★★☆☆☆
自閉症の青年・淳一と女の子、老夫婦を軸に展開する小説です。
随所に現れる淳一のこだわりエピソードの描写の細かさから、施設の人か親かどちらかだなぁと思っていたらやはり、作者は自閉症の息子の親でした。文章全体から啓蒙思想が強く感じられます。
自閉症を知る入門書として2002年時点では最適だったかもしれません。老夫婦の夫、ちょっと説教気味な園長先生は作者の心理を一番投影した人物だと思います。私はこの園長先生のセリフ、ところどころ違和感をもちました。
「自閉症の人の場合、特に子供の頃はそんな状態なんだって、ボクは思うようにしている。いろんなことがどうにもならなくて、仕方なく自分の世界の中に楽しみを見つけることしかできない。それが自分の中に閉じこもっているように見えるから、他の病気と同じように受け取られてしまう」(P106)
~しかできない??仕方なく????
なんでそんな上からなん?
彼らのこだわり行動って、本当にそれが好きだから、こそだよ!!??
「だからさ、人間は自分の下に線なんて引いちゃいけないんだ。自分の背負うべき分のハンディの確率まで背負ってきて生まれてきてくれた1/100の存在に感謝しなきゃいけないんだ。わかってくれるかな?」(P132)
感謝?
なんで?
当人は感謝されたいなんて思ってないよ?
親御さんは大変なので彼らには感謝しなきゃいけないと思うけど。
あとこういう淳一のモノローグ。
ぼくの名前はあさのじゅんいちです。
ぼくはおしゃべりがにがてです。
リアルさを求めているわけではないんだけど、わざとらしい。
詳しくはネタバレになるので書けませんが、極めつけはラストです。私はこのラスト、最悪だと思います。なぜ一般人の価値観の枠組みの中の感動的な物語に彼らを回収するのでしょうか。そうすればウケるからでしょうか。涙を誘えるからでしょうか。それとも作者本人がそのような物語の中に昇華されたいという願望があるのでしょうか。
なぜ彼らを彼らの文脈の中に置いてやらないのでしょうか。
明日実さん、お母さん、弟の描写はよかったので★2つとしました。淳一を兄に持つために空白の存在にされた弟の話についてはもっと突っ込んでもよかったのではないでしょうか。
自閉症系の本は本人か、医者の書いたものじゃないとだめ。創作物は感動モノ、泣ける文脈で消費されるためのものだからもういや。反省。
Amazonのレビューは満点です