書籍レビュー: こどもたちに捧ぐ『二十四の瞳』 著:壺井栄

★★★★★

8月ですので

戦争関連の小説を一つセレクトしました。小説はまず名作から読んでいくつもりです。本作は何度もドラマ化・映画化されている超有名作ですのでいまさら感がありますが、原作は読んだことがありませんでした。

作者の壺井栄(1899-1967)は香川県の小豆島出身。本作品中の舞台は「瀬戸内海」の岬の町としか書かれておらず詳しい場所は明記されていないものの、映画ではどれも小豆島が舞台となっており、私も木下恵介版の映画を見たことがあるのでやはり小豆島を思い浮かべます。

中野の商店街で親しまれた“二十四の瞳のおばちゃん”壺井栄|文春写真館|「文藝春秋」写真資料部|本の話WEB

↑壺井さんのすっごいいい写真!!

12+1通りの人生

昭和3年、瀬戸内海の寒村に赴任した大石先生は1年生12人を受け持つことになります。大石先生は1年経たないうちにある理由で彼(女)らのもとを去りますが、折に触れて何度も彼(女)らと再会します。小さい村ながらも立場や境遇の異なる12人は、それほど長くない作品にもかかわらずみな個性的に書き分けられており、みな魅力的です。12人は時代の濁流に巻き込まれ、12通りの人生を歩みますがこれがまた切ない。戦争だけではなく貧乏や当時の社会制度が容赦なく襲い掛かり彼(女)らにとって大きな試練となります。私は年齢的に大石先生の立場で物語を見てしまいますので、胸潰れます。大石先生自身も、辛い思いを一杯します。

昔のドラマや映画ではいつもそうですが女性の扱いがひどいですね。家が傾けば遊女として売られるし、20になればハハキトクの偽電報で呼び戻され嫁にやられるし、40に満たない女性教師は「老朽」と呼ばれ退職をちらつかされます。まだ戦後70年しかたっていませんから地方にそのような風習が残っていたって全く不思議はありません。

かといって戦時中は男の扱いも悪辣極まります。幼少期から国家のプロパガンダで大きく方向付けられ、日本人は末端まで無駄に思想が行き渡りますからぼんやり疑問を持っている人も周りの人間によって退路が断たれ、使い捨てで次々と戦地へ送られ死に、英霊という名の個人を抹殺した記号となって帰ってくる。本作も元生徒が何人も詳細を語られることなく死にます。基本的に死にたい人はいなかったと思います。みな架空の物語の力によって自分を強引に納得させ、死んでいったのでしょう。

マスノ

登場人物では12人のリーダー格だったマスノが一番好きです。終戦の翌年、戦場で失明して除隊となった磯吉(あだ名:ソンキ)にかけた次の言葉に感動しました。

「おまえがめくらになんぞなって、もどってくるから、みんながあわれがって、見えないおまえの目に気がねしとるんだぞ、ソンキ。そんなことにおまえ、まけたらいかんぞ、ソンキ。めくらめくらといわれても、へいきの平ざでおられるようになれえよ、ソンキ。」

こんなことを言えるような大人になりたい。昭和3年で1年生ですから彼女はこの時25という設定、私よりも随分年下です。。

 


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