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上巻に引き続き下巻では、整数論・関数・極限・指数対数三角関数・微積分がターゲットです。
合同式
123とか54321とか、各桁を足すと3の倍数になるということは知識として知っていました。お金を3等分したり料理中に材料を3等分する時に便利ですよね(あまり使わないか?)。でもそれが何故かなんてことは、全く考えてもみませんでした。ところが本書の序盤で出てくる「合同式」を使うと一発で証明できてしまうことに感動してしまいました。
合同式という概念は昔河合塾で習いました。しかし受験では一度も使うことなく入試に通ってしまいましたので、非常に印象の薄かった記憶しかありません。もちろん忘れました。
合同式とは、「ある数で割った余りが右辺と左辺で等しい」ということを表す式です。合同はふつうの等号に線を一本足した ≡ と書き、商を mod ? で表します。例えば
5 ≡ 2(mod 3)
です。5を3で割った余りは2、2を3で割った余りは2なので5と2は合同という意味です。
なぜ漫画の効果線みたいなけったいな記号を使うかと言うと、イコールと同じように扱えて直感的で便利だからです。例えば
5+1 ≡ 2+1 (mod 3)
5*2 ≡ 2*2 (mod 3)
は成り立ちます。同じように引き算や割り算をしてもOKです。
100を3で割った余りは1、10を3で割った余りは1ですから、
100 ≡ 1 (mod 3)
10 ≡ 1 (mod 3)
例えばa*100 + b*10 + cという数を3で割った時の余りを考えると、
a * 100 + b * 10 + c ≡ a + b + c (mod 3)
となって、各桁の和を足したものを3で割れば、3で割った余りが分かることが証明できました!!同じように9で割った余りについても
100 ≡ 1 (mod 9)
10 ≡ 1 (mod 9)
なので3で割った余りと全く同じ事が言える、つまり各桁を足して9の倍数になればその数は9で割り切れることまで証明できましたすごい!!!これで9等分も楽勝だ!
無限の魔力
もう一つ面白かったことがあります。無限をめぐる数学者たちの苦悩です。
1-1+1-1+… = ??
と無限に続いていく数は一体いくつになるのか、ということについて3通りの考えが示されました。 ボルツァーノの級数と言うらしいです。
1通り目→0である。
1-1+1-1+1…
= (1-1) + (1-1) + …
= 0
2通り目→1である。
1-1+1-1+1…
=1 + (-1+1) + (-1+1) …
= 1
3通り目→1/2である(!?)。
求める数をxとおく。
x=1-1+1-1+…
=1 – (1-1+1-1+…) = 1 – x
2x = 1
x = 1/2
3通り目、面白いですね。直感的に考えると、どれも正しいような気がしてしまいます。コーシーという人が後世にどれも正しくない、答えはないということを証明してこの論争には終止符が打たれました。数学者たちの考えることってとても面白いです。
微分と歴史
ユークリッド幾何学や代数、数論は主として静的なもの、動かない数字や図形についての考察でした。しかし14世紀から15世紀にかけて、大航海時代が始まり太陽や月の運動を精密に知ろうとする必要が生じました。ここから運動と変化の科学が生まれ、関数、微分・積分といった新しい数学が誕生していったと著者は主張します。
すべてのものは流動するという信念を持ち地球が動いていると主張したガリレオが、絶対的な神という最強の静的存在を権威に持つ教会によって弾圧されたこと、正確な運動の原理を算出するために微分法を編み出したニュートンを執拗に攻撃したのは教会の代行人たる僧正(兼哲学者)バークリであったことがこの主張を大きく裏付けます。我々をあんなに悩ませた関数やら微積分やらは歴史のエネルギーによって生み出されたものであると考えると、ロマンにあふれていてなんだか大切にしてあげないといけない気にありますね。
ちょっと駆け足過ぎた
文明論まで交えながら数学を語る筆者の語り口は非常に魅力的です。しかし問題は本書のサイズでした。わずか230ページの中に雑談も混ぜつつこれだけ沢山のトピックを盛るのは無謀です。特にオイレルの公式、様々な積分法、微分方程式ははしょりすぎで、私には全く理解できませんでした。紙面が足りずやむなく式の羅列が続くと筆者の魅力も半減してしまいます。十分優れた本ではあるのですが、上巻のように数学にまつわる雑談をもっと増量してほしかったというのが正直な感想です。この点は著者の他の本を読んで補おうと思います。
ここにも登場、数キチ・アルキメデス
以前この本にも登場したアルキメデスが本書にも登場しました。引用文でまたも彼の数キチぶりが発揮されていました。
プルタークの『英雄伝』は古代における最大の数学者アルキメデス(紀元前287頃-212)についてつぎのように記している。
「多くの立派な事がらを発見したが、友人や同族のものに頼んで、自分の死んだ後では、墓の上に、球に外接している円筒を立てて、内接体に対する外接体の比を記して呉れと云ったそうである」(プルターク『英雄伝』四(岩波文庫)P163)
あんた数学者の鑑や。。詳細はこちらをご覧ください。
アルキメデスの墓に刻まれていたと伝えられる図柄に秘密が・・・ 中1 空間図形|数楽者のボヤキ・ツブヤキ・ササヤキ-中学 数学 道徳 Mathematics Puzzles-
参考文献
もうちょっと簡単な本
無限についてもっとくわしく
講演集。数学史と、群論・集合論など
微積分のもっとわかりやすい本