モンサントのアニュアルレポートを読んでみた――アメリカ企業レポート初体験

今週はフィスコレポートが3件しかない上にロクな企業が無いのであきらめました。

代わりに宿題だったモンサントのアニュアルレポートを読んでみます。アメリカの企業のレポートを読むのは初めてです。

http://www.monsanto.com/investors/Documents/Annual%20Report/2014/2014_Monsanto_AnnualReport.pdf

サマリー

f:id:happyholiday:20150830095518p:plain

好成績。年間売上158億ドル(約1.9兆円)という巨大企業で売上高7%成長ってすごくないですか。EPSなんて13%も伸びてますよ。絶好調拡大中ですね。

とはいえ、日本で売上高2兆円というとだとだいたいJTと同じくらいの規模です。大きな方ですが、決してトップではない。

Fortune 500 – Fortune

ここによるとアメリカ内ランキングは197位です。米国トップ企業ウォルマートの売上高は4856億ドル(約58兆円)ですのでその30分の1にも満たないのです。想像していたよりもはるかに小さくて驚きました。

アメリカはEBIT(Earnings before Interests and Taxes、経常利益+支払利息-受取利息+法人税等)で企業の強さを表すんですね。日本だと営業利益や経常利益そのまんまのことが多いですのでこれは文化の違いでしょうか。

売上高EBIT率を単純に計算すると24.9%と、これは大体営業利益と読み替えられるでしょうからかなり高いパーセンテージです。ぼろ儲け。純利益率も17.2%と異様な高さです。

Form 10-Kと有価証券報告書 | 米国株投資ガイド『米国株.com』

アニュアルレポートの90%以上は10-Kというフォームに基づいた報告書です。日本だと有価証券報告書に相当するそうです。つまりこのレポート、ほぼ有報と等しいのですね。あっさりしてます。企業のホットな情報を手に入れたかったら、ウェブサイトを読んだ方がいいかも。

2大セグメントは種子部門と除草剤部門で変わらず

この本の原著が出版されたのは2008年ですが、2014年時点でも大きな収益頭は種子・遺伝子ビジネスと除草剤ビジネスであることは変わっておらず、種子・遺伝子ビジネスを成長産業として位置付けています。一方、農業製品部門(除草剤)は maintain という言葉を使い、成長ではなく安定事業であるという位置づけを感じさせます。

We view our Seeds Genomics segment as the driver for future growth for our company. In our Agricultural Productivity segment, global glyphosate producers have substantial capacity to supply the market and we expect this global capacity to maintain on margins. 

と思いましたが、二大部門の売上比率は4:6で農業製品部門の方が大きく、成長率も農業製品部門の方が高いです。

新製品が登場するも基本方針は変わらない種子・遺伝子部門

種子・遺伝子部門では2013年にRoundup Ready 2 Yieldという新製品が登場しています。

http://www.monsanto.com/products/pages/genuity-roundup-ready-2-yield-soybeans.aspx

Yieldという名前の通り収量をアップさせるとともに、更なる害虫耐性・除草剤耐性を持たせた Next Generation という位置づけの製品です。現在この遺伝子特性が導入されているのは大豆のみ。アメリカとカナダで販売されています。まもなくブラジルに売りつける準備中と書いてあります。

このほか遺伝子組み換えトウモロコシと第二世代の遺伝子組み換え綿花については今後10年は拡大期にあるそうです。

取り扱う野菜の種子の種類も膨大ですね。

Open field and protected-culture seed for tomato, pepper, melon, cucumber, pumpkin, squash, beans, broccoli, onions, and lettuce, among others

これらの野菜の種子をモンサントは「germplasm(遺伝資源)」と呼び、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンに売りつけていると書いてあります。

製品名はIntacta RR2 PROだの SmartStax だのまるで新しいPCのパーツ名であるかのようですね。

製品別の売上を見ると稼ぎ頭はトウモロコシ種子で、全品種のうち60%以上を占めます。次点は大豆の20%ですが、こちらは伸び率が大きく急拡大中です。主にラウンドアップ・レディのライセンス料が増えたことと、ブラジル向けの新製品の売り上げが増加したことが原因だそうです。ライセンス料というのは素晴らしいストックビジネスモデルですね。

農業製品部門は除草剤一辺倒

一方農業製品部門は除草剤しか取り扱っていないようです。ラウンドアップは特許が切れたので競争が激化、新製品のHarnessも投入しています。主にアメリカ国内へ、庭や芝生(ゴルフ場など?)向けにもラウンドアップを投入していると書いてあります。

ところで農業製品部門には環境保護についての記載がありますが、なぜか種子部門には記載がありません。遺伝子組み換え作物は環境に配慮しなくてよいということなのでしょうか。

農薬部門は売上が急速に伸びており、2014年度は利益が26%も増えています。主に全世界でラウンドアップの売り上げが伸びたためと書いてありますが、これは上で挙げた「モンサント」で告発されている通り、昆虫や雑草の除草剤耐性が上がったため、単位面積当たりに使用するラウンドアップの量を増やさざるを得ないからなのではないかと思います。環境は汚染されますがモンサントにとってはウハウハです。

リスク

有報ではおなじみのリスクファクターの列挙はおおむね次のようなことが挙げられます。

・種子遺伝子部門の競争激化

・知的所有権の管理にかかるコスト増大(主に農家が種子を保存することへの文句)

・バイテクの規制強化(開発が成功するかどうかもわからないのに金だけがかかると文句、遺伝子組み換え作物の輸入を禁じている国があると分別に金がかかると文句)

・遺伝子組み換え作物への懸念(安全性が保障されているにもかかわらずと文句)

・開発の失敗、製品商業化の失敗

・裁判に負ける

・海外展開の失敗(特に大口のブラジル、カナダ、メキシコ、アルゼンチン)

・原料価格の高騰

・農家の需要との乖離(特に除草剤の規制ができると困ると文句)

文句多すぎです。

まとめ

ほぼ「モンサント」に書いてある自体そのままのレポートでした。原著出版から7年経ちましたがビジネスモデルは全く変わっていません。ラウンドアップはこれからも売上が拡大しますし、種子ビジネスも順調です。ライセンス料を背景とした強固なストックビジネスと、高い利益率をもって大きな投資(最近1000億ドル投資したそうです)を行い、更なる拡大を目指すようです。新製品はまだまだ開発されるでしょう。ビジネスモデルが根本的にひっくり返される事態が起きない限り、安泰です。

まもなく批准されるTPPについてはレポート内で全く言及がなかったので、日本で種子ビジネスを展開するつもりはなさそうです。広い土地が無いのでそりゃそうですよね。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。