書籍レビュー: ツッコミ多すぎ『カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第4巻 進化生物学』 著:デイヴィッド・サダヴァ他

★★★★☆

進化論中心の1冊

1~3巻は「LIFE」という教科書の翻訳でしたが、4・5巻「PRINCIPLES OF LIFE」という教科書の翻訳だそうです。4巻は進化生物学と題して進化のメカニズム~系統樹~種分化~生命の歴史~動物の進化までを扱います。

進化のメカニズムの章でははダーウィンの論が中心となって展開されます。中心概念は「自然淘汰」です。まとめると次のようなことです。

環境に適さない動物は生き残れなかったり子孫を残せず、適応した生物だけが生き残り子孫を残し、特定の形質を持つ者だけが生き残る。遺伝子は突然変異するが、その変異がより優位なものであればさらに生き残る確率が高まる。こうして有利な形質が次々と生まれていき、環境特有の生物種が生まれる。

中立進化と人工進化

この章で一番驚いたのは「中立進化論」です。遺伝上の変異は、ほとんどのものが淘汰上有利でも不利でもない、という論です。我々の性格やこだわり、先天的な体の大小などは、言われてみれば子孫の有無などに全然関係していないように思えますので、言われてみれば納得がいきます。この論は1968年に日本人の木村資生(もとお、1924-1994)によって提唱されたそうです。本書では2Pくらいの軽い紹介にとどまっていますので、他の本も読みたくなりました。

また、簡単な進化は実験室上でラクラクと実行できる、ということも驚きました。「試験管内進化」と呼ばれるものです。例えば「リガーゼ活性(DNAをつなぐ能力。遺伝子修復などに使用する)が高いRNAが欲しいなぁ」と思ったら次のようなプロセスを踏むと臨んだ結果が得られるというのです。

  1. 適当にRNAを用意する
  2. 最も活性の高いRNAを選抜
  3. 選抜したRNAを逆転写でDNAにする
  4. PCRでDNAを増幅させる。いくつかのDNAは突然変異で高機能になる。
  5. DNAからRNAを作る
  6. 2に戻る

以上を繰り返すと10回でリガーゼ活性が700万倍になったそうです。すごい。

わかりにくいですか。では人間で置き換えてみます。「1秒に20連射できる高橋名人が欲しいなあ」と思ったとしましょう。

  1. 16連射できる高橋名人を何人か用意する
  2. 最も連射が早い高橋名人のDNAを採取
  3. クローンを複数作成する。突然変異によって連射の早い高橋名人が生まれることを期待する。
  4. 2に戻る

これを何度も繰り返すと20連射どころか100連射できる高橋名人が生まれるかもしれません。

生命史のスケールデカすぎ

後半は生命史のざっくりとした総まとめです。地球の気候変動から地層と考古学の方法論で準備をした後に地球46億年の歴史を駆け足で早送りします。大きな気候変動、特に海面の低下や気温の急激な低下などがあると生命は大部分が死滅します。これの大量絶滅が三畳紀やら白亜紀やらの「~記」を分けるポイントとなっているそうです。特にペルム紀(2.97-2.51億年前)の末期には全生物の96%が死滅したと推測されているそうです。ほとんど全滅ですが、残った生物が時間をかけて再び花開くなんてロマンがありますね。ちなみに原因は大規模な火山の噴火による気温の低下だそうです。箱根が噴火しそうだった時私はとても怖かったのですが、あれは生命に刻み付けられた先入観みたいなものなのかもしれません。

バランスと正確性にやや不満

前半は理論的な話が中心なのでしょうがないのですが、今までのシリーズと比べて図が少ないので理解がおっつかないのが欠点です。他の本を読んで補充する必要があります。また、原著の間違いが多いようで、訳者による訂正があちこちに見られます。

また、ゲノム中に現在でも存在している重複遺伝子はとても若いこともわかった。多くの重複遺伝子は、進化の時間スケールではまばたきするくらい短い(訳注:これはやや極端な表現である。数十万年の期間でもさまざまな進化は生じえる)、1000万年以内にゲノムから消えてしまうのだ。

上記のようなツッコミが20か所くらいはありました。訳者の指摘はありがたいですが、原著を読む気が失せます。

終盤の動物の進化については写真が多くて楽しいのですが、いかんせんページ数が足りず私としては消化不良気味です。

優れた本ではありますが、内容の濃さからするとブルーバックスのサイズで300ページちょいくらいでは不足です。他にもたくさん読んでみたいです。

 

補足

動物進化の章にいたキタオポッサムが可愛い

 

参考書籍

 

やっぱ読まないといけませんね。岩波文庫版よりも、新訳の方が評価が高いです。

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

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これも定番。

利己的な遺伝子 <増補新装版>

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  • 作者: リチャード・ドーキンス,日高敏隆,岸由二,羽田節子,垂水雄二
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木村センセの本。

分子進化の中立説

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そのまえにこっちを読もう。進化学全般。

生物進化を考える (岩波新書)

生物進化を考える (岩波新書)

 

 

 訳者の自推本。斎藤氏の他の新書は総じて評価が低い。

ゲノム進化学入門 CD-ROM付

ゲノム進化学入門 CD-ROM付

 

 

岩波のシリーズもある。全7巻。斎藤氏も関わっているのでこれも自推。

マクロ進化と全生物の系統分類 (シリーズ進化学 1)

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  • 作者: 佐藤矩行,馬渡峻輔,石川統,長谷川政美,西田治文,大野照文,柁原宏,川上紳一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
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系統樹について。

系統樹曼荼羅―チェイン・ツリー・ネットワーク

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生物や生命史は絵がないとだめ。重い高い長い。

生物の進化 大図鑑

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