書籍レビュー:『母がしんどい』 著:田房永子

★★★★★

田房永子さんの代表作?です。

紹介文には「毒親との戦いを記録したコミックエッセイです。」とあるので、一体どのような母親なのだろう、と期待して読みました。

田房さんの母は、読めば読むほど元配偶者にそっくりでした。似ているエピソードがいくつかあります。

こどもが中学校に通っている時、担任とトラブルになりました。詳しいことは忘れましたが、担任が顧問をしている部活に勧誘されたのを断ったら、担任にイヤミを言われた、という程度のことだったと記憶しています。元配偶者は、これを聞いて、担任に殴り込みをかけ、中学校をやめさせました。公立中です。転校先の私立中でも、部活で人間関係のトラブルがあったため、やめさせました。この子は、それ以後学校に通っていません。もっと正確に言うと、通わせませんでした。

元配偶者はこどもと自分との切れ目が無く、こどもが攻撃されたことと自分が攻撃されたことを同一視し、自分が攻撃されたことと同様にふるまいました。元配偶者はいつも「こどもの自主性が大事」といっていましたが、こどもの自主性は無視されていました。中学校でのトラブルは、こども自身が解決するべきでした。担任がクソだったことは事実なので、こども自身の力で考えて、その結果、学校に行くのをやめたと判断するなら、その決断は尊重されるべきでした。元配偶者は、こどもの力をスポイルしました。残念ながらぼくには当時、元配偶者の行動を止める根拠も判断力もありませんでした。

元配偶者は、こどもが親を慕っていることがわかっているから、言うことを聞かせるために、こどもを一人置き去りにするという罰を与えることがありました。置き去りにした時の様子を、こどもとぼくの前で事細かに説明したこともあります。こどもに生活力が無いことを分かっていて「この家を出て一人で生活すればいい!」という脅しをかけることもありました。

こどもにこういう罰を与えたこともありました。

ピアノ

一番不安定だった子には、あまりに言うことを聞かないので元配偶者が「殺してやる」と言ったこともありました。この子は、生きるために、「殺してやる」とおうむ返しして、逆上しました。包丁を持ち出してこどもに言うことを聞かせたこともあります。

 

内容紹介になっていませんがこのようなことを想い出しながら読んでいました。

Amazonレビューには壮絶な毒親体験記がいくつも書かれていて、ここだけで読み物として成立します。

そういえば元配偶者の愛読書の一つはこれでした。

元配偶者の親もアル中暴力父+父に告げ口する母とたしかに毒親でしたが、自分もそうであるとは、彼女にはわからなかったようです。こどもを殴らなければいいわけじゃないですよ。本書にもお母さんは永子さんのことを「殴りはしない」と書いてあってぞっとしました。


書籍レビュー:『セクシャル・マイノリティ Q&A』編著:LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト

★★★★★

Q&Aという形式をとって、セクシャル・マイノリティの人が、社会生活を送るために具体的にどのような困りごとがあるのか、どう対応していけばいいのか、ということを主に法律家の立場から解説する本です。

セクシャル・マイノリティと謳っていますが実際にはほぼLGBTの人たちへの情報集でした。「LGBTの人が、マジョリティのために作られた社会制度の上にどうやって乗っかっていくか」がメインとなっています。例えば、

  • 心の性別と体の性別が違うときにはどのような手続きを取ればよいか?
  • 修学旅行のとき寝室をどうしよう。。
  • 自分が死んだときパートナーに財産を残すにはどうしたらいい?

といった、LGBTが日本で送る生活の中で必ずぶつかるであろう、社会的圧力や法的障害に対応するためのアドバイスが書かれています。ぼくはいまパートナーと法的にいえば事実婚状態なのですが、財産や任意後見制度、信託など事実婚についても適用できるアドバイスも多く、参考になりました。

途中にLGBT当事者によるコラムが挟まれていますが、彼らに共通しているのは、周りがみなバカにしている・異常だと思われる・誰にも相談できないことによる疎外感です。性別違和を感じニューハーフとなった後、男性学に出会いそのまま大学→修士まで修めてしまった宮田りりぃさんのコラムが一番面白かったです。

華やかな夜の都会で働く人々とのかかわりを通して、魅力的な女性/男性のイメージや恋愛関係が意図的・計画的に演出されていく様を間近で見ることが面白くてたまらないという感じでした。

本書に書かれているアドバイスはどれも個別で具体的なものですが、どのQ&Aにも執筆者さんの根底に「相談者さんの人格を大事にしたい」という思いが感じ取れます。それは、序盤の概論で次のように書かれている箇所に凝縮されていると思いました。

仮にマジョリティの人たちの方が多いとしても、多いからといって、それが「正しい」とか「普通」だとか「自然」だということにはなりません。人が、自分のことをどの性別だと思うか、また、誰を好きになるかということは、その人にとってとても大切なことです。そして、その人がどう生きるかといった、その人の人間としての尊厳(人間が人間らしくあること)に大きく関係することです。ですので、そのことについて、周りの人たちが「正しくない」とか「変」とか「不自然」だといったり、「こうあるべき」と決めつけたりすることは許されません。(P11)

マジョリティ側からかけられる圧力は、彼らの習慣に基づいたものに過ぎません。自分と他人の習慣が異なると、自分を否定されたようにに感じる人が多いので、数をたのんで「正しくない」だの「変」だのとマイノリティを攻撃して自分を保つ、という構造をよく見かけます。

誰一人同じ人間なんていないんだから、お互いを尊重できればそれでいいのにね。

 

 

 


書籍レビュー: 『すぐに役立つ 少額訴訟・支払督促のしくみと手続き実践文例56』

★★★★☆

60万円までの金銭請求までしかできないけれど、1回で審理が集結してその場で判決が出る、上告もできない超スピード審理が特徴の「少額訴訟」を解説した本です。

裁判費用は最大でも1万円で弁護士も必要なし。訴状を出したら、書記官さんがこういう資料を用意してね~とかここの書き方が間違ってるよ~と親切に教えてくれます。庶民にやさしい訴訟です。勝訴すれば、判決が確定してなくても仮執行で金銭の差し押さえができちゃいます。負けても1万円損するだけ。

「支払督促」は金銭トラブルに絞った、少額訴訟よりももっと簡素な、出廷さえしなくてもよい手続きです。原則、瑕疵が無ければ主張は認められるので、相手方からの異議申し立てが無ければ仮執行~強制執行までできちゃいます。給料不払いや敷金未返還トラブルには、泣き寝入りしないでぜひこの制度を活用するべきです。

相手方が離れた地にいたとしても、次のシステムを使えば遠隔地の裁判所まで行かなくても督促出来ちゃいます。

督促手続オンラインシステム

 

よくまとまっている本でした。

 


書籍レビュー: 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 永田カビ

★★★★★

 

レズ風俗のレポというよりも、作者の心象風景がメインとなる作品です。

人生で一度でも挫折の経験がある人は、彼女の根底にある真っ暗なものとシンクロして、心が揺さぶられるのではないかと思います。個人的には、以前自己評価がマイナスになっていた時期の記憶が耳かきでほじくり出されるような気持ちがしました。いい作品です。

パン屋のお兄さんのシーンが見所です。

 

amazonレビューが好悪極端に割れていますね

関連リンク

連載中。こちらの方が苦しいです

前の家の長女は一人暮らしできたのかな。


書籍レビュー:「普通」が差別を生む 『非婚の親と婚外子』 編:婚差会

★★★★☆

 

日本国では、婚姻関係にない男女から生まれた子は民法で「非嫡出子」として扱われます。法務省編の戸籍法の解説書には「非嫡出子は、正常でない家族関係における子」と記述されています(法務省民事局内法務研究会編「改正国籍法・戸籍法の解説」1995年)。

この本が書かれた2004年現在では非嫡出子は法律上の差別があり、民法900条4号で法定相続分が嫡出子(婚姻関係にある男女から生まれた子)の1/2となっていました。この規定は2013年12月に撤廃されました。

法律ですら差別がありますので、「非嫡出子」を「普通ではない」とみなす「常識人」は数多くいます。

第一章では、結婚生活が破綻し前夫が離婚に応じないまま次のパートナーとの子供を妊娠したため、民法772条の「離婚後300日を経過しないまま出産した子は前夫の子と推定する」という規定に苦しむ女性の話が描かれます。彼女は「普通はたくさんの人に祝福されてきて生まれる子のなのに、この子は私とパートナーしかいなくてかわいそう」と苦しみます。いやあなたとパートナーだけでいいじゃないの!!!なんでだめなの!

第三章、妻子持ちの男性との子を出産した女性が、男に「こいつも不幸やなあ。重い荷物背負って、差別されながら生きていかなあかんなあ」と言われます。男はカッコつけたつもりなのでしょうが、女性は次のように言います。

「そんな風に一番差別しているのは、父親であるあなたでしょ」(P53)

第四章は、シングルマザーが大阪府議の後援会事務所で議員に

「なんや、未婚の母か。そんなふしだらな人が自分の事務所に来てると言われるとなぁ(中略)あんた、子どもにかわいそうなことしたなぁ。これから就職やら結婚やら、いろんなところで差別されるで」(P70)

と言われた上にセクハラされるという胸糞悪い話です。この女性が議員相手に訴訟を起こして勝つまでのストーリーがスカッとするのが救いです。

3つのストーリーで共通して出てくる単語は「かわいそう」です。「かわいそう」という言葉には、裏に差別が含まれています。「差別されるからかわいそう」ということですから、差別を認めていることになります。単純化すると

「婚外子」→「普通ではない」→「かわいそう」=「差別」

となります。

人間は「普通」であることに安心し、「普通でない」ことに対して不安を抱きます。そして「普通」は国家が法律をもって決めます。国家が決めた「普通でない」ことにはペナルティがついたり、「普通」であることには税制上の優遇などのエサがつきます。

犯罪は他人の人権の侵害となるのでペナルティを受けて当然ですが、婚外子であることになぜペナルティがつかなければいけないのでしょう?近年、婚外子に対する法律上の差別は存在しなくなったので、あと残っているのは人間の差別心だけです。

婚外子差別は、特に夫のみが働く共働きでない婚姻関係のある世帯に顕著です。なぜなら、夫名義の財産は夫婦共有と考えられている場合が多く、夫の財産に対して相続権を持つ婚外子の存在は夫婦の共有財産の侵害と認識される場合が多いからです(P161~162)。妻の夫への経済的依存性のため、不実の夫に向けられるべき怒りが婚外子に向かってしまい「婚外子は加害者」という誤った差別意識が生まれる、という構造です。近年の低収入化による共働き世帯の増加によって婚外子差別は薄れていくかもしれませんが、ぼくの周りの話を聞くだけでもまだまだ遠い先のことに感じます。

図録▽婚外子(非嫡出子)の割合(国際比較)

日本の婚外子がいまだに全体の2.1%しかいないのは、婚外子のほとんどが中絶されているからです。

この記事でも書きましたが、本書でも「血縁関係や家族の形態よりも、養育を通した人間関係が重要である」という意見が、婚外子本人の立場からいくつか書かれています。

最後に次の記述を引用して終わります。

子にとって婚外出生は罪でない。女にとって婚外出生は恥ではない。

それは、人としての自然な営みの一つの形に過ぎない。(P249)

 

またクソレビューが書かれているので転載してしまいます。

 

トップカスタマーレビュー

投稿者 サッチャン 投稿日 2013/9/10

形式: 単行本

婚外子だの非婚だのこの本で感じるのは自分勝手な人間が多いなあと思います。ただ単に縛られたくないが子供は欲しいという利己主義の発想だと思います。結 婚というのは相手に合わせて生活していくのが、普通であり、それが嫌だと言うのであれば一生独身でいられた方がいいと思います。

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書籍レビュー: 血よりも関係性『ラブ・チャイルド』 編集:福島瑞穂

★★★★★

 

1991年出版の本、編者は元社民党党首の福島瑞穂さんです。彼女が国会議員になる前の著作ですね。福島さんは弁護士の海渡雄一さんと事実婚で子供を産むという選択をしています。話がそれますが「事実婚」という言い方は「婚姻」に囚われていて嫌ですね。1991年時点では民法900条非嫡出子に対する法定相続分が嫡出子の半額であるという差別が残っており、福島さんはこれにずっと反対していました。2013年9月4日に違憲判決が出て法律が改正されるまでの経緯をぼくは知らないので、いずれ調べてみたいと思っています。

本書は福島さんと、非嫡出子である落合恵子さん・尹照子(ユン・チョジャ)さんとの対談が第一部、複数の非嫡出子の手記が第二部、福島さんのエッセイが第三部、という構成です。

とりわけ衝撃的だったのが落合恵子さんとの対談です。落合さんのことはクレヨンハウスに何度か行ったことがあるので名前は知っていましたが、どのような方かは全く知りませんでした。落合さんの父はのちに国会議員になる矢野登という人で、落合さんの母とは同居せず、数年に1回落合さんと会う、というような関係だったそうです。

落合さんは父親のことを椅子に例えます。いつも同じところに椅子があれば、ある日突然それが消えたときに、椅子がなくなったことを意識する。でも初めから椅子がなければ、椅子がなくなったとは思わない。そんなものだと言っています。

落合:私が「普通の」とか「普通」というスタンダードに抵抗を覚えるのは、「普通」というときの基準が多数派の意識に成立していることであり、それ以外の人にも、それぞれの「普通」があることを切り捨てていることにあるのね。同じく、ある人の不自然が、ある人には「自然」であることもある。そして私の生まれ育った環境では、父がいないことが私の「自然」だったということです。(P11)

そして、彼女は生物学的な親子関係、いわゆる「血」は全く重要ではなく、「共に育ち合い、共に生活してきた記憶も感覚もない(P12)」人を「父」を呼ぶことは不自然だった、と言います。似たようなことはもう一人の対談者である尹さんや手記を書いてくれた人達も言っていました。

落合さんは親子関係も対等であるべきと考えます。

落合:子どもは愛情をそそぐ対象であり、それゆえラブ・チャイルドだと考えられるのは抵抗あります。つまり、子どもはそこでも、大人から見れば受け身の立場になるでしょ?男から見れば女がそうなるように、子どもと大人の関係性も、たとえ愛情においても、上下になってしまう危険性は注意深く見ていかなきゃいけないと思う。すべて上下はイヤ、なのね。

福島:愛情をふりそそぐという点ではどこかに同情があるかもしれない。

落合:本を「与える」というのと同じ言い方。上から下へという形は、どんなに善意から発したものでも、ね。

他の所でも何ヶ所か記述があるのですが「同情」「思い入れ」も対等な関係ではなく、力や立場の上下を前提とするものなので、落合さんはこれらを嫌います。

 

ここからは個人的な話です。

前の家では子どもとの関係は対等ではありませんでした。元配偶者の気に入らない学校はやめさせ、家に閉じ込め、必要な教材や本を「与えてやる」という一方通行な関係でした。子どもは親の所有物であり、自由は全くありませんでした。で、ぼくはその一方通行の通路にさえ入ることを許されなかったので、関係性すらありませんでした。

時間が経つにつれて、前の家の子どもたちの「自然」にぼくは存在しなかったことになるのでしょう。それはそれで、仕方のないことですね。

 

婚外子のことを調べるつもりでしたが、気持ちのベクトルが別に向いてしまった本でした。

 

Amazonには「婚外子が蔓延すると近親婚が増えるから遺伝的に問題がある、だから法律上禁止されているのだ」といった支離滅裂かつ差別主義的なクソレビューが書かれています。


書籍レビュー: わかりやすく情報も的確 『図解 よくわかる大人のADHD』 著:柳原洋一、高山恵子

★★★★★

 

ぼくは小学校の時多動でした。授業中にはじっとしていないし、質問される前に答えをすぐ言ってしまうこどもでした。運よく、小学校の担任が多動を面白がってくれる教師だったので、嫌な思いはせずにすみました。

中学校に入って多動は治まっていたと考えていましたが、この本を読んだら全然治まっていなかったことがわかりました。

ADHDの主な「困りごと」として挙げられているのは次の10項目です。

  1. 集中できない:話を聞いている途中で内容がわからなくなる
  2. 計画的にできない:物事の優先順位がつけられない
  3. 人の話が聞けない:思いついたことをすぐに言いたくなる
  4. 先延ばしにする:面倒な用事に手が付けられず、なかなか着手できない
  5. 忘れっぽい:今なすべきことを意識し続けられず、自分の役割や置かれた状況を忘れてしまう
  6. 飽きっぽい:刺激や変化の乏しい状況に耐えられない。単純作業ができない。
  7. 自制が効かない:何事にもはまりやすく、ゲーム・お酒・買い物などの依存症になりやすい
  8. プランが立てられない:アイデアはあるが具体的な形にするのがおっくう
  9. 事故にあいやすい:ケガをしやすい、交通事故を起こしやすい
  10. 退学・失業・離婚が多い:ドロップアウトしやすく長続きしない

いかがでしょうか。1~5については現時点でもぼく自身に身に覚えがあります。かつては7、8でも困っていました。

本書は、成人してもこれらの症状が治まらない人を対象にしています。日本では極端に認知度が低く、精神科医でも知らない人が多数で、2008年にADHDの治療薬の一つであるリタリンが成人に投与禁止になるほどでした。本書が書かれた2012年時点で、やっとストラテラという薬剤が成人に投与可能となりました。

ADHDの患者には併存障害を抱える人が7割と極端に多く、ASDの発症率は5倍と非常に高確率です。症状自体も自閉症スペクトラムの症状と重なることが多いです。脳機能の偏り、という観点で見れば重なるのも納得がいきます。

ADHDにはドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が関わっていると言われています。多動なんだからドーパミンが多いんじゃないの?と思っていましたが、逆にドーパミン等が少ないことが原因だそうです。コンサータ・ストラテラは、それぞれドーパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害を担い、神経伝達を活性化します。抗うつ薬であるSSRIがセロトニンの再取り込み阻害を行うのと原理は同じです。

本書の優れている所は、具体的に日常の「困りごと」を解決するためにどうすればいいかかなり細かく書いてあることです。例えば、

  • 約束や期限を忘れやすい→webカレンダーのスケジューラーやリマインダーを使おう!
  • なくしもの、忘れ物が多い→色別にファイルを作って保管しよう!重要なものは赤!
  • うっかりミスが多い→指示や約束を必ず文面に残そう!やむを得ず口頭で済まさなければいけないときは必ず復唱しよう!
  • 時間配分ができない→時間に余裕を持たせること!1時間かかる作業は1時間半や2時間予定を取って余裕を持たせて、余ったら休憩しちゃおうよ!

このほかにもたくさんのヒントになることが書かれています。発達障害の入門用と思われる書籍の中では記述が丁寧で、情報量も多くしかも優しさにあふれている優れた書籍です。冒頭の「10の困りごと」に当てはまる人本人やその家族、もしくは大切な人がADHDの症状をもつ人には、自信を持って薦められる1冊です。

 

(追記)1点腹が立ったところがあります。P112-113の「女性のADHDは生きにくい」という項目です。

日本では(中略)家庭に入った女性は皆、家事ができて当たり前と考えられてきています。ですから、「できて当たり前」の掃除や洗濯をきちんとこなすことができないADHDの女性に対し、世間の風当たりは強いものです。

(中略)

職場仲間や上司のサポートをしたり、コピーをとったりといった雑務を率先して引き受け、正確に早くこなす女性社員は高く評価されますが、こうしたことが苦手な女性社員を見る目は、おのずと厳しくなります。

家事にせよ、会社の雑務にせよ、立場が男性であれば、できなくてもそれほど責められることはないでしょう。(P112)

この本が出版された2013年の時点でも、女性の役割、とやらを押し付ける風潮があるわけ!?古すぎない!?

社会なんて生物進化みたいに人間が恣意的に行き当たりばったりで決めてきた慣習の積み重ねに過ぎないっていうのに、女性であることだけで「世間の風当たり」に翻弄されなきゃいけないなんてばかくさいです。

男性も女性もない、その人独自の個性が尊重される世の中になってほしいものです。

 

参考書籍

amazonだと並みいるノウハウ本を押しのけて目につく関連本はこれです。

脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方

脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方

  • 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 単行本
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書籍レビュー: 社会リズムを安定させる『対人関係療法でなおす 双極性障害』 著:水島広子

★★★★☆

 

双極性障害は概日リズムに大きな影響を受けます。一度睡眠不足になると大抵は躁の症状が出るので、睡眠時間の確保が重要となります。

本書はさらに「社会リズム」という概念を導入し、転居・トラブル・人間関係のストレスなどをリズムの乱れとみなして、躁うつエピソード再発のリスク要因ととらえます。

双極性障害の患者さんは、感情の振れ幅が大きくそれに振り回されます。それは病気の症状なので仕方のないことです。ですので、感情を安心して表出できる環境を作ることが必要です。例えば「前向きに頑張って」とか「笑っていてほしい」などという言葉は、「後ろ向きになるな」「悲しむな」と言う意味になりますので言語道断でダメです。

SRM(ソーシャル・リズム・メトリック)という社会リズム管理表をつけることを推奨されています。f:id:Lithium_carbonate:20140722201446j:plain

社会リズム療法 – Lithium-carbonate’s Blog

この表、生活時間帯が固定化され過ぎていて窮屈ですね。安定はするのでしょうけれど、これを守ること自体がストレスになるような気がします。

 

タイトルの「なおす」というところに違和感がありましたが、読み進めると「なおす」のではなく「症状を和らげる」ための本であることが分かりました。疑問点はいくつかありますが著者の人に寄り添う気持ちが感じられる本です。

 

 

 

 


書籍レビュー: 自傷は戦いの履歴だ『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』 著: 松本俊彦

★★★★★

 

ぼくには自傷について「他人にアピールするためもの」という偏見がありました。間違っていました。

著者の考える自傷の定義は次の通りです。

「自傷とは、自殺以外の目的から、非致死性の予測をもって(「このくらいであれば死ぬことはないと予測して」)、故意に自らの身体に直接的に軽度の損傷を加える行為のことであり、その行為が心理的に、あるいは対人関係的に好ましい変化をもたらすことにより、その効果を求めて繰り返される傾向がある」(P32)

自傷は前向きに行うものでした。彼らは、生きていけないほどつらい気持ちに抵抗して、生きるために自傷します。自傷行為の最大の特性は、非致死性です。自殺企図とは無縁のものです。髪をいじる、頭を掻くなど気持ちを鎮めるための自己刺激は多くの人が行っていると思いますが、あれを強烈にしたものが自傷行為なのだなと感じました。自分では抱えきれずどうしようもない闇に対抗するための孤独な手段でした。

次の記述には心揺さぶられました。

その傷跡は戦士の傷跡、あなたなりに「生きるか、死ぬか」の疾風怒濤を生き延びるための戦いの傷跡です。そして、いま現在あなたが生きているということは、その戦いの勝者は間違いなくあなたなのです。(P253)

とはいえ自傷はエスカレートすると生命の危機につながりますので、自傷を和らげるための方法についても多くのページが割かれています。最も基本となるのは「依存先を増やす」こと。誰も信頼できず相談もできないことは自傷のリスクを増加させます。最も気持ちを和らげられる方法は、信頼できる他人に話すことです。しかし、ただ1人に依存してしまうと、その1人の調子が悪くなったり離れて行ったりしたとき、すぐ暗闇に真っ逆さまになります。信頼できて安心できる他人は、多いほどよいです。

パートナーにSOSを出しても反応がいまいちなら保健センターや精神福祉センターに相談しましょう、不快に感じる人間関係は捨てましょう、家族から離れることが必要なら生活保護を受けてでも離れましょうなどとサクッと書いてあって気持ちがよいです。

解離への対処方法、深呼吸や筋トレ、瞑想などの「置換スキル」と呼ばれる気持ちのそらし方などの記述も充実しています。おすすめの1冊です。

 

 

 


書籍レビュー:『双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本』 著:加藤忠史

★★☆☆☆

 

初めて知る人にはいいと思いますが通り一遍のことしか書かれておらず新しい知見を得ることができませんでした。躁状態にあまりスポットが当たっていないことと薬の情報が全然ないことが不満です。

 

 

こちらをお勧めします