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著者の水野和夫さん(1953-)は経済学者、民主党政権時の経済ブレーンです。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(リーマンショック時にで小切手を渡して合併してる!)出身で職歴は1980-1998年の間ですので、日本のバブル真っただ中に経済の現場にいた人なんですね。いまは日大の教授。
文明論的な現代の考察
随分とショッキングなタイトルと帯です。内容を超単純化してまとめると次のようなことになります。
- 資本主義は、絶えざる成長を前提とする。成長のためには収奪主体の「中心」と収奪対象の「周辺」が必要である。
- しかし「周辺」はもはや枯渇した。1970年代のベトナム戦争終結により地理的な「周辺」は存在しなくなった。代替手段として20世紀末に「電脳・金融空間」が創設された。しかしこの地もリーマンショックにより構造的に崩壊した。
- リーマンショック後の先進国における超低金利は、資本が資本を生み出せなくなったことを示している。アメリカ・EU・日本と続く量的緩和により延命が続けられているが、これは見せかけの成長に過ぎず、いずれ必ずバブル崩壊という形で終結する。
16世紀と21世紀の共通点
自己ツッコミしたくらいぶっ飛んだ要旨でしたが、文明論を背景とした本書の主張はかなりの説得力があります。筆者は16世紀ヨーロッパで起こっていたことと現代に強い相似性があると論じます。16世紀は中世封建制度が行き詰まっていた時代だそうです。国内の領地は全て開発し尽くしてしまい、労働生産性は伸びなくなり経済成長は完全に飽和、ゆるやかなデフレ状態にありました。筆者はこれを「長い16世紀」と呼びました。これは現代世界の状態と奇妙なくらい符合しています。つまり資本主義が行き詰った21世紀も「長い21世紀」となるだろう、と筆者は予測しています。
16世紀は大航海時代に入ります。コロンブスを始めとする命知らず共が海外に出かけ一発逆転を狙い、成功者は資源を漁り巨万の富を得ました。そして中世封建制度は完全に崩壊し、いまの基盤となる資本主義が発生していきます。
これと同じことが21世紀で起こるとすれば、当然、崩壊するのは資本主義であるというわけです。そして筆者は資本主義が崩壊した後どうなるかは「全く分からない」と明言しています。そりゃそうですよねインターネット時代が来ることだって誰も予想していませんでしたし。昔の人の予想って今頃空を自動車が飛ぶとかテレポーテーション装置ができるとかでしたよね。
国内に持ち込まれた「周辺」
総論は大体以上のようなことです。各論で気になったところですが、いままで「周辺」であった地域、つまり資源を収奪されていた発展途上国は、近年BRICsなどのように大きく経済発展したためもはや「周辺」ではありません。するとその「周辺」はどこに持ち込まれるかと言うと、先進国の国内です。
日本は非正規労働者の割合がぐんぐん増えていまは37.4%です。私も非正規労働者です。
第65回 雇用者の37.4%は非正規労働者〜男性非正規労働者の割合も増加?〜 | 日本生命保険相互会社
非正規労働者はボーナスはないし休みがあれば収入は減る、労使交渉など存在しないから賃金は安いしいつでも切り捨てられる資本家にとって超都合のいい存在です。IR情報で「コスト削減により利潤が上がりました」と発表される背景にはたいてい労働者の非正規への組換えが起こっているはずです。
明日から改正派遣法が施行され「周辺」がさらに拡大することが懸念されます。この法案のキモは「3年経ったら派遣の首を切り替えれば永久に派遣を雇える」ことだと思いました。
その他論点
・中国の過剰投資は必ずバブル崩壊となる
海外反応! I LOVE JAPAN : 中国、ゴーストタウンだらけで破綻寸前! 海外の反応。
固定資本といえば不動産
SBI証券(旧SBIイー・トレード証券)-オンライントレードで株式・投資信託・債券を-
ほとんどバブル前に戻った株価
・金融緩和によるデフレ脱却は不可能
日本株は我々の年金を突っ込んで作られたバブルが間もなく崩壊しそうです。参考図として今日のドン引きチャートを貼っておきます。
年初来安値も近そうです。ピーク時と比べて2割近く落ちましたね。
中国の減速を端緒として日本、EU、そして米国と斃れていけば本書の内容もあながちトンデモとは言い切れません。刺激的な書物でした。
もっと歴史を勉強しなきゃいけません
参考書籍
本書は塩野七生さんに言わせれば「歴史を使って論拠を補強」するタイプの書物でした。叙述ではありません。しかし引用文献は膨大でした。読みたいと思った本を残しておきます。
ケインズはこう言った―迷走日本を古典で斬る (NHK出版新書 386)
- 作者: 高橋伸彰
- 出版社/メーカー: NHK出版
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マクミラン新編世界歴史統計〈1〉ヨーロッパ歴史統計:1750‐1993
- 作者: ブライアン・R.ミッチェル,Brian R. Mitchell,中村宏,中村牧子
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- 発売日: 2001/08
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増補・ヨーロッパとは何か―分裂と統合の1500年 (平凡社ライブラリー)
- 作者: クシシトフポミアン,Krzysztof Pomian,松村剛
- 出版社/メーカー: 平凡社
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次の本は「砂糖の世界史」にも出てきました。
近代世界システムI―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立―
- 作者: I.ウォーラーステイン,川北稔
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2013/10/10
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