけ、間違ってるんとちゃうんかい、一体どこまで妥当なの?と考え生物学の必要性を痛感しました。その後いろいろ物色してこの本に辿りつきました。

本書はLIFEという向こうではポピュラーな生物学テキストの抄訳です。 MITでは全員(生物学専攻以外の学生も含む)がこの教科書で学ぶそうです。

Life: The Science of Biology

Life: The Science of Biology

 

本シリーズ全5巻で、この教科書の約半分をカバーします。第1巻である本書では生物の基本のキである細胞を取り扱う、「細胞生物学」というタイトルがついています。

生物すごすぎ

内容は見事というしかありません。いや生物学が専門の人から見たら物足りないとか翻訳がダメとか言うんでしょうが私のような生物初心者にとっては最大級のインパクトがありましたよ。生物すげぇ!

まず丁寧な図解。しかもカラー。文字だけではわけのわからんカタカナ語の羅列にしか見えない複雑な反応系が図に落とし込まれることで脳に優しい形に変化し、葉緑体のホラーな生物工場っぷりやファゴサイトーシスのキモさ、クエン酸回路の美しさや膜内タンパク質の不気味さを存分に味わうことができます。

そして生物の奇跡。超蝶々複雑であると同時に美しくキモく絶妙なバランスで安定を保つ完璧な構造をしています。人間がどんなに頑張って作業ラインを組み立てたって敵いそうにない最強の物質生産・消費工場です。しかもこれがあらゆる生物の微小な細胞一つ一つに備わっているなんて!何十億年という地球環境の厳しさによって絶え間なく破壊され続けてもそれに抗って生き延びてきた生命の所業ということなんでしょう。

空気を読む細胞

(以下は生物学に詳しい方にとっては当たり前の内容です)

最も感動したのは好気呼吸における正のフィードバック・負のフィードバックの仕組みを読んだ時でした。

好気呼吸をざっと説明します。我々が炭水化物や脂肪類を食べると唾液や胃酸などでグルコース(ブドウ糖)に分解され、それが各細胞に行き渡ってエネルギーに変換されます。細胞内では次の図のような複雑な反応が行われています。これは単細胞生物のような原核生物を除いた全生物ほぼ共通です。

呼吸 – Wikipedia

目が痛くなりそうな図ですね。細胞内ではまずグルコースを炭素数半分のピルビン酸*2に分解し(解糖系、上図の左半分の反応)、それをミトコンドリア内のクエン酸回路(上図の右下の反応)に放り込んで二酸化炭素まで分解します。グルコースに蓄えられていたエネルギーは解糖系とクエン酸回路で各種物質と結びついたH+として化学的に保持された後、これらはミトコンドリアの電子伝達系(上図の右上の反応)を通じて大量のエネルギーを生み出します。

こんな超複雑な化学反応を連続して安定的に起こすためには、バーのマスターなんか目じゃないくらい各種物質を絶妙な割合で混合し、しかもその状態が恒常的に持続する必要があります。どれか1つの中間物質が少なくなる・過剰になるだけで、分子のバケツリレーが止まり細胞は死にます。おそろしい。

生物はフィードバック機構という化学的な仕組みを取り入れこの問題を解決しました。すべての反応には酵素が関わります。酵素とは化学反応を円滑に進めるための生体触媒です。矢印一つ毎に別々の酵素が関わっていると考えて良いです。好気呼吸においては、各所の産生物がいろんな場所の酵素にくっつき、反応速度を速めたり(正のフィードバック)、遅くしたり(負のフィードバック)するのです。

http://homepage2.nifty.com/nutriology/top-page/molecular-nutriology%286%29/kouso-10.gif

サブページ 1

上図は負のフィードバックの例です。例えるなら、ドラえもん(上の図の最終産物D)を量産する工場があったとします。ドラえもんを1日100体製造するペースを保ちたいのに、今日は組み立てラインの工員(上の図の酵素Ⅰ~Ⅲ)が頑張りすぎて正午なのに80体も製造してしまったとします。すると最終産物であるドラえもん自身が「お前ら働き過ぎ!休め!」と言いながら工員にくっついて邪魔をします。以後はラインの速度が低下し1日100体という計画をずれることなく見事操業時間を終了することができました。これが負のフィードバックです。

最終産物自らが酵素に働きかけ、自立的に物質の流れを制御する…なんてエレガントで美しいの!感動しました!いわば細胞内の物資たちが勝手に空気を読み、永遠の秩序を保つわけです。空気の読めない発達障碍者のみなさん、あなたが生きているということは、あなたの身体の中の物質は立派に空気読みまくってるわけですよ!誇ってください!

ざわざわする

このような奇跡は一方で危うさを感じさせます。ちょっとバランスが崩れたら死ぬんじゃないか。実はその通りで、1カ所の酵素が機能不全であるだけで慢性的な難病になることが多いのです。バランスが崩れるの怖い。すぐ死ぬ。同じことは宇宙に関する本を読むたびにも思います。地球があと少し太陽からはなれていたら寒くて死ぬし、少し近づいていたら焼け死んでる。本質的にスケールのでかい本を読むといつも気分がざわつきます。最悪の想像ばかりしてしまい、ああ1秒後に死ぬかも。次の瞬間に世界が終わるかも。という気持ちになります。我々は無数の奇跡の上に生きていると強く感じさせられる本でした。

化学知識と原書

本書の欠点は高校程度の化学の知識が必須であることです。私はたまたま化学で大学受験したので何とか読めましたが、そうでないと厳しいでしょう。

でも原書には化学の基礎知識の章が1つもうけられてますね。

Life: The Science of Biology

Part One. The Science of Life and Its Chemical Basis

  1. Studying Life
  2. Small Molecules and the Chemistry of Life
  3. Proteins, Carbohydrates, and Lipids
  4. Nucleic Acids and the Origin of Life

さすがは1冊で独習できる書の揃ったアメリカ。ちゃんと完結していてすばらしい。いずれ原書も読んでみたいものです。訳者がこの本を読むのは化学を高校で勉強した人間だけだぜって仮定したからなのか、紙面の都合(こっちかな)で大事な1章をばっさりカットしたことは欠点の一つです。

 

しかしそんな欠点なんぞ全く気にならない内容でした。すばらしい。生物すごすぎる。まじすげぇ。まずはこのシリーズを5巻全部読破することが目標です。

 

 

 

全部読み終わったらこれかな。

 

キャンベル生物学 原書9版

キャンベル生物学 原書9版

 

 16200円1728ページ!!たけーーー。なげーーーー。

 

Campbell Biology (10th Edition)

Campbell Biology (10th Edition)

  • 作者: Jane B. Reece,Lisa A. Urry,Michael L. Cain,Steven A. Wasserman,Peter V. Minorsky,Robert B. Jackson
  • 出版社/メーカー: Benjamin Cummings
  • 発売日: 2013/11/10
  • メディア: ハードカバー
  • この商品を含むブログを見る
 

原書は10版がすでに出てるじゃん!買うならこっちだね。でも3万円。死ぬ。100ページ当たり約200円と考えれば安いかも。でも一度に15冊大人買いするのと同じ意味だからやっぱり死ぬ。アメリカamazonでは絶賛されています。

 


CDレビュー: Paul Motian Quintet – Misterioso (1987)

★★★★★

ドラマーPaul MotianのComplete Remasteredシリーズ、3枚目です。

ぼやぼやフリーダム

1曲目Misteriosoのインパクトがまたも強いです。ぼんやりぼやぼやしているようで何か狂っています。2曲目Abacusも気持ち悪い。ボックス2枚目のJack Of Clubsにも参加していたビル・フリーセルが演奏する、亡霊のように宙に浮いている形容しがたいギターが冴えています。と思えば4曲目Gang Of Fiveのような純粋にかっこいい曲もあるし、一体何を考えているのかわからない人たちです。

10曲目Danceが最もフリーダムかつ強烈で、中央に浮かぶギターのせいでわけわからなさが大幅に増しています。中盤のベース→ドラムソロゾーンは必聴。うーんかっちょいい。

 

ライブ版のMisteriosoです。ベースが無く本CDよりもほのぼの感が漂ってます。


Paul Motian Trio ~ Misterioso – YouTube

 

 

ジャズの他のCDレビューはこちらです。


CDレビュー: Ray Bryant – Ray Bryant Trio (1957)

★★★☆☆

ジャズの100枚。シリーズもようやく20枚目となりました。レイ・ブライアント(1931-2011)はアメリカのジャズピアニスト・作曲家です。ジャズメンとしては珍しく長生きですね。

良くも悪くもクセのない演奏

バラードからアップテンポ、ピアノソロと一通りそろったアルバムです。彼のピアノは流麗で癖が少なく、かすかな哀愁を漂わせつつタバコの煙のように流れていって、あまり後に残りません。

そう、印象が薄いんですね!どういう感想を書こうかとても迷うアルバムでした。Djangoは好きな曲なんですがあまりにもスタンダードすぎて、安心して聴けるんだけどそれ以上のものではないのです。

聞き流すのには最適かもしれませんが、私はまだ耳が成熟していないので、もっと創造的な演奏を期待してしまいます。。

 

 

ジャズの他のCDレビューはこちらです。