★★★★☆
イマヌエル・カント。彼の名前を聞くと「インマヌエールインマヌエルー」っていう歌詞のある讃美歌(何番かわかりません)を思い出します。こどものとき「インマヌエルってなんじゃ?」と謎のカタカナ語が気になっていました。
本書は以前セレクトした岩波ジュニア新書20のうちの1冊です。これで5冊めです
これもジュニア向けにしてはかなり骨太な内容でした。内容は簡単なカントの個人史→純粋理性批判→実践理性批判→判断力批判→その後「永遠平和のために」などの解説、の順で進みます。本記事では主に純粋理性批判の記述について紹介します。
コペルニクス的転回?
「逆に考えるんだ。」のように、考え方を180度回転させるという形容で使われる用語として「コペルニクス的転回」という言葉があります。もったいぶった文章でよく使われてますね。これはカント発祥らしいのです。
従来は、世界というものは固定されていて不変・普遍的なものであり、それを人間が正確に認識していくことが求められていると考えられていました。これをカントは逆転し、人間の認識によって世界が形作られていくと考えました。
本書45~47Pでは「太陽光線がアスファルトを暖める」、という現象を例にとって説明しています。原因:太陽光線、結果:アスファルトが暖まった、というただの事実のように思えますが、アスファルトそのものを見ていても太陽光線が暖めたかどうかなんてわからないんじゃない?と指摘した著者は次のように述べます。
・・・私たちは「太陽光線がアスファルトを暖めたのだ」と言い、そのように自然現象を理解します。これは、見えているものに全面的に依存する態度によってではできないことです。
では、<原因-結果>という考え方はどこから見出されたのでしょうか。ここでカントは、太陽光線に照りつけられるという「原因」がアスファルトの表面温度を上昇させるという「結果」を生み出す、そのような自然現象をそれとして成立させるのは、人間の認識のはたらきの方なのだと考えます。(P46)
こうしてカントは「対象に認識が従うのではなく、認識に対象が従う」と考えました。これが「コペルニクス的転回」と呼ばれるものだそうです。
「認識に対象が従う」という考え方は、生きていく上で強みになります。それは完全無欠の「対象」すなわち決定論的で固定されきった存在としての「世界」が存在しないということです。他人が見ている世界と私が見ている世界は、他人が作ったものと私が作ったものとなり別々のものというわけです。これを前提とすれば個人個人の価値観は違っていてアタリマエであることがすんなり理解でき、そしてあらゆる論証に対して反証可能性をつけることができます。「対象」なるものはすべて創作です。あなたが創作するんです。生きるの楽になりませんか?
ただこの論理は行き過ぎると次のような独断論になってしまうおそれもありますね。
お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではなとは (オマエガソウオモウンナラソウナンダロウオマエンナカデハナとは) [単語記事] – ニコニコ大百科
意志の自由ってあるのか
カントは「認識」に対しても普遍性をもつことができると考え、認識の中には生得的で誰でも持っているもの=「ア・プリオリ」なものがある、それは12の「純粋悟性概念」からなるのだという論を展開してきますが、個人的にはホンマですか、わたしたちそんなこと意識してないっすよ、と感じました。
この悟性とやらは論理判断を行う機能です。さきの太陽光線→アスファルトあったかい、のような<原因-結果>の対応付けを行うための機能のことです。ところがこの<原因-結果>を突き詰めると、カントが主張したい「意志の自由」が存在しないことになります。なぜならあなたの意志には突き詰めていけばすべて原因があることになるからです。
これをカントは「『物それ自体』の世界があるんだよ、人間は現象の世界しか認識できないから現象界で<原因-結果>に縛られて自由が無くなっても『物それ自体』では理論的には自由はあるんだよ」という正直言って苦しい論理によって解決します。続くページで「未来は不確定だからそこに自由がある」というちょっと救われた気になるような解説がありますが私は納得できませんでした。意志に自由はないのかもしれません。
カントは実践理性批判で「よい」とは何か、達成するためにはどうすればよいかを追求していきますが、私は「よい」が存在すると思っていませんので、カントは苦手です。。
1点気に入った言葉があるので引用しておきます。 これはカントの言葉ではなく、御子柴さんの言葉です。
明るい光が濃い影を生み出すからといって、光の明るさが無意味になるわけでも有害になるわけでもありません。(P152)
参考書籍
原典も一度は読んでみないといけないですね
- 作者: イマヌエルカント,Immanuel Kant,中山元
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/01/13
- メディア: 文庫
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美の経験とは一切の利害から解放されたものである、という考えはいいですよね