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1,2曲目に注目
1曲目はオリヴィエ・メシアンという作曲家で、たまたま次の現代音楽の試聴ターゲットにしようと思っていた人です。
この人は絶対音感と共感覚の持ち主で、あらゆる現象を音に還元できるすっごく変な人です。さらに無類の鳥マニアで、鳥に関連する曲を大量に作ります。鳥の声を全て12音階に落とし込むのです。1曲目Réveil des oiseaux, for piano & orchestraは、最初から最後まで鳥が鳴きまくるというとてつもないカオスに包まれた曲となっています。
参考映像:この映像は10分ですが当CD版だと21分あります。
2曲目エリオット・カーターによるオーボエ協奏曲も好みの曲です。オーボエという存在感があるような無いような楽器を主役に添え、周りの弦も安定しているような全然していないような不安定なまんま延々突き進みます。一般的なクラシックに存在するクライマックス、最終的な解決もカタルシスも調性もありません。最後は静寂で終わります。
4曲目Nachtschleifeもかなりキテます。全編声だけで構成されてますがプシャーとかブシーとかデデデデとか擬音語たっぷりです。ふなっしーもびっくり。残念ながら参考映像はありませんでした。
12枚聴き終えた。。なぜ私たちは音楽を快いと感じるのか
初演の現代音楽しか演奏しないドナウエッシンゲン音楽祭のボックスということで、常に時代の最先端、Leading Innovationな音楽が上演されていたチャレンジ精神あふれる曲ばかりでした。現代音楽は既存の価値観と再構成、パラダイムシフトを追及する音楽ですので、聞き手の意識変革も必要となります。いかなる意味不明な音が流れてきてもそこには作曲家の思想が込められています。訳わかんないよ、と異質なものをシャットアウトするのではなく、俺様が意味を理解してやる、くらいのエンタープライズ心がないととても最後まで聴きとおせません。何回聴くのをやめて投げ出したくなったか分かりません。なんとか最後まで聴きとおせたことで、もうどんな曲がやってきても聴き続けられる自身が付きました。
私達が音楽を快いと感じるのは何故でしょうか。音は物理的な波、空気の疎密の揺らぎに過ぎません。我々が音に意味を付け、その意味を発展させることで音楽が生まれます。つまり我々は音楽を聴くことを通して音楽を作っているのです。音楽は言語と同じような位置づけにあると言えます。口語も音ですから、主体が私達であることに変わりはありませんね。
言葉から快が生じるように、音楽からも快が生じえます。最も典型的なのは反復だと思います。以前に聴いた音の組み合わせをもう一度聞くと、「同じ音」という記憶の塊のような部分に電気信号が走り、それによって快感が得られる、という仮説です。現代ポップスの「サビ」「リフレイン」などはインスタントな反復装置を提供する仕組みです。中毒させることを意図したカタカナ語が他にあった記憶がありますが思い出せません。王道のコード進行パターンなんかもこれにあたると思います。
現代音楽は真っ向からこの反復に対抗します。新しい音楽は過去の反復であってはなりません。創造的な音楽は過去の反復遺産からの決別、離脱によって成り立ちます。そして創造は未来永劫やむことはなく、しかも我々に即効性のある「快」をもたらすことはほとんどない、という運命にありそうです。何故なら私たちがその音楽から反復による「快」を享受するとき、その音楽はもはや新しくないのですから。。
しかし新しい音楽からも突然「快」を得られることもあります。例えば3枚目の四分音を使った弦楽四重奏には衝撃を受けました。
私にとっては大きな「快」をもたらす音楽でしたが、これはどうして「快」と感じたのか未だにわかりません。今後も考え続けていこうと思います。そして、このような曲に巡り合うため、もっと多くの音楽を聴きたくなりました。
Track List:
1
Réveil des oiseaux, for piano & orchestra, I/40
Olivier Messiaen
2
Oboe Concerto
Elliott Carter
3
Frau / Stimme, for soprano & orchestra with second soprano
Wolfgang Rihm
4
Nachtschleife
Johannes Kalitzke
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