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2012年発売。仕事用にセレクトしました。ラノベを読むのは18年ぶりです。中学生のとき、友人に押し付けられたこの本→スレイヤーズ! (富士見ファンタジア文庫)を読んで以来、ラノベには抵抗がありました。面白くなかったのです。
仕事用の課題図書にはあまり面白そうなものがなくがっくりしていた所、本作品のタイトルが目に飛び込み「こいつはバカなので期待できるかもしれない」と思いハズレ覚悟で手に取ってみました。
バカは好きです。
背景
舞台は近未来、国民にはPM(Peace Maker)という情報端末の装着が義務付けられあらゆる言論が監視される、「公序良俗健全育成法」の制定により政府が「不健全」とした表現はすべて禁止され罰則が設けられるという日本が舞台です。「言論のクリーン化」が極限まで突き詰められた世界です。もちろん性教育はありません。精通はちょっとした病気みたいなものと捉えられています。
いわゆる「監理社会モノ」「ディストピアもの」の一ジャンルですが、本作品は「性教育」一点においてだけ過剰に制限が加えられているという特徴があります。
実はこんな世界、いま現実に存在しますよ!
神聖なる金正恩同志率いるノースkoreaですよ!
“Whenever one of my friends had a wet dream, everyone gathered to console him over his ‘unknown disease’” (友達が無精すると、みんなが集まって「訳わからん病気」になった彼をはげますんです)
ですから舞台を北朝鮮にしたらそのまま現在進行形で感情移入できると思います。
脳波に影響しそう
本作品の重要な要素として芸術的な下ネタの数々が挙げられます。
やっぱり期待していた通り、排泄孔が太いデキる男ね!大根くらいなら余裕で飲み込んじゃうくらいガバガバね!いろいろな場面で活躍する度胸のある男の括約筋は全く活躍してないって感じ?(P58)
これだから盛りがついて常に股間にテントでキャンプファイヤーボルケーノ状態の淫乱男は…village villageしてんじゃないわよ!(P127)
僕は机に倒れ込み、現実逃避を開始する。ふふふ。もっこり。(P190)
しょせん世の中は弁とチンコの立つ奴が勝つのよ!(P204)
単にくだらないだけなのですが、単純ではない下ネタを量産しなければいけない、というのはお笑い芸人がボケを考えるくらい苦痛であることだと思います。このシリーズは2巻以降も続いていくそうですが下ネタは構造上バリエーションが少ないので枯渇が心配されます。village villageは元ネタあるんでしょうか。しばらく意味が分かりませんでした。
ラノベはたいてい学園モノです。ターゲットが中高生だからです。中高生男子といえば下ネタでご飯100杯行けるバカの権化です。IQが50くらい下がりそうな文章です。
抑圧するな
ところで「下ネタ」というのは人間の本質を表した重要な表現の一つです。全世界の人類は例外なく性行為から生まれているわけですから、下ネタを公権力を使って禁止することは人間性の抑圧と同義です。抑圧への対抗がこの物語の主題となっています。深読みすれば監理社会への風刺、性的なものへの肯定、マイノリティ批判への対抗などいくらでも深読みできそうではあります(私がやるとこじつけになりそうなので省略します)。
本書の大きなストーリーとして、思想統制されている学園の生徒ほぼ全員が「禁断の知識」の収められている書物を求めて立ち上がる。。というものがあります。その書物は何かというとエロ本です。男女区別なくエロ本を求めて立ち上がる姿は感動的でした。
「自分を変えることは不可能だから、世界を変えることにしたの」(P68)
ヒロイン華城綾女のこのセリフに思想が集約されています。自分を偽るよりも、正直のままでいた方がいい。
不自然に抑圧したらどうなるかは生徒会長の「アンナ・錦ノ宮(ひどい名前ですね)」が体現してくれていると思います。純潔一辺倒できた人間は、線引きが分からなくなってしまうため簡単に一線を踏み越えようとしてしまうのです。逆に、歩く下ネタ量産器である華城が実際の恋愛や距離感を詰めることに消極であることが象徴的であると感じました。作者がギャップ萌えを狙ってるだけかもしれませんけど。
ストーリーは粗めで進行上色々不自然な点はありますし、ジェンダー的に全然コレクトでない表現が多いなどの欠点はありますが、設定勝ちで予想より遥かに面白く読むことができました。
次は本稿を下敷きにして本書のプッシュ記事(5000文字以上)を書く仕事です。。