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知的飲み会
プラトン2冊目です。いわゆる「プラトニック・ラブ」の出典と言われています。
饗宴というのは飲み会みたいなもんだけど、参加する人はみんな哲人なので酒飲みつつ言論発表会もするというような知的な集会でした。本作では紀元前416年ごろに行われた饗宴を、紀元前400年ごろにアポロドロスという人が友達にせがまれて思い出しながら話す、という形式をとっています。
饗宴の参加者はアポロドロスの他に悲劇詩人アガトン、悲劇作家アリストパネス、そしてソクラテスなど錚々たるメンツが揃い、28名(wikipedia情報、そんなにいたっけ?)で行われました。医者のエリュクシマコスが、今日の議題は「エロース」についてにしようぜ!と提案し、5名が順々に演説をしていくという形式で、「ソクラテスの弁明」と同様にほとんど物語でした。演劇にするともっとしっくりきそうです。十分耐えうる素材だと思います。訳は不自然なところなどなく完璧でとても読みやすかったです。脚注も充実していて助かりました。
哲人エロースを語る
「エロ―ス」といっても、現代の肉欲的なエロとは全然違います。そもそもエロースとは愛の神です。しかも、ギリシャ神話でのエロースは美の神アプロディーテーの子であり神の中でも古参の部類に入ります。高尚なエロースを5名が順々に讃えていきます。
古代ギリシャ人は古代ギリシャは男性同士の同性愛が異性愛よりも高尚なものとみなされていました。演説者の一人パウサニアスの言うことには、アプロディーテーは2人いて一方が肉欲を生じさせる神、もう一方は男性の理性や強さへの憧憬を生じさせる神と定義し、
つまり、この種のくだらぬ人々は、第一に少年を愛すると同じように女性をも愛する。次に、その愛する者の魂より肉体を愛する。さらに、できるかぎり知恵なき愚者を愛する。
と肉欲をけなしたあと
このアプロディーテーにつながる愛の息吹をうけたものは、生まれつきより強きもの、より知性ゆたかなる者を愛して、男性に愛を向けるのである。そして、かの、少年への愛においても、ただひたすら、この愛にだけ動かされている人々への姿が見られるはずである。
と少年愛を賛美するのです。これは演説者ほぼ全員に共通の認識であり、みんな大抵男性の恋人がいます。ソクラテスにもいます(後述)。子孫の繁栄とかそういった言葉は全然出てきませんでした。肉体的<精神的なもの、という価値観を突き詰めるとこうなるのかもしれません。同性愛といってもくそみそテクニック的なものは論外というわけです。パウサニアスはこのあと、オッサンが少年に向ける愛を長々と賛美します。なんとなく自己正当化っぽい気もしますが文字だけ見ると美しいです。
アリストパネスは人気作家だけあって面白い解釈をしていました。カンタンにまとめると次のようなことになります。人間はもともと2体がくっついて出来ていた。2体でできてる時代の人間は強くて傲慢だった。そこでゼウスが人間を懲らしめるため、2体を分離した。人間の傷はふさがったが、1体では中途半端で常に欠乏感がある。そしてもともともう一つの自分であった1体と出会うと一つになりたいという気持ちが湧き上がってくる。。という説を語っていました。この物語に即するなら、一目惚れとか運命とかが説明できてロマンチックですね。ただアリストパネスの説は、昔の人間は「男×女」の2体だけではなく「男×男」や「女×女」の組み合わせもあった(しかも同じぐらいいたみたい)ということになってますから、やはり同性愛は正当化されうるのです。
愛=不死?
5名のうち最後に語るソクラテスは、全員の論を包括した上でもう一次元上にのぼる論を展開します。一言で言うと、エロースすなわち愛とは「不死への希求」だということです。
エロース(私達、と読み替えてもいいと思います)は完全なものではなく、欠乏をもっている。それゆえに美、善きものを追い求める。そしてこれらを手にしたならば、永久に自分の手にしたいと考える。自らは刻々と変化していく存在なので、なんとかしてこれら善きものを保存する方法を手に入れなければならない。そこで私たちは「懐妊」する。。
生物学的に「懐妊」すればそれは肉体的な愛となりますが、金銭、創作、名誉、知恵という方法を使って「懐妊」することも可能です。いずれも、永遠すなわち不死を追い求めることが「懐妊」だと言っています。私がこのようなブログを執筆するのも愛の一つの姿ということなのかもしれません。ここでも肉体<魂という序列が付けられます。肉体はどれだけ美しくとも他のものと似たり寄ったりで、しかも崩れゆく運命にありますが、あらゆる肉体から抽象した「美」は永遠のものとなります。知識も永遠です。これがいわゆるイデアって奴ですかね。イデアは永遠の体現なのですね。
プラトニックラブって純潔とか肉体的な結びつきの否定とかいわゆる「純愛」みたいなものと思ってましたが全然違いますね。人間同士の結びつきというよりは、もっと芸術的なものです。それに永遠や不死とは「自己保存」の最たるものですから、直感的には美しいですが本質的にオレ本位でわがままです。自己増殖して後世に俺様を残すことだけが目的のDNAが、彼の理想を一番表しているように感じました。
ウホッ、、とは違った
ラスト、アルキピアデスという酔っ払いが乱入してくるのですがこいつはなんとソクラテスの恋人です。アルキピアデスは美少年で、自分の容姿にも自信を持っていました。彼はソクラテスに告白してOKをもらい、隣で寝るのですがソクラテスはなにもしてくれなかったぜ!という愚痴を言いに来ました。そりゃそうですソクラテスは外面的な肉体には興味はなく彼の魂に興味があったのですから。このときソクラテス53歳なんですが憧れられるなんてすげーですね。
書いてみるとこの本の内容を全然理解できていない事実を突き付けられ落ち込みますがこれが今の自分の力ですのでしゃーないです。もっと色々読んで考えないといけません。すくなくとも姿勢だけはプラトンと同じように、究極の美なるものを追い求めたいと思っています。
参考文献
手前味噌ですがパイドロスやアリストパネスの話はギリシャ神話の引用ばっかですから、前提として必ず知識が必要になります。読んでおいてよかったと思っています。
- 作者: エルヴィンパノフスキー,Erwin Panofsky,伊藤博明,富松保文
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2004/06
- メディア: 単行本
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イデアについて。ちなみに本書には「イデア」という単語は出てきませんでした。