★★★★☆
日本国では、婚姻関係にない男女から生まれた子は民法で「非嫡出子」として扱われます。法務省編の戸籍法の解説書には「非嫡出子は、正常でない家族関係における子」と記述されています(法務省民事局内法務研究会編「改正国籍法・戸籍法の解説」1995年)。
この本が書かれた2004年現在では非嫡出子は法律上の差別があり、民法900条4号で法定相続分が嫡出子(婚姻関係にある男女から生まれた子)の1/2となっていました。この規定は2013年12月に撤廃されました。
法律ですら差別がありますので、「非嫡出子」を「普通ではない」とみなす「常識人」は数多くいます。
第一章では、結婚生活が破綻し前夫が離婚に応じないまま次のパートナーとの子供を妊娠したため、民法772条の「離婚後300日を経過しないまま出産した子は前夫の子と推定する」という規定に苦しむ女性の話が描かれます。彼女は「普通はたくさんの人に祝福されてきて生まれる子のなのに、この子は私とパートナーしかいなくてかわいそう」と苦しみます。いやあなたとパートナーだけでいいじゃないの!!!なんでだめなの!
第三章、妻子持ちの男性との子を出産した女性が、男に「こいつも不幸やなあ。重い荷物背負って、差別されながら生きていかなあかんなあ」と言われます。男はカッコつけたつもりなのでしょうが、女性は次のように言います。
「そんな風に一番差別しているのは、父親であるあなたでしょ」(P53)
第四章は、シングルマザーが大阪府議の後援会事務所で議員に
「なんや、未婚の母か。そんなふしだらな人が自分の事務所に来てると言われるとなぁ(中略)あんた、子どもにかわいそうなことしたなぁ。これから就職やら結婚やら、いろんなところで差別されるで」(P70)
と言われた上にセクハラされるという胸糞悪い話です。この女性が議員相手に訴訟を起こして勝つまでのストーリーがスカッとするのが救いです。
3つのストーリーで共通して出てくる単語は「かわいそう」です。「かわいそう」という言葉には、裏に差別が含まれています。「差別されるからかわいそう」ということですから、差別を認めていることになります。単純化すると
「婚外子」→「普通ではない」→「かわいそう」=「差別」
となります。
人間は「普通」であることに安心し、「普通でない」ことに対して不安を抱きます。そして「普通」は国家が法律をもって決めます。国家が決めた「普通でない」ことにはペナルティがついたり、「普通」であることには税制上の優遇などのエサがつきます。
犯罪は他人の人権の侵害となるのでペナルティを受けて当然ですが、婚外子であることになぜペナルティがつかなければいけないのでしょう?近年、婚外子に対する法律上の差別は存在しなくなったので、あと残っているのは人間の差別心だけです。
婚外子差別は、特に夫のみが働く共働きでない婚姻関係のある世帯に顕著です。なぜなら、夫名義の財産は夫婦共有と考えられている場合が多く、夫の財産に対して相続権を持つ婚外子の存在は夫婦の共有財産の侵害と認識される場合が多いからです(P161~162)。妻の夫への経済的依存性のため、不実の夫に向けられるべき怒りが婚外子に向かってしまい「婚外子は加害者」という誤った差別意識が生まれる、という構造です。近年の低収入化による共働き世帯の増加によって婚外子差別は薄れていくかもしれませんが、ぼくの周りの話を聞くだけでもまだまだ遠い先のことに感じます。
日本の婚外子がいまだに全体の2.1%しかいないのは、婚外子のほとんどが中絶されているからです。
この記事でも書きましたが、本書でも「血縁関係や家族の形態よりも、養育を通した人間関係が重要である」という意見が、婚外子本人の立場からいくつか書かれています。
最後に次の記述を引用して終わります。
子にとって婚外出生は罪でない。女にとって婚外出生は恥ではない。
それは、人としての自然な営みの一つの形に過ぎない。(P249)
またクソレビューが書かれているので転載してしまいます。
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