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上巻のレビューから一か月も経ってしまいました。原書は1冊にまとまってるのですがこの本は記述量が半端じゃないので2冊に分けたのは賢明だと思います。
プロセスとしてのリーマンショック
下巻は役者が全員そろっているので上巻のようにエキセントリックな人物紹介はなく、登場人物が動き回りながらあちこちで巨大企業が倒れていきます。本書は上巻で述べたように、主として登場人物のとった行動に焦点が置かれていますので、構造的な問題は他の本で補わなければなりません。もしくは次のサイトを泣きそうになりながら読んでみようかとも思います。
本書から分かる範囲で簡単にまとめます。
サブプライム証券の価値暴落により破綻寸前のリーマン・ブラザーズに対して政府は政治的な理由で「助けてやんない。金融機関同士で何とかしな」とメッセージを出し、他の金融機関は株が暴落したリーマンを買おうとするも結局サブプライム証券の評価損の大きさが怖くてどこも手を出さず、リーマン・ブラザーズは2008年9月15日をもって破産します。
同様のサブプライム系証券に手を出していた大手保険会社AIGも破綻寸前までいきますがこちらはこれ以上危機を広げたくない政府による大量融資で80%が国有化(東電みたいな感じ)され、ギリギリのところで救われます。
大手投資銀行モルガン・スタンレーも資金不足となり死亡寸前までいきますがここはなんと三菱東京UFJが90億ドルの融資を決定し生き残ります。取引成立が祝日前だったので、三菱東京UFJはモルガン・スタンレーまで90億ドルの小切手(こわすぎ!!)を届けることで危機を回避しました。三菱東京UFJはいまでも22%の議決権を占める筆頭株主です。
金融機関が倒産するということは、経済の血液たる金の流れがストップするということです。リーマン・ブラザーズの倒産は内臓が一つオシャカになったことに相当します。例えば胃がんになったと言ったところでしょうか。AIG、モルガン・スタンレーが救われていなければさらに肺がんと肝臓がんがダブルパンチで襲ってくることに相当すると考えてよさそうです。まず死にます。間一髪で切除されて助かりました。
リーマンショックという出来事は、上手な人がまとめれば5行くらいで片付いてしまう出来事だと思います。本書は危機の端緒、フレディマックとファニーメイが国有化された2008年9月7日から、7000億ドルの不良債権を国が買い取る緊急経済安定化法案が成立する2008年10月3日までの話ですので、わずか4週間の出来事をこんな超分厚い本で語っています。
この本は歴史書だと感じました。まさに塩野七生さんの言うところの「プロセスとしての歴史」です。
すなわち構造的な理論書の補強として出来事を配置するのではなく、もっぱら出来事そのものを叙述することを目的とする本です。そこで必要となるのは、正確性と情報量の多さ、事実の多層性交錯性、登場人物の背景や性格、とった行動と彼らの思考です。著者の取材力には感心するしかありません。日本文で800Pくらいありますものね。
後知恵野郎はよく笑う
財務長官ヘンリー・ポールソンは今後長い間に渡って批判されるでしょう。なぜリーマンを救わず、他の金融機関は救ったのか、、と。しかしそれは結果論に過ぎません。リーマンを救うことは大きなモラル・ハザード(どうせ救われるんだから俺たちも無茶しちゃうぜーって他の金融機関が思うこと)に直結するというジレンマでポールソンは苦しんでいました。
ポールソンに限らずニューヨーク連邦準備銀行総裁ティモシー・ガイトナー、連邦準備制度理事会ベン・バーナンキも歴史の1点1点で彼らのベストを尽くし、できることを最大限にやり切ったのではないかと感じさせられます。
彼らを「あの時こうやればよかったのに」と、後知恵で非難することは簡単です。それは結果が分かっているからです。我々は現在を生きていて、未来を正確に予測することはできません。金融市場は大量の人間の意志という永遠に予測不可能な存在達の集合体です。非難する奴に言いたい「お前明日株が上がるかどうか分かるの?」
エピローグには、JPモルガンの代表ジェレミー・ダイモンのとても印象的な引用文が掲載されています。
重要なのは批評家ではない。ものごとを成し遂げるのに人がどこで躓いたか、どうすればもっとうまくできたか、そういう粗探しはどうでもよい。名誉はすべて、実際にアリーナに立つ人にある。その顔は汗と埃、血にまみれている。勇敢に戦い、失敗し、何度も何度もあと一歩で届かないことの繰り返しだ。そんな人の手に名誉はある。なぜなら失敗と弱点のないところに努力はないからだ。常に完璧を目指して現場で戦う人、偉大な熱狂を知る人、偉大な献身を知る人、価値ある志のためなら自分の身を粉にして厭わない人…結局最後に勝利の高みを極めるのは彼らなのだ。最悪、失敗に終わっても少なくとも全力で挑戦しながらの敗北である。彼らの魂が眠る場所は、勝利も敗北も知らない冷たく臆病な魂と決して同じにはならない。
――セオドア・ルーズベルト
私は感銘を受け、次の本を読みたくなりました。
映画版を見たことがあります。1945年8月14~15日。天皇を崇拝しクーデターを起こして最終的にピストル自殺する畑中をはじめとして、結果を知っている現代の私達から見れば、彼らは一見滑稽に見えかねない思考で行動します。しかし彼らは決して道化でもないし馬鹿でもない。私はあの時間を極限まで凝縮して生きた人たちの生き方考え方を知りたいと思いました。
関連書籍
リーマンショック一番の功労者。彼がいなければ世界同時不況はもっと深刻になっていたかもしれません。いつか絶対読む。
最近ガイトナーの回想録も出ました。超イケメン。これも絶対読む。
ゴールドマン・サックスの本もある。これも読みたい。
でもこれらを読む前に基礎知識が必要です。次の本は図書館の入り口の無料譲渡本コーナーで手に入れたので近いうちに読みます。
これも必要
まずこれだけあれば十分かな?
バーナンキが良さげな本を書いているので読みたい。
連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録
- 作者: ベンバーナンキ,Ben Bernanke,小谷野俊夫
- 出版社/メーカー: 一灯舎
- 発売日: 2012/06
- メディア: 単行本
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