ぼくが家事をやらせてもらえなかった理由は元妻のゆがんだ完璧主義によるものでした。
洗濯物を干す順番と方向、裏返す時間、取り込む時間、畳み方、タオルを重ねる順番などなど一々すべてに注文がありました。ぼくは細かい手順を覚えるのが苦手で、しかも毎日やり方が変わるのでついていけませんでした。間違っているとイライラされ、「頼まなければよかった」「頼んだのが間違いだった」「自分でやればよかった」と言われ、教えるのも面倒ということで仕事を取り上げられました。
いまは家事ができて幸せです。
元妻の口癖は「同じことを父の前でやったら殺されている」でした。
元妻の父(ぼくから見て元義父)は何か気に入らないことがあるとすぐに殴る人間だったそうです。元妻は殴られないようにするために論理武装や弁舌、巧妙な嘘をつくことを覚え、元義父を言い負かすことができるようになりましたが、そのために元義父の脅威となり、さらに殴られました。
元義父は社会的には優れた人だったらしく、親類や会社の人間の世話をよくしていたそうです。元義父の言葉には元妻の人生観に影響を与えたものが大きかったらしく、元妻が元義父について話すときはいつも愛情と憎悪と恐怖がミックスされたものが伝わってきました。
元義父は几帳面で完璧主義で強迫症気味で、顔を洗いすぎて眉毛がなくなるほどだったそうです。ぼくはたぶん、彼と同じものを求められたのではないかと思います。何事につけても元義父と比べられました。でも19歳年下のスペクトラム星人にそれを求めるのは酷です。
ぼくが家事をうまくできなかった理由を伝えると「言い訳をするな」と頻繁に言われていたことを今思い出しました。いかなる理由を述べてもぼくが悪者になりました。具体的にどう言い訳したのか覚えていないので、ぼくと元妻とどちらが正当なのか判断することはできません。今よりも遥かに言葉に不自由していたので、子供の言い訳のようなものだったと想像します。全力で正当化していたことは覚えています。言葉で叩き伏せられるのが怖いから正当化しないと死ぬ、と思っていたことだけ覚えています。
「私の方がうまくできるのだから、あなたは言うことを聞いていればいい」
「口答えをするな」
「今口答えしたな」
少しずついままでに言われたことを思い出してきました。家を出て数か月間、頭の安全装置のせいで封じられていたものが漏れてきています。思い出せる限り書き続けていきます。