CDレビュー: The Rough Guide To Tex-Mex (1999)

★★☆☆☆

テクス・メクスとはテキサスーメキシカンの略で、主にテキサスに移住したメキシコ人による音楽です。テハノミュージックとも言います。テキサスになぜメキシコ人が多いのか、は歴史をもっと調べてみたいです。

ほぼ全編にわたってアコーディオンが鳴り響き、フォークやカントリーと融合したような曲が大多数です。言語は主にスペイン語ですが時々英語もあります。前知識ゼロで聞いたので何故スペイン語?と思っていましたがメキシコ系がルーツとくれば納得です。

選曲の問題か、単調

残念なことにほとんどの曲がみな同じように聞こえます。確かにアメリカ南部を思わせる陽気な曲が多いのは良いのですが全部そうだと飽きます。

11曲目のJuarezだけはアコーディオンがいい感じにアドリブをかましてくれてよかったですね。

www.youtube.com

やっぱりお気楽なんですけどね。注目は終盤の大アドリブ地帯です。ドラムもイケてます。

 

 

 

 

ワールドミュージックの他のCDレビューはこちらです。


フィスコレポートを読む セレクト 3435サンコーテクノ、2928健康コーポレーション、3186ネクステージ、2412ベネフィット・ワン

 

今週もレポートは少なめでした。

 

3435サンコーテクノ

http://www.sanko-techno.co.jp/img/share/logo.gif

壁面に器具を固定するアンカーというとても地味な業界の日本トップ企業です。主力製品は「あと施工アンカー」という、コンクリートが固まった後に取り付ける器具で、これだけで全売上の3/4を占めます。アンカーや取り付け工具の製造・販売はファスニング事業と呼ばれており、営業利益率は8~10%と高めです。イメージ

あと施工アンカーのサンコーテクノ株式会社|ファスニング営業本部

このページが面白いですね。

あと施工アンカーのサンコーテクノ| こんなところにサンコーテクノ

同社の営業成績は建築需要と連動します。したがって不景気の時は絶不調になります。しかし過去の実績のグラフを見ると最悪のリーマンショック期でも赤字には至らなかったようです。底堅い製品です。

f:id:happyholiday:20150823165505p:plain

また同社の強みは、新築マンションだけではなく、中古マンションのリニューアルや、高速道路・自動販売機・ガソリンタンク・ソーラーパネルなど、固定が必要なあらゆる場所に需要があることです。これらはどれだけ不況であろうとも全くなくなることは決してありません。近年の目覚ましい利益率の上昇にも驚かされます。

肝心の株価は、直近の8/11発表で営業利益-35.8%というクソ1Q決算を発表したため、なんと2割以上も下がっています。

f:id:happyholiday:20150823170100p:plain

波があって不安定なチャートですね。面白い企業ですが手を付けるのは憚ります。

2928 健康コーポレーション

健康コーポレーション株式会社

ある意味日本で最もホットな銘柄ですね。メイン事業は誰もが知ってるライザップ。1Qにライザップの広告を大量投入する同社は先日の1Q決算でまさかの営業黒字を達成し、通期決算への大きな期待が生まれました。同時に海外展開やら医療データ活用サービスへの進出やらビッグなIRを打ち出し、期待感を煽ります。

 

f:id:happyholiday:20150823170741p:plain

 

中期計画はネジが吹っ飛んでいます。

f:id:happyholiday:20150823171218p:plain

イメージ通りのお笑い銘柄ですね。

14年→15年の230億→390億という実績も凄まじいですが6年後に3000億って頭おかしいんでは!?利益率も2倍以上になってるし、、ここまでやるには、アップルのように放っておいてもユーザーが物凄い勢いで増加し、しかも高い製品を買ってくれるという新興宗教のようなブランド力を構築しなければなりません。次の本を読んで私はアップルを新興宗教と判断しました。私は同社にこれの真似をすることはできないと思います。

 

投資家の目は現実的でした。株価はいまいちな動きをしています。

f:id:happyholiday:20150823171525p:plain

5月末をピークに全くぱっとしませんね。決算発表後も700→610と奮いません。先週の株安の流れを引き継げばピーク時の半額になりそうな勢いです。5月末が熱狂し過ぎていただけなのかもしれませんが。

3186 ネクステージ(やや良)

http://www.nextage.jp/themes/nextage/images/header/imgShop.png

名古屋が本拠地の中古車販売業者です。典型的な店舗数拡大の成長モデルですが、近年店舗数を大幅に増やしたことで、売上高が急成長しています。

f:id:happyholiday:20150823172743p:plain

同社の急成長の理由はオートオークション市場からの中古車の調達が可能になったことです。中古車業界は一般的に自分の縄張り内で車の売買をするため、商圏が限られ多店舗展開をすることがなかなかできませんでした。しかし同社は他社に先駆けて全国展開し、名古屋の企業ながら関東圏にも中京圏と同数の店舗を展開しています。ここ3年で店舗数は2.3倍になりました。

今期は店舗数を48→60に急増させる予定です。同社は低価格を売りにしており、市場競争力が強く他店を圧倒する力があります。このまま順調に店舗数を増やしていけば、高成長はほぼ間違いありません。

一方弱みもあります。中古車業界共通の悩み、消費増税です。14年度決算は売上が急増しているにもかかわらず純利益が13年度の半分になっています。増税があれば競争力うんぬんよりまず需要が無くなります。1年半後の消費増税時には、大幅な業績低迷が運命づけられているようなものです。逆にそこをうまく乗り切れば、安泰といえるのですが、、

f:id:happyholiday:20150823173630p:plain

株価はうねりまくりながら近年大きく上昇しています。7月に投機的に2倍近くに急上昇した後下がり、直近でも金曜日に-7.32%も下げてPER9.11倍となっていますので、明日激しく下がれば買い時かもしれません。

2412 ベネフィット・ワン(面白い)

福利厚生サービスのアウトソーシングを行うというとても面白いビジネスモデルの会社です。企業が同社に入会金と月会費を払い、同社は企業に向けて従業員向けのサービスを提供するというモデルです。例えば、

・英会話スクールの割引

・研修に使う国内・海外施設の割引利用

・ベビーシッター・託児施設の割引利用

・分譲住宅の割引(!)

・心の悩み・育児・介護相談

などなど。分かりやすい図が有報にありました。

f:id:happyholiday:20150823174704p:plain

クライアントには官公庁もいます。会員数はすでに700万人以上と巨大です。割引サービスはあまり金がかからないからなのか、利益率は15.5%と非常に高い優秀企業です。中期計画では会員数1000万人を目指し、成長規模を拡大させるために更なる多角的な展開をする予定です。

上で説明した福利厚生事業は売上高の約半分を占める中心事業ですが、最近伸びが著しいのはパーソナル事業です。これは福利厚生事業の個人版です。個人から会費を徴収し割引サービスを提供するというものです。すでに同社の売上の1割以上を数え、伸び率も前期+90%超と有望な事業です。そのサイトは

とく放題

ここです。ソフトバンクと提携し、月会費500円を払うとラクーア734円割引だのマック・ケンタッキーの割引だの抽選でコンビニの商品プレゼントだのさまざまな割引サービスが受けられます。スマホと連携しているので流行りそうです。

他にも多数新規事業を用意していて前途有望ですが、残念ながら株価が高すぎました。

f:id:happyholiday:20150823180420p:plain

1年で3倍という偉業を成し遂げていますがそれから1/4ほど下げ、未だにPER32.18倍です。明らかに急成長株の上がり方ですから、今後業績が加速しない限り大幅な伸びは期待できないでしょう。2000円台を割り込んだらちょっと興味が出そうですが、金曜日に余り下げていないことを考えるとたぶんありえません。

 

おわりに

さて、世の中には面白い企業がたくさんあることをフィスコのレポートと企業のウェブサイトからたくさん教えていただきました。感謝しています。

この試みはしばらく続けるつもりですが、フィスコは同じ銘柄を3か月ごとにレポートし続けることが多く、以前と同じ企業のレポートが続出してきました。以後、取り上げられる銘柄の数が減りそうです。

直近、金曜のえげつない下げと、明日予想される暴落で年初来成績がマイナスになる恐れがあり泣きそうですが、それとはまた別の理由で、株の記事の趣向を変えるつもりです。

私の投資スタンスは中長期なので、短期的に株価動向を書いたりする記事はもう書かないつもりです。というのも、テクニカルな数字の大小を細かく議論するのって、正直言ってつまらないのです。それよりも、いろんな企業がいろんなことを考えていろんなビジネスをしている、その事実を追っかけるのが楽しくて仕方ありません。

以前Core30の銘柄調査をしていましたが、時間が無くなっていったん打ち切りました。大体7割くらいの企業のウェブサイトをざーっと見ました。これはとても面白い経験でした。日本を支配している企業がどのようなものか知り、ビジネスの動向や日本経済の仕組みを極めて分かりやすくしかも実践的に把握することができます。

これをもう一度、TOPIX100でやってみようかな、と思いました。以前やっていたよりもう少し時間をかけて、1企業に関するレポートを作るのです。たぶん1年以上かかるので、その間に日本経済の動向も少々変わってしまうかもしれません。銘柄の入れ替えも行われるでしょう。でも企業のサイトって面白いんですよ。インターネットが発展し、企業がIRで情報を公開しなければいけなくなったことは、すばらしいことです。私たちが生きていく上でモノやサービスを購入する時、その裏で企業がどんなことを考え、どんな風に社会や人間を捉えて行動しているかを知ることができるのです。親切にも彼らはその仕組みを、すなわち意識から無意識に至るまで消費者に金を払わせるための動機づけのために彼らがしていることを、(都合のいいことだけとはいえ)オープンにしてくれているのです。これを利用しない手はありません。

前回は番号が小さい順だったので、今度は大きい順に。まずは9984ソフトバンクです。他にもやることが多く一体いつになるか分かりませんが、地道に調べていきます。


書籍レビュー: 砂穴の中にいるのは私達だった 『砂の女』 著: 安倍公房

★★★★★(°ω°)

私は小説をあまり読んでこなかったので、まず一般的に強く勧められている作品から読んでいきます。自分の好みなんてものは嫌でも後でついてくるでしょうから、当面のあいだは何も考えず受動的に「有名な」ものを読みます。という気持ちでこの小説を選びました。作者には失礼かもしれません。ごめんなさい。

結果的に、この作品には大きな衝撃を受けました。他人の言うことは聞いておくものです。内容についてはAmazon掲載の書評をそのまんま引用します。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。

絶望と比喩と

序盤~中盤にかけて読者を襲うのは強烈な絶望感とあきらめの気持ちでしょう。私もそうでした。安倍さんの口に釣り針でもひっかけられてこじ開けられるような生々しい描写のせいです。彼は比喩が巧みで、巧み過ぎて一部ついていけないくらい想像力豊かです。

やがて、部落の外れに出たらしく、道が砂丘の稜線に重なり、視界がひらけて、左手に海が見えた。風に辛い潮の味がまじり、耳や小鼻が、鉄の独楽をしばいたような唸りをあげた。首にまいた手拭がはためいて頬をうち、ここではさすがに靄も湧き立つ力がないらしい。海には、鈍く、アルマイトの鍍金がかかり、沸かしたミルクの皮のような小じわをよせていた。食用蛙の卵のような雲に、おしつぶされ、太陽は、溺れるのをいやがって駄々をこねているようだ。水平線に、距離も大きさも分らない、黒い船の影が、点になって停っていた。

「鉄の独楽をしばいたような唸り」とか「沸かしたミルクの皮のような小じわ」などといった比喩は私にはなかなか想像できないのですが、何となく想像できるような気はします。よく思いつくよなぁこういうの。

 

 

以下の記述はネタバレを含みます。

 

 

人間社会の隠喩としての「砂穴」

主人公である男は理不尽にも穴の中に閉じ込められ実質上の監禁生活を余儀なくされます。またタイトルにもあるように、穴の住人である女との物語でもあります。女には申し訳ありませんが、私は彼女との交流の描写よりも「砂穴」そのものの構造に興味を惹かれました。

「砂穴」は外界と隔絶されていて、穴の外にいる役場の人間からの水・食料・わずかな娯楽が生活の生命線です。集落全体を守るために、穴の中の砂掻きという重労働を毎日強いられます。砂掻きをサボれば水も食料も途絶えます。帝愛グループの地下施設とあまり変わりありません。

男は穴に閉じ込められたとき、激しく抵抗し何度も出ていこうとします。穴の外でのいつも通りの人生、自由な人生を取り戻すための戦いです。

ところが断片的に記憶の中から掘り起こされる、教師として生きてきた人生、彼女(妻?)とのやり取りは全く幸せそうではありませんし、自由でもありません。

例えば自分のいなくなった部屋を想像した描写は

西陽にむれた、殺風景な部屋、すえた臭いをたてて、主人の不在を告げている。訪問者は、この穴ぐらから解放された、運のいい住人に対して、本能的な妬みをおぼえるかもしれない。

と部屋を「穴ぐら」と表現しています。あまり引用が多いのもよくないので他は省略しますが、明確に意識はされないものの、思い出せば思い出すほど彼の人生は既に穴の中に入っていたと言えます。砂穴から脱出して自由を手に入れるつもりだったのに、自由なんてものは元からなかった。男が穴の生活に慣れていくのは必然でした。

自由の象徴としての「溜水装置」

そして彼はひょんなことからもっとも重要な生命線である「水」を作り出す仕組みを手に入れました。彼はこれを「溜水装置」と名付けています。

水を生産できるようになった彼は興奮します。これで外からの水の配給を止められることによって命を脅かされることはなくなるからです。これは外の世界で決して得ることの出来なかった大きな「自由」の一つでしょう。自由を手に入れた彼は、ラストで偶然逃げ出すチャンスが与えられても逃げ出すことを選択しませんでした。

ちょっと納得できないのは、食料を生産できないから外側からの兵糧攻めにあったらやっぱり屈服せざるを得ないのではないかと思ったことです。ただ、もう少し考えていくと、「溜水装置」で十分なのかなとも思いました。

ほんの一かけらでも

私たちは穴の中に閉じ込められた存在です。人生は砂のように流れていきますし、どれだけ自由を求めたって、稼いだり生産したりしなければ生きていけません。仮に不労所得がいっぱいあってそれらから自由になったとしても死という限界を超えることは決してできません。人として生を受けた時点で穴の中にいるも同然です。

しかし我々は自由を欲します。他人や世界に支配されるのを嫌います。それがどれだけ制限のある自由であろうとも、不完全であろうとも、パン屑ほんの一かけら分であろうともよいのです。

女が穴の生活で欲したのは鏡とラジオです。

「本当に、助かりますよ……一人のときと違って、朝もゆっくり出来るし、仕事じまいも、二時間は早くなったでしょう?……行くゆくは、組合にたのんで、なにか内職でも世話してもらおうと思って……それで、貯金してね……そうすれば、いまに、鏡や、ラジオなんかも、買えるんじゃないかと思って……」
(ラジオと、鏡……ラジオと、鏡……)――まるで、人間の全生活を、その二つだけで組立てられると言わんばかりの執念である。なるほど、ラジオも、鏡も、他人とのあいだを結ぶ通路という点では、似通った性格をもっている。あるいは人間存在の根本にかかわる欲望なのかもしれない。

男は反発するも納得しています。鏡は自分の情報を得られる、ラジオはほんの少しでも外側と繋がることができる道具です。

水を生産する「溜水装置」も圧迫された生活の中の不十分な自由の一つですが、それを得られることのなんと素晴らしいことでしょう。

我々の人生という穴の中の絶望的な状況に鑑みれば、わずかでも自由を得られることは大きな収穫となります。それは未来を感じさせるものです。期待です。あとがきでドナルド・キーンさんが「なぐさみ物」と表現しています。いやそりゃ本質的にはそうなんですが、そんな軽いもんじゃないでしょう。私はこの装置に「なぐさみ物」以上のものを感じました。単に穴の生活に慣れただけだったら、彼はチャンスが来た時、即座に穴から出ることを選択するはずなのですから。

 

作者の生物学に関する造詣が深すぎると思ったら元医学生だったんですね。納得しました。この作品は折に触れて読み返したいですね。

小説面白い!まだまだ面白い作品が日本にも海外にも大量に転がっていると思うとワクワクします。

 


書籍レビュー: マーケティングの教科書×ジョブズ×エリート礼賛 『Think Simple アップルを生み出す熱狂的哲学』 著:ケン・シーガル 訳:高橋則明

★★★★★

著者のケン・シーガルはアップルに長年勤めた広告マンです。スティーブ・ジョブズを広告面から陰で支えた存在と言えるでしょう。本書は、アップルの「Think Simple」という哲学をタイトルに冠しその詳細を10項目にまとめた(体裁の)の本です。

シンプルの法則の例

1985年から1995年の10年間、アップルはジョブズを追放します。その間、アップルの売上はどんどん低迷していきます。ジョブズが戻った時、アップルは瀕死でした。そこ から「シンプル」の法則に従った経営の立て直しが始まり、iMac、iPod、iPhone、iPadといった大ヒット商品を生み出す企業に発展していきます。

まずシンプルにするのは組織でした。これは第2章に詳しく書かれています。アップルはジョブズを中心とした少人数のエリートたちが迅速に物事を決める形態を選びました。要するに寡頭制です。大規模な会議は平等ですがスピードが遅い。しかも形式ばかりを重視し実質が伴わず、優れたアイディアも潰されやすいのです。これは日本的民主主義に対応していると感じました。ジョブズはこのようなまどろっこしい体制を「大企業病」と呼び忌み嫌いました。

次にシンプルにするのは製品ラインナップです。著者はデルの広告も担当したことがあるため、デルとアップルを比較してデルを激しくdisります。商品のラインナップが「複雑さ」の罠にはまりこんでいるというのです。デルはあらゆる顧客を満足させるために、種々雑多大量のモデルを投入していました。すると製品1つあたりにかけられる配慮は当然少なくなります。販売員がどれを薦めたらよいのかもわかりません。アップルはノートパソコンのモデルを「プロ用のMacBook Proとパーソナル用のMacBook Airだけ」と極めてシンプルにまとめました。そうすれば、少ない経営資源に集中できるという計算です。

いま別件でソフトバンクのウェブサイトをじっくり見ているのですが、iPhoneは「iPhone6」と「iPhone6 Plus」しかないんですね。実質iPhone6しかないも同然です。iPhoneを使いたかったらこれしかない、というシンプルの法則が働いています。

アップルのマーケティング理論

私はアップル製品を一度も買ったことがありません。iPhoneは持っていません。SIMカードなしのAndroid端末は持っています、PCは 20年以上Windowsを使っているし、iPodではなく韓国製COWONの音楽プレイヤーを持っています。実は個人的にはアップル製品に魅力を感じていません。

しかしこの本を読んでなぜアップル製品がアメリカだけではなく日本でも売れるのかよくわかりました。彼らが作るのはイメージです。ブランドです。「この製品を手に取れば自分が変わる」と思いこませる力です。彼らが一番金を掛けるのはどこか?広告費なのです。

シンプルの法則に従って商品を絞り込んだら、あとはその商品を売り込まなければいけません。株のポートフォリオなら「mixi全力買い」などとやっていることと等しいのです。mixiの株価を上げないと死にます。

ですから広告で「iPhoneすごい!革新的!持っていたら私プレミア!」と思いこませなければいけません。著者を含む広告部隊に課された大きな使命です。(ここら辺は本書には書いてありません)

著者が広告マンということもあるでしょうが5~10章は殆ど広告の話です。iPhoneのネーミングにかける情熱や、いかにしてユーザーにイメージを植え付けるのか、そのために選ぶ言葉や偶像は何にするのか、などなどが熱く語られます。

シンプルさが最も印象付けられるのはやはり「i」のネーミングでしょう。「i」にはインターネットのi、イマジネーションのi、インディヴィジュアル(個人)の「i」がたったの1文字に凝縮されています。今日では「i」さえあれば誰もがアップル製品のものであると分かる超シンプルな記号になっています。私も、先のソフトバンクのサイトで言えば「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」や「Disney Mobile on SoftBank DM016SH」よりも「iPhone6」のシンプルさに軍配を上げます。

小人数のエリートにしか世界は支配できないのか?

さてこの本を読んで一番引っかかったことは、「少人数エリートによるトップダウン経営」についてです。アップルもジョブスの独裁と少数精鋭があってはじめて猛スピード経営が可能となります。意思決定が迅速で、権限が高いことによって軌道修正が容易、しかも思い切った決断がやりやすいからです。

また、第1章でも出てきますがジョブスは極めて率直にものを言います。クソだと思ったことには容赦なく罵詈雑言を浴びせます。しかし相手にも同じような率直さを求めます。そしてそれが妥当であれば、彼も考えを変えることがあります。ジョブズが好かれる理由はここにあると思いました。私も気に入ったので一時期バカ売れした評伝を読んでみたいです。

脱線しました。この率直さでもって少人数グループは嵐のような速度でディスカッションができ、プロモーション案の試行錯誤のスピードが通常の3倍速以上になります。しかも元々エリート揃いだから質の高いものを大量生産し、そこから最も良いものをジョブズが選び出すことができるのです。こりゃ敵う訳がありませんわ。

考えてみれば、ファーストリテイリングの柳井正、セブン&アイの鈴木敏文、ソフトバンクの孫正義、アマゾンのジェフ・ベゾス、マイクロソフトのビル・ゲイツ、急成長する企業はどれをとってもトップの力に依存しています。

この本は優秀な人間も凡人も平等な立場を保証して会議を進めたら良いものはできない、という証明の1つです。プロセスで雁字搦めにされた企業に明日はありません。私たちの人権意識や法の精神、平等感はイノベーションを損ないます。何が良くて何が悪いのか?さっぱりわからなくなってしまいました。

 

 


聖書の神様なサイトが見つかった

西洋思想を勉強するにあたって聖書を読むことは必須です。というのも、ギリシャ哲学以外の紀元後から現代にいたるまでキリスト教の影響を受けていない思想家など存在しません。敢えて無神論を公言する思想家もキリスト教による支配を前提としています。

また、イスラム教を学ぶにあたっても聖書は必須書物です。何故なら、イスラム教は後発の宗教ですが、なんとユダヤ教やキリスト教をと同じ神を信仰する宗教であり、聖書への言及もあるので一通りキリスト教を知ってからでないとクルアーンを読めなさそうだからです。

私は数年前に教会でもらった日英対訳の新約聖書(新共同訳+New King James Version)を英語の勉強も兼ねて通読したことがあります(大部分は忘れました)が、旧約聖書は読んだことがありません。エホバの人に旧約聖書をもらったこともありますが新世界訳はひどい。英語翻訳版からの2段階翻訳なので回りくどくて分かりにくい上に用語がエホバ用に改変されているのでもう読めたもんじゃありません。

なので他の翻訳の旧約聖書を読みたい。最寄りの公共図書館には岩波の関根訳があります。これも読んでみたいですが注釈が細かすぎたり、教文館から関根さん自身による新訳(新約じゃないです)が出ているそうなのでやや消化不良気味です。調べると口語訳聖書なるものがあるらしいです。そしてこれは著作権が切れている。wikisourceなどにもありましたがなんと次のような神サイトが見つかりました!

すばらしすぎる!グレイト!最近岩波から出た文語訳聖書まである!

ここの epub形式 口語訳聖書 のページにある青空文庫風テキストをTxtMiru2で読み込んでやると、

f:id:happyholiday:20150822134953j:plain

メルシーボクー!ダンケシェーン!あなたが神か!

TxtMiru2についてはこちらを参照。

しかし合計2919ページって一体どこの辞書だよ!広辞苑が3047ページらしいのでこれに匹敵する分厚さですね。広辞苑は三段組なので単純評価できるものではないですが。このサイトのおかげで図書館から超分厚い旧約聖書を借りたり本屋から重い重い聖書を持って帰ったりしなくてすむので助かります。

 

文語訳聖書は創世記の1日目をちらっと見て無理と判断しました。

創世記

第1章

1:1元始に神天地を創造たまへり 1:2地は定形なく曠空くして黑暗淵の面にあり神の靈水の面を覆たりき 1:3神光あれと言たまひければ光ありき 1:4神光を善と觀たまへり神光と暗を分ちたまへり 1:5神光を晝と名け暗を夜と名けたまへり夕あり朝ありき是首の日なり

格調高すぎて読めない。

 

でもルビ付きもあった!シエシエ!カムサハムニダ!

創世記

第1章

1:1元始(はじめ)(かみ)天地(てんち)創造(つくり)たまへり 1:2()定形(かたち)なく曠空(むなし)くして黑暗(やみ)(わだ)(おもて)にあり(かみ)(れい)(みづ)(おもて)(おほひ)たりき 1:3(かみ)(ひかり)あれと(いひ)たまひければ(ひかり)ありき 1:4(かみ)(ひかり)(よし)()たまへり(かみ)(ひかり)(やみ)(わか)ちたまへり 1:5(かみ)(ひかり)(ひる)(なづ)(やみ)(よる)(なづ)けたまへり(ゆふ)あり(あさ)ありき(これ)(はじめ)()なり 

曠空(むなし)くして」とか「黑暗(やみ)(わだ)(おもて」とか中二病患者みたい!!でも読んでみたい!!

全文章にルビを振った労力がしのばれます。しかもこのサイトは明示的に著作権を放棄しています。信仰の力は美しい。


CDレビュー: Paul Motian – Jack Of Clubs(1985)

★★★★★

ジャズドラマーPaul MotianのComplete Remasteredシリーズの2枚目です。

ピアノなしで自由度の高い作品、ギターが独自の世界を作る

1曲目Jack Of Clubsからいきなりフリーダム!モチアンさんはこの手の曲を好むのでしょうか。ドラマーにしては珍しく、2作連続で自分自身があまり目立たない演奏です。サックスが2本好き勝手に吹いています。真ん中にビル・フリセールのエレキギターが入り、不思議な空間を作ります。

2曲目Cathedral Songで一息ついた後、3,4曲目が素晴らしい。まず3曲目Split Decisionはベースがウォーキングしドラムがライドシンバルを4分打ち+スイングで、、ってこれ普通のジャズじゃん!?ところが普通のジャズではありません。真ん中にエレキギターが浮遊霊のように常にぼんやり位置取ることで独特の緊張感というか気味悪さのようなものを浮かび上がらせたまま疾走していきます。

4曲目Hide And Go Seekが本作で一番好きですね。ロックかと思うようなギター一人のイントロで始まり、ドラムは高音域だけ、サックス2本がミニマル的な繰り返しでもって幻想的な空間を作っています。

他にも7曲目Drum Musicという直球なタイトルのイントロも聴きごたえがあります。ギターと融合したジャズも面白い!

 

 

ジャズの他のCDレビューはこちらです。


CDレビュー: Thelonious Monk – Brilliant Corners (1957)

★★★★★

ジャズの100枚。  の19枚目です。セロニアス・モンクのアルバムは2枚目。

モンクのピアノに合わせて周りもエキセントリックに。。

彼のピアノはとっても癖があり、堅めの音と時々鳥や動物の鳴き声のような逸脱の即興を混ぜるスタイルが特徴です。この印象は前回聞いたときと変わりません。

 

しかしこのアルバムは1曲目Brillian Cornersから全員が普通のスタイルを逸脱しています。なにこのダルダルなサックス。しかも2本。これがモンクのピアノとうまい具合に溶け込み、彼の変なピアノを上手に引きたてていると感じました。

2曲目Ba-lue Bolivar Ba-lues-areはダルデレな雰囲気はそのままピアノが目立ちます。ブキーボキーと悲鳴を立てるようなピアノも聞き苦しさは感じさせません。ダルさが洗い流してくれているのでしょう。

3曲目Pannoicaはさらにグロッケンが入り大きく萌え化します!鉄琴のあの音って胸がきゅんとしませんか?このタイミングでピアノソロの4曲目I Surrender, Dearが入りますが萌え萌えしている私の耳はカタブツだと思っていた彼のピアノもかわいく聞こえてしまいます。

セロニアス・モンクは不器用可愛い。と知ることのできたある意味衝撃的な1枚でした。

 


岩波ジュニア新書セレクト20冊

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/jr/

岩波ジュニア新書は主に高校生をターゲットとした新書です。ですがほとんどの著者が第一線で活躍している人間であるため、その内容は大人の読書に十分耐えうる内容です。むしろ大人向けの売らんかな本より分かりやすく優れていることもあります。公立図書館でよくヤングアダルトの棚に並んでいますが、魅力的な書籍が多かったことを覚えています。少年向けということで、気合を入れて執筆する著者もいるでしょう。特に昔の人は教育熱心で、小学生向けだとしても優秀な本を書く人間がたくさんいました。

私は自分に知識が全くないことを自覚しています。まずはこれと普通の新書を大いに活用して知識の種を蒔いていこうかと思いたち、早速ジュニア新書のラインナップを調べてみました。

読みたい本まるけ!

刊行数はせいぜい数百ですがその中でざっと125冊読みたい本がありました。とても読み切れません。時間の都合上、泣く泣く次の20冊まで厳選しました。

歴史

ジュニア新書では「砂糖の世界史」が一番有名だそうですね。他にも、コルチャック先生については殆ど類書が無く貴重です。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 
ギリシア神話 (岩波ジュニア新書 (40))

ギリシア神話 (岩波ジュニア新書 (40))

 
日本神話入門―『古事記』をよむ (岩波ジュニア新書 (453))

日本神話入門―『古事記』をよむ (岩波ジュニア新書 (453))

 
コルチャック先生 (岩波ジュニア新書 (256))

コルチャック先生 (岩波ジュニア新書 (256))

 
人とミルクの1万年 (岩波ジュニア新書)

人とミルクの1万年 (岩波ジュニア新書)

 

思想・宗教

最近カントの解説書が出ました。ありがたい。「ヨーロッパ思想入門」も期待大です。昔シュベーグラー西洋哲学史を読んだことがありましたが難解過ぎてほとんど理解できませんでした。

自分で考える勇気――カント哲学入門 (岩波ジュニア新書)

自分で考える勇気――カント哲学入門 (岩波ジュニア新書)

 
近代国家を構想した思想家たち (岩波ジュニア新書)

近代国家を構想した思想家たち (岩波ジュニア新書)

 
ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

 
仏教入門 (岩波ジュニア新書)

仏教入門 (岩波ジュニア新書)

 
聖書小事典 (岩波ジュニア新書)

聖書小事典 (岩波ジュニア新書)

 

社会、人文その他

「日本語のレトリック」が人気ですね。「動物で読むアメリカ文学」はユニークであると感じました。

憲法読本 第4版 (岩波ジュニア新書)

憲法読本 第4版 (岩波ジュニア新書)

 
日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

 
漢語の知識 (岩波ジュニア新書 25)

漢語の知識 (岩波ジュニア新書 25)

 
魂をゆさぶる歌に出会う――アメリカ黒人文化のルーツへ (岩波ジュニア新書)

魂をゆさぶる歌に出会う――アメリカ黒人文化のルーツへ (岩波ジュニア新書)

 
動物で読むアメリカ文学案内 (岩波ジュニア新書)

動物で読むアメリカ文学案内 (岩波ジュニア新書)

 

科学

「科学の考え方・学び方」が定番ですが私はマイナーな「重力の達人」が一番気になります。

科学の考え方・学び方 (岩波ジュニア新書)

科学の考え方・学び方 (岩波ジュニア新書)

 
重力の達人―橋、トンネル、くらしと土木技術 (岩波ジュニア新書)

重力の達人―橋、トンネル、くらしと土木技術 (岩波ジュニア新書)

 
酵素のちから―生命を支える (岩波ジュニア新書 (506))

酵素のちから―生命を支える (岩波ジュニア新書 (506))

 
新・天文学入門 カラー版 (岩波ジュニア新書)

新・天文学入門 カラー版 (岩波ジュニア新書)

 
元素の小事典 (岩波ジュニア新書 (316))

元素の小事典 (岩波ジュニア新書 (316))

 

これらは近いうちに読破したいと思っています。これらと並行して種々の本も読み進めていきます。

次は岩波新書にステップアップするつもりですがこちらは刊行2000冊を突破しており膨大に過ぎます。古い順に300冊ほどチェックして既に100冊以上読みたい本があります。やはり無理なのでまた厳選しなくちゃ。。


書籍レビュー: ローマ人はオープンすぎ!『ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下)』 著: 塩野七生

★★★★★

全43巻中の2巻、本書では紀元前453~270年ごろまでを扱います。文庫になる前は1・2巻で一つの単行本でした。文庫は持ち運びやすくとても助かります。

1・2巻ではただの一地方都市に過ぎなかったローマが王政を経て共和制に移行し、領土を拡大しながらケルト族やエピロス王ピュロスという難敵と戦いつつ、ついには南イタリアを制圧するまでの話です。

歴史面白い!面白いよ!なんで今まで全く学ぼうとしなかったんだろう!あほじゃないの私!?

ローマの開放性

本書で一番印象に残ったのはローマ興隆の要因分析です。結びで簡潔にまとめられています。

ローマはギリシャよりも頭脳は弱いし、スパルタほどの軍事力も、隣国のエトルリアほどの技術力もありませんでした。しかし結果的には彼らを凌ぐ大国家となっていきます。

ローマには他の国家にはない大きな特徴がありました。それは国家の開放性です。ローマ人はオープンでした。例えば誰でもローマに住めば市民権を得ることができました。誰でもです。ギリシャは他民族をバルバロイ(蛮族)と呼び、他国で生まれた人間には一切市民権を与えません。中国にも中華思想(自分以外の国はみんな野蛮人)がつい最近までありました。

当時は征服した都市を滅ぼすのが常識でした。しかしローマが周辺の部族と戦った場合は、相手の部族を皆殺しにするどころか、彼らの民族の存立を認め、ローマに迎え入れます。彼らには市民権を与え、有力者は国家の幹部にすらなることができるように計らったのです(もちろんその部族が裏切った場合など、例外もありました)。このように周辺の民族をどんどん同化し、技術も知識も取り入れ、不断に拡大再生産を続けるローマには常に新しい風が吹き、硬直して腐敗していきません。なんだかM&Aを行っているようです。多様性を認めるが国家への忠誠を本筋とするところはアメリカとも似通っています。数々の歴史家がローマの興隆の原因を「開放性」に認めました。

ローマ人の美徳

もう一点印象に残ったのはローマ人の「美徳」についてです。彼らは名誉心を何よりも優先しました。まるで武士のようです。

ローマ人は農耕民族で、大地主である貴族と小規模自作or小作人の平民が存在します。貴族と平民は土地の分配をめぐって険悪な関係にありました。不満を持つ平民は兵士募集に応じないなどのストを行います。古代は四方八方から断続的に多民族が攻め込んでくる時代ですから兵士がいないことは即国家存亡にかかわることです。ストは有効に土地問題を解決するように思われます。

しかし彼らの名誉心がストを無効化してしまうのでした。

敵が国境に迫っていると聞けば、不満も忘れて兵役に志願した。友軍が苦戦に陥っていると知れば、戦線参加拒否をつづけることができなかった。その結果、勝ってしまうのである。

さらに、貴族が汚職にまみれ暴利をむさぼるクソ野郎であったのなら、平民側にも言い分が立ち交渉を有利に進めることができます。ところが貴族も名誉を重んじるいい奴だったのです。

平穏に自分の農地を耕す毎日を送っていたキンキナートゥスは、独裁官に任命されたと告げられる。鍬を捨て指揮杖を手にした彼は、国境を侵していた外敵相手の戦闘に勝利を収めるのに、十五日とはかからなかった。キンキナートゥスは、六か月座っていることもできた独裁官の地位を十六日目に返上し、ふたたび自分の農地に戻って百姓の日常を再開したのである。

こんな感じで平民・貴族両者とも名誉心を大事にし清く正しくをモットーに生きているがために、かえって両者の交渉が成立せず泥沼にはまる、という一筋縄ではいかない歴史の面白さを見ました。

街道

ローマ人は街道を多く建設しました。ほとんどがローマを中心とした放射状の道路です。軍隊や経済を効率的に運ぶ動脈の役割をする道路、これの重要性を知っていたのはローマ人だけでした(どこからその発想が湧いたのかは書かれていません。気になります)。アッピア街道を始めとする道路は、ほとんど現存しています。いまでは高速道路のバイパスになっているそうです。

私の大好きな曲の一つにレスピーギの組曲「ローマの松」のトリを務める「アッピア街道の松」があります。


Respighi :The Pines of the via Appia – Karajan* – YouTube

美しい。

アッピア街道というのはローマ人の貴族の中でも名門中の名門、クラウディウス家のアッピウスが敷設したことにちなんでつけられた名前だということが本書に書いてあって、驚きました。もちろんレスピーギの曲を聴いたときは知りませんでした。アッピア街道はローマをスタートして、苦戦するサムニウム人の攻略のために重要な年であったカプア(現在のベネヴェント)、ピュロス軍を呼び寄せてローマと戦わせるギリシャ系都市国家のターラントを結ぶ超重要な街道だったのです。

f0a75a1bd4cff4aea8a3dd2432e8886b_convert_20140614095232.jpg

奈津子の徒然雑記帳 歴史を歩く21

街道はローマ人の開放性を表す大きな特徴の一つでした。というのも、自国の流通が活性化されるのはもちろんのこと、他国の流通も活性化させます。上図のタラントから、ピュロス軍はアッピア街道を北上しローマの近くまで押し寄せてくるのです。日本のお城は堀を設けて敵を寄せ付けないわけですが、街道はこれと正反対の思想です。「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」といった根性がなければできない芸当ですね。オープンというのはとても厳しいことです。

 

印象深かったのは以上述べたことですが、2巻ではケルト族への敗北、熟練の策略家ピュロスとのギリギリの戦闘も読みどころです。3巻以降も楽しみ。

 

巻末の年表を見て愕然としました。ローマ人が南イタリアを制圧した紀元前270年頃、日本に関する記述は「弥生時代」しかありません。ギリシャで哲学が花咲きソクラテスが刑死し、ローマがケルト族に占領されアレクサンダー大王が東アジアで暴れまわった頃は「縄文時代」としか書いてありませんでした。。無論日本内でも色々な出来事は起こっていたのでしょうけれど、日本に文字が無かったというのは致命的ですね。もっと早くから記録が残っていればよかったのに。本当に残念です。