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人類発祥から現代史に至るまでの数千年を1冊で語ってしまうという本です。世界史には以前から興味があったので、まず読んでみたいと思っていた一冊でした。アウトラインだけザーッと書いてあるのかと思ったらとんでもない、見た目も内容もヘビーでした。歴史に慣れていないこともあって読むのに合計20時間は費やしたのではないかと思います。10冊分ぐらい読んだと思ってよさそうです。
まず驚愕するのはマクニール教授の異常な博識さです。歴史学者なので全ての時代について綿密な考察がされているのは当然として、物理学、数学、音楽、美術、建築などへの言及も誤りなくしかも示唆に富んだ記述がふんだんに盛り込まれています。人類が今までになした軌跡をあまねく辿るのですから、全てのことについて理解がないといけないのは分かりますがいやすごいですね。
イノベーションで興隆が決まる
全体を通して「歴史はイノベーションの連続である」という思想が感じられます。イノベーションを発明した地域が繁栄を極め、残りの地域はそれに追いつこう、取り入れようと奮闘するという構図が至る所に散見されます。たとえば紀元前、農耕がはじまったことで富の蓄積が初めて可能となり、文明が生まれました。以降数千年に渡り「文明ー周縁」という定義が出来上がり長期間にわたって固定化します。マクニール氏に言わせれば四大文明ですらメソポタミアが時代の最先端で、あとの3つは周縁の扱いです。
暴走族ハーン
一方古代文明は常に蛮族との戦いを常としており、維持するだけでも並大抵出ない努力が必要でした。蛮族は大抵中央アジアからやってきます。中央アジア~モンゴルは北斗の拳でいう修羅の国とほぼ同じ扱いを受けており、西洋の蛮族バリアーはいまのイラン・イラク付近、中国のバリアーは万里の長城でした。なにしろ蛮族は馬の扱いに長けており、時々暴走族を統率できるカリスマ族長が現れると圧倒的な力を発揮するので、マジで強いのです。歴史上最強の暴走族長はもちろん、日本の小学生でも知ってるチンギス・ハーンです。
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ただし蛮族は力は強いけど安定した制度やインフラを作る力が無く、世界各地を征服した後大抵が後継者争いで崩壊してまた元に戻るという繰り返しでした。日本にやってきた元は中国文明を吸収してドーピングしたため、比較的長持ちした方でした(でもやっぱり後継者争いで崩壊)。
産業革命と民主主義
1500年以降のイノベーターはなんといっても西洋です。1500-1700年の間に西洋で発展した「産業革命」「民主主義」の2つは今でも続く西洋の優越の源泉となっています。産業革命によって種々の生産が大規模になったことと、自動車を作ったからタイヤ・ゴム産業が発展、電気産業が発展したから電線に使う銅産業が発展、というように連鎖反応が起きてテクノロジーが指数関数的に発達し、周りの文明との距離をグングン開いていきました。箱根駅伝の2区で2位と5分差をつけてしまってそのまま10区までトップでゴールインしてしまったような感じです。
民主主義は第二の力の源泉でした。それまで西洋の政治とは、神の力を受け継いだ統治者によってなされるものであり、それゆえ変えることができないものだと思われていたのです。現代人の感覚からすると笑っちゃいますが大日本帝国だって天皇は現人神ですから1945年までは神権政治だったのです。
民主主義の実現によって、政府は人間の手で作られるものだという認識が生まれ、柔軟に政策を展開できるようになりました。さらに重要なことは、「俺たちが選んだ政府だぜ!」という認識が国民にあるため、政府の権力が格段に上がったことです。全国民が共感してくれれば反発なく彼らを徴兵して、国のために喜んで死んでくれる兵士を空前の規模で集めることができたのです。これが西洋政治の強みでした。
民主主義っていうと人間の自由な精神の獲得物と解釈されがちですが西洋人の認識は以上のようなものですので、こわいですね。
引用集
本書は細かい点では感激する点が大量にありました。読書中に面白いと思った所にはいつも付箋を貼って、あとでここに書く材料にしているのですが、本書は付箋が100カ所くらいに貼ってあります。とても紹介しきれませんので、いくつか引用を書いてこの記事を終わりにします。
帝国主義の推進者たちが貪欲なヨーロッパの投資家に約束していた利益は、ほとんどの場合実現しなかった。実際のところ、帝国主義というのは現金に換算してみると、全体として決して引き合わなかったのは確かなようだ。アフリカの植民地行政と開発のためにかかった経費は、おそらくアフリカからヨーロッパにむけて送られた物資の総価額を超えていただろう。・・・白人がアフリカの資源を掠奪して巨大な富を手にしたという意見は、単純計算による偏見でしかない。(P560)
奴隷貿易なども考えると現金の大小だけで割り切ってしまうことには抵抗がありますが、一方的に搾取するだったという見方が一面的であることは、反省してもよさそうです。
イスラム教徒の間では、宗教と政治ははるかに結びつきが強く、それはマホメット以来のことであった。おまけに、イスラエルが1947年と1973年の間にアラブと戦って買ったことも、世界中のイスラム教徒の宗教的意識を尖鋭化させた。なぜなら、敗戦を納得のゆくように説明すると、聖なる法典に記された神の意志に従わなかったから神は罰された、ということになるからである。(P621)
イスラム過激派がなぜ現代でも力を振るうか、についての原理的な解説です。なんと「負けた」→「神の言う通りにしなかったからだ!次は勝つる」の無限ループになるということです。イスラムが迫害されるほど尖鋭化する理由の一つです。
イスラムは中世にそのモーレツさで装備の不利も克服し兵隊の大量動員と統制をもって一時は世界を席巻しましたが、コーランが時代に合わなくなっても変更が不可能であるという根本的な欠点により、勢いを失ったと解説されています。イスラム嫌いじゃないんですけどね。コーランは古典だと思って、源氏物語とか古事記とかと同じ扱いにしてゆるーく尊重すればいいんじゃないのかなあ。
科学者たちはさらに革新的な技術飛躍の縁に舞い上がっているように思われる。そして、加速化する科学と技術の進歩は、来るべき未来に、人間問題に深い影響を与えることは確実である。過去においても事情は同じだったが、影響は間歇的だった。新しい考え方が、われわれの行動を変えることによって、予見しなかったような影響を世界に与える。これは、人間が、未来への展望の共有に基づき、人間の行動を統合しようとして言語を使い始めて以来、おこっていることである。現代においては、新しい観念の氾濫が、このむかしながらの過程を加速させ、その速度と力を強め、伝統的な慣習に対して、いままでよりははるかに大きな破壊力を発揮しているのである。(P639)
ほぼ最後の〆の言葉です。いかにも1917年生まれのじーさん(ご存命です!)らしいセリフですが、ここまでの長い長い歴史の叙述を踏まえると感動もひとしおでした。
現代ではイノベーションが現れては消え、現れては消えの繰り返しで、その周期も速くなっています。2000年にバブルを引き起こしたインターネットももはやインフラの一部となっていて、目新しさはありません。50年後、今の時代はどのように振り返られることになるのでしょうか。未来の歴史書を読んでみたいですね。
本書は文庫版もあります
参考書籍
マクニール博士のもう一つ有名な本です。
類書。本書では鉄も病原菌も銃もイノベーションや大きな影響の一つとしてとらえられているので、二番煎じじゃないんかと思います。でも読んでみたい。
近代史
冷戦
インド
著作権切れのため、原著はネットで公開されてます
An Autobiography or The Story of my Experiments with Truth – Wikilivres
中国
ベトナム戦争