刑法総論

RoamResearchにまとめを書いていたのですが、RoamResearchが有料になってしまうため、順次WordPressに移転しようと思います。
以下はRoamで作成したまとめノートのコピーです。

  • [[慶應通信]]の指定テキストは井田良「講義刑法学・総論」。1冊目として読むと難解で何もわからないが、基本概念を懇切丁寧に説明してくれる教科書なので、3冊目くらいに読むと非常に優れたテキストと感じる。
    • 法律系科目は、簡単なものから順序を追って学習しないと極端に効率が悪くなるということを痛感させられた。[[英語]]や[[数学]]と同じ。
  • 以下はテキストのまとめです。
  • 第一章 [[刑法]]の存在理由と機能

    • 刑法の意義
      • 国は法に従い犯罪者を処罰する刑罰権を持つ
      • [[刑法]]はどのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科せられるべきかを定める。
      • [[刑法]]は国の刑罰権がいつ・どういう内容において発生するかを抽象的に明らかにする[[実体法]]である。
      • [[刑法]]は刑事法の根幹をなす重要な法規範である。
    • 応報と犯罪予防
      • [[刑法]]を考察する出発点となる問は「刑法はなぜ・何のために存在するのか」(刑法の存在理由)「刑法はいかなる機能を果たすことができ、また果たすべきなのか」(刑法の機能)である。
      • [[刑法]]はすでに起こってしまったことを過去に戻って帳消しにすることはできない。将来における犯罪の予防だけをすることができる。刑法はいつも遅れて登場する。
        • [[殺人罪]]は奪われた生命を取り戻すことはできない。他人を殺そうとする人の意思決定にブレーキをかけ、失われるかもしれない生命を救うことを期待する。
      • このように、刑法の本質的機能は人の行為意志への働き掛けによる[[行為統制]]である。
        • [[罪刑法定主義]]はこの機能と密接に結びついている
      • 刑罰の制度は、事後の責任追及を通じて将来の犯罪予防を図るための制度である(事後的予防)。
        • 犯罪が行われる前に未然にこれを防ぐこと(事前的予防)はコストがかかり、人々の行動や自由を制限するデメリットが大きい。
      • 他方で、刑罰は過去の犯罪に対する[[応報]]として課されるものである。
        • 過去の犯罪を根拠とする応報的処罰を通じて、将来の犯罪予防を図ろうとする見解を相対的応報刑論と呼ぶ。
        • 刑罰は、[[犯罪]]の実行を前提とし、それに対する反作用として課される法的制裁という意味で[[応報]]である。
          • 犯罪に出る以前に予防的に刑罰を科すことや、将来的に重い犯罪を犯す恐れがあることを理由として刑を重くすることは許されない。
        • 刑罰は、行為者に対し法の側からする[[非難]]として加えられる不利益な制裁であるという意味で[[応報]]である(応報的制裁)。
        • 応報刑とは、[[責任]]に応じた刑である
          • 実害に見合った重さの制裁とは限らない。
            • 精神障害で責任能力を書いた状態で殺人をしても無罪になる
          • 結果を生じさせたことに対する非難の程度が基準となる
      • 刑罰に報復感情宥和の機能を持たせるかどうかには対立がある
        • 今の刑罰制度は被害感情を処罰に反映していない
        • 被害者の私的利益の回復は民事裁判に、社会にとっての公的利益は刑法による行為者処罰に位置付けられる。
      • 以上より、刑法と刑罰は、公的利益としての将来における犯罪の予防に存在理由がある。
      • 一般の人々の犯罪を予防することを[[一般予防]]といい、犯罪者個人が再び犯罪を行わないように予防することを[[特別予防]]という。刑法はこれらに役立つ。
      • 刑罰は回顧的側面と展望的側面がある。将来の犯罪予防を存在理由とするが、過去における犯罪の実行を要件とする。
        • これらは相互に矛盾することがある。過去の犯罪への評価と、刑罰の重さが必ずしも釣り合うわけではない。
        • 刑を受ける者の人権保障の要請と、将来の犯罪予防の要請の間の調和を図る妥協点としては、刑罰は[[責任]](回顧的見地からの行為者への意思決定への[[非難]])の限度内でのみ将来の犯罪予防の考慮を働かせ、将来の犯罪予防については、できるだけ刑罰以外の手段を用いるようにする、と考えるべきである。
    • [[法益]]とその刑法的保護
      • 刑法が阻止したいもの、つまり[[犯罪]]とは何か
      • 現行の刑法に定められているかどうか、という観点から定義された犯罪概念のことを形式的犯罪概念という
        • これにより[[可罰的]]行為が示される
      • 現行法を離れ、犯罪とそうでない行為とを実質的に区別できる基準を与えるものを実質的犯罪概念という。
        • これにより当罰的行為が示される。
        • 現行法を批判したり、解釈する際の指針を与える
        • 刑法改正により、可罰的行為と当罰的行為を一致させる。
      • 法により保護されるべき価値を持った、個人や社会や国にとっての利益のことを[[法益]]という。犯罪は[[法益]]を侵害し、または脅かす行為のことである。
      • 刑法の存在理由及び機能は、[[応報]]刑の枠内での科刑による、将来の[[法益]]侵害または危険の防止に求めることができる。
      • 刑法の[[謙抑性]]
        • 刑法は最も厳しい法的制裁であり、処罰はそれ自体が[[法益]]侵害であるので、できるだけ回避するべきである。
        • 刑法の適用は控えめなものでなければならないという原則を刑法の[[謙抑性]]の原則という。
          • 被害が極めて軽微なら犯罪にならない(一厘事件 大判明治43.10.11)
        • [[謙抑性]]の原則の内容としては刑法の[[補充性]]と[[断片性]]がある
        • [[補充性]]とは、刑法による法益の保護は、他の手段で十分でないときにはじめて、それを補う形で用いられるべきであるとするものである。
          • 他の手段が効果を上げるなら刑法は出ていくべきではない。
        • [[断片性]]とは、刑法による保護の[[法益]]は、完璧で網羅的なものではあってはならず、特に一部を選んで処罰するようなものでなければならないことである。
          • 犯罪の成立が無限定なものとならないようにする
      • 刑罰法規の解釈に当たっては、処罰規定の[[保護法益]]を明らかにし、その最適な保護が可能とされるように解釈するべきである。
        • 例えば、[[傷害罪]]は個人の身体や健康を[[保護法益]]とするので、医師免許を持たないものが行った手術は、治療行為の要件を満たす限りは、傷害行為の[[違法性]]が否定される。
      • 道徳・倫理に反する行為が行われたことは、それだけで[[刑罰]]を科す根拠にはならない。
        • 犯罪はあくまで[[法益]]侵害行為である。
        • 被害者のない犯罪(道徳ないし風俗に反する行為)についても、「社会の健全な精神的・文化的環境」のような法益を保護するための処罰規定として理解できる。
    • [[比例原則]]
      • 公権力の行使により得られるものと、それにより失われるものとがバランスを保たねばならないとする原則。
      • [[比例原則]]は、刑事立法の際には①手段の適正②侵害の必要性③利益衡量、という3つのテストにパスすることを求める。
      • 手段の適正
        • 当該の行為の有害性が一定の確からしさをもって確認されることが必要。
        • 法改正を正当化する立法事実が存在しなければならない。警察統計や司法統計など。
      • 侵害の必要性
        • 刑罰という厳しい制裁が本当に必要なのか、過剰な対応ではないのか
        • 刑法の[[補充性]]が重要な意味を持つ
      • 利益衡量
        • 刑罰法規を設けることにより失われる利益と、それにより得られる利益とを衡量したとき、プラスの方がより大きいかどうか
      • 刑罰法規が[[憲法]]31条に反する場合は違憲無効となる。違憲の結論を回避するために、[[合憲限定解釈]]をすることがある。
  • 第2章 刑法の基本原則

    • [[行為主義]]、[[罪刑法定主義]]、[[責任主義]]の3つ
    • [[行為主義]]
      • 犯罪は行為でなくてはならないことをいう。行為とは、人の意思による支配とコントロールの可能な身体的態度のことを言うのが通説である。
        • 行為には[[不作為]]も含まれる
      • 外部に現れない思想、内心的意思、心情そのものを処罰の対象としてはならない。
        • 思想・良心の自由(憲法19,20条)を保護
      • 人の意思による支配とコントロールの不可能な身体的・外部的態度に基づく場合には犯罪とされてはならない。
        • 先行する段階に行為が認め荒れるときは処罰の対象になる
          • 添い寝で嬰児を窒息死させたケース(大審院昭和2.10.16)に過失致死罪(210条)を肯定した
      • 行為でないものについては刑法規範による[[行動統制]]が不可能である
    • [[罪刑法定主義]]
      • いかなる行為が犯罪となり、これにどのような[[刑罰]]が科されるかは、あらかじめ国会が制定する法律によって定められていなければならないとする原則をいう。
      • その根拠は、刑法の本質的機能が、人の行為意志への働き掛けを通じての[[行動統制]]であるところに求められる([[一般予防]])。
      • 自由主義と民主主義の要請にも基づく。何が犯罪かわからなければ自由な社会活動が不可能だし、刑法は国民の利害に重大な関わりがあるから、国民自身が国会で決めなければならない。
      • [[憲法]]31条「法律の手続によらなければ」が根拠。罪刑法定主義に反すれば違憲となる。
      • 罪刑法定主義は、国会の制定する法律以外で犯罪と刑罰が決められていることを禁じる(法律主義)。
        • [[憲法]]73条6号は政令で刑罰法規を設けることができるとするが、「法律の委任」があることを要求しており、法律主義に則っている。
        • [[包括的委任]]は許されず、罰則を設ける事項や刑の種類や重さを特定することが必要(特定委任)。
        • [[猿払事件]]
          • 国家公務員法102条1項で国家公務員に対し「人事院規則で定める政治的行為」を禁止し、同110条1項19号で違反を処罰しているが、最高裁は憲法の許容する委任の限度を超えるものではないとした(最大判昭和49.11.6)。
        • 地方公共団体の条例における刑罰法規には、[[包括的委任]]が認められている(地方自治法14条3項)が、地方公共団体の事務に関するものに限られるなど、罪刑法定主義違反ではないと解されている(最大判昭和37.5.30)。
      • [[遡及処罰の禁止]]
        • 行為時に犯罪ではなかったのに後に刑罰法規を制定し、または刑を重くすることは許されない。[[憲法]]39条に明文で定められている。
        • 判例を被告人に不利益な方向で変更することは認められる(最判平成8.11.18)。
      • [[類推解釈の禁止]]
        • 事件について適用できる規定がない場合に、類似した事実に適用される刑罰法規を適用し処罰されること。[[罪刑法定主義]]に違反するため禁止される。
      • 絶対的不確定刑の禁止
        • 刑の種類も分量も定めないこと。[[罪刑法定主義]]に違反するため禁止される。
      • 刑罰法規の[[明確性の原則]]
        • [[罪刑法定主義]]は、歴史的には議会が裁判所を信頼しないところから始まり、裁判所の法判断を枠づけるために成立した。
        • 現代では、裁判所が[[法令審査権]]により立法機関による人権侵害から人々を守る役割が備わった。
        • 罪刑法定主義の新しい内容として、①刑罰法規の[[明確性の原則]]、②刑罰法規の[[内容の適正の原則]]が承認されるようになった。
        • 刑罰法規の[[明確性の原則]]とは、刑罰法規の内容は具体的かつ明確に規定されなければならないとする原則である。
          • [[民法]]709条のような包括的な規定は許されない。
        • [[明確性の原則]]に反する法律は[[憲法]]31条に反し無効となる。
        • 最高裁は違憲無効の判断を示したことはない。
          • 「交通秩序を維持すること」に違反する行為を処罰するとした徳島市公安条例事件(最判昭和50.9.10)、「淫行」を処罰するとした福岡青少年保護育成条例事件(最判昭和60.10.23)、「卑わいな言動」を処罰するとした北海道迷惑行為防止条例事件(最決平成20.11.10)等で、不明確ではないとしている。
            • 徳島市公安条例事件では「通常の判断能力を有する一般人の理解において・・・判断を可能ならしめるような基準」があればよいとした。
            • 福岡青少年保護育成条例事件では、「淫行」について[[合憲限定解釈]]がなされた。
        • 刑罰法規の[[内容の適正の原則]]とは、処罰する合理的な根拠のある行為のみを処罰の対象とし、犯罪の重さとバランスの取れた刑を規定しなければならないとする原則である([[憲法]31条])。
    • [[責任主義]]
      • [[違法]]行為への意思決定につき行為者を[[非難]]できない行為は、これを処罰することができない。
      • 刑は非難の限度で正当化されるとする[[応報]]刑論の立場からは当然の原則である。
      • [[責任]]を問うためには、[[故意]]または少なくとも[[過失]]が必要である(通説)。
      • 行為者の意思決定が主観的かつ個人的に[[非難]]可能でなければ処罰することは正当化されない。
  • 第3章 刑法、刑法典、刑罰法規

    • [[刑法]]と刑法典
      • 刑法典を一般刑法、普通刑法と言い、刑法典の外に存在する刑法法規をまとめて[[特別刑法]]という。
        • [[特別刑法]]として、軽犯罪法、爆発物取締罰則、暴力行為等処罰に関する法律など。
      • 刑法典を形式的意義における刑法、特別刑法を含めて実質的意義における刑法という。実質的意義の刑法は刑事刑法と行政刑法に分けることができる。
      • 1868年仮刑律→1870年新律綱領→1873年改訂律令→現行刑法典は1907年(明治40年)に公布され、翌年施行された。
      • 1995年に平仮名書きになった。
      • ドイツ刑法典(1871年)を参考とし、裁判官の裁量が大きく、条文が少なく、法定刑の幅が広い。
      • 第一編に総則、第二編に罪という2つの辺で構成されている。
        • 総論を分離したことで、論理的に正確なものとなるが、形式論理を追及して実質的妥当性のない結論を導いてはならない。
    • 刑罰法規とその解釈
      • 刑法は[[刑罰法規]]から成り立っている。刑罰法規は本質上、規範である。
        • 「・・・してはならない」「・・・しなければならない」という内容を持つ、人に向けられた行動準則のことを言う。
      • [[刑罰法規]]は、裁判所に向けられた準則という意味で裁判規範として、また、一般の人々に向けられた行為規範として、理解することができる。
      • 刑罰法規を事件に適用するためには、法規の持つ意味を明らかにする、すなわち法を[[解釈]]する必要がある。
      • 解釈の形式的な分類としては次のものがある。
        • 日常用いられる意味に従って解釈する[[文理解釈]]
        • 意味を少し広げて解釈する[[拡張解釈]]
          • 例:わいせつな映画フィルムは「図画」にあたり、その映写は「陳列」にあたるとした(大判大正15.6.19)。
        • 狭く解釈する[[縮小解釈]]
        • 類似した事例に適用される規定を適用する[[類推解釈]]
        • 法律の規定に書いてあることから、書いてない事実について逆の結論を引き出す[[反対解釈]]
      • 解釈の実質的な分類は次のものがある。
        • 立法者、起草者の狙いを基準とする[[歴史的解釈]]
        • 規定の置かれている場所、他の規定との相互関係を基準とする[[論理的解釈]][[体系的解釈]]
        • 規定が果たすべき目的を考慮する[[目的論的解釈]]
          • [[保護法益]]を基準とする解釈のことである。
          • 客観性を保ちがたい
          • 例:電気窃盗事件(大判明治36.5.21)。「可動性及び管理可能性の有無」をもって客体となりうるかどうかを決すべきとした。
      • 以上のうち[[類推解釈]]は、適用法規の不存在を前提とするので、認められない。
        • ただし、行為を行った者に有利な方向での[[類推解釈]]は許される。
      • 解釈の一般化可能性の原則
        • 刑法の解釈は場当たり的なものであってはならず、一般化可能でなければならない。
      • [[判例]]では、刑罰法規をかなり柔軟に解釈し、無罪判決を避ける傾向にある。
        • 法の規定と[[判例]]を合わせて[[罪刑法定主義]]の要請が充たされている。
        • [[判例]]を学ぶことが必要不可欠である
    • [[刑罰法規]]の適用
      • [[解釈]]により意味内容を明らかにされた刑罰法規を具体的事実にあてはめること。
      • 事実の認定は[[証拠]]により行われる(刑訴317条)。
      • 刑法は刑事手続の舞台で使われる小道具に過ぎない。
      • [[刑罰法規]]の時間的適用範囲
        • [[遡及処罰の禁止]](憲法39条)が原則だが、法改正で刑が軽くなったときのみ[[遡及]]が認められる(刑法6条)。
          • 行為の時点を標準とする。[[継続犯]]、[[包括一罪]]については法律変更の前後にまたがれば適用はない。[[科刑上一罪]]、[[共犯]]については分離して判断する。
        • 2010年の改正で、人を死亡させた罪の公訴時効の廃止、延長及び性犯罪の非親告罪への変更がされたが、これは遡及処罰に当たらないという解釈である。
        • 刑の廃止があった場合も処罰できなくなる。
      • [[刑罰法規]]の場所的適用範囲
        • [[属地主義]]を基本とする(1条)。日本国民に限らず外国人でも、日本国内で行った行為については日本刑法の適用がある。
        • 一定の重い犯罪については[[属人主義]]がとられ、日本国民が外国において犯す犯罪にも日本刑法の適用がある(3条)。
        • 日本国民が国外において殺人等の被害に遭った場合も日本刑法の適用がある(3条の2)。2003年改正により追加。
        • 国外で内乱・外患・偽造・汚職の罪を犯した者にも適用がある(2条、4条)。保護主義を採用したものである。
        • 条約に定められる特定の犯罪については世界主義を採用する(4条の2)。
      • 犯罪地の決定については[[遍在説]]がとられる。
        • [[構成要件]]該当事実の一部が国内で生じ、または[[構成要件]]該当行為の一部が国内で行われれば、日本も犯罪地となる。
        • [[共犯]]についても、共犯者の行為の場所と結果発生の場所のいずれも犯罪地となる。
  • 第4章 犯罪論の基礎理論

    • 犯罪の概念または成立要件
      • 「犯罪概念の構成要素」「犯罪の成立要件」を論じるのが、刑法総論の中核をなす犯罪論である。
      • 犯罪の3要素
        • 人の[[行為]]が、[[構成要件]]該当性、[[違法]]性、[[有責]]性という3つの要素をこの順番で具備するときに犯罪が成立する。#important
          • 例外的に、犯罪が成立しても刑罰が発生するために一定の事情が要求される場合があり、これを客観的処罰条件という。
          • 犯罪が成立しても一定の事情で刑罰権が妨げられることがあり、これを(人的・一身的)処罰阻却事由という。
            • 244条1項、257条1項に規定する親族であることなど
      • 犯罪論の3つの機能
        • 合理性と普遍的妥当性をもつ問題解決のための判断基準を提供する
        • 高度の体系性をもつことにより、価値判断の全体を合理化する
        • 新たな問題、問題へのアプローチを発見し、将来の刑法解釈および刑事立法が進むべき方向を示すことを可能とする
      • 犯罪は[[違法]]行為であるが、犯罪となるのはその一部である。
        • 処罰に値する違法な行為を[[可罰的]]違法行為という。
        • [[違法]]行為とは、[[法益]]保護の見地から刑法が処罰の対象とする行為である。
      • 犯罪となるには[[違法]]行為であるばかりでなく、[[有責]]行為でなければならない。
      • [[違法]]行為といいうるためには、個々の刑罰法規の型に該当する行為であることが必要である。
        • 行為の型のことを[[構成要件]]という。
        • 違法性の積極的要件
        • [[構成要件]]に該当すれば、違法性が[[推定]]される。
      • [[構成要件]]に該当しても、[[違法性阻却事由]]が存在する行為は[[違法]]ではない。
        • [[違法性阻却事由]]がないことを[[有責]]性という
        • 違法性の消極的要件
    • [[犯罪]]の本質
      • 犯罪論体系の支柱は[[違法]]性と[[有責]]性である。
        • 不法→責任という判断順序がある。適法だが[[有責]]な行為というのは存在しない。
        • [[違法]]性判断は犯罪論のエンジン、[[責任]]はブレーキに例えられる。
      • 客観主義
        • どのような「悪い」行為が行われたか、いかなる実害が生じたかが問題とされる。
        • [[応報]]刑論に立脚する。
      • 主観主義
        • [[犯罪]]を、犯人の性格の危険性の表れ、外から犯人の「悪い性格」を認識する手段と考える(犯罪徴表説)。
      • [[未遂]]犯の場合、2つの立場が分かれる。客観主義なら未処罰・減刑となるし、主観主義なら未遂と[[既遂]]を区別しないで刑を科することになる。
        • 現行刑法では未遂は刑の任意的減軽事由である(主観主義的)。旧法では必要的減軽事由であった。
      • [[結果無価値論]]と[[行為無価値論]]
        • 人の[[行為]]が、刑法が規定する行動準則に反することを理由として受ける否定的評価のことを[[行為無価値]]という。
          • 現行刑法では、[[行為無価値]]のない犯罪は存在しない。
        • しかし刑罰法規の中には、一定の結果の発生を要求しているものがかなりある。
          • 例えば、傷害罪の構成要件は傷害結果の発生を要求している。
        • 結果犯については、結果の惹起が否定的な評価を受けるという意味で[[結果無価値]]が付け加わらなければならない。
        • 以上のような考え方を[[違法二元論]]という。
          • 一般には[[行為無価値論]]と呼ぶことが多い
        • 刑法は[[行為規範]]を手段として人々の行為を統制することにより、法益の侵害または危険を防止する([[一般予防]])。
          • この考えからすると違法評価は[[行為無価値]]の評価である。
        • 刑法的違法性の根拠としては、[[行為無価値]]だけではなく[[応報]]的処罰の要求もある。
          • [[結果無価値]]が重要な意味を持つことの根拠は、刑法論において[[応報]]刑論が取られていることである。
          • [[未遂]]の場合に刑の減軽の可能性を認めている現行法(43条本文)の立場に合致する。
        • 刑法が処罰の対象としているのは[[法益]]侵害行為、[[法益]]危険行為であるから、その意味では違法性の本質は[[結果無価値]]であるといえる。
          • しかし、人の[[行為]]でないものは構成要件を満たさないので、処罰の対象は[[行為無価値]]が認められなければならない。
          • ゴリラが住居に侵入したときは[[住居侵入罪]]を構成しない。結果無価値を徹底するなら、[法益]侵害の主体は「人」である必然性はないはずである。
        • [[結果無価値]]論とは、[[違法]]性の実質を[[法益]]侵害またはその危険の因果的惹起に求め、[[結果無価値]]が認められれば、それにより直ちに[[違法]]性を肯定できるとする見解である。
          • 将来の犯罪予防を考えず、過去の因果的実害惹起の反動として処罰しようとする刑罰論(絶対的応報刑論)と整合的である。
          • 違法の範囲を無限定にし(上記のゴリラの例など)、[[構成要件]]の[[罪刑法定主義]]的機能を否定するものである。
  • 第5章 構成要件

    • 意義
      • 犯罪は、刑法各則の個々の刑罰法規から解釈により導かれる犯罪の類型に該当する行為でなければならない。
      • [[構成要件]]とは、刑罰法規(レストランのメニューに書いてある料理の名称)を解釈し、その意味を確定することにより明らかにされる個々の犯罪行為の型ないし観念像である(各料理のイメージ)。
    • 機能
      • 個々の刑罰法規に示された犯罪行為の類型に当てはまらない行為の処罰を防ぎ、[[罪刑法定主義]]の違反を生じないようにする。(保障的機能)。
      • [[構成要件]]は[[違法]]性および[[有責]]性の判断の内容を規制する(理論的機能)。
      • [[構成要件]]該当性は違法性を推定する(違法性推定機能)。
      • [[故意]]における事実認識の内容を決める(故意規制機能)。
      • 現在では、問題解決のためには実質的判断基準による補充が不可欠とされている。
    • [[構成要件]]と他の犯罪要件との関係
      • [[行為]]は構成要件の1要素である。
      • [[構成要件]]該当行為は、通説では[[違法]]とされる行為だが、違法性判断と切り離された価値中立的な構成要件の理論もある。
        • 刑法解釈が文理解釈しか認められなくなり、また、構成要件該当性が無限定なものになる危険性がある。
      • 消極的構成要件要素の理論
        • [[構成要件]]は[[違法]]類型であるという理解を徹底し、[[違法性阻却事由]]の存在を構成要件要素だとする見解のこと。これを採用すると、犯罪論は構成要件該当性+有責性という2段階で構成されることになる。本書では肯定されている。
          • [[通説]]では、[[構成要件]]該当性の判断と[[違法性阻却事由]]の存否の判断は切り離されている。
      • [[構成要件]]は[[違法]]類型であると同時に[[有責]]類型でもあるとする見解が多数説である(違法・有責類型説)。
        • しかし、[責任能力]のような重要な責任要素であっても、これを構成要件要素として位置付ける見解はない。
        • また、[[構成要件]]の該当性判断の段階で責任要素を考慮すると、[[違法]]性と[有責]性の混交が生じ、違法性の有無を責任の存否と独立して確定することが不可能となる。
        • 以上より、[[構成要件]]は[[違法]]類型であるが、[[有責]]類型ではないとするべきである。
    • [[構成要件]]の構造
      • 構成要件を分解した要素のことを[[構成要件要素]]という。
        • [[構成要件要素]]にあたる事実の存在が認められてはじめて[[構成要件該当性]]が肯定される。
      • 最も重要な構成要件要素は[[行為]]である。構成要件に該当する行為のことを特に[[実行行為]]と呼ぶ。
        • 行為に結果を生じさせる危険性がなければ[[不能]]犯となり、犯罪とならない。
        • 結果発生の危険性だけではなく、他人の新たな意思行為の介在がないことも必要である。
          • 他人の自発的な意思決定を介さずに結果を発生させうるものであるとき、[[正犯]]性を持つという。
      • 犯罪によっては、一定の結果が発生しない限り[[構成要件該当性]]が認められない([[結果犯]])。
        • [[結果犯]]においては、結果および行為と結果の間をつなぐ因果関係も[[構成要件要素]]となる。
      • [[構成要件]]の中には、行為の主体・客体について限定が存在するものがある。
        • 刑法典の犯罪については、主体は[[自然人]]のみが予定されている。
          • 主体に関し人的制限のある犯罪のことを[[身分犯]]という。
        • [暴行罪]における暴行は「人の身体」に向けられたものでなければならない。
        • [単純逃走罪]のように客体のない犯罪も存在する。
      • [[構成要件要素]]の中には、行為の主観面ないし心理的側面にかかわる主観的[[構成要件要素]]がある。
        • 具体的には[[故意]]及び[[過失]]を指す。
          • 例えば[[殺人罪]]、[[傷害致死罪]]、[[過失致死罪]]は主観面を考慮すると構成要件が区別される。
          • 客観的構成要件要素だけで[[構成要件]]を観念すると、これらの区別をつけることが難しくなり、[[構成要件]]が不自然で技巧的な概念となってしまう。
      • ある目的のみをもって行為が行われたときに構成要件該当性が肯定されるものもある([[目的犯]])。
      • [[法人]]の刑事責任
        • 通説では、[[法人]]の犯罪能力は肯定される。
          • [[法人]]はそれを構成する[[自然人]]と独立した存在として社会活動を行っている。
          • [[法人]]としての意思決定と活動を展開しているという実態がある。
          • したがって法人として社会的[[非難]]を受けうる。
          • 刑法の本質は規範による行為意志への働きかけによる[[行為統制]]だから、犯罪の主体から[[法人]]を除外する理由はない。
        • 刑法典の犯罪は[[自然人]]が主体であり、法人には適用できない(大判昭和5.6.25)。
        • [[特別刑法]]には法人処罰規定があるが、ほとんどが自然人と事業主たる法人の両方を処罰する[[両罰規定]]である。
        • [[両罰規定]]の根拠
          • [[法人]]は[[代表者]]を通じて行為するとされるから、法人の代表者が行為違反者であれば、法人自身が行為違反を行った者として刑事責任を負う(法人の行為責任)。
          • 代表者以外の法人の従業者の違反行為については、[[過失推定説]]がとられる。
            • [[法人]]である事業主に、行為者らの選任、監督、その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった[[過失]]が[[推定]]される(最判昭和40.3.26)。
    • [[犯罪]]の分類
      • 形式的意義の結果による分類
        • [[結果犯]]
          • 結果の発生が構成要件となっている。殺人罪など。
        • [[挙動犯]]
          • 結果の発生が構成要件要素となっていない。住居侵入罪など。
      • 実質的意義の結果による分類
        • [[侵害犯]]
          • 現実的侵害の発生が犯罪要件となる。結果犯の多くはこれ。
        • [[危険犯]]
          • 侵害の危険があれば犯罪の成立が認められる。
          • [[抽象的危険犯]]
            • 一定の[[行為]]を行うことそれ自体が[[法益]]に反する危険を伴うとして直ちに禁止・処罰に値する。
            • 現住建造物等放火罪(108条)など。
              • 行為が建造物の内部にいる生命に対する危険を伴う一般的・類型的性質を持つため。
            • 危険に対する故意が必要とされない
          • [[具体的危険犯]]
            • [[行為]]から現実に[[法益]]侵害の危険が発生することが要件とされる。
            • 非現住建造物放火罪(109条2項)など。
              • 「公共の危険」の可能性が確認されなければ[[構成要件該当性]]が認められない。
      • [[法益]]侵害の態様による分類
        • [[即成犯]]
          • [[法益]]侵害または危険が発生することにより[[構成要件]]該当事実が完成し、同時に終了する。殺人罪など。
        • [[状態犯]]
          • 法益侵害・危険が発生することによる構成要件事実が完成し、その後も継続する。傷害罪(204条)、窃盗罪(235条)など。
          • 犯罪の既遂後に第三者が協力しても[[共犯]]にならない。
          • 既遂後の違法状態の中で行われていることが予定されている行為は、[[不可罰的事後行為]]として別罪を構成しない。
            • 窃盗犯人が、盗んできた高級腕時計を壊しても[器物損害罪]にならない。窃盗罪の量刑において加重的に考慮される([[共罰的事後行為]]ともいう)。
        • [[継続犯]]
          • [[法益]]侵害・[[危険]]の事態の継続そのものが構成要件の内容となっている。監禁罪(220条)など。
          • 途中からの協力者も[[共犯]]になる。
          • 行為の当初に[[故意]]がなくても、途中から[[故意]]が生じれば犯罪を構成する。
      • [[身分犯]]
        • 行為者が一定の身分地位または属性を持つことを要件とする犯罪のこと。
        • [[真正身分犯]]
          • 行為者に身分がなければ何らの犯罪も構成しないもの。収賄罪(197条以下)など。
        • [[不真正身分犯]]
          • 身分の有無によって法定刑が加重または減軽されているに過ぎないもの。業務上横領罪(253条)が単純横領罪(252条)より刑が加重されていることなど。
      • [[作為]]犯と[[不作為]]犯
        • 作為とは一定の身体的動作を行うこと、不作為とは思考上想定された一定の作為を行わないことである。
      • [[既遂]]犯と[[未遂]]犯
        • [[構成要件]]は[[既遂]]犯の場合を予定している。
        • [[未遂]]犯(43条本文)は、通常の[[構成要件]]を前提として、修正を加えた構成要件に該当する行為として把握できる(修正された構成要件)。
      • [[正犯]]と[[共犯]]
        • 基本的構成要件に該当するのは単独[[正犯]]の行為のみである。
        • 共犯には[[共同正犯]]、[[教唆]]犯、[[幇助]]犯がある(60条)。
        • いずれも修正された[[構成要件]]として理解できる。
      • [[目的犯]]、[[表現犯]]、[[傾向犯]]
        • 学説の多くは主観的[[構成要件要素]]を本質的に違法要素であるとするが、[[結果無価値論]]と[[行為無価値論]]は[[故意]]・[[過失]]を主観的違法要素とするかどうか見解が対立している。
        • [[結果無価値]]論によれば、主観的要素の存否が[[行為]]のもつ[[法益]]侵害の危険性の有無・程度に影響する場合に限り、主観的違法要素が認められる。
          • 例えば、ピストルの引き金に指をかける行為に殺意があるかないかで区別する。
        • [[目的犯]]とは、一定の目的をもって実行行為が行われることが必要とされる犯罪である。
          • 主観的違法要素が認められる典型である。各種偽造罪(148~168条)は「行使の目的」がなければ、違法ではない。
          • [[未遂]]犯、[[予備罪]]も結果の実現を目指した危険行為であるから[[目的犯]]である。
        • [[表現犯]]とは、心理的過程または状態の表現を内容とする犯罪である。
        • [[傾向犯]]とは、一定の主観的傾向の表出として行為がなされることが必要な犯罪である。
          • [強制わいせつ罪]など。
            • 以前は行為が性的意図をもって行われることを要するとした(最判昭和45.1.29)が、最近は判例が変更され、被害者の受けた性的被害の有無、内容、程度に目を向けるべきで、性的意図を成立要件とすることは相当でないとした(最判平成29.11.29)。
        • [[行為無価値論]]でも、結果無価値要素を主観的違法要素と考えるが、さらに、結果不法に影響しない行為無価値的要素である[[過失]]や[[故意]]も、主観的違法要素として位置付ける。
      • [[故意]]犯、[[過失]]犯、[[結果的加重犯]]
        • [[故意]]犯とは犯罪の成立に故意が必要な犯罪をいう。
        • [[過失]]犯とは過失を要件とする犯罪をいう。
        • [[行為無価値論]]は[[故意]]・[[過失]]を違法要素として把握する。
          • 刑法の任務は[[法益]]の保護であるので、故意・過失を違法要素として把握することの方が、刑法の[[一般予防]]目的に照らして合理的であるとする。
        • [[故意]]犯と[[過失]]犯では規範が異なるので、[[構成要件]]も異なる。
          • 例えば過失(致死)行為と故意の(殺人)行為を禁じるのは別々の規範が必要である。
        • [[結果的加重犯]]は[[故意]]の基本犯と、意図しない重い結果の惹起とからなる。故意犯と過失犯の中間的な存在とされる。
  • 第6章 結果と因果関係

    • 処罰対象とされる[[行為]]と結果の間にどのような関係があればよいかを明らかにしようとするのが因果関係論である。
    • 因果関係は、[[結果犯]]における[[構成要件要素]]である。
    • [[結果犯]]における[[結果]]とは、形式的意義の結果である。
      • 法益侵害の結果(殺人罪における被害者の死亡など)
      • 法益への危険という結果(往来危険罪(125条)における往来の危険など)
      • それ以前の一定の事態(現住建造物等放火罪(108条)における焼損など)
    • [[刑法]]における[[因果関係]]とは、ある行為が結果を引き起こしたことを理由にして、その行為により重い[[違法]]性を肯定できるかどうかの問題である。
    • [[違法]]評価が[[一般予防]]効果を達成しようとするなら、実行[[行為]]の持つ危険性が結果の発生により確証された([[危険]]が[[結果]]として現実化した)場合にのみ[[因果関係]]を肯定するべきである。
    • [[結果]]と[[行為]]を結びつける判断([[結果帰属]])の判断は2段階からなる。
      • 行為と結果との間に条件関係があることを基礎とする
      • 法的・規範的見地から限定する基準を用いて因果関係の存否を判断する
        • [[相当因果関係説]]が通説とされる
        • 近年では[[危険の現実化]]が有力化
    • 前提としての[[条件関係]]
      • 条件関係が否定されれば、直ちに[[結果帰属]]を否定できる
      • 条件関係が確定されれば、[[結果回避可能性]]も確定できる
      • [[仮定的消去法]]が通説
        • その行為がなかったと仮定したとき、結果が生じることもなかったと考えられることをいう。
        • 先行の因果の流れが、独立・無関係の後行の因果の流れによって追い越された場合には、[[条件関係]]が否定される([[因果関係の断絶]])。
          • 例えば、甲がAに致死量の毒を与えたところ、薬が効く前に無関係の乙がを射殺した場合。
      • [[結果]]や[[行為]]は具体的・個別的に把握されなければならない。
        • 結果を抽象的に「死亡」と把握するのではなく、具体化された「その時点・その場所におけるそのような態様の死亡」として把握しなければならない。
        • そうしないと、1時間後に病気により死亡していたであろう重病患者を毒殺したときに、条件関係が否定されてしまう。
      • 仮定的事情の付け加えの禁止
        • [[仮定的消去法]]では、現実に存在した事実を前提とし、行為者の実行行為のみを取り除いて判断しなければならない。
          • 例えば、行為者が二丁拳銃の右手の銃で被害者を撃ち殺した場合に、右手で撃たなくてもどうせ左手で撃ったであろうという理由で条件関係を否定することはできない。
        • [[不作為]]の条件関係の判定にあたっては、仮定的作為を付け加えることになる。
      • 合法則的条件公式
        • ドイツでの通説。行為と結果の間をつなぐ事実的経過が自然法則により説明できる場合に条件関係が肯定される。
      • 択一的競合
        • 甲と乙が偶然・独立に殺意をもって被害者Aに致死量の毒を与え、Aが死亡したがどちらの毒が致命的作用を及ぼしたか明らかにならない場合など。
        • 両方の毒がともに影響して死期が早まったなら、条件関係を肯定できる(̆重畳的因果関係)。
        • [[仮定的消去法]]の公式を適用すると、甲乙どちらかの行為がなくても結果は発生してたのだから、甲乙いずれの行為についても[[条件関係]]が否定され、殺人未遂罪となる。
      • 疫学的因果関係
        • 統計的に因果関係を証明すること。高度の蓋然性が必要となる。
    • 法的因果関係
      • [[相当因果関係説]]
        • 通説。その行為からその結果が発生することが経験上一般的であるときに限って[[因果関係]]を肯定すること。
          • 例えば、甲がAに対して故意に傷害を与え、Aが救急車で病院に運ばれる途中で交通事故で死亡した事例(救急車事例)では、交通事故に遭遇して死亡することは経験上普通ではないから、因果関係の相当性が否定される。

化学の新研究で7回読みを試すも4回で打ち切りました

塾で化学も教えてるので、まともに知識がないとまずいと思い、新研究で7回読みしてしまおうと考えました。

新研究は750P、最新版だと800Pもある上に情報量が多く、時間もなくなり4回目で打ち切りました。

1回目は3時間20分。超飛ばし読みでも、このくらいかかりました。

2回目は5時間10分。高速でページをめくっているつもりでした。

3回目は7時間。だいたい全容を思い出しました。

4回目は12時間30分。真面目に読むとものすごく時間がかかります。

総計28時間。これで2020年のセンター試験を解いて見たところ、

化学基礎43点

化学81点

とれました。計算問題が全問正解だったので、塾講師としてはなんとか面目を保てそうです。

一方で知識問題はかなり取りこぼしがありました。細かいところはきっちり7回読まないと拾えないですね。如実な結果となりました。

塾では生物も教える必要が出てきたので勉強したいのですが、そろそろ慶応通信が忙しくなってきそうなので、しばらくお蔵入りになりそうです。

 

 


芦辺憲法で7回読みやってみました

7回読み勉強法

7回読みという有名な勉強法があります。

東大法主席→弁護士になった山口真由さんが取り入れていたという勉強法で、

双葉雫さんの次のブログで詳しく紹介されています。

この勉強法は、実際にやったことのある人が少なく定評がありません。

私は山口さんの本は買ったことがないものの名前は聞いたことがあり、

興味もあったので試してみようとしたことも何度かありましたが、

真面目に繰り返し読もうとするも、4回目くらいで辛くなり投げだすこと数回。

今度こそあきらめないぞ、と決めて、双葉さんのブログ記事を参考に実際に試してみました。

失敗していた原因の一つは、1回目から真面目に読もうとしていたこと。実は7回ともほとんど速読でよいのでした。

概要

1~3回目では大胆に読み飛ばして読む。全体構造をつかむことを目標とする。

4~6回目でも高速に読んでよい。徐々に細部に入っていく。いきなり全体を理解しようとしなくてよい。

7回目で定着させる。1~6回目で構造・細部とも頭に入っているはずなので、結果的に高速で読める。要約しながら読めるとなおよい。

やってみた結果

使用教材

芦部信喜「憲法」第7版 410P

通称「芦部憲法」。司法試験対策の定番本です。慶應通信の教科書「プレステップ憲法」があまりに情報量が少ないので、追加で買いました。

もちろん初見です。

所要時間

総計26時間です。 10日間で終わりました。

詳細

1回目

所要時間30分。見出しを中心にチェックし、後悔しないでどんどんページをめくります。情報量が多すぎて頭が大変なことになりました。

2回目

80分。まだ高速でページをめくりますが、なるべく内容にも目を通します。全体的な骨組みが見えてきました。1-2回目は1日でできました。

3回目

120分。まだ2行ずつくらいの飛ばし読みです。細かいところはわかっていませんが、構造を把握することはできました。

4回目

260分。やや速めに、内容に全部目を通しました。

3回目までで構造がわかっているので、速読が容易にできました。徐々に何が書いてあるかわかってきた、という段階です。

5回目

330分。4回目よりも細部に目を通して読みました。

初めて読んだかのように思える箇所が多々あり、理解度も4回目とあまり変わらないような気がして、一番苦しかったです。

6回目

360分。回を追うごとに自動的に細部に目が行くようになり、時間がかかります。

5回目よりも理解度に大幅な改善が見られ、効果がわかってきました。

7回目

360分。細部と全体の繋がりが意識できるようになりました。理解度は6回目とあまり変わりません。

残念ながら要約しながら読む、というレベルに達することはできませんでした。もう少し速く読んでもよかったと思います。

総括と反省

前半戦で大胆に飛ばし読みし、徐々に細部に入っていくところに本質があると感じました。

教科書で学ぶことは、初めて学ぶことです。

予備知識のないことを初めて読むことについては大きな負荷がかかります。

通常は学習のためには入門本で概要を身に着け、概説書→詳しい本と進んでいくのがセオリーです。

ところが7回読みは入門本が必要ないです。入門の代わりに、速読で概要を把握してしまうという方法なのです。

入門本→概説書へのステップを、1冊の本を使って概要→キーワード→細部と進んでいくことによってカバーする、合理的な方法でした。

とはいえ、入門本も7回読みしちゃえばさらに効率は上がるかもしれません。

経済学でも有名な限界効用逓減の法則は7回読みでも成り立ち、同じ本を繰り返しても徐々に効果は落ちます。7回というのは実にちょうどいい回数でした。

7回読みは、名前で損しています。頭いい人しかできないんじゃないの、時間がある人しかないんじゃないの、と敬遠されるでしょう。

実際は大半が速読ですので、時間も極めて短く終わります。時間がない社会人に極めておすすめできる勉強法です。

ただし26時間で全体を暗記することは不可能です。後に書きますが試験対策としてはアウトプットが必須です。

慶應通信への活用方法

7回読みの最大の欠点はアウトプットが欠けていることです。

しかしインプットが相当な密度でできているので、アウトプットは容易なものとなります。

私は慶應通信の試験勉強として、試験前に過去問の模範解答を作って暗記しています。

今回もそれを踏襲するつもりですが、7回読みのおかげで相当楽にできるのではないかと思っています。

憲法はレポートが簡単で芦部憲法を読む前に提出・合格してしまったため、残念ながら7回読みをレポートに活用することはできませんでした。

7回読みは他科目でも試してみようと思います。

7月試験で刑法総論+刑法各論+国際法を取るつもりですので、

これらの教科について、7回読み→レポート→試験問題模範解答作成という順で実験してみます。

関連・採点読み

7回読みを批判している人が開発した「採点読み」という方法があります。

これも試してみたいのですが、「所要時間:142時間45分」というのを見て諦めました。学生さんならともかく、私にはとても捻出できません。

確かに教科書は丸暗記できるでしょうが、慶應通信への活用方法としては明らかにオーバーワークです。7回読みが現実的です。


慶應通信 1年目が終わりました

1月試験の結果も出揃い、慶應通信初年度の成績が全部出ました。
結果は34単位目標のうち、30単位獲得でした。
論理学の3回目レポートの結果が10日後くらいに出る予定なので、
これが合格になれば4単位獲得し、目標達成です。
卒論要件は満たしていませんが、英語を別建てで勉強しながらなんとかやってこれたので、まずまずの出来だったと思います。
Cがついた科目が多いですが、時間の制限があるので仕方ありません。
単位が取得できれば十分です。
右サイドバーの履歴がようやく充実してきました。

4月試験は憲法(J)だけなので、3月のTOEICに向けて資源をすべて投入しています。
憲法は1か月で何とかしないといけないので、それはそれで大変そうです。
来年度は塾講師の方で化学(復習)と生物(ゼロからスタート)、
あと諸事情で簿記が必要になったので、1年間程度は追加で勉強することになりそうです。
次の配本は全部専門科目になるし、Eスクも入ってくるしで果たしてこなせるんでしょうか。
不安です。

小さい子供がいるので、特にスクーリング中は妻にほんとうに迷惑を掛けました。
感謝してもしきれません。
来年度はスクーリングが最大3回あるので、また迷惑をかけることになります。
地方の通信制はスクーリングが大きな負担です。
特別課程だと12単位まで必修、うち2単位は英語強制なので、
7回も東京に出ていかなくてはなりません。
交通費宿泊費と仕事の時間減で1回あたり年額授業料くらいの金額が飛んでいきます。
東京の人だったらなんてことないんでしょうけど、まだ5回もあるので大変です。
再来年は卒論指導も受けないといけませんしね。

慶應通信wikiは作ってみたものの編集の敷居が高いのか、書き込みの98%は私のものになってしまいました。
今後も可能な限り充実させていこうと思います。
来年度もよろしくおねがいします。


慶應通信で使った書籍レビュー(随時更新)

ここでは慶応通信関連で入学から卒業までに読んだ書籍をレビューします。

★★★☆☆

入学試験のための書評で使いました。具体的なものがいいだろうという連れ合いのアドバイスにより、書きやすそうなものを選ました。

だいたい要旨は次のようなことです。万世一系・男性のみ皇位継承権がある現状の天皇制は、時代の変化とともに側室や分家の制度がなくなった今では天皇がいなくなるおそれがあり、そうすると現状の憲法では首相の任命や法律の公布ができず、国家機能が停止する。だいたい天皇の負担おおすぎだよ。だから憲法を改正して天皇制はやめて大統領制にして、天皇の権限を大統領に委譲して天皇は制度としては残すけど休んでもらおう。

今読み返すと憲法改正するより皇室典範改正する方が明らかに楽なんでそっちでやればいいじゃんとしか思えませんが、憲法改正の難しさはもとより大統領制にするのは天皇にとっては良いかもしれませんね。

★★★★☆

合格発表待ちのころ購入しました。放送大学のテキストに加筆修正したもので、法の分類や機能、法の簡単な歴史から道徳正義論、裁判の仕組み、法曹界の動向などいろんなトピックを詰め込んだ入門本です。入門といえども記述は簡単ではなく、法学部生なら折に触れて読み返し、今学んでいることの位置づけを再確認するのにもよい本です。

★★★★☆

見た目で購入しました。「及び」「並びに」「かつ」「又は」「若しくは」なんかの紛らわしい語を解説してくれるありがたい本です。ですが一度読んでも短期間で忘れてしまうので、折に触れて参照しましょう。他にも法律の構造や制定過程など、法学入門的な位置づけの本でもあります。

★★★★★

法学部に入ったので有名な本を読んでみたくなって買いました。一言で要約すると「自己の権利が侵されると死ぬ、闘え!」という本です。アツいです。法学のファンになったので最初の試験で法学を取ろうと決めました。

★★★★☆

法学の試験対策として購入しました。イギリスのコモンローからみた法学はどのようなものかふわっと感じられましたが、当時の私の実力ではふわっとしただけ終わり、試験にも全く役立ちませんでした。卒業したらまた読んでみたいです。

★★★★★

法学の試験対策として購入しました(2)。憲法民法刑法労働法国際法、超有名と思われる判例を解説していく「判例入門」本。今ざっと見ると医事法で出てきた安楽死名古屋高裁事件なんかも出てます。法律とはどのように適用されていくのかを知ることができました。ただ前提となる法律知識があまりないので、読解には時間がかかりました。特に国際法は全部呪文に見えて、国際法への苦手意識ができました。そして試験には全く役立ちませんでした。試験対策には指定テキストが一番です。でも超面白い本だったので今後も時間があればこういう回り道をしようと思います。

★★★★★

入学前に専攻を哲学とどっちにしようか迷っていた頃に購入して読みました。結果的に論理学の予習になりました。真理関数から量化理論までしっかりカバーされていてしかも読みやすいので、論理学を履修する皆さんにはおすすめです。

★★★★☆

社会学の指定テキストで約1000P。読み終えるだけで一仕事でした。トピックが24個あり、イギリスを中心とした実例と、社会学で実際に使われている概念の解説がされています。手広く書かれていますが各項目の記述は薄いです。それだけ社会学というものが広大だということでしょう。社会学の考え方を紹介するのが目的の本なので、結論となるものは一切示されていません。自分で考えよということです。なのでここで示されている手法を吸収しなければなりませんが、一度読んだだけでは全然頭に入りません。繰り返し読まないといけないでしょう。

★★★★☆

社会学は最低5冊の参考書籍を読んでレポートに盛り込むことが義務付けられています。1冊目は社会学といえばこの人、上野千鶴子先生の本です。上野先生は偉大ですが非常にリベラルなため賛同できるところとできないところがあります。twitterでも感想を書きました。

★★★★☆

★★★★★

★★★★★

★★★☆☆

★★★★☆

社会学参考文献6冊目。科学の世界はジェンダー中立かというと全然そんなことはない。女性蔑視はなはだしいです。科学的に女性は「劣っている(Inferior)」とみなされてきた、というとんでもない歴史(現在進行形である)が叙述されています。科学者が生物学やら心理学やらの権威を借りて作ったクソみたいな本が大量にあることがわかります。まだ読み終わっていないけど、英語の勉強も兼ねて最後まで読もうと思います。

★★★★☆

そこそこ前に読んだ本だけど社会学参考文献の7冊目にします。トランスジェンダーをめぐる論争の元凶となった「ジェンダー・トラブル」を含む、ジュディス・バトラー解説の本。バトラーの本を読んでも哲学の素養がないと意味が分からないのでこの本を読むとよいです。それでも慣れてないと難しい。乱暴にまとめると「ジェンダーは社会的なものである」ここまではわかるが「セックスも社会的な構築物、パフォーマティブなものである」と主張しているのが大きな特徴です。上野先生もおっしゃってましたがセックスは文化的記号的な面が確かにあります。言語でセックスを「おこなう」ことはある程度可能です。しかし「おこなう」ことがすべて現実であるというのは、あまりに物理的身体を軽視していると考えます。行きつくところ「俺がこう思うんだから現実が違うのはおかしい」という考えに安易に結びつきやすいのでは。物理的現実と観念的な言語は両輪でバランスを取るべきだと感じました。詳しいことは哲学の履修時にまた学ぼうと思います。


慶應通信1年目 初試験、初スクーリング

7月の試験と8月のスクーリングが終わりました。

慶應通信は、レポートを期限までに提出したら試験が受けられる仕組みです。試験とレポートが合格して初めて単位が認定されます。3か月に1回試験が受けられるため、頑張れば非常にハイペースで学習することができます。まずは比較的楽そうな英語を潰しにかかりました。やってみると全然楽ではありませんでした。

レポートは審査が厳しく、英語はすべての科目で「もっと詳しく書け」と不合格になりました。空き時間で書かざるを得ない人間にとってはやや厳しいものがあります。現時点で1科目まだ不合格のレポートが残っています。

初回でなるべくたくさん受験しようと、英語3科目に加えて2科目レポートを出し、試験は5科目受験しました。比較的頑張って勉強したので全教科通ったと思います。試験は全体的に勉強していれば必ず解ける、良心的な問題と感じました。単位取得を阻む意地悪な問題はありませんでした。私の住んでいる地方は年1回しか試験を開催してくれないので、不便です。車で2時間くらい移動しないと受験ができませんでした。

8月のスクーリングは、お試しということで2期に1科目(医事法)のみとって、新幹線で日吉まで片道3時間を6往復しました。予想していましたが途中で疲れ切って車内では仕事もあまりできず寝てしまいました。家族にも負担をかけました。来年は、むしろ2科目取ったほうがいいのでは、という話になっています。

医事法はとてもいい授業でした。先生は香川県からはるばるやって来た方で、「基礎的な考え方を身につけてほしい」という提言通り、幅広く学ぶことができました。学生さんはみんな熱心で、六法どころか医事法判例百選(!)まで持っているツワモノもいました。

twitter内では1期から毎日オフ会情報が発信されとても盛り上がっていたので、私も参加したかったのですが毎日すぐ帰らざるを得ず、最終日だけある方とお会いすることができとても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます。

9-10月にも週末スクーリングを予定していますが、そこでは毎週宿泊する予定です。週末スクーリングが終わると次の週がすぐ試験です。10月は非常に重い科目(社会学)を受ける予定です。


慶応通信、履修計画メモ

サイドバーにもありますが現時点での履修予定をメモとして残しておきます。

1年目
2019/7(済)
英語Ⅰ2法学4英語Ⅶ2論理学4英語Ⅲ2
2019/10
社会学4債権総論3(夏スク)医事法2(週末スク)国際法2
行政書士受験の勉強を始める
2020/1
哲学4新民法総論3数学微分積分2(+再試験になった科目)
34単位

2年目(予定)
2020/4
憲法4(+再試験になった科目) 行政書士の勉強 刑法と日本法制史の予習?
2020/7
刑法総論3刑法各論4(Eスク)政治学2統計学2
2020/10
日本法制史Ⅰ2日本法制史Ⅱ4(夏スク)英語リーディング1+ライティング1(週末スク)専門科目2
(11月)行政書士受験、司法書士の勉強を始める
2021/1
物権法3債権各論3
29単位

3年目(予定)
2021/4
商法総則2新会社法4刑事政策学2

(時期未定)親族法1相続法1民事訴訟法4手形法2刑事訴訟法4政治哲学2(スクーリング)専門科目4(Eスク)法哲学2専門科目2(卒業論文)指導のみ
30単位

4年目以降
行政法4(Eスク)専門科目2(卒業論文)完成8
13+3(over)単位
司法書士受験?


慶応通信、英語Ⅰ履修者とOpenOffice Writerでレポートを作る人のために

慶応義塾大学通信教育課程の法学部甲類(法律学科)に入学しました。第73期です。法学に興味があったこと、哲学と迷ったけど最近哲学に絶望することが多かったことから法律学科にしました。卒業は非常に難しいらしいので、頑張ります。今日は入学式の日だったのですが、私は出席できませんでした。

1600字程度の書類審査ののち合格通知が送られてきてしばらくすると、必要ないものも含めて全部山盛りのテキストと分厚いガイド本が送られてきます。選択の自由は保障したから後は全部自分で何とかしろ、という大学の意図が伝わってきました。

外国語は英語を選択しました。テキストと課題を見た感じだと英語Ⅰがおそらく最難関で、テキストとあまり関係ない難しい長文を読ませ和訳させ、文法事項を答えさせ、難しい日本文の英訳もさせる試験になると予想しています。435もある例文を暗記しろという指令があるため、これが一番大変です。

そこでquizletで暗記用例文一覧を作成しました。自分でもこれで覚えるつもりです。英語Iの試験を受ける予定の方は活用してください。

慶應通信 英語I 暗唱例文集

レポートは「レポート用紙(ワープロ用)」という謎の仕様の紙に印刷しなければいけないという決まりがあります。したがってプリンターが必須となります。A4用紙で出していいのならコンビニ印刷できるのに。

Wordをお持ちの方は非常に便利な記事があります。これを見て印刷しましょう。

私はWordを使っておらず、OpenOffice Writerを使っています。無料のWordのようなものです。Wordほど便利ではないですが、工夫すれば何とか印刷できました。その手順を記しておきます。

まず、レポートを10ポイントで書きましょう。12ポイントで書いてしまったあなたは文章を全部選択して、右上のプロパティから10ポイントに直してください。

次に、書式→ページからページ設定のダイアログを開き、「ページ」タブの余白を設定します。

左:3.0cm

右:3.0cm

上:4.0cm

下:2.0cm

にするとちょうどよかったです。

 

次に「行数と文字数」タブを選択します。ここが曲者で、調整が面倒でした。

「行数と文字数を指定」のラジオボタンを選択したら、

「ページ単位の行数」は20

「行単位の文字数」は40

「ルビ文字の最大サイズ」を20.00pt

に変更します。

「1文字の最大サイズ」は10.60ptのままでいいです。

「罫線を表示」「罫線を印刷」はどちらもオフにしましょう。

これで完成です。

印刷例です。うまく収まっていると思います。プリンタによって違いがあるでしょうから、念のため、コピー用紙に印刷してレポート用紙に重ねてみましょう。


公衆トイレ論文は信用ならない(2) マッチドペア分析は妥当か

前回の記事に引き続き、公衆トイレ論文のマッチドペア分析が妥当かどうかを検証しました。結果、差別禁止法が施行された自治体と他に選択された自治体がマッチドペアとして妥当ではないどころか、検証中、この論文は全く体をなしていないことがわかりました。

読むのが面倒な人、時間がない人は、一番下までスクロールしてください。

こちらの記事にも問題点が述べられています。

 

マッチドペア分析とは

データ分析の妥当性を高めるため、調査対象のサンプルのほかに、調査対象外のサンプルについても同様の分析を行い、比較する手法です。今回の調査なら、GIPANDOs(トイレ等を含む差別禁止法)が施行されている自治体のほかに、施行されていない自治体についても同様の分析を行うということです。対照実験と同じ考え方ですね。

妥当性を高めるためには、傾向が似ている自治体を選択しなければなりません。東京都足立区と沖縄県石垣市を比較しても違い過ぎて何の意味もないですよね?せめて足立区と江戸川区を比較してほしいです。この記事では、比較した都市群が本当に似ているのか、を検証します。

 

公衆トイレ論文で考慮された要素

論文には「人口・ヒスパニックでない白人比率・所得が20万ドル以上の人口割合・所得の中央値・貧困線以下の人口割合・Born Again(キリスト教福音主義か?)を自認する人の割合・2012年大統領選でオバマに投票した人の割合・犯罪率」(P5)を考慮したと書かれています。これらを変数化し最も傾向の似ている自治体が、比較対象として選ばれたそうです。考慮する要素の統計情報および、変数化されたデータについては、論文では明らかにされていません。

考慮されていない要素として重要と思われるのは、まず人口密度です。アメリカのトイレが商業施設に固まっていることは前回の記事で書きました。人口密度が少なければ自治体内の商業施設数が少なくなり、したがってトイレの数も少なくなるからです。商業施設売上もトイレ数に比例すると思われるので、これも考慮するべきです。自治体内にイオンモールが多ければその分トイレの数も多いですよね。

また、年代別人口比率も重要です。性犯罪は20~40代男性の犯行が圧倒的に多いので、高齢化が進んでいる自治体では性犯罪自体が少ないと考えられるからです。

 

使用したデータ

公衆トイレ論文によればGIPANDOsが施行された自治体は7つです。論文では7つの自治体に対して、マッチする自治体を2つずつ選択しています。この記事ではGIPANDOsあり・GIPANDOsなし(1)・GIPANDOsなし(2)を1グループとして、7グループに分けて検証します。

Demographic Statistics for Massachusettsや Botson.com、その他(世帯所得中央値)で利用できる数値を使って、7自治体と比較自治体群が本当に似通っているのか、 検証しました。年代別人口比率は残念ながら18~65歳の数値しか得られなかったので、高齢化率を表すと思われる年齢の中央値を採用しました。

 

検証

まずは最も人口の多いボストン市を含むグループ1です。グループ1でGIPANDOsありの自治体の人口の2/3を占めるので、このグループが似通っていれば、マッチドペアはほぼ信頼できるといってよいでしょう。

太字にしたのは、著者が差異があると判断した数値です。

グループ1 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
ボストン ケンブリッジ チェルシー (参考)マサチューセッツ州
人口 625087 106038 35649 6349097
面積(平方マイル) 48.43 6.43 2.19 7800
人口密度(人/平方マイル) 12907 16491 16278 814
白人率 54.5 68.1 57.9 84.5
年齢の中央値(歳) 30.8 31.2 32.2 39.4
世帯所得中央値(ドル) 53601 72529 47291 66866
貧困率 19.5 12.9 23.3 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 7656 11905 8781 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) 835 403 1852 404

このグループはマサチューセッツ州の中で最も都市化の進んだ地域です。マサチューセッツ州全体と比べて人口密度が高いこと、年齢の中央値が非常に若いことから読み取れます。人口が全然異なるのでこの時点で比較対象としては怪しいのですが、人口密度のほうが重要と思われるので、検討からは外します。

私がこの検証をしていて、差異が存在する項目が最も多かったのはこのグループです。ボストンとケンブリッジを比較すると、ケンブリッジの白人率が非常に高く、所得はかなり高く、小売店売上も高く、人口密度が高く、暴力事件発生数は半分以下であることがわかります。チェルシーはボストンの2倍以上の暴力事件発生数があり、所得は低く、貧困率も高いです。他にボストンくらいの都市化が進んでいる自治体がなかったんでしょうかね。

残念ながら、比較対象としては不適格と判断せざるを得ません。この時点で検証を打ち切ってもいいくらいです。

 

グループ2 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
メドフォード ビバリー ウォータータウン (参考)マサチューセッツ州
人口 56738 39796 32248 6349097
面積(平方マイル) 8.14 16.6 4.11 7800
人口密度(人/平方マイル) 6970 2397 7846 814
白人率 86.5 96 91.4 84.5
年齢の中央値(歳) 36.7 40.3 38.8 39.4
世帯所得中央値(ドル) 133931 70563 87401 66866
貧困率 6.4 5.7 6.3 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 9787 9027 14401 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) N/A 207 172 404

グループ2は高齢化率を見るとグループ1より都市化が進んでいる自治体群ではありません。メドフォードは極端に所得が高く、ビバリーの2倍近くです。人口密度も約3倍です。年齢の中央値も3.6歳違います。ウォータータウンはメドフォードと似ていますが、一人当たり小売店売り上げが1.5倍以上とかなり高いです。大規模商業施設が存在すると考えられます、

 

グループ3 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
メルローズ ビバリー ビバリー (参考)マサチューセッツ州
人口 27263 39796 39796 6349097
面積(平方マイル) 4.69 16.6 16.6 7800
人口密度(人/平方マイル) 5813 2397 2397 814
白人率 95.2 96 96 84.5
年齢の中央値(歳) 41 40.3 40.3 39.4
世帯所得中央値(ドル) 85704 70563 70563 66866
貧困率 3.3 5.7 5.7 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 4756 9027 9027 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) 138 207 207 404

グループ3はなぜかビバリーが(1)と(2)を兼ねています。他に適当な自治体がなかったのでしょう。これもメルローズとビバリーでは人口密度が2倍違うし、小売店売り上げは約半分だし、暴力事件発生率も2/3程度です。

 

グループ4 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
ニュートン ブルックリン アーリントン (参考)マサチューセッツ州
人口 85945 59132 43290 6349097
面積(平方マイル) 18.05 6.79 5.18 7800
人口密度(人/平方マイル) 4761 8709 8357 814
白人率 88.1 N/A N/A 84.5
年齢の中央値(歳) 39.4 35.7 41.7 39.4
世帯所得中央値(ドル) 119148 96488 89841 66866
貧困率 4.3 N/A N/A 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 12193 N/A N/A 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) 88 137 117 404

グループ4はデータが不足していて比べにくいですが、人口密度、年齢の中央値、暴力事件発生数がかなり異なることがわかります。

 

グループ5 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
セイラム リビア ウォルサム (参考)マサチューセッツ州
人口 41654 52459 61181 6349097
面積(平方マイル) 8.1 5.91 12.7 7800
人口密度(人/平方マイル) 5142 8876 4817 814
白人率 85.4 84.4 83 84.5
年齢の中央値(歳) 37 38.2 34 39.4
世帯所得中央値(ドル) 55780 51863 74198 66866
貧困率 9.7 14.6 7 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 7668 7273 10200 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) 378 508 237 404

グループ5は人口密度、貧困率、暴力事件発生数が異なってます。

 

グループ6 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
サマーヴィル ケンブリッジ ウォルサム (参考)マサチューセッツ州
人口 76519 106038 61181 6349097
面積(平方マイル) 4.11 6.43 12.7 7800
人口密度(人/平方マイル) 18618 16491 4817 814
白人率 77 68.1 83 84.5
年齢の中央値(歳) 30.7 31.2 34 39.4
世帯所得中央値(ドル) 67118 72529 74198 66866
貧困率 12.5 12.9 7 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) 7512 11905 10200 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) 348 403 237 404

グループ6はウォルサム人口密度が極端に低いです。小売店売り上げもサマーヴィルがかなり少ないです。

 

グループ7 GIPANDOsあり GIPANDOsなし(1) GIPANDOsなし(2)
スワンプスコット マーブルヘッド ミルトン (参考)マサチューセッツ州
人口 13896 19964 27182 6349097
面積(平方マイル) 3.05 4.53 13.04 7800
人口密度(人/平方マイル) 4556 4407 2085 814
白人率 N/A N/A N/A 84.5
年齢の中央値(歳) 44.4 44.4 38.8 39.4
世帯所得中央値(ドル) 92258 98399 111071 66866
貧困率 N/A N/A N/A 9.3
一人当たり小売店売上(ドル) N/A N/A N/A 9579
暴力事件発生率(10万人当たり件数) N/A 134 102 404

グループ7は人口が少ないせいか全然データが得られませんでしたが、それでも人口密度に差があります。

 

総括

最も信頼がなければならないグループ1において相当の差異がでていることが、マッチドペア分析の信頼性を失わせています。他のグループでもすべて差異があります。全グループで人口密度にかなりの差があったことは特筆すべきでしょう。

そもそもマサチューセッツ州内でマッチドペアを作ろうとすること自体に無理があったと言わざるを得ません。

 

例え話

第1グループのボストン(62万人)、ケンブリッジ(10.6万人)、チェルシー(3.6万人)は街の規模が全然違います。人口だけ考えると、東京都で例えれば足立区(68万人)と昭島市(11万人)と瑞穂町(3.3万人)に相当します。ですがこの3自治体の人口密度は全然違います(12775・6455・1950人/平方キロ)。

また、ボストンの人口密度(12907人/平方マイル=4983人/平方キロ)と近い東京都の自治体を3つ選ぶなら、千代田区(5417人/平方キロ)、稲城市(5051人/平方キロ)、武蔵村山市(4686人/平方キロ)となりますが、どう考えても、この3つの自治体が同じ傾向になるとは思えません。例えば平均年収は順に944万、399万、312万とかなりの差があります。

 

マッチする自治体は選択可能なのか

すると、そもそもマッチドペア分析で完璧にマッチする自治体を選択できるのか?という疑問が生じます。おそらくそれは不可能です。公衆トイレ論文において「マサチューセッツ州内で最も傾向の似ている自治体を選択した」という手続きは完全に正しいでしょう。可能な限り、マサチューセッツ州内で選択できる範囲内で、傾向の似ている自治体が選択されたことに疑いはありません。ただし、「選択できる範囲内で最も傾向が似ている」にすぎません。「傾向が強い」ということは以上の検証よりありえません。

 

結論

公衆トイレ論文におけるマッチドペア分析では、適切な比較対象を選択することが不可能だった。したがって論文の分析結果には、意味がない。

 

さらに重要な事実

検証中、論文内に、データの不足について書いてあることに気づきました。まず、スワンプスコットについてはデータが得られなかったとあります。したがってグループ7については公衆トイレ論文の調査対象外です。

また、ケンブリッジ、リビア、チェルシーについてもデータが得られなかったため、調査から外した、これに関連して、得られなかったデータが必要なセイラム、サマーヴィル、ボストンについても調査対象外としたという衝撃的な事実が小さな字でさらっと書いてありました。つまりグループ1、5,6についても調査対象外です。この調査はグループ2、3,4についてのみ行われたということです!

ボストンを外してこの論文に何の意味があるのでしょう?東京都(927万人)を対象にした調査だっつってるのに、足立区(68万人)を調査から外して羽村市(5.7万人)、稲城市(8.4万人)、日の出町(1.7万人)だけで統計を取りました、といっていることと同じです。マジでこの統計何の意味があるの?私のまじめに調査した時間返せよ!

(1/16追記)GIPANDOs自治体の人口合計は約15万人ですから、法制度施行前の10万人当たり犯罪率が0だったのも頷けます。本当に0人なんです。サンプル数が極端に少なすぎるんですね。法制度施行後の10万人当たり犯罪率も0.5ですので、これは1件ということですね。つまり、GIPANDOs自治体のサンプル数は1です

結論2

公衆トイレ論文は調査の体をなしていない。読むだけ時間の無駄。