ロマンスカーの車窓から田園が消える日

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都内から箱根に観光に行く方は、ロマンスカーから見える足柄平野(新松田~小田原間)の田園風景が印象的なことと思います。私は近年この風景が失われるおそれがあるとみています。

田んぼが埋立てられ、住宅が建てられる

私は足柄平野のとある六帖一間のアパートに住んでいます。アパートの近くでは毎年のように田んぼが失われていきます。5年前、最寄り駅からの帰り道には多くの田んぼがあり、カエルやトンボをたくさん見かけることができました。しかし近年、これらの田んぼの多くが次々と分譲地に姿を変え何の変哲もない住宅地となりました。

数週間前、駅までのルートに唯一存在した田んぼの前に「建築計画のお知らせ:2015年10月1日~」という看板が立ちました。全滅です。

DMは不動産の広告ばかり

ボロアパートと言えども下手な鉄砲も数撃てば当たるとばかりにポスティング広告が毎日のように郵便受けに入ります。「新規開発分譲地~坪~万円!」「新築10戸建売~万円!」という、土地・新築住宅の広告ばかり常時100件は下らない物件が載っています。毎日のように田んぼが消え、どんどん家が建てられていっているようです。

足柄5駅の人口は増加基調

  2010 2011 2012 2013
開成 10,004 9,975 10,203 10,424
栢山 9,316 9,328 9,379 9,650
富水 6,711 6,671 6,895 6,966
螢田 5,862 5,879 6,082 6,293
足柄 2,966 2,976 3,070 3,303

小田急線のいわゆる「足柄5駅」の人口が着実に増加しています。分譲地となった土地は1か月以内にほとんど家が建ちますので、実感と一致します。この5駅は小田急線全体でみると閑散駅の部類に入りますが、全国的にみると少ないわけではありません。例えば開成駅の10,424人は県庁所在地の青森駅(約11,000人)とほぼ同レベルです。

開成駅周辺は2000年代初頭に小田急不動産による開発が進められ、一大ニュータウンが形成されました。田園地帯の中に突然マンション群が林立する異様な光景です。

西口(2005年10月13日)

開成駅 – Wikipedia

開成町では他にも大量の田んぼをぶっ潰して大きな道路、小学校(開成南小学校)、でかいマンション、多くの分譲地を立てるプロジェクトが現在進行中です。

東京ドーム5.7個分の開成町南部地区土地区画計画整理事業地に、誕生。

開成町南側は元々田んぼしかない土地ですので、この計画では26.8ヘクタール、田んぼ270枚分が消失することになります。

モータリゼーションの進行により大型ショッピングモールや職場まですぐに行けること、工場が多い本厚木や小田原などのターミナル駅が近い、90分頑張れば座って新宿まで行ける、等の利便性からこの地域の人気は高いようです。今後も大規模計画が予想されます。

農業は衰退しました

コメ農家は儲かりません。

田んぼ1枚(1反)は約991平方メートルですので、この人は3.5枚の田んぼを耕し、年間たったの130,000円しか稼げないそうです。20倍作ればなんとか生活できるレベルになりそうですが、まず無理です。実際に田んぼを見てみると分かりますが、2反の田んぼでも1人で作業している人はあまりいません。投稿者の管理しているくらいのスケールでいっぱいいっぱいだと感じます。

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米価|年次統計

コメの値段は戦後1/4まで下がりました。高度成長期に入るまでは食糧難で米価はめちゃめちゃ高かったので、このグラフから受ける第一印象は当てになりません。

高度成長期以後の数字を見ることにします。1962年に5kg3634円だった米価ですが、このグラフに書かれていない最新の2014年米価は5kg1083円です。2014年に暴落があったそうです。

飼料米への転作でコメ農家は生き延びられるのか? 米価の暴落で大規模コメ農家が窮地に | JBpress(日本ビジネスプレス) 一俵(60kg)13,000円→5kgで1083円

以前と比べて1/3以下しか儲からないコメ農家から撤退する人は増えて当然です。

年130,000円というのは時給1000円の仕事130時間で稼げる金額です。小田原市には近年Amazonの大きな倉庫が建ったので、Amazonでバイトしている方がましという状況です。

高齢化・なり手不足、とどめに相続税

足柄5駅付近は周囲に大学がほとんどありません。すると、東京の大学に進んだ若者はほとんどが帰ってきません。農家は後継者もおらず、全国的なトレンドでもある高齢化が進み体がきつくなれば耕作放棄せざるを得ません。

ところが耕作放棄すると農地と認定されなくなり、固定資産税が跳ね上がります。

年金生活者にそんな税金払えません。大きな売り圧力です。

そして高齢化と言えば、相続税です。土地を残したまま死ねば莫大な相続税がかかります。遺族に農業を継ぐ人はほとんどいませんから、土地を売って税金を払わざるを得ません。これも大きな売り圧力となります。私は以前、相続税が払えないので畑を売って駐車場にせざるを得なかった農家の話を聞いたことがあります。

また、足柄平野は神奈川県+小田急線効果で地価は安くありません。

http://www.tochidai.info/kanagawa/kaisei/

例えば開成町吉田島4303番の地価は坪45.5万円です。田んぼを住宅地に変更してから売れば、3枚で4140万円となります。8枚持ってりゃ1億越えです。都道府県ランキングで見ても6・7位の埼玉・兵庫の平均価格と等しくかなり高い水準です。4000万円あればなんとか老後暮らせるくらいの資金になります。さらなる売り圧力がかかります。

※実際に土地を売ったことがないので、彼らは地目が田のまま売るのか住宅地に変更してから売るのかは分かりません。。

究極の売り圧力TPP

小麦の大量輸入で日本人の食生活がパン中心に変わりコメ業界は大打撃を受けているというのに、ダメ押しでTPPによるコメ輸入の増大を迫られています。これらは米価を押し下げ、田んぼの放棄をさらに促すでしょう。

人口減で家が建たなくなっても・・・

日本の人口は減る一方であり、大都市圏ではない足柄5駅付近の人口は今は増加中ですが数十年スパンで見れば減少し、土地は今のように売れなくなることでしょう。すると田んぼが住宅に変わる速度も減るかもしれません。

しかしそのころは農業の担い手も激減し、家は建ちませんが耕作放棄地が増え、どっちにしても田んぼの数は減るでしょう。。

もはや打つ手がないように思います。日本人がもっとコメを食べ米価を上げる、若い人が田んぼを受け継ぐ機会を増やす、などと提言されることもありますが、安いパン・儲からない農業の前には現実的ではないでしょう。

近年は小田急線沿線にごく近い地域の田んぼも少しずつ虫食い状に家が建つようになってきました。急速な高齢化の進行により、今後虫食いの速度は増加するでしょう。悲しいけれどどうしようもありません。


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