書籍レビュー: マルチタスクへの道 『脳のワーキングメモリを鍛える! ―情報を選ぶ・つなぐ・活用する』 著: トレーシー・アロウェイ、ロス・アロウェイ

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ワーキングメモリって何!?

twitterで話題になっているワーキングメモリ。一体どんなもんなんじゃろうと思って手に取りました。

ワーキングメモリとは、一言でいうと「脳の指揮者」です。短期記憶と長期記憶をつなぐ役割、パソコンで言うとOSのタスク処理機能とIO機能をまとめたものに相当します。脳の「制御装置」と言い換えてもよいですね。主に前頭前皮質で処理される機能です。

本書のワーキングメモリの定義ではこうです。

  1. 優先順位をつけてから、情報を処理する。関係のないものは無視し、必要な情報から処理できるようにする。
  2. 情報を利用して作業できるよう、補完する。

たとえばツイッターやメール、大量のテキストなどから自分に必要な情報だけを抽出する機能、ざわざわした環境で自分の仕事に集中する能力、面接官から突飛な質問を受けたときに自分の長期記憶から適切な情報を選択して面接に応える力、さらには株価が暴落したときに狼狽売りせずホールドか売却か冷静に見極める判断力、チリ落盤事故やホロコーストのゲットー下のような絶望的な状況でも不安を抑制しポジティブに思考する力、テニスボールがネットを超え目の前でバウンドしたときに取る行動、、、などワーキングメモリの活躍する範囲は多岐にわたります。

IOとの違い

IQ・知能指数は私達もよく聞く言葉です。IQ150の天才!みたいな触れ込みの本もよく出版されています。しかし本書ではIQの効果を疑問視しています。ざっくりいうとIQとはあなたが知っていること、ワーキングメモリとはあなたが知っていることを利用してできることだ、ということができます。IQとワーキングメモリは相関関係が無く、IQと将来の成績にも必ずしも因果関係が無く、ワーキングメモリは将来の成績と因果関係がある、という研究結果があるそうです。そしてワーキングメモリと経済状況との因果関係もありません。ある意味、万人に平等な能力です。じゃあワーキングメモリが無かったらどうするんじゃ、とは言いたくなりますけど。

自閉症とワーキングメモリの関係は!?

ここまで読んで明らかに私はワーキングメモリが足りない人間だな、と感じましたがやはりワーキングメモリと自閉症とは関連がある、という記述がありました(P126)。一般人が4CPUのマルチタスクなら、自閉症者はシングルコアだという記述もあります。これ以前にも見たことがある議論ですね。しかし自閉症ならワーキングメモリが少ないとはいえず、自閉症スペクトラムのどの位置にあるかで変わってくるそうです。じゃあ必ずシングルタスクのように思える私ってなんなのさ。もっと詳しい書物が必要です。

ワーキングメモリは文章の深みにも関係しているそうです。次の文章はある修道院で書かれた自伝をワーキングメモリの強さによって分類したものです。

低い――「私はほかのどんな職業よりも、音楽を教えるのが好きです」

高い――「<鳩の小道>を歩きながら、私は思いを馳せている。あとたった三週間で、私は生涯の伴侶の足跡を追い、貧困と貞節と従順の誓いを立て、主に生涯をささげるのだ、と」

明らかに私は低い方に位置します。高い方の文章が書けるようになりたいよ。おまけにワーキングメモリが低いとアルツハイマーになりやすいそうです!低いのはやだよー。というわけでワーキングメモリを強化しなければなりません。本書はタイトル通り、強化する方法がたくさん書いてあります。列挙していきましょう。

ワーキングメモリの強化!

・走る

長距離に限ります。ランニングは運動の予測を立てにくく、スピードや走り方の変化に常に注意を向けなければいけないため、ワーキングメモリが稼働され前頭前皮質が活性化されるそうです。外界からの刺激にも絶えず気を配らなければいけません。できれば裸足で走ると、地面からの刺激にも注意を払う必要が生じてさらにワーキングメモリが活性化されるそうです。

・料理

これは児童向けとして紹介されていますが、大人の場合は「レシピに目を通したら、見ないで料理を作る」という作業で激しい負荷のかかるマルチタスク課題となります。

・ドラム

リズム・パターンはワーキングメモリと密接な関係があるそうです。

・外国語学習

あらゆる年代のバイリンガルは、一か国語しか話さない人間よりワーキングメモリを含めた認知能力が優れていた、という研究結果があります。「新たな言語を学ぶ」という行動自体がワーキングメモリの強化を促すそうです。

・暗算

様々な数字を同時に処理する必要があるため、ワーキングメモリの強化に有効です。2桁*1桁、2桁*2桁、3桁*2桁、とどんどん数を増やしていきましょう。

・難しい文章を読む

文章を読むことは短期記憶や予測、解釈、統合の機能が必要なので、ワーキングメモリを活用できます。スマホで平易な文章を読むのではワーキングメモリは鍛えられません。難しいものを読みましょう。

・寝る

睡眠不足はワーキングメモリの低下を招きます。成人は7~9時間の睡眠をとりましょう。

・食事

ワーキングメモリの劣化防止→カルチニンとビタミンB12。乳製品、赤身肉に含まれます。飽和脂肪酸は控えめに。ビタミンB12が低下するとアルツハイマーリスクがあります。

ワーキングメモリの機能増強→フラボノイド。ベリー類・ハーブ・ダークチョコレート・ほうれん草・緑茶・紅茶・赤ワインに多く含まれます。

ワーキングメモリの刺激・活性化→オメガ3脂肪酸。脂肪分の多い魚に多いです。サバ、サケ、イワシ、マス、マグロ。サプリメントでも効果があります。

ハーブも効果があります。ローズマリーとペパーミント。

・仕事

退職するとワーキングメモリの機能が極端に下がります。

 

驚いたのは私が好んでやりたいと思っていることが軒並み含まれていることです。外国語学習も読書も現在進行形だし、ランニングと料理はこれからやろうと思っていたことズバリだし、ドラムだってやりたいし、仕事は一生続けたい。ちょっと自信が持てました。

 

 

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