最近本を全然読んでないので哲学書を100冊読もうと思い立ったので、頑張って100冊読んで全部感想を書いていこうと思います。
以下は読んだ本のリスト、難易度、おすすめ度の一覧です。
A.哲学を話題にした一般書
まずは入門もかねて一般書を読んでいきます。
1.世界の哲学者に学ぶ人生の教室
難易度 ★☆☆☆☆
おすすめ度 ★☆☆☆☆
哲学者の思想の紹介は面白いが、現実に思想を適用するとなぜか思想から魅力が消える。ビジネス書を批判しているのにビジネス書っぽいことばかり言っている(ビジネス書はいいものもありますよ)。著者が2人いて2人とも??のつく解釈が多い。
特に3-4章の白取さん担当の章はひどい。私の知っている思想と全然違った。政治もビジネスも無前提で悪だし、 民衆はみんな愚民だし、こんなん哲学がつまんないとおもわれるやん。困る。
2.知識ゼロからの哲学入門
難易度 ★☆☆☆☆
おすすめ度 ★★★★★
西洋思想の主だった人物の考えをそれぞれマンガも図も込みで6Pずつでまとめていくスタイル。エッセンスを短い文章に抜き出す際、通り一遍の説明ではなく著者の言葉で説明しようという苦心がにじみ出ている。本当に知識ゼロでもマンガと図の助けによって意味が(ある程度は)わかる。著者の誠実さが伝わる。おすすめ。
3.世界はなぜ「ある」のか
難易度 ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★★★
アメリカ人哲学者のジム・ホルトが存在の謎を求めて哲学者、物理学者などを渡り歩く。
誰でも「Aだよ」「なんで?」「Bだから」「なんで?」→以下永久ループ、という物言いをしたことがあるだろう。この議論は必ず「なぜ存在があるのか」という問いに帰着する。この難問に対して、古来より神、数、言葉などいろいろな説明が考えられてきて、最近ではビッグバン、量子ゆらぎなんかも登場している。著者は旅の末、一応の結論に達するが、これに納得するかどうかは読者に委ねられている(私はまあまあ賛同した)。
文章はジャーナリスティックで軽妙で、哲学者の知識がなくても読める。でも哲学史を少しでもかじっているとより面白い。特にウィトゲンシュタイン、サルトル、ハイデガー、ネーゲルあたりは作中でよくいじられるので知っていると楽しい。
4.AI原論
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
数年前に読んだものの再読。著者の西垣通先生は、東大情報学環で2000-2013年まで「基礎情報学」を掲げて情報学と哲学の橋渡しをした、いわゆる学際的な研究を行ったひと。私も大学を退学しなかったらここで研究した可能性がある(かも)。関連書のレビューは↓
西垣通『新基礎情報学』まとめと感想 | 六帖のかたすみ (rokujo.org)
以前は単純に感銘をうけたが、今回は結構疑問だらけになった。
基本的な考えとしては「AIは他律、人間は自律、というパラダイムは崩れていないのでAIは理論的に人間にはなれない」というもの。
本書にも出てくるが、疑似的に人間のふりをすることができればそれは人間と区別がつかないんじゃないかという主張が昔からある。チューリング・テストというやつ。でもこの考えは、人間が「自律」で機械が「他律」という前提は崩してない。
で、思ったんだけど、そもそも人間って「自律」を意識できているのか?誰もがみんな人間のふりをしているんじゃないのか?「私は私!」と誰もがぼんやりとは思っているだろうが、明晰に考えることは果たして可能なのか?AIと人間の区別は曖昧なのでは?
AIはプログラムがあるからしょせん他律、生命の自律とは違う、過去のデータを抽象化してるだけで変化に弱いだろという点も、そりゃあ今のとこはそうだろうが、現実をみてフィードバックを入れる機能だって高速化していくだろうから、疑似的自律性を極限まで高めたら原理的には適応度が上がっていくのではないか?
我々人間もカントの言う通り神の認識には及ばず、現実を疑似的にわかったつもりになるしかないんだから、「自律」自体が仮想なのでは?我々も自然法則という「他律」のプログラムの一員ではないか。
そんな感想を持ちました。
5章の一神教のとこは唐突だし雑(キリスト教即選民思想はいいすぎでは、とかいろいろ)なので、学際的な人ってどうしても細部が雑になりがちなのはあるあるなのかと思ってしまった(自分もそうだけど)。
5.哲学入門(三木清)
難易度 ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★★☆
青空文庫で無料で読める哲学入門。でも入門書にしてはハードルが高い!現代の解説書と違って親切に体系化されてないし、初学者には難解な定義、用語、哲学者の思想が頻出する。20代でこれ読んだ時は意味不明、なんこれ、な状態になったのは仕方ないと思った。
とはいえ一通り哲学史が入った今では楽しく読めた。一見矛盾した概念の『統一』がキーワード。もう一つは概念の境界線を意識するための『超越』。それぞれベースの思想はヘーゲル(弁証法)とカントと思われるが、著者の仏教めいたアレンジも入っている。終盤の倫理学はまだ基礎がないためあんまり頭に入らなかった。
割と衝撃だったのが「運動は同じ点にありかつあらぬということだから、運動には矛盾律(=Aかつ非Aということはありえない)が適用できない」ということ。言われてみればそうな気もするが、すっきり納得できない。今後の検討課題にしようと思う。
6.差別の哲学入門
難易度 ★☆☆☆☆
おすすめ度 ★★★★☆
前提知識は必要なく、平易で読みやすい。
中盤では差別がなぜ悪いか、について4つの考え方を紹介し、どれも一長一短あることを示す。なぜ~が悪いのか、について真面目に考えるのは哲学の面白いところ。差別は無条件に絶対悪である、と考えている人はぜひ読んでほしい。
差別が悪いかどうかはさておき、最もよくないのは「××差別は存在しない」という態度で、これは現実に起きている差別を隠蔽するだけで、何もよいところがない。また「私はあなたの××(被差別属性)はあなたとは関係ないと考える。あなたはあなたである」という態度は一見フレンドリーだがやっぱり人間をトータルに見ないということになるので、よくない。
終盤では無意識の差別について語られるが、これは習慣みたいなものだから、いくらでも変えようがあると感じた(本誌でもそれっぽいことは言われている)。
7.音楽の哲学入門
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★☆☆☆
音楽を主に言語哲学の立場から分析するという趣旨の本。著者はアメリカの哲学者。
特に前提知識はいらないが、大陸哲学のお作法に則っているためちょっと回りくどいうえに、著者の音楽オタク自慢とアジアに対する偏見が邪魔して読みにくい。
あと結論(音楽には文化も言語も不可欠)が気に入らない。この結論だと人間以外の鳥の歌とかは全部音楽ではないことになる。論証は正直穴があるのかどうかよくわからないので判断できないが、結論がやだ。哲学専攻の人はともかく、一般の読者さんは私と同じ感想の人も少なくないと思う。というのも音楽って様々なフェーズからの受容が可能じゃないですか。文化や言語を知ってても、知らなくても、その人なりの楽しみ方ができるものじゃないんですか?音楽に限らず芸術作品ってみんなそうだし、アーティストが「俺の意図はこうだからこう解釈しろ」って全員が思ってるわけじゃないと思うし。
定義を詰めてから定義に当てはまるかどうかを検討するスタイル自体は別に文句のつけようがないんだけど、言葉で音楽を語るのって本当につまんない行為なんだなあということがよくわかる本だった。
8.哲学の謎
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★★☆
野矢茂樹さんが野矢茂樹さんとラノベ風に自己対談する形式で進む、哲学入門書。内容としては、他者、意味、自由、行為などの基本的なトピックスを扱う。ラノベ風なので会話の内容は軽いが、内容は存外に重く、興味がない人にとっては読むのが大変。加えてラノベ風なのでノイズも多く、話の要点がボケがちで万人にお勧めできる本ではない。
しかし哲学はギリシャ時代より対話が基本なので、プラトン対話篇の基本に忠実な書物ともいえる。基本的なトピックスとは、現代にいたるまで解決を見ていない問題ばかりで、どれも手ごわいものである。ある程度知識のある人なら、野矢さんがちりばめた数々の教育的配慮に気づくことができるだろう。
amazonレビューで見かける「こんなん考えたことあるわ」という感想を抱く人ほど、本書の扱う問題の難しさを理解していないのではないか。本書は慶應通信の総合科目「哲学」の参考文献の一つ。ぜひチャレンジしてみて欲しい。
9.ロボットの心
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
8と同様に慶應通信の総合科目哲学の参考図書の一つ。ロボットは「心」を持ちうるのか?という疑問を掘り下げていく本である、と冒頭を読んだときに理解していた。
この本を読む前の私の思い込みとして、「心」なんて人間が作ったフィクションなんだから、持ってる持ってないは誰がそれを「心」と認めるかによるんじゃね?という思いがあった。なのでその思い込みを崩してくれるかなーと期待していたが、本書はそういう議論の展開ではなかった。
『人間に「心」というなんか客観的なものは存在する』ということは認め(!)、ロボットにそれと同等のものが持てるか、という議論を展開していくというスタイルだった。まず論理的思考力の面から、紙面の半分以上がAI論で埋められる。で、残りの1/3程度で、感情、善悪についてちょこっと語って終わり。なので、ほとんどがAI論だった。期待してたものと違った。
とはいえ、AI論、感情、善悪といったトピックについては読みやすく、おすすめはできる。ただ、各章の冒頭にあるSF崩れの導入文は、没入・共感しづらく興がそがれるので、なかったほうがよかったのではないか(個人の感想です)。
10. 慶應通信哲学テキスト
難易度 ★★★★☆
おすすめ度 ★★★★★
[この本は西脇与作先生の著書「現代哲学入門」とほぼ同じです(慶應通信テキストは同書の改訂版)。慶應通信以外の方で興味があればそちらをどうぞ。]
慶應通信の総合科目「哲学」の指定テキスト。436Pにわたる大著で、4単位科目にふさわしく、1年真面目に取り組まないと内容を消化することはまず不可能。でも、おすすめです。
本書は哲学の入門書というよりは、現代哲学の考え方の入門書といえる。現代の日常世界において、私たちが当然とみなしていて疑問の持っていない言葉や概念の意味をまじめに考えると、まあ大体こうなりますということを示してくれている。
内容は高密度で436Pのすべてが重い。途中にちりばめられた100を超える大量の(問)もどれも重く、それぞれレポートが1本ずつ書けそうである。初学者がすべての問にまじめに答えるには数年はかかりそうだ。西脇先生は学生に語りたいことをできるだけ詰め込んだと思われるが、教育における熱意と効果は往々にして反比例するもので(教育学で名前がついてましたがなんでしたっけ)、物量と密度に打ちのめされた学生が多数いると思われる。というのも、この科目を履修した学生はあまり耳にしないからである。
内容は現代らしく、科学に関するトピックが多めで、もともと理系の人のほうが楽しめるかもしれない。西洋哲学史の知識は前提されていない体だが、あったほうが断然楽しめる。初学者よりも、ある程度哲学を学んだ人のほうが楽しい。入門書にはよくあることである。また、本書のテーマとして推論を大事にしており、論理学についての知識と慣れがほぼ必須である。少なくとも推論記号、量化理論への親しみを身に着けてから挑みたい。
11.現代哲学講話
難易度 ★★★☆☆
おすすめ度 ★★☆☆☆
終戦間際に獄死した戸坂潤による哲学入門?書。獄死したので著作切れで青空文庫で読める。400ページ超で読むのは大変。
戸坂潤は物理学専攻から哲学に転向した人なので、科学への言及が多い。だがこの本はそれにも増してマルクス主義への言及が多い。戸坂はマルキストなので、マルクス主義と唯物論こそがヘーゲル哲学の最終形態にして至高のものと考えており、本全体がマルクス主義の香りで彩られている。こういう本は読むのが初めてで、とてもクセが強かった。
哲学はイデオロギーと絶対切り離せないという立場で話が進み、中盤はジャーナリズムについても論じられる(読み飛ばしました。先生すんません)。
科学論、マルクス主義の立場から見た哲学論は楽しかったか、残念なことに唯物弁証法は「これが至高」と言ってるだけで具体的にどういう思想かわからなかった。ここらへんはマルクスに関する本で補強する必要がありそうだ。
B.哲学史
哲学史は思想のカタログ。これで哲学の思想の概要をつかむ!
12.哲学史入門Ⅰ
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
2024年にNHK出版から出た新しい本。「哲学史入門」と冠しているが、実際は「専門分野時代別・日本の哲学者インタビュー集」で、第一級の日本の研究者の最先端の話が聞けるという本。話自体は面白いが入門という感じではない。内容も簡単ではない。一冊目にはあまりお勧めできない。
イントロ担当の千葉先生はただのイケメン売りではなくちゃんとした先生だったのでよかった。先入観もっててすみませんでした。
聞き手・編集の斎藤さんはしっかり全体像が見えてて冷静で博識だな〜と思ってたら普通に哲学科卒だった。哲学科でるとこんなふうになれるんかな。
ギリシャ哲学はもちろん納富先生が担当し、めっちゃ面白いので必見。「不知の自覚」や「イデアの三角形の比喩はなぜおかしいのか」について熱い想いが語られる。
13.哲学史入門Ⅱ
難易度 ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★★☆
Ⅰと同様「最先端の哲学研究を分かりやすく伝える本」であることには変わりない。教授陣のメンツも豪華だ。今回は対象がデカルト、スピノザ、カント、ヘーゲルなど哲学史クライマックスとも言える大御所だらけなので、読み応えがある。
神子柴先生によるカント哲学の解説がこの本で一番エキサイティングだった。知識の整理にもとても役立つ。「超越論的」「悟性」「認識に対象が従う」の説明のとこなんか素晴らしい。三批判書の位置づけのとこなんか斎藤さんの掛け合いの当意即妙さもあって楽しすぎ、ここだけでも読んでほしいです。やっぱカントはすごい!三批判書絶対攻略したる!
ヘーゲルのところでまさかのバトラーが登場した。先生が翻訳に関わってたみたい。弁証法を悪用すると性別二元論の否定になってしまうのか。いつものインターセックスは二元論に入らないでしょという例が出てきたけど、それは原則と例外の話であって、性別の概念の拡張になるものではないので、科学の理解不足と思う。弁証法って人間の認識能力を高めていくための手段ではあるんだけど、共産主義国家が唯物論を叩き込んだ時のように、悪用しやすい方法論なんだなあ。
編者の斎藤さんの哲学史まとめは理解の手助けになり、読みやすくておすすめ。でもこのコンパクトな解説が前提でインタビューが展開されるので、やっぱ既習者がエンターテイメントで楽しむ要素があるところは否定できない。
以下は読む予定の本(がんばろう)
ヨーロッパ思想入門
NHK・哲学史入門Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
はじめての哲学史(竹田)
西洋哲学史Ⅰ(慶應通信)
西洋哲学史Ⅱ(慶應通信)
西洋哲学史(今道)
シュヴェーグラー西洋哲学史上
下
ラッセル西洋哲学史1
2
3
哲学史講義(ヘーゲル)Ⅰ
Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
Ⅳ(買う)
世界哲学史Ⅰ(買う)
Ⅱ(買う)
Ⅲ(買う)
Ⅳ(買う)
Ⅴ(買う)
Ⅵ(買う)
Ⅶ(買う)
Ⅷ(買う)
別巻(買う)
C.ギリシャ哲学、古代哲学
西洋哲学の根源
ソクラテスの弁明
国家 上
下(買う)
アリストテレス倫理学入門
世界の名著アリストテレス
ヘレニズムの思想家
神とは何か
D.近代哲学
デカルト方法序説を読む
方法序説
人生の短さについて セネカ
哲学者たちのワンダーランド
ドイツ観念論
カント入門
純粋理性批判(御子柴・入門書、買う)
パンセ
現代フランス哲学に学ぶ
現象学とは何か
現代に生きる現象学
フランス現代思想史
実存主義とは何か
構造主義がよ〜くわかる本
メルロ=ポンティコレクション
メルロ=ポンティ読本
リクール読本
ミシェル・フーコー(クセジュ)
ミシェルフーコー(重田)
フーコー「性の歴史」入門講義
性の歴史Ⅰ
人間不平等起源論
ハイデガー入門
ハイデガー存在と時間入門
原初からへの思索
ハイデガー読本Ⅰ
続ハイデガー入門
西田幾多郎善の研究を読む
西田哲学への問い
朝鮮思想全史
E.現代哲学
現代哲学への挑戦
ウィトゲンシュタイン論理哲学論考(入門書)
はじめてのウィトゲンシュタイン
言語哲学がはじまる
悪い言語哲学入門
言語真理論理
反哲学史
現代の哲学
現代文明論講義
英米哲学の挑戦
人間知性研究
知の教科書デリダ
デリダもう一冊
鉄の処女
分析哲学入門
日常世界を哲学する
ワードマップ現代形而上学
現代形而上学入門
現代存在論講義1
2
生まれてこないほうがよかった
生まれてこないほうがよかったのか?
F.科学哲学、倫理学
科学の解釈学
科学哲学(慶應通信)
倫理学(慶應通信)
ここからはじまる倫理
ブックガイド基本の30冊倫理学
メタ倫理学入門
G.法哲学
法哲学入門
法哲学(慶應通信)
法哲学(瀧川など)
死刑 その哲学的考察
世界の法思想入門
F.政治哲学
西洋政治思想史
リベラルのことは嫌いでも
はじめての政治哲学
権力論
社会はなぜ左と右に分かれるのか
マルクス取扱説明書
マルクス入門講義
政治における合理主義
リベラリズムとは何か
プラグマティズム入門
アナーキー・国家・ユートピア
政治における合理主義
人間の条件
丸山眞男セレクション
ロールズ
H.フェミニズム論
フェミニズム入門
ポストフェミニズム
ジェンダーセクシュアリティ
愛について
美とミソジニー
バトラー
クイアスタディーズ
クイアの本Ⅰ
Ⅱ
決定版第二の性1
2
分析フェミニズム基本論文集