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現場の目から見た福島第一原発事故
著者は原発作業に20年以上従事している大ベテラン作業員です。東電と交渉している記述も見られますので、作業員を束ねるチームリーダー的な立場で働いていると思われます。この書籍は彼が事故直後から現実にtwitterで書き込んでいた内容ほぼそのままで構成されており、資料価値の高い書籍です。twitterからいつアーカイブが無くなるかについての保証はありませんから、このような形で現場の声が残ることはとても貴重なことでしょう。
鋭い視点、的確な分析、ちょっと変わった口調
著者の分析力の高さは見事です。今行っている作業の非効率性と本来行われるべき対処方法を必ずセットで書きます。また社会の変化により予想される福島への影響、東電や政府のコメントの裏の意味、全て筒抜けです。
例えば2011年の時点で「今行われている作業は全て仮のものであって、ホースや継手などはすべて耐用年数が低い。必ず耐用性の高いものに取り換えなければならない。でなければすぐに劣化して汚染水が漏れるなどの被害が出る」と予告しています。この後、何度も何度も汚染水流出のニュースが流れることになります。。
「でし。」という語尾や顔文字を多用しています。本という体裁からすると若干抵抗を覚え、慣れるまで時間がかかります。しかし読んでいれば著者はごくまっとうな文章が書ける人であることは推測できるので、twitterというメディアの特性上仕方ない、と割り切るしかないでしょう。
2年後の原発は?
内容についてはこれ以上詳しく書きません。読んでください。これ以後は、原発事故のその後についての私なりの補遺です。
本が出版されてから2年。ハッピーさんはまだtwitterでの発信を続けています。
2014年末で現場からは身を引くことになったそうです。
続15:オイラは年内をもって現場第一線から退きます。ただ1F収束作業や浜通り復興には、これからも携わりサポート役にまわります。今まで多くの方々から辛い時や苦しい時にたくさん応援や励ましの言葉を頂き、何度となくオイラの力になりました(*^o^*)この場をお借りして感謝申し上げます。
— ハッピー (@Happy11311) 2014, 12月 11
フォロワーは出版時は7万人、いま8.6万人(私も今日その1人になりました)です。出版後、2倍くらいになったのではと思っていましたがそれほど増えていません。2013年時点での関心の低さがうかがわれます。
https://www.google.co.jp/trends/explore#q=%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8E%9F%E7%99%BA
こちらはgoogleトレンドによる「福島第一原発」の人気度です。原発事故直後を100とすると2013年は3、いまは2です。2013年の時点でもうほぼ完ぺきに忘れ去られています。人の噂は75日といいますが本当ですね。
肝心の原発収束の様子ですが、一番マシだった4号機の燃料取り出しのみが2014年末に完了しています。
■お知らせ■福島第一原子力発電所4号機使用済燃料プールからの燃料取り出し作業につきましては、本日(12月22日)午後3時2分に、4号機使用済燃料プールに保管されていた全ての燃料1535体の移動作業が完了しました。 http://t.co/Phnez4dMDV
— 東京電力 (原子力) (@TEPCO_Nuclear) 2014, 12月 22
東電による予定は以下の通りです。
号機別のスケジュール(改訂後)
燃料取り出し 燃料デブリ取り出し 現行目標 2013年12月(初号機) 2021年12月(初号機) 1号機
(最速プラン=プラン2)2017年度下半期 2020年度上半期
(1年半前倒し)2号機
(最速プラン=プラン1)2017年度下半期 2020年度上半期
(1年半前倒し)3号機
(最速プラン=プラン1)2015年度上半期 2021年度下半期 4号機 2013年11月
(1ヵ月前倒し)ー 平成25年6月27日 廃炉対策推
https://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/status/kouteihyou.html
4号機の予定ですら1年以上遅れていますから、1-3号機については2021年に終わるとはまったく思えません。これから作業員の確保はより厳しくなりますし、ハッピーさんのような優秀な作業員もどんどん辞めていきます。
2015年5月30日のニュースです。2013年じゃないですよ。
本書で指摘されている賃金低下による人手不足も、さらに深刻になっているようです。被爆上限を2.5倍に引き上げる改正案が今年に出されています。 www.nikkei.com
マイナンバーの施行により、作業員の確保はさらに大変になりそうですね。本書でも言及されている通り、原発業界を含む建設業界は過去持ちが多いですから、事情があってマイナンバーを持てない人間は従事できなくなるんじゃないでしょうか。
現在福島第一原発から海に放出されている放射性物質は
トリチウム 150億Bq/日
ストロンチウム90 27億Bq/日
セシウム137 12億Bq/日
セシウム134 4億1000万Bq/日
です。累計ではなく1日の値です。
毎日、海に流出している放射性物質の最新評価値 | 原発事故 | OSHIDORI Mako&Ken Portal / おしどりポータルサイト
復興予算も適当に使われています。
復興予算、9兆円使われず 11―13年度、需要とズレ:朝日新聞デジタル
除染が住んでいないのに無理やり帰宅させる方針も以前と変わりません。
東電はどうなった?決算資料から読み解く
せっかくなので、絶対投資対象になりそうにない東電の決算資料を読んでみます。
東電は2014年3月期、2015年3月期と大幅黒字です。あと5年で赤字を全て取り返してしまいそうな勢いです。なお、自己資本比率は去年の時点でプラスになっています。
昨年度にプラスに転じた理由は、「原子力損害賠償支援機構資金交付金」が9,689億円特別利益に計上されているためです。なんじゃこりゃ?
http://www.tepco.co.jp/ir/tool/setumei/pdf/140430setsu-j.pdf
原子力損害賠償・廃炉等支援機構というのは、原発事故を受けて官民合同で作った(という建前の)賠償専門の機構の組織だそうです。政府が金を調達して、東電に流すための機構です。
支援金は既に5兆円を超え、今でも毎月数100億~1000億円程度注入しています。今年度も支援金だけで当期純利益の2倍近い8,685億円の特別利益を計上しており、東電の黒字はまやかしです。国に頼めばいくらでも黒字を増やせるなんて詐欺同然ですね。いま粉飾決算でボロボロの東芝が喉から手が出るほど欲しい仕組みでしょう。国は東電の大株主なので、利益を上げて株価を上げたいんでしょうけど。。
今後も廃炉に向けて1基1兆円(で済むかどうかは疑問)の費用を見込んでおり、資金注入は当分の間続くと思われます。
政府の金の調達方法は国債と政府保証債権が半々です。このうち政府保証債権については毎年2,000~5,000億円という巨額のローンの入札が年2回ほど行われており、銀行がこぞって群がっています。金利は0.1%程度と低いですが、1年ローンかつ政府相手で貸し倒れの心配ほぼ0なのが魅力なのか、応募倍率は4倍程度と高いです。いかにも利権が生まれそうです。
調達した資金は無金利で東電に貸しているという建前だそうですので、政府が調達している資金の金利は税金から払われ、金融機関などを潤すということですね。で、どうせ東電に5兆円貸したお金は将来的に電気料金で支払われるんでしょうね。
http://www.ndf.go.jp/capital/ir/kiko_ir.pdf
国から被害者に直接保証が出るのではなく、東電に金を貸して東電に払わせる、という面倒なスキームをとっているのは、政府が払うお金は0.1%の金利負担だけで済むし、賠償金は将来にわたって国民が電気料金で払ってくれることが理由だとわかりました。払う金が1/1000!なんというマジック!ついでに金融機関も潤って景気対策もバッチリですね!
ところで売上高がめちゃ伸びてます。事故当時から26.7%増です。電気使用量が急激に増えるとは思えないので、これはほぼ電気料金が26.7%上がったことを意味します。今後も円安などを理由に上げるのでしょう。JTと同じ必須品独占ビジネスモデルですが、タバコと違って市場は縮小せず海外展開する必要もない素晴らしく強固な商売です。
二期連続増益増収をうけ株価もうなぎ上りです。
最後に引用
昨日読んだ本によれば、リスクは恐怖の大きさと起こりうる確率を掛け算して求め、数値化して比較検討するべきと主張しています。
私はその主張に疑問がありましたが、本書のエピローグの次の言葉で疑問が吹き飛びました。
原発事故に確率論なんてないよ。何百万、何千万、何億分の1であっても、原発がある限り、あした事故が起きても不思議じゃないのだから…