★★★★☆
類書は3冊目です。前2冊と違って執筆者は弁護士ではありません。そのため法的根拠よりも家庭裁判所の実務や「片親疎外」についての記述など、社会学的・カウンセリング的な内容に重点が置かれています。子どもに会えない親が初めて読むならこの本が最も適当でしょう。
片親疎外とは
狭義には、両親の離別をきっかけに、子どもが別居親に対してだけ強い拒絶反応を起こすことを指します。これは
・同居親が自分の意向(別居親への嫌悪感や恐怖感)を子どもに刷り込むことと
・子どもが同居親に嫌われないために親の意向を「察知」して行動すること
この2つの無限ループによって増幅されます。前者は当然起きるとして、後者は子どもにとっての暴力にほかならないと考えます。「子どもが会いたくないと言っている」という論理の欺瞞がここにあります。
「片親疎外」は広義には、子どもと別居親の面会交流が、子ども本人あるいは同居親+その親族によって、正当な理由なく拒絶されている状況全般を指します。狭義と意味違い過ぎるんとちゃうんかとツッコみたくなりますが本書全体ではどちらかというと広義の意味でつかわれることが多いです。狭義の「片親疎外」は本書では「片親引き離し症候群(PAS)」と呼ばれています。PASはDSM-5にも記載されておらず社会的な地位はありません。いち社会学的現象のような扱いです。
アメリカでは1970年代に離婚やPASが社会問題となり、映画(クレイマー・クレイマー)もできました。フランスに至っては2週間以上の面会拒否が軽犯罪法の対象だそうです。
日本は面会拒否に罰則がありません。西洋個人主義の伝統を汲むアメリカ・フランスと一概には比較できませんが、日本は単独親権主義、すなわち親権がない人間が法的にヨソモノ扱いされる先進国では稀有な国家です。人々の意識も同様に、別居親=もう関係ない人となりがちです。別居親にとっては最悪の環境の中、本書はどのようにして子どもにアプローチしていくのでしょうか。
まず生き残りましょう
別居親はショックや失意から仕事ができなくなったり生活もままならなくなりがちです。まず次の3点を基礎にしましょう。
・「子どもと会うためにできることをする」という気持ちをはっきりとさせる
現状を受け止め自分を変化させ、子どもに会った時に良い状態でいるためのイメージを作りましょう。
・ストレスに対処する
ストレスはあって当たり前です。体力をつけ、心療内科の力も借りましょう。
・経済的に安定する
子どもに安定的に会うためには生活を安定させることが第一です。面会にはコストもかかります。弁護士費用がかかることもあります。
面会交流の調停を申し立てましょう
「試行的面会交流」などというかなりうっとおしい名前がつきますが会えないよりマシです。PASの影響で子どもに激しく拒絶される可能性もありますが、覚悟しましょう。激昂しないで無償の愛情を注ぐ姿を示しましょう(きついなー)。ただし、嘘を吹き込まれている場合は冷静に毅然とした態度を示しましょう。第三者に事実を伝えてもらうなどして、他の人間の助けを借りましょう。
会えなくてもアプローチしましょう
調停を申し立てても無視される可能性があります。それでも手紙やメールを送り続けましょう。重要なのは、手紙やメールのコピーをファイルなどに保管しておくことです。同居親やその親族が、おしんの清バーさんの如く手紙を密かに破棄するなどして子どもとの連絡を絶つことは多いです。しかし手紙やメールを送ったという事実が、将来運よく子どもに会うことができたときにその効力を発揮するでしょう。また、裁判所などの第三者の評価を必要とする時にも力になります。
フェイスブック、ブログに子供宛の日記を綴る、子ども用の通帳を作って貯金しておくなどという方法も紹介されています。
第三者の助けを借りましょう
大都市には別居親の自助グループがあります。インターネット上にもグループがあります。ぜひ活用しましょう。
なお巻末で、同居親(父親)が再婚したために1年半引き離された別居親(母親)の交流開始の体験記が記されています。弁護士の助けを借りてやっとのことで会えたそうです。文章から彼女の苦労がしのばれます。交流が実現しても、父親の妨害行為は「お母さん」と呼ぶことを禁じる、本人が言っていないのに「会いたくないと言っている」など種々に及んでいます。ゲスですね。
関連書籍
片親疎外について
クレイマー、クレイマー
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面会交流シリーズはいったん一区切りです。