日本経済新聞社 – 検証バブル―犯意なき過ち

★★★★★

日経がまとめたバブル通史。私はバブルが発生している真っただ中においてはほんの子供であったため、何が起こっているかは全く知らなかった。

そういえば80年代の終わりか90年代初めに、祖父が家族に株を買うことを頻りに勧めてきた記憶がある。もちろん当時は小学生くらいだったので株ってなんじゃ?と思っていた。もう一方の祖父に反対されて買わなかったらしいけれど。当時の祖父は羽振りが良かった。そして、しばらくすると祖父はおかしくなり、いつ遊びに行っても寝ているか酒を飲んでいるか怒鳴るかしていた。祖父は新世紀を迎えることなく癌で早死にした。私がバブルについて知っていたことはその1点だけである。

正にその時代、日本経済は空前のバブルに沸いていた。土地の値段が天井知らずで上がり続け、その土地を担保に企業はレバレッジ経営をしたり、さらに不動産に投資して利益を上げていた。要因となったのは円高不況脱出のための利下げと金融緩和による投資意欲の過熱、土地が値上がりし続けるだろうという人々の信仰、政府の認識能力の欠如による対応の遅れ、一番大きな原因は、日本人の横並び意識という国民性だった。最後の原因は文章中に明示的に書いてあるわけではないが、私はそう感じた。

誰もかれもが土地が値上がりするという誘惑に取りつかれたため、みな土地に投資する。ある銀行が土地を担保にして過剰に融資を始めた。その土地がのちに値下がりするとも知らず。そして、ここが驚くべきところだが、明らかにおかしな状況なのに、他行に負けまいとどの銀行も他に倣って融資を始めてしまうのだ。

土地も株式も以上に加熱し、平均PERは80-200倍まで膨らんだそうだ。今そんな事態になったら私は怖くて全額引き揚げる。やばすぎる。東京圏の土地は最大4倍ほどまで値上がりし、バブル崩壊後1/4になった。

企業も個人も財テクと言って投資に走った。「今買えば絶対儲かるから」小金持ちほどそんなフレーズに欲望を刺激されて財産を破裂させる羽目になる。

祖父はある特例市の中心駅から歩いて10分程度というそれなりの土地に家を持っていた。おそらく、この土地を担保にして株を買ったらどうかと、証券会社や悪い友達に唆されたに違いない。バブル崩壊とともに、株が大幅に値下がりして夢破れ、飲んだくれになったのだろう。しかし家を売り払ったわけではなく暮らし向きが貧乏になったようにも見受けられなかったので、失うものはあったが致命的ではなかったのだろう。飲んだくれるほどのことじゃないじゃん、って今では思う。70代くらいだったろうから、一世一代の博打に敗れた気持ちにでもなったんだろうか。もはや知る由はない。

この本からは大事なことをいくつか学んだ。

・金は経済の血液である。金が回らなければ経済は死ぬ。公的資金注入=輸血である。

・銀行をつぶすのは簡単だ。預金者が預金を引き出すだけでよい。

・人間は過ちを認めたがらない。当事者はみんな仕方がなかったんだという。

・バブルが止められなかったのと太平洋戦争から引き返せなかった構図は同じである。

本のタイトルに反して、バブルには次のような犯意があると言いたいように感じた。「俺は儲けたい」「俺は大丈夫」「やばいけど誰かが何とかする」「俺に責任はない」

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。