書籍レビュー: 流通はダイナミックで面白い 『流通のしくみ』 著: 井本省吾

 ★★★★★

「大手小売業の動向」が秀逸

入門書ということであまり期待していませんでしたが、この本は大当たりです。優れているのは第三章の「大手小売業の動向」です。1904年、明治37年に三越百貨店がオープンしてから、百貨店の隆盛と衰退、変わってイトーヨーカ堂のような総合スーパーが台頭し百貨店にとって代わり、さらにスーパー業界からマイカルのような巨大GMSが発展し、その後伸び悩みさらにバブル崩壊で債務を抱えて破綻するストーリーや、電気・ドラッグストアのような専門分化の業態の発展などが50Pほどかけてダイナミックに描かれています。

卸売から商社への道

また卸業が吸収合併を続けていき、総合商社が最終的な勝者となる家庭も興味深いです。そもそも商社は「疑惑の総合商社」やらで単語は知っていますがその実何をやっているか知らず、巨大な卸売会社の役割を果たしているなんて知りませんでした。彼らが在庫のリスクを負って全国全世界津々浦々の商品を調達しまくり、企業と生産者の調整役を果たしていただなんて。

経営に必勝法などない

後半はしまむら、ユニクロ、ヨーカ堂などを例に挙げて流通を通した経営にも触れます。「大手小売業の動向」を読んでも感じましたが、共通している理念は「地道な努力こそが全て」ということです。経済状況も人々の好みも、時代の要請も毎日変化します。永遠に続く儲ける方法など存在しません。トライ・アンド・エラーを積み重ねるしかありません。仮説を実際に実行して、失敗成功にかかわらず実績を分析することがすべてです。

大型化と寡占化は今後も進む

この本が書かれたのは2005年(※初版です。第二版は2009年)ですが、当時から10年経って、寡占化と淘汰はさらに進んでいるように思います。私が済んでいる地域は毎月のように店が消えていきます。残る店は工場跡地にできた大型SCか、ターミナル駅の駅ビル・大手小売りの支店ばかりです。体力とノウハウのある店だけが生き残れるため、どこの町も均一になりつまらない店ばかりになっていきます。それを消費者が望んでいるのは分かるのですが、個人的には残念なことです。

しかし一方、魅力的な商品を集める小型店は生き残れる、という記述もあります。確かに、美味しいケーキ屋、地場の人間のニーズに応える小規模スーパーマーケット、他にない味を出すユニークな飲食店は相当先まで生き残りそうに見えます。

一方、魅力のない店が淘汰されるスピードは加速するでしょう。例えば、最寄り駅から徒歩圏の書店が近年なくなりました。しかし近くのターミナル駅には、OL向け・家族連れ向けとターゲットが明確な中型書店が2店、漫画に特化した書店が1店、更に地元民に愛される老舗書店2店が生き残っています。今後はこれらの店の中でも淘汰が起きるかもしれません。老舗書店がいちばん先に倒れそうです。

買いか

買いです。ただの入門書と侮ることなかれ。著者の筋の通った丁寧な説明に感心するはずです。

 

※私が読んだのは第二版ではなく初版です。若干内容が異なっているかもしれません。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。