哲学書100冊

最近本を全然読んでないので哲学書を100冊読もうと思い立ったので、頑張って100冊読んで全部感想を書いていこうと思います。

以下は読んだ本のリスト、難易度、おすすめ度の一覧です。

A.哲学を話題にした一般書

まずは入門もかねて一般書を読んでいきます。

1.世界の哲学者に学ぶ人生の教室

難易度 ★☆☆☆☆

おすすめ度 ★☆☆☆☆

哲学者の思想の紹介は面白いが、現実に思想を適用するとなぜか思想から魅力が消える。ビジネス書を批判しているのにビジネス書っぽいことばかり言っている(ビジネス書はいいものもありますよ)。著者が2人いて2人とも??のつく解釈が多い。

特に3-4章の白取さん担当の章はひどい。私の知っている思想と全然違った。政治もビジネスも無前提で悪だし、 民衆はみんな愚民だし、こんなん哲学がつまんないとおもわれるやん。困る。

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2.知識ゼロからの哲学入門

難易度 ★☆☆☆☆

おすすめ度 ★★★★★

西洋思想の主だった人物の考えをそれぞれマンガも図も込みで6Pずつでまとめていくスタイル。エッセンスを短い文章に抜き出す際、通り一遍の説明ではなく著者の言葉で説明しようという苦心がにじみ出ている。本当に知識ゼロでもマンガと図の助けによって意味が(ある程度は)わかる。著者の誠実さが伝わる。おすすめ。

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3.世界はなぜ「ある」のか

難易度 ★★★☆☆

おすすめ度 ★★★★★

アメリカ人哲学者のジム・ホルトが存在の謎を求めて哲学者、物理学者などを渡り歩く。

誰でも「Aだよ」「なんで?」「Bだから」「なんで?」→以下永久ループ、という物言いをしたことがあるだろう。この議論は必ず「なぜ存在があるのか」という問いに帰着する。この難問に対して、古来より神、数、言葉などいろいろな説明が考えられてきて、最近ではビッグバン、量子ゆらぎなんかも登場している。著者は旅の末、一応の結論に達するが、これに納得するかどうかは読者に委ねられている(私はまあまあ賛同した)。

文章はジャーナリスティックで軽妙で、哲学者の知識がなくても読める。でも哲学史を少しでもかじっているとより面白い。特にウィトゲンシュタイン、サルトル、ハイデガー、ネーゲルあたりは作中でよくいじられるので知っていると楽しい。

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4.AI原論

難易度 ★★☆☆☆

おすすめ度 ★★★☆☆

数年前に読んだものの再読。著者の西垣通先生は、東大情報学環で2000-2013年まで「基礎情報学」を掲げて情報学と哲学の橋渡しをした、いわゆる学際的な研究を行ったひと。私も大学を退学しなかったらここで研究した可能性がある(かも)。関連書のレビューは↓

西垣通『新基礎情報学』まとめと感想 | 六帖のかたすみ (rokujo.org)

以前は単純に感銘をうけたが、今回は結構疑問だらけになった。

基本的な考えとしては「AIは他律、人間は自律、というパラダイムは崩れていないのでAIは理論的に人間にはなれない」というもの。

本書にも出てくるが、疑似的に人間のふりをすることができればそれは人間と区別がつかないんじゃないかという主張が昔からある。チューリング・テストというやつ。でもこの考えは、人間が「自律」で機械が「他律」という前提は崩してない。

で、思ったんだけど、そもそも人間って「自律」を意識できているのか?誰もがみんな人間のふりをしているんじゃないのか?「私は私!」と誰もがぼんやりとは思っているだろうが、明晰に考えることは果たして可能なのか?AIと人間の区別は曖昧なのでは?

AIはプログラムがあるからしょせん他律、生命の自律とは違う、過去のデータを抽象化してるだけで変化に弱いだろという点も、そりゃあ今のとこはそうだろうが、現実をみてフィードバックを入れる機能だって高速化していくだろうから、疑似的自律性を極限まで高めたら原理的には適応度が上がっていくのではないか?

我々人間もカントの言う通り神の認識には及ばず、現実を疑似的にわかったつもりになるしかないんだから、「自律」自体が仮想なのでは?我々も自然法則という「他律」のプログラムの一員ではないか。

そんな感想を持ちました。

5章の一神教のとこは唐突だし雑(キリスト教即選民思想はいいすぎでは、とかいろいろ)なので、学際的な人ってどうしても細部が雑になりがちなのはあるあるなのかと思ってしまった(自分もそうだけど)。

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5.哲学入門(三木清)

難易度 ★★★☆☆

おすすめ度 ★★★★☆

青空文庫で無料で読める哲学入門。でも入門書にしてはハードルが高い!現代の解説書と違って親切に体系化されてないし、初学者には難解な定義、用語、哲学者の思想が頻出する。20代でこれ読んだ時は意味不明、なんこれ、な状態になったのは仕方ないと思った。

とはいえ一通り哲学史が入った今では楽しく読めた。一見矛盾した概念の『統一』がキーワード。もう一つは概念の境界線を意識するための『超越』。それぞれベースの思想はヘーゲル(弁証法)とカントと思われるが、著者の仏教めいたアレンジも入っている。終盤の倫理学はまだ基礎がないためあんまり頭に入らなかった。

割と衝撃だったのが「運動は同じ点にありかつあらぬということだから、運動には矛盾律(=Aかつ非Aということはありえない)が適用できない」ということ。言われてみればそうな気もするが、すっきり納得できない。今後の検討課題にしようと思う。

三木清 哲学入門 (aozora.gr.jp)

6.差別の哲学入門

難易度 ★☆☆☆☆

おすすめ度 ★★★★☆

前提知識は必要なく、平易で読みやすい。

中盤では差別がなぜ悪いか、について4つの考え方を紹介し、どれも一長一短あることを示す。なぜ~が悪いのか、について真面目に考えるのは哲学の面白いところ。差別は無条件に絶対悪である、と考えている人はぜひ読んでほしい。

差別が悪いかどうかはさておき、最もよくないのは「××差別は存在しない」という態度で、これは現実に起きている差別を隠蔽するだけで、何もよいところがない。また「私はあなたの××(被差別属性)はあなたとは関係ないと考える。あなたはあなたである」という態度は一見フレンドリーだがやっぱり人間をトータルに見ないということになるので、よくない。

終盤では無意識の差別について語られるが、これは習慣みたいなものだから、いくらでも変えようがあると感じた(本誌でもそれっぽいことは言われている)。

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7.音楽の哲学入門

難易度 ★★☆☆☆

おすすめ度 ★★☆☆☆

音楽を主に言語哲学の立場から分析するという趣旨の本。著者はアメリカの哲学者。

特に前提知識はいらないが、大陸哲学のお作法に則っているためちょっと回りくどいうえに、著者の音楽オタク自慢とアジアに対する偏見が邪魔して読みにくい。

あと結論(音楽には文化も言語も不可欠)が気に入らない。この結論だと人間以外の鳥の歌とかは全部音楽ではないことになる。論証は正直穴があるのかどうかよくわからないので判断できないが、結論がやだ。哲学専攻の人はともかく、一般の読者さんは私と同じ感想の人も少なくないと思う。というのも音楽って様々なフェーズからの受容が可能じゃないですか。文化や言語を知ってても、知らなくても、その人なりの楽しみ方ができるものじゃないんですか?音楽に限らず芸術作品ってみんなそうだし、アーティストが「俺の意図はこうだからこう解釈しろ」って全員が思ってるわけじゃないと思うし。

定義を詰めてから定義に当てはまるかどうかを検討するスタイル自体は別に文句のつけようがないんだけど、言葉で音楽を語るのって本当につまんない行為なんだなあということがよくわかる本だった。

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8.哲学の謎

難易度 ★★☆☆☆

おすすめ度 ★★★★☆

野矢茂樹さんが野矢茂樹さんとラノベ風に自己対談する形式で進む、哲学入門書。内容としては、他者、意味、自由、行為などの基本的なトピックスを扱う。ラノベ風なので会話の内容は軽いが、内容は存外に重く、興味がない人にとっては読むのが大変。加えてラノベ風なのでノイズも多く、話の要点がボケがちで万人にお勧めできる本ではない。

しかし哲学はギリシャ時代より対話が基本なので、プラトン対話篇の基本に忠実な書物ともいえる。基本的なトピックスとは、現代にいたるまで解決を見ていない問題ばかりで、どれも手ごわいものである。ある程度知識のある人なら、野矢さんがちりばめた数々の教育的配慮に気づくことができるだろう。

amazonレビューで見かける「こんなん考えたことあるわ」という感想を抱く人ほど、本書の扱う問題の難しさを理解していないのではないか。本書は慶應通信の総合科目「哲学」の参考文献の一つ。ぜひチャレンジしてみて欲しい。

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9.ロボットの心

難易度 ★★☆☆☆

おすすめ度 ★★★☆☆

8と同様に慶應通信の総合科目哲学の参考図書の一つ。ロボットは「心」を持ちうるのか?という疑問を掘り下げていく本である、と冒頭を読んだときに理解していた。

この本を読む前の私の思い込みとして、「心」なんて人間が作ったフィクションなんだから、持ってる持ってないは誰がそれを「心」と認めるかによるんじゃね?という思いがあった。なのでその思い込みを崩してくれるかなーと期待していたが、本書はそういう議論の展開ではなかった。

『人間に「心」というなんか客観的なものは存在する』ということは認め(!)、ロボットにそれと同等のものが持てるか、という議論を展開していくというスタイルだった。まず論理的思考力の面から、紙面の半分以上がAI論で埋められる。で、残りの1/3程度で、感情、善悪についてちょこっと語って終わり。なので、ほとんどがAI論だった。期待してたものと違った。

とはいえ、AI論、感情、善悪といったトピックについては読みやすく、おすすめはできる。ただ、各章の冒頭にあるSF崩れの導入文は、没入・共感しづらく興がそがれるので、なかったほうがよかったのではないか(個人の感想です)。

以下は今後読むものリスト(がんばろう)

哲学(慶應通信)
現代哲学講話(戸坂潤)

B.哲学史

ヨーロッパ思想入門
哲学史入門Ⅰ(NHK・買う)
Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
西洋哲学史Ⅰ(慶應通信)
西洋哲学史Ⅱ(慶應通信)
西洋哲学史(今道)
シュヴェーグラー西洋哲学史上

ラッセル西洋哲学史1
2
3
哲学史講義(ヘーゲル)Ⅰ
Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
Ⅳ(買う)
世界哲学史Ⅰ(買う)
Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
Ⅳ(買う)
Ⅴ(買う)
Ⅵ(買う)
Ⅶ(買う)
Ⅷ(買う)
別巻(買う)

C.ギリシャ哲学、古代哲学

西洋哲学の根源
ソクラテスの弁明
国家 上
下(買う)
アリストテレス倫理学入門
世界の名著アリストテレス

ヘレニズムの思想家
神とは何か

D.近代哲学

デカルト方法序説を読む
方法序説

人生の短さについて セネカ

哲学者たちのワンダーランド
ドイツ観念論
カント入門
純粋理性批判(御子柴・入門書、買う)

パンセ
現代フランス哲学に学ぶ
現象学とは何か
現代に生きる現象学
フランス現代思想史
実存主義とは何か
構造主義がよ〜くわかる本
メルロ=ポンティコレクション
メルロ=ポンティ読本
リクール読本
ミシェル・フーコー(クセジュ)
ミシェルフーコー(重田)
フーコー「性の歴史」入門講義
性の歴史Ⅰ
人間不平等起源論

ハイデガー入門
ハイデガー存在と時間入門
原初からへの思索
ハイデガー読本Ⅰ
続ハイデガー入門
西田幾多郎善の研究を読む
西田哲学への問い

朝鮮思想全史

E.現代哲学

現代哲学への挑戦
ウィトゲンシュタイン論理哲学論考(入門書)
はじめてのウィトゲンシュタイン
言語哲学がはじまる
悪い言語哲学入門
言語真理論理
反哲学史
現代の哲学
現代文明論講義
英米哲学の挑戦
人間知性研究
知の教科書デリダ
デリダもう一冊
鉄の処女
分析哲学入門

日常世界を哲学する
ワードマップ現代形而上学
現代形而上学入門
現代存在論講義1
2

生まれてこないほうがよかった
生まれてこないほうがよかったのか?

F.科学哲学、倫理学

科学の解釈学
科学哲学(慶應通信)

倫理学(慶應通信)
ここからはじまる倫理
ブックガイド基本の30冊倫理学
メタ倫理学入門

G.法哲学

法哲学入門
法哲学(慶應通信)
法哲学(瀧川など)
死刑 その哲学的考察
世界の法思想入門

F.政治哲学

西洋政治思想史
リベラルのことは嫌いでも
はじめての政治哲学
権力論
社会はなぜ左と右に分かれるのか
マルクス取扱説明書
マルクス入門講義
政治における合理主義
リベラリズムとは何か
プラグマティズム入門
アナーキー・国家・ユートピア
政治における合理主義
人間の条件
丸山眞男セレクション
ロールズ

H.フェミニズム論

フェミニズム入門
ポストフェミニズム
ジェンダーセクシュアリティ
愛について
美とミソジニー
バトラー
クイアスタディーズ
クイアの本Ⅰ

決定版第二の性1
2
分析フェミニズム基本論文集


妻の自慢(適宜追加)

知的な雰囲気がする すごい

難しい大学2つも出てる すごい

しかも片方は門狭過ぎの社会人入試 すごい

説明能力が並外れて優れていてすごい

言語性能力がめっちゃ高いのですごい(WAIS?で判定済)

人の話を素直に聞けるのですごい

小さい頃に新聞のバックナンバーを何年分も読んで世界の仕組みを理解したのですごい

小さい頃に日本文学世界文学をコンプリートしているのですごい

学校のある日は5冊、ない日は毎日10冊読んでいたのですごい

ブログとか文章を爆速で書ける(10000字を1時間ぐらい)すごい 構成ができてればあとはコピーするだけらしい

怒らないしごくたまに怒っても2秒で終わる すごい

塾で担当した生徒さんの成績がいつも短期間で爆上がりするのですごい(私はなかなか上がらない)

しかも毎回親御さんの信頼が強くてすごい

学費老後のお金の計算が趣味なのですでに将来の見通しが立っている すごい

買い物するのをやめて株を買うようになったのでお金が減らずに増えるようになった すごい

ご飯作るの速くてすごい 

しかもおいしいのですごい

絶対に薬を飲み忘れない すごい

何事も創意工夫がすごい

子どもへの対応が完璧ですごい(なんかあったときのフォローとか見習いたい)

子どももいい子に育っているのですごい


ローティとカミュ

 放送大学の「英米哲学への挑戦(’23)」が面白いです。放送大学の哲学科目はとっつきにくく抽象的で難解なものが多いんだけれど、この科目は哲学と文学を毎回関連させて紹介してくれるため、具体的なイメージと共に思想を理解できてとても楽しい。そもそも文学の働きというのは、抽象的な思想を具体的に展開させて私たちに体験させてくれるためにあるのかな?ありがたやありがたや。40年生きてきていまさらこんなこと思うの周回遅れって感じだけれども、今分かっただけでもよしとしたいですね。

 ここの所毎日4講義を聴いていて、今日は第9-12回目を聞いていて面白かったのが第11-12回目。まず第11回、ローティというプラグマティズムで有名(らしい)哲学者の、オーウェル「1984」に関する理解がなかなか想像を超えるものだった。以下「1984」のネタバレを含みます。私も読んでないのでネタバレされてちょっと微妙な感じ。でもいいや。

 「1984」はざっくりというと、ビッグブラザーっていう独裁者の下でウインストンという人が歴史を書き換える作業をしていたんだけど、そこでオブライエンっていう上司を裏切って反抗するも、拷問され、思想を改めるって話です。いわゆるディストピア小説の代表で、よくX上でも賢しらぶりたい人が話題に出しますよね。一般的にはファシズムへの反抗とか、全体主義へのアンチテーゼと言われています。

 ところがローティって哲学者がそのような理解に異を唱えてる。「1984」は全体主義はいかんという話ではなくて「私たちの選択としてありうるシステムのうちの1つ」だと捉えようって言いだしてるんですね。なんじゃそりゃとはじめは思いましたが、そのように考える理由を聞いたら、結構納得できたんですこれが。

 全体主義はいかん!という解釈は、全体主義はいかん!という「真理」を前提としている。その背後には「我々はただ一つの真理に必ず到達することができる」という確信がある。その確信って、クソじゃないですか?というのがローティの考えです。

 ただ一つの「真理」があるということは、その「真理」に到達した瞬間議論が終わっちゃうわけです。議論が終わるということは、「その話題はこういう真理がありますので議論は終わりですねハイ論破ぁ!」っていうことになります。これは黙らせる力、暴力、傲慢だとローティは考えた。

 よくいませんかこういう人?「俺は真実を知ってる、お前は真実を知らない。俺が真実だ。俺を信じろ」的なやつですよあれあれ。私はこの点で、ローティに心底感銘を受けたんです。

 じゃあ真理の取り扱いはどうするかというと、偶然的なものだと考えるそうですよ。今真理と考えられているものは、歴史的な偶然によってたまたまそう考えられているだけであり、いつひっくり返されるかわからない。全体主義はいかんし、私たちの共通認識としてそう考えられているわけではある。でも、それは今後の歴史的展開によって完全に変わってしまうかもしれない。我々はそのための探究をやめるべきではない、というのがローティの言いたいことです。だから、「1984というのは我々の取りうる可能性の1つであると捉えるべき」だということです。実際、私たちの考えが根本的に変わってしまうことなんて、日本では敗戦がありますし、科学の世界でも相対性理論とか量子論とかAI(これは根本的ってわけじゃないけど)とか枚挙にいとまがないっすよね。

 プラグマティズムを知らないのでググってみましたが、以上の考えとかすっている感じですね。科学的なものの捉え方とも合致してます。科学って、全ては仮説で、今後ちゃぶ台返しが起きる可能性を常に留保していますので、科学大好きなメリケンさんとの歩調もあってます。

 というわけでローティさんは腰を据えて読みたい哲学者リストの一人に入りました。

 もう一人面白かったのがカミュさん。第12回の講義では、ギリシャ神話の有名な「シーシュポスの岩」が題材になっていました。シーシュポスが神々を欺いたので、罰として、岩を山頂まで運ぶように命じられ、運ぶんだけれども山頂に届く瞬間に岩が転げ落ちてしまい、またやり直し、を永久に繰り返すという話です。いつまでも続く徒労についての比喩としてよく使われます。

 で、カミュさんは、シーシュポスさんの石と獲得する様を「石と取り組んでいる、まさに石である」とか表現していて爆笑したんですけど、それは置いておいて、この無駄な苦行、不条理を「彼は幸せなのだ」とかいうアクロバット解釈をしているんですね。なんじゃそりゃ!とここでも思いましたが、やはり理由を聞くと、一部は納得がいくものでした。

 石を運んではまたやりなおすの繰り返し、というプロセスのうち、山頂から岩が転がっていってしまった後の「下山」の過程にカミュはその本質を見出しています。下山しているとき、彼の気持ちは張りつめている。自分の悲惨さをよーく見つめていて、その悲惨さについて下山中ずっと考えている。その瞬間彼は「勝利」しているというのです。

 「これをやって何になるのか?」と考えて絶望して、運命から逃げること(突き詰めると、自殺)は勝利にはならない。苦行=自分の力を超えることと向き合い、反抗すること。ここに彼の幸せがあるとカミュは考えました。ちょっとここは一部受け入れられません(幸せかどうかはカミュが決めることではなくて、シーシュポスが決めることなので)が、「自分の力を超えることと向き合って反抗せよ」というメッセージは、カミュから受け取ることができました。人生自体がそもそも自分の力を超えることですので、日常でいくらでも向き合うことは可能ですよね。

 ちょっと話はそれるのですが、Apple Musicをせっかくサブスクしているので洋楽覚えるぜ!と考えて

‎Pop Hits: 2022 on Apple Music

 というプレイリストを繰り返し聞いています。いま3周目です。プレイリスト内「Life Goes On」という曲がありまして、歌詞の大半が次の2節からなります。 

【歌詞和訳】Life Goes On – Oliver Tree | 洋楽の歌詞を和訳しているブログ (ameblo.jp)

Life goes on and on and on and on and

On and on and on……

人生は続くよどこまでも

続くよ続くよどこまでも……

Work all day

And then I wake up

Work all day

And then I wake up……

一日中働いては

起きて

一日中働いては

起きて・・・

 カミュの話やシーシュポスの話を聞いているとき、ずっとこの歌詞が頭の中を駆け巡ってました。現代人もシーシュポスとある意味では変わらないですからね。でもこの不条理に反抗することで幸せになれる?かもしれない。ほんまかいな。

 というわけで英米哲学の挑戦(’23)は面白いぜ!という話でした。時間はかかりますが頭の中が整理されるし書いていて結構楽しいので、ちょくちょくこのような記事を書いていこうかなと考えています。


慶應通信の履歴

2019年4月入学(73期) 法学部甲類(法律学)
→2022年9月卒業
単位 130/124
GPA 2.83

※科目名の右側の数字は単位数。「英語Ⅰ2」なら2単位

[総合教育科目(済)]48/48(スク8/8)
特別課程:18単位認定
<外国語(済)>
英語Ⅰ 2 S 2019年第Ⅱ回
英語Ⅱ 2 A 2021年第Ⅳ回
英語Ⅲ 2 C 2019年第Ⅱ回
英語Ⅶ 2 B 2019年第Ⅱ回
英語リーディング 1 A 2020年春週末スク
英語ライティング 1 S 2020年夏スク
<人文科学(済)>
論理学 4 A 2019年第Ⅱ回(諦めました)
哲学 4 C 2019年第Ⅳ回
<社会科学(済)>
法学 4 B 2019年第Ⅱ回
社会学 4 B 2019年第Ⅳ回
E-政治学 2 A 2020年秋Eスク
<自然科学(済)>
数学(微分積分) 2 C 2019年第Ⅳ回
数学(線形数学) 2 C 2020年第Ⅲ回
E-統計学 2 A 2020年春Eスク
心理学(行動・個性) 2 A 2020年夏スク

[専門科目(済)]68/68(スク14/14)
<配本1年目(済)>
債権総論 3 S 2019年第Ⅳ回
新民法総論 3 S 2019年第Ⅳ回
憲法 4 A 2020年第Ⅰ回
<配本2年目(済)>
刑法総論 3 A 2020年第Ⅱ回
刑法各論 4 B 2020年第Ⅱ回
国際法Ⅱ 2 A 2020年第Ⅱ回
物権法3 B 2020年第Ⅲ回
新会社法 4 A 2020年第Ⅲ回
債権各論 3 S 2020年第Ⅳ回 (諦めました)
英米法 2 S 2020年第Ⅳ回
労働法 2 S 2021年第Ⅰ回
新商法総則商行為法 2 B 2021年第Ⅰ回
刑事政策学 2 A 2021年第Ⅰ回
現代中国論 2 S 2021年第Ⅰ回
政治思想史 4 B 2021年第Ⅲ回
ヨーロッパ中世政治思想 2 B 2021年第Ⅳ回
<配本3年目(済)>
親族法 1 S 2021年第Ⅱ回
相続法 1 A 2021年第Ⅱ回
法哲学 2 S 2021年第Ⅱ回
刑事訴訟法 4 A 2021年第Ⅱ回
政治哲学 2 A 2021年第Ⅱ回
経済原論(ミクロ) 2 S 2021年第Ⅲ回
経済原論(マクロ) 2 C 2021年第Ⅲ回

<スクーリング(済)> 通学12 Eスク2
医事法 2 A 2019年夏スク
国際法 2 A 2019年週末スク
刑事政策学 2 B 2020年夏スク
政治理論 2 A 2020年夏スク
心理学(専門) 2 S 2020年秋週末スク
E-政治思想論 2 B 2020秋Eスク
図書館情報学 2 S 2021春スク
哲学(専門) 2 S2021夜スク

[卒業論文]8/8
2020年10月末 本指導1回目
2021年5月 本指導2回目
同日 2022年3月卒業予定申告書提出許可
2022年6月 本指導3回目・提出許可
2022年7月 卒論提出
2022年9月 卒業試験

[履歴]
2019年度(済)
<第Ⅱ回(済)>
英語Ⅰ2法学4英語Ⅶ2英語Ⅲ2(論理学4)
<第Ⅲ回(済)>
科目試験中止
(夏スク)医事法2
(週末スク)国際法2
<第Ⅳ回(済)>
哲学4新民法総論3微分積分2債権総論3社会学4
30単位

2020年度(済)
<第Ⅰ回(済)>
憲法4
(中止)TOEIC受験 3月
<第Ⅱ回(済)>
刑法総論3刑法各論4国際法Ⅱ2
(Eスク)E-統計学2
(春スク)英語リーディング1
(中止)TOEIC受験 5月
<第Ⅲ回(済)>
新会社法4物権法3線形数学2
卒論構想提出 8月
(夏スク)英語ライティング1心理学行動個性2刑事政策学2政治理論2
TOEIC受験 9/13 885点
<第Ⅳ回(済)>
英米法2債権各論3
(Eスク)E-政治学2E-政治思想論2
(秋スク)心理学専門2
卒論本指導1回目 10月末
TOEIC受験 1/10 午前 970点
40単位

2021年度(済)
<第Ⅰ回(済)>
労働法2新商法総則商行為法2刑事政策学2現代中国論2
卒論 目次と参考文献
<第Ⅱ回(済)>
相続法1親族法1法哲学2刑事訴訟法4政治哲学2
(春スク)図書館情報学2
卒論本指導2回目 5月
卒業予定申告書提出許可
<第Ⅲ回(済)>
育児のため8-9月は低稼働、卒論指導は見送り
政治思想史4経済原論(ミクロ)2経済原論(マクロ)2
<第Ⅳ回(済)>
(夜スク)哲学(専門)2
英語Ⅱ2ヨーロッパ中世政治思想2
34単位

2022年度(済)
卒論第1稿完成 4月
卒論本指導3回目 6月
卒論最終稿完成・提出 7月
卒業試験8 9月
卒業 10月
卒業式 3月
8/8単位


西垣通『新基礎情報学』まとめと感想

※自分用のgoogleドキュメントから転載

 現代における情報学(に限らず、自然科学全体?)はコンピューティング・パラダイムに基づいている。これはシャノンの情報理論(図書館情報学でやったやつ)やラッセル達が確立した論理演算の追求をベースとした、宇宙/世界の客観的記述が可能とする立場である。これは、西洋のユダヤ=キリスト教に基づく宇宙一元論と符合するので、熱狂的な信者が学者にも多く、AIが人間を超える(いわゆるシンギュラリティ)とまことしやかに予言されている。人間は物理的素材からできていて限界があるが、コンピュータの発達はそのような制限がなくいずれ人間を追い越すという想定である。

 コンピューティング・パラダイムの欠点は2つある。1つは形而上学的な問題。カントが明らかにしたように、人間の生物学的特性の限界により、宇宙/世界の存在に絶対的にアクセスすることは不可能で、人間というフィルターを通して相対的にアクセスすることしかできない。神が眺めているような宇宙/世界を想定することを素朴実在論といい、これはカントやフッサールの現象学によって大いに批判され、現代哲学では自明視できないと考えられている(だから、現代哲学は大抵が相対主義である)。が、多くの科学者はいまだに素朴実在論を信奉している。私たちも大半がそう考えていると思う。

 もう1つは技術的な限界。AIは記号の操作はできるが、意味を解釈できない(記号接地問題、フレーム問題というらしい)。人間は論理推論だけで生きているのではなく、身体的直観や暗黙知、文化、物語、俺様ルールなど様々な非論理的な知を駆使して生活している。機械が意味を「解釈できている気がする」のは私たちの想像力がそうさせているだけである。最近の深層学習はAIに統計処理を導入し、力技でそれっぽいことができているように見えるが、実のところ何もできていない(囲碁とか顔認識とか厳格なルールがある場合だけしか無理)し、その限界は30年前からわかっていた。結局、現時点の技術ではAIが自律的になることは不可能で、AIの背後には必ず設計者が存在する(これも昔と同じ)。

 とはいえ、今のようなAI信仰が進むと、AIの判定に従って人間が決定を下したり、AIを強くするためだけに人間が働くような、人間が機械の奴隷になる日もそれほど遠くはない(ハラリの「ホモ・デウス」という本に詳しいらしい)。ディストピアを回避するにはどうするか。そこで情報基礎学の出番というわけである。

 情報基礎学では、基礎理論としてサイバネティック・パラダイムを採用する。これは、生命活動から情報をとらえようとする立場のこと。生命の特徴は、価値の自律的な創出にある。生命は、限定された認知世界という前提の下で常に最適解を探そうとするものである。1970-80年代ごろに出現したネオ・サイバネティクスは、「客観的な、観察された世界の分析」から「主観的な、観察する世界の分析」に視点を移そうとするものである。視点を外側から内側に移すということである。

 情報基礎学(の西垣研究所?)はHACS(Hierachical Autonomous Communication System:階層的自律コミュニケーションシステム)モデルを採用する。HACSでは、まず生物をAPS(AutoPoietic System:自己創出システム)ととらえる。環境からの刺激を自分なりに意味解釈して、自分を再構成していくというモデルである。そして、複数のAPSが相互作用しつつ、さらに、APSの間に非対称な階層関係を想定するのがHACSである。

 例えば、学生と大学の関係を考えればいい(この例えはオリジナルです)。学生一人一人はAPSであるが、大学というシステムもまた一つのAPSである。APSとしての学生同士の相互作用を考えることができる他にも、大学から見ると学生一人一人は、自律性を捨象された機械のような存在として見える(学生番号で管理される学生を想定してみるといい)。つまりHAPSにおいては、自律(サイバネティック側からのアプローチ)と他律(コンピューティング側からのアプローチ)を両方考えることができるのである。

 本書は基礎情報学の枠組みをおおむね以上のように示すが、実際のところこれがプログラム開発にどう役立つのかについては何も述べておらず(プログラムはコンピューティングパラダイム内の集合だからそりゃあそうか)もっぱら哲学的な議論、AIの限界などがメインである。本書中で示された参考文献はとても面白いものばかりで全部読みたいが、情報学を学ぶ上でどのようにその視点を生かしていくか、私の中では全然はっきりしていない。とはいえ、私はこの本読むまで素朴実在論者だったし、情報学に対する考え方を180度回転(コペルニクス転回ってやつ?)してくれたことは事実である。そして、課題も沢山見えてきた。哲学への興味(基本的に西垣先生が毎回思想を解説してくれる)と、AIに対する興味があれば読める非常に刺激的な書物なので、ぜひ読んでみてください。

 東大情報学環ってすげー面白い所なんだなーと思いました。西垣先生はすでに退官されているので、後任の若手さんがまた面白いことをやってくれてるんでしょうね。

参考

digital-narcis.org


放送大全科目コンプしたい

慶應通信はまだ途中ですが、放送大学の科目履修生になってしまいました。

もともと理系(情報工学)だったので、情報系・自然系の科目を極めたい気持ちがあるからです。

大学院も視野に入れています。もともとは海外の大学院目指してましたが、どうも生活をかなり犠牲にせざるを得ないので、あきらめて、放送大の大学院もいいかなぁと考えています。

で、放送大の教材が届いたのでログインしてみたら、面白そうな科目が山ほどあるんですよ。全部見たい・聞きたい。

ということで、本当に全部見たり聞いたりしようかなと考えています。で、すべての講義の感想を書くの。私は楽しいし皆さんは履修の参考になるし最高じゃない!?

数は300科目の通年講義(45分15講)+特別講義が50講(45分)くらいあります。しかも、BSではアーカイブスといって、閉校した名講義も流れている。1.5倍速再生を駆使しても、1科目7時間で、必要時間は2000時間以上ですね。でもトライしてみたい気持ちがあります。

慶應通信が忙しいうちはほどほどにしますけど、いずれは、本気で実行しようと思います。

追記:サブブログ作りました

放送大学を全科目コンプリートするブログ – 全科目視聴するまで続けます (rokujo.org)