書籍レビュー: 人々は大きな物語に支配される 『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』 著: ロレッタ・ナポリオーニ

★★★★☆

 

今年初めの日本人2名殺害事件で一躍日本でも有名になった過激派テロ組織、イスラム国の本です。

イスラム教については今後の要学習テーマですがキリスト教を学んでからなのでまだ先の話なのです。しかし彼らは最近のニュースで頻出ですので一体どんな組織なのか気になって本を手に取ってみました。

2015年10月時点、トップのアブ・バクル・アル・バクダディは最近の報道で空爆を受けて生死不明の状態です。

イスラム国?IS?ISIL?ISIS?

イスラム国はISだったりISILだったりISISだったり名称が一定しません。海外メディアではISISで固定ですがこれは本書で2つの理由が語られています。それは「アイシス」と単に発音しやすいから、もう一つは略称だと「国」が入らないので彼らを国と認めたくない政治家にとって都合が良いからだそうです。

日本国内メディアが「イスラム国」なのも単に短くて読みやすいからなんでしょうね。「イラクとシリアのイスラム国」とか「イラクとレバントのイスラム国」なんて見ただけで飛ばしたくなりますね。なお本書ではあえて「イスラム国」と呼ばれています。それは「国」を強調するためです。

当社の強み

21世紀初頭、2001年に911アメリカ同時多発テロが発生し「アルカイダ」「タリバン」が流行語となりました。ちょうど高校生の頃でライブ映像で2台目の飛行機がビルに衝突する映像を見てしまったことを覚えています。あれから14年が経ち台頭してきたイスラム国は、アルカイダと大きな違いがあります。手段として武力を使うことは同じですが、大きな相違点は彼らのもつ誇大妄想ともいえる物語と、手法の近代性の2点にあるようです。

1点目は「カリフ制に則る国を作る」ということが存在意義であることです。本書では何度も出てきますが中東イスラム国家は独裁の腐敗国家ばかりですので、厳格なイスラム主義はこれらの国に絶望したイスラム民にとって大きな訴求力があります。また彼らの領土獲得手段は暴力ですが、同時に道路補修、食料配給、電力供給などのインフラを強力に整備するという大きな特徴があります。内戦続きで崩壊しまくっているイスラム諸国にとってどれだけ魅力があることでしょう。

カリフ(ムハンマドの後継者たる預言者のこと)を掲げるなんて、生活に密着した歴史的なロマンたっぷりな物語で人々を釣るやり方ですね。カリフを日本で言うと征夷大将軍とか天皇みたいなもんだと思います。しかし日本には武士がいないので「将軍復活!」を掲げるテロ集団を立ち上げても支持は得られなさそうですね。没落士族の多かった明治時代ならウケたかも。「天皇を再び現人神に」なら愛国人が賛同しそうですがやっぱり人数が限られるかな。今や宗教の全くない日本じゃ無理ですね。人々に共通する強力な物語がないと。

2点目は日本でもよく知られていることですが、SNSの有効活用です。youtubeで首切り動画をばらまき、twitterで瞬時に全世界に魅力的なメッセージを発信します。

「欧米を支配しているのは銀行だ。議会ではない。おまえたちは、それを知っているはずだ。自分が一つの駒にすぎないこと、臆病な歩兵に過ぎないことに、お前たちは気づいている。だから自分のこと、自分の仕事のこと、家族のことしか考えない…それ以外のことには何の力もないと分かっているからだ。しかしいま、ジハードが始まった。イスラムの声を聴くがいい。イスラムは自由をもたらす。」

イスラムが自由かどうかは置いておいて前半はその通りですので、こんなメッセージがfacebookなんかで流れてきたら欧米のイスラム人を刺激することは間違いないです。

PLOという先例

実はイスラム国には先例があります。パレスチナ自治区です。彼らの代表PLO(パレスチナ解放機構)はテロビジネスで金を儲け、インフラ構築して定住し、いまでは国連のオブザーバー国家扱いになるまで発展しました。私はPLOの成り立ちを知らなかったので驚きました。テロってそんなに金になるんだねぇ。

というのも本書によればテロは必ず後ろ盾がいるものだからです。現在主権国家は表立って戦争を行うと経済封鎖などで瞬時にして痛手を負うので、様々な国家が彼らのような武装集団を密かに武器と金銭支援を行って代理戦争させ、武力を行使するという形をとっているからです。さらに、冷戦時代はアメリカかソ連しかスポンサーがいなかったのに、冷戦が終わった近年では各国の利害が複雑になり、スポンサー国家があちこちに出現して武装集団にとってはありがたい状況です。おかげでイスラム国も金を掻き集め短期間で大きくなることができました。

カリスマ統率者は必要か

最後に、アラブの春とイスラム国の違いについての筆者の言及が鋭いです。アラブの春はイスラム国と同様にSNSを使って広まり、世論を盛り上げて一定の変革をもたらしたように見えましたが、エジプトの軍部再クーデター、シリア内戦の泥沼化などいずれも失敗に終わりました。一方、SNSを効果的に利用したイスラム国は今のところ成功しているように見えます。これを筆者は、前者が個人の自主的な集まり、後者が求心的リーダーによる統率に依拠していることへの違いと見ました。自主的な集まりでは、メンバー間の関係性や交流により翻弄されてしまうから、と。なるほど歴史的に見てもカリスマに率いられた集団は強いです。ヒトラーしかり、天皇しかり、キリスト教の神しかり、、この論点からすれば、個人からなる日本の反安保同盟は失敗します。現に失敗しそうです。

でも、アメリカの手先なの?

ちなみに私が時々読んでいるあるジャーナリストによると、イスラム国はほぼアメリカの傀儡であり、中東の紛争恒久化(軍産複合体が儲かる)のために意図的に過大評価されているという見方もあります。メディアの使い方が洗練されすぎているので、米国が関わっていると考えるのは自然っちゃ自然です。

何が真理なのか私には全く分かりません。本書は短いながらも複雑で、所々重要な論点だけ抜き出してみましたが全体としては混沌としていてまとまりのない印象を受けました。単に私の知識と理解力が足りないだけなのかもしれません。国際情勢については、歴史を勉強したあと100冊くらい本を読まないとだめそうです。。

 

 

参考書籍

 

やっぱこれ読まなきゃダメだな

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 いつか読みたい中田考

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 戦争っつたらやっぱこれだけど、歴史を学んでからじゃなきゃ無理そう

戦争論〈上〉 (岩波文庫)

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