書籍レビュー: 日本語使いは空気読まないと死ぬ『日本語学入門』 著:近藤安月子

★★★★☆

 

新年3冊目です。このペースでは年100冊に到達できるかどうかギリギリですね。

から九時まで五時です

私は日本語が上手ではないという自覚がありますので、日本語に関する本をいくつも読んでいきたいと思っています。外国語学習が趣味なので、言語をシステマチックに分析するのも大好きです。そんな欲望を満たすのにうってつけなのが外国語学習者が手に取る日本語学習本です。日本人だとアタリマエに思っていることは外国人からするとすべてアタリマエではないということが分かります。

例えば英語圏の人がよくやる間違いは次のようなものだそうです。

郵便局は、から九時まで五時です。(P2)

これは”The post office is open from 9 a.m. to 5 p.m.”をそのまま訳したことによる間違いです。でもなぜだめなんでしょう?語順を変えて「郵便局は、九時から五時までです。」なら問題ありません。文の要素は全く同じなのに上の例だと文になりません。これは日本語が後置詞型言語といって、「から」や「まで」などの接続詞を名詞のあとに持ってくる言語だからだそうです。英語は逆にfrom~やto~などを名詞の前に持ってくる前置詞型言語です。そういえば学校では後置詞なんて習いませんでしたね。

日本語は活用形多すぎ

外国人から見た日本語、のように日本語を客観的な学問の体系として組み立てた「日本語学」は私達が中学校で習う文法とはいくつか違いがあります。

例えば形容動詞。「きれいだ」「元気だ」など「だ」がついたことで私達を惑わせたうっとおしい品詞でしたが、日本語学に形容動詞は存在しません。日本語学では

「名詞+だとほぼ同じじゃん?区別する意味なし」

と判断されています。また、助動詞もありません。これらは全て動詞の活用として扱われます。ですので動詞の活用は次のようなとんでもない数に膨れ上がります。

辞書系:書く

マス形:書きます

テ形:書いて

タ形:書いた

タラ形:書いたら

タリ形:書いたり

否定形・ナイ形:書かない

受け身形:書かれる

使役形:書かせる

使役受身形:書かせられる

可能形:書ける

バ形:書けば

意向形:書こう

(P8)

13もあります!私たちが習った五段活用と比べるとずっと多いですね。フランス語やドイツ語の活用の数多すぎだろとごねるのはやめます。日本語の方が難しいです。英語に至っては活用なんて過去形と過去分詞くらいしかないしちょろいもんですよね。

常に空気読まされる日本語

日本語に特徴的に多い助詞が終助詞です。「ね」「よね」「よな」「な」などを文末につけて、どのように出来事をとらえているか、どのように聞き手に伝えたいかを表します。

日常会話から「ね」「よね」「よな」「な」などの終助詞を無くすと、伝達に支障をきたす恐れがあります。「いい天気ですね」ではなく「いい天気です」、「そこに段差がありますよ」ではなく「そこに段差があります」と言われたら、聞き手は一瞬反応に戸惑うことでしょう。(P123)

終助詞は、日本語使いに空気を読むことを強いています。終助詞が断定なのか疑問なのか同意なのかにいつも耳を澄まさなければいけませんし発話のたびに毎回適切な終助詞を選ばなければいけません。例えば次の天気についてのよくある会話のバックグラウンドについての解説をご覧ください。

(1) A:いい天気です。 B:そうです

(中略)

(1)では、Aは、Bが知っているはずの情報についてBの同意を求めています。このような場合には、AもBもネを使わないと、伝達に支障をきたします。言うまでもなく、いい天気であることはAとBが会話の場で共有している情報で、新しくはありませんが、それを確認することを通してAはBに共同注意を促したり、BはAに対する共感を表明したりすることができます。このような場合のネは、対人コミュニケーション上必須の要素です。(P125)

いい天気ですねそうですねって言ってるだけなのに実はここまでのコンテキストを解釈しないと適切に会話できないのです。こりゃー難しいわ。

余談ですが「~ナリ!」「~だわさ」などなど特殊な終助詞を使ってあるキャラを表すという効果をあげたり「~やな」「~だがや」で住んでいる(育った)地域を表すような例もありますね。

うなぎ文

もう一つ日本語の特徴として文脈依存性の高さがあります。文脈に応じて語の意味文の意味が変わったり、大胆に省略したり通常あり得ない文も意味が通るようになるのです。典型的なのが次の「うなぎ文」と呼ばれるものです。

A:何にする?

B:僕はうなぎにする。

A:君はうなぎか。じゃあ、僕もうなぎだ。(P32)

「僕もうなぎだ」は僕=うなぎという意味ではありません。「僕もうなぎを注文する」という意味です。英語ではありえない構文です。この文の意味は文脈によってさまざまに変わります。例えば劇でうなぎの役を何人にも割り当てていれば「僕はうなぎの役をする」という意味になりますし、アナゴチームウナギチームなどの名前で団体競技をやっていれば「僕はうなぎチームが勝つのに100万円賭ける」という意味になるかもしれません。同じように「ここはだれ?」「僕はどこ?」という意味不明の文も文脈によっては有効になります。

文脈依存性が高い=空気が読めないと話についていけないということです。日本語は根本的にKY人間を締め出す構造の言語でした。まいったまいった。

 

本書は日本語学のイントロということでこれでもかというくらい要素が詰め込まれていますが、いかんせん200Pに満たないため文量が少ないのが欠点です。図が全くないので日本人が読むのも辛く外国人が読むことはまず不可能でしょう。また、日本語学の教授(しかも東大大学院)なのに所々日本語がおかしく文章が読みづらいです。 日本語学を極めても読みやすい文章が書けるようになるわけではないということなのでしょうか??

また、たまたまなのですが翻訳の副業をすることになるにあたり、日本語学は自然な文章の書き方を教えてくれるものとして非常に有効であると分かりました。この手の本をもっと読みこむ必要があります。

 

 

関連書籍

もっとわかりやすい本を読みたい。次はこれですね。定評もあるようです。

初級を教える人のための日本語文法ハンドブック

初級を教える人のための日本語文法ハンドブック

  • 作者: 庵功雄,松岡弘,中西久実子,山田敏弘,高梨信乃
  • 出版社/メーカー: スリーエーネットワーク
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 単行本
  • 購入: 5人 クリック: 15回
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中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック

中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック

  • 作者: 庵功雄,中西久実子,高梨信乃,山田敏弘,白川博之
  • 出版社/メーカー: スリーエーネットワーク
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 単行本
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 動詞について。

「する」と「なる」の言語学―言語と文化のタイポロジーへの試論 (日本語叢書)

「する」と「なる」の言語学―言語と文化のタイポロジーへの試論 (日本語叢書)

 

 

 日本語学習の最難関と言われるらしい「のだ」について。著者が野田なのはなぜだ

「の(だ)」の機能 (日本語研究叢書 (9))

「の(だ)」の機能 (日本語研究叢書 (9))

 

 

 敬語の定番テキスト。ほしい

敬語 (講談社学術文庫)

敬語 (講談社学術文庫)

 

 


書籍レビュー: 発酵する物語『ピンザの島』 著:ドリアン助川

★★★★☆

 

刊行は2014年2月。最近の小説も読んでみようと思いamazonで適当に評価が高そうなやつを選んでターゲットにしました。といっても完全なランダムというわけではありません。ドリアン助川さんは前住んでいた家で取っていた新聞に時々人生相談で登場しており、最も好きな回答者でした。

舞台は沖縄(と思われる)の架空の離島。うさんくさいバイトの斡旋でやってきた3人の男女。この設定だけ見ればかるーい愛憎劇に発展するのかと思ったら全然違いました。文体こそ読みやすく軽快にサラサラ進んでいけませんが、ドリアンさんの人柄のまんま、無駄な濡れ場なども全く存在せずとても上品な作品でした。テーマは途中まで全く想像のつかなかった「発酵」です。文章も物語も後半に行くにしたがって熟成していきます。ラストの描写は作者も熟成チーズを作るような気持ちで文章を書いたことが想像できるようです。

本書を貫いている感覚は「負け」の感覚です。主な登場人物は20代後半、人生をドロップアウトしたと思っている人たちです。主要人物の一人、立川のセリフです

「だけど、そんなことで頭に来てる自分ってのも、オレ、嫌なんだよね。だから過去のことをさ、くそみてえな、そういう日々のことを忘れてえなって思って。それでずっとふわふわして、遊び半分みてえに生きてきたんだけれど……あのさ、全然ダメなんすよ。そうやって流れてても、なんも変わんねえの。リアルってのが無いんすよ。生きてるって感じがしねえの。だからいつまでも昔のことが気になるんだ。」

これの答えと思われることを主要人物の一人「ハシさん」60代が主人公の涼介に語ります。

「涼介さん、私は思うんですが……人生の節目という意味では、敗北も勝利もそう変わらないのではないでしょうか。むしろ勝利は、気付きを与えない分だけたちが悪い。あなたは敗北してよかったんだ」

人間は勝ち負けにこだわります。しかし「勝ち」「負け」が明確に定義されてることってほとんどないのではないでしょうか?20代後半というと私もそのような勝ち負け意識にさいなまれたことがありましたが、もうそこは乗り越えてしまいました。人生長いスパンで考えると勝ちも負けも全く意味をなしません。この観点からすると帯で煽りに煽られてるラストシーンは若干がっかり感がありますので★マイナス1つとさせていただきます。あと10年早く読んでいたら得るものがあったと思います。

 

 

関連書籍

似たようなテーマだと思います。特に下巻。

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

 

 

自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

 

 

次の本を読んでいたので発酵については知識がありました。

 


自炊を1か月続けて分かったこと

一人になってまもなく一か月が経ちます。旅行時を除いて一か月間一切外食せず、すべて自炊で乗り切ることができそうです。

はじめて自炊をして、この一か月で分かったことを書いていこうと思います。

くず米を鳥に食わせるのは勿体なすぎる

私の主食はくず米と大豆です。

品質には不安がありましたが食べてみるとほぼ玄米と変わりませんでした。単に粒が小さくてモミガラ・雑穀が混ざっているだけにすぎず、中身は普通のコメでした。

これをザルにかけて細かいゴミを振るい落とした後、フライパンで乾煎りしてから炊くとめっちゃ美味しいのです。

http://auctions.search.yahoo.co.jp/search?auccat=&tab_ex=commerce&ei=utf-8&aq=-1&oq=&sc_i=&fr=auc_top&p=%E3%81%8F%E3%81%9A%E7%B1%B3&x=0&y=0

供給が安定しているのかどうか怪しいのが欠点ですが現時点でも20kg1600円程度で何点か出品されています。「鳥のエサ用」「食味が劣ります」などとクレーム防止用の脅しがありますが嘘です。玄米を食べ慣れた人なら余裕でいけます。

 

豆は炊飯器が一番柔らかく炊ける

豆料理の本を買ったりいろんな料理に豆を投入してみましたが、水に一晩浸してから調理してもあまり柔らかくなりません。相当長時間煮れば柔らかくなるのでしょうが、ガス代を考えると効率が悪くなります。

柔らかくないということは吸収に問題があり、せっかくの高タンパクに全く意味が無くなってしまうということです。結局、炊飯器でコメと一緒に炊くのが一番柔らかく、吸収率が最も高い(と思われる)という結論に落ち着きました。いまでは3食豆ごはんです。

 

味噌汁は万能

野菜は煮るのが一番楽です。煮物の代表と言えば味噌汁。引っ越す前から分かっていたことなのですが、味噌汁には基本的にどんな野菜でも投入できます。安い野菜をまとめ買いして使い道に困っても、味噌が全てを包み込んでくれるのです。最近では適当に野菜を切って3食分の味噌汁を作り、1日かけて食べるのが日課になっています。味噌汁はダシを多めにすれば醤油や塩が要らないので、煮ものと比べて塩分が控えめで済むという利点もあります。

 

パスタに重曹を投入するとラーメンになる

麺類で一番安いのはパスタです。近くの業務スーパーで500g税抜89円税込96円。1食あたり20円弱で済みます。しかしパスタは味噌汁や煮物の残りに投入できない、ソースが必要で高い、という欠点があります。そこで見つけたのがこの方法です。

食用の重曹は大抵のスーパーのお菓子コーナーにあります。業務スーパーにも50g60円くらいでありました。最近では腹の減った日に味噌汁を若干増量してガラスープの素を少々入れ味噌ラーメンもどきを作り、ラーメンライスとして食べることが多いです。

 

シャトルシェフなしでは暮らせない

料理にあまり手間をかけたくない人におすすめなのがこれです。

THERMOS 真空保温調理器 シャトルシェフ 1.6L アプリコット KBF-1600 APR

THERMOS 真空保温調理器 シャトルシェフ 1.6L アプリコット KBF-1600 APR

 

シャトルシェフは魔法瓶と鍋を一体化させたものです。中身を沸騰させた鍋を放り込むと90度以上の水温をしばらくの間保ってくれるという逸品です。優れている点は3点。

・沸騰後はガスが要らないのでガス代が節約できる

・保温中は決して沸騰しないので吹きこぼれる心配がない。放っておける

・長時間の煮込みに使える

これによって例えば上の方法でラーメンを作るなら、重曹を放り込んだ時点で火を止めてシャトルシェフに入れて10分遊んでいるとラーメンができています。うどんやそばなら汁に入れて沸騰させて放っておくだけでカップ麺のようにできあがり、ということだってできます。

味噌汁も煮物も楽勝です。

野菜を切る→鍋に入れる→沸騰→シャトルシェフに突っ込む→気が付くとできてる

というコンボを多用しています。麺類よりも煮物に使うことが多いです。もはやこれなしでは暮らせません。

 

イオン、ヨーカドーは高い

1か月の間大規模スーパー、小規模スーパー、八百屋など様々な店を見て回りました。店の数は多いのでいまでも開拓中です。スーパーはどこも広いので値段を全部見られたわけではありませんが、おおむね次のような傾向を見て取ることができました。

・大規模スーパーは総じてなんでも高い。特にイオン、ヨーカドー。試食はおいしい。

・スーパー密集地の小規模スーパーは野菜類が安い。ときどきキャベツ1玉47円大根1本48円など捨て値で売るときがあり、狙い目。

・八百屋も小規模スーパーに匹敵する安さの店がある。

・スーパー密集地のドラッグストアは卵や牛乳が安い。差別化を図っていると思われる。

・ロピアとオーケーは大規模だが例外。総じてなんでも安い。

・業務スーパーは牛乳、卵、野菜以外のものなら異常に安い。圧倒的に最安値。特に調味料、大豆製品、乾物、粉、麺、冷食が安い。買わないけどパンも安い。牛乳、卵、野菜は神戸物産から提供されていないので価格は店舗によって異なる。

・小田急OXや成城石井は問題外。たかすぎる。安い店の1.5~2倍はする。

・肉と魚は買わないので知らない。

以上のことから私は野菜を小規模スーパー、卵と牛乳をドラッグストア、それ以外は業務スーパーで仕入れています。

家から4.5kmほど離れた所に卸売市場があるとわかりました。野菜をここで仕入れると安くなるかもしれません。しかし自由に動ける日曜日は市場が休みであること、朝10時には市場が閉まってしまうことがネックです。一度は必ず行ってみようと思いますが、朝はなかなか時間が取れません。

 

サプリは要らない

低価格で毎食野菜を山ほど盛ることができるのでサプリは必要ありません。引越前に2か月分くらい買ってしまったのですがもう必要なさそうです。

 

自炊美味しすぎる栄養あり過ぎる

最も重要な点です。何を作ってもめちゃめちゃ美味しいです。原料が安くても味にそこまで影響を及ぼしません。もう弁当なんて買えません。もちろん栄養価も高いです。1か月間、混んでる電車やらスーパーやら人混みの中にしょっちゅう入りましたが風邪一つ引きませんでした。


書籍レビュー: 日本は資本主義じゃなかった『最新版 法人資本主義の構造』 著:奥村宏

★★★★★

 

新年1冊目です。

この本、昨年末から読んでいたのですが読み終わるのに1週間もかかりました。本文に独特の癖があって読解が大変でした。文体は私に似ています。私の文章はお世辞にも読みやすいとは言えません。読むのに気力が必要でした。内容はいいんですけどね。以下紹介していきます。

会社マニア

著者の奥村さんは肩書こそ元中央大教授・経済評論家ですが、実際のところは会社マニアと称するのが正確だと思います。特に日本の会社についての資料が膨大で詳しすぎます。本書はバージョンを変えながらどんどん加筆されていって2005年のこの岩波現代文庫版が最新版です。最新版に当たってアメリカや韓国などの会社の書籍も調べまくったそうですやはりマニアです。

何故マニアと即断するかというと普通は次のような執拗な書き方をしないからです。

持株会社指定時における三井財閥の持株関係を見ると、三井鉱山が三井化学、三井農林、三井軽金属の株式を所有し、三井生命が三井本社、三井物産、三井鉱山、三井信託、日本製粉、大正海上火災、東洋レーヨン、東洋高圧、三井軽金属の株式を、三井化学が東洋高圧の株式を、三井物産が三井造船、大正海上火災、三井本船の株式を、三井造船が三井木船の株式を、日本製粉が三井本社、三井物産、三井鉱山の株式を、大正海上火災が三井本社、三井物産、三井鉱山、東洋レーヨン、東洋高圧の株式を、東洋綿花が東洋レーヨンの株式をそれぞれ所有していた。(P29-30)

いや図にしろよこれ!!!三井三井うるさいよ!!でも奥村さんにしてみれば全部書きまくることが大切なのであり、彼の頭の中では把握できているのでしょう。すごいですね。私は無理です。ちなみにこのあと、三菱系列についてほぼ同じような文章がもう一度並びます。目が痛いです。本書ではこのような反復が頻発し、復習になって助かりますがくどいです。たぶん発達障害です。

株式持ち合い?

さてこの「株式持ち合い」が本書のキモとなります。「株式持ち合い」とは法人同士が示し合わせてお互いの会社の株を所有する、日本独特の流儀のことです。例えばA社がB社の株を10%買うから、B社もA社の株を10%買ってくれよ、というようにします。この奇妙な慣習が、実は日本の独特な形式の資本主義や、「会社人間」が生まれる風土を育んだのである、というのが著者の主張です。

なぜ株式持ち合いが日本で発生したのか、その歴史を前半まるまるかけて詳述します。戦前をカットして思いっきり圧縮すると、初めは会社の乗っ取りを防ぐためだったんだけど株価釣り上げとか相手の会社と談合しやすいから便利だね~とズブズブ続けていってしまった、という経緯でした。会社同士でお互いの株を買っていれば、残りの株を買い占めることは難しくなるので乗っ取りができなくなるし、A社がB社の株を買っていればA社がB社の経営に口を出せる、逆にB社もA社の経営に口を出せるので運命共同体のようになり、連帯感が生まれますしお互いの損になる取引もやりにくくなります。

会社がまるで人間のようだ

著者は根本的な疑問を投げかけます。

「そもそも法人が株買うのっておかしいんちゃう?」

事実、アメリカではこのような取引は禁止されています。会社は株主、つまり自然人が株券を買うことによって共同出資して成り立つものです。法人も株を買って他の会社の一部を所有することができるとすると、じゃあその会社は誰のものなのか?社長?取締役?それとも「トヨタ」とか「セブン&アイ」という人間がいるものとしてそいつが所有してるの?それっておかしくない?という話になります。著者はこの議論を次のようにしてばっさり切り捨てます。

A社がB社の株式を所有し、B社がA社の株式を所有するという相互持合いは自社株所有と同じであって資本充実の原則に反する。(P256)

株式の買占めによる乗っ取りを防止すること自体が株式会社の原理を否定するものである。なぜなら株式は売買自由であり、株式を買い占めて会社を乗っ取るのも自由であるというのが株式会社の原理だからである。(P261)

×資本主義  ○会社資本主義

端的に言うと日本は資本主義ではありません。会社資本主義です。会社がまるで人間であるかのように社会の中に存在しており、しかも会社が人間よりも有利な取り扱いを受けています。なぜなら会社は犯罪を犯しても自由刑(禁固とか懲役とか)を科すことができないので東電やチッソのように潰れずに残るし、スカイマークのようにたとえ潰れたとしても債権放棄してオシマイで、実際のところ誰も責任を取らないで済むからです。

日本人は会社に所属することでモチベーションの上がる人が多い奇妙な民族です。この特性のおかげで労働者の多くはサービス残業や低賃金によって会社に奉仕します。私は次の引用を読んで笑ってしまいました。「会社主義」は会社礼賛の立場、「会社資本主義」は著者の立場です。

「日本企業は運命共同体であるがゆえに競争力をもち、それゆえに経済的成功を収め得たのだというのが会社主義だとすれば、ゴーイング・コンサーンとしての企業が自己存続と自己拡大を図るために、経営者や従業員の忠誠を調達するというのが会社本位主義である(『現代日本社会Ⅰ 課題と資格』P207 東大出版)」。(P286)

これで結びとさせていただきます。

 

 

本書を紹介してくださったふかくささんありがとうございました。

 

参考書籍

なんとジュニア新書にも奥村さんの本が。気になる

会社とはなにか (岩波ジュニア新書)

会社とはなにか (岩波ジュニア新書)

 

 

 これもよさげ

粉飾資本主義

粉飾資本主義

 

 

 J.S.ミルの会社論の古典。いずれ読む

経済学原理〈第1〉 (1967年) (岩波文庫)

経済学原理〈第1〉 (1967年) (岩波文庫)

 

 

 これも古典。

企業の理論

企業の理論

 

 

企業が自己存続と自己拡大を図るために経営者や従業員の忠誠を調達。いい言葉です。このセリフは間宮陽介という人が書いたそうです。

課題と視角 (現代日本社会)

課題と視角 (現代日本社会)

 

 

 間宮氏の経済思想史。

市場社会の思想史―「自由」をどう解釈するか (中公新書)

市場社会の思想史―「自由」をどう解釈するか (中公新書)

 

今年の目標

あけましておめでとうございます。今年は1人ですので、正月だからといって何か変わるわけではなくいつも通り過ごしています。

今年やりたいことは沢山ありますが、頭の中で考えているだけだと後回しにしてしまいます。ここで宣言すれば自分が追い込まれますので書き連ねていきます。

食費を1月5000円に抑える

栄養価が不足することが無いようにする、という前提です。作ってみたいものがたくさんあるのでオーバーする可能性は高いです。先月は1.8万円の出費でしたので惨敗でした。外食、中食、お菓子を選択するとあっという間にオーバーするので厳禁です。すべて自作します。料理は化学実験の要領でやればやるほど面白く、かなり適当に作っても美味しいものができるのでハマります。

1年で100万円貯める

達成するには1年間の生活費を家賃込みで50万円に抑えつつ副業で税引後50万円以上稼ぐ必要があるのでまず無理だと思いますが目標として掲げます。光熱費も可能な限り徹底的に節約する必要があります。証券口座を申し込んだのでこれも欲張らない程度に活用します。

本を100冊読む

ここ1か月完全に停滞しています。去年は年度の途中から始めて94冊だったので、今年は忙しいとはいえ100冊以上読まないとなりません。読みたいジャンルは文学法律歴史哲学心理科学数学芸術、要するになんでもありです。1冊読むと10冊読みたくなります。

外国語学習

趣味の多言語学習は今まで通り少しずつ継続、今年はTOEICを受験してみようと思います。先週、小さな対策本をひょんなことで無料で手に入れました。10年前の時点では805点。今はどれくらいでしょうか。

10km走れるようになる

体力が極端に落ちてしまったので、自転車での遠出から初めて少しずつリハビリ中です。もう少し体力がついたらランニングに切り替えます。将来的にはマラソンにも出てみたいです。

大学に復帰

せっかく放送大学に入学しているので卒業してみたいです。来期から6コマ取ります。テキストも読書のうち。1年で12冊ですね。授業料は副業でなんとかします。

鬼トレを1年間継続する

twitterで知り合った方にプレゼントしてもらったので、必ず続けます。1年間で鬼計算7バック達成が目標です。音ゲーは暗記と熟達だけの競技、いわば結晶知的な世界で居心地が良かったのですが、ワーキングメモリーの世界は全くタイプが違います。非常に手ごわいです。あっという間に伸び悩んだので私は本当にワーキングメモリーが少ないようです。

他人のことも考える

置いてきた家族、実家の家族どちらも心配です。実家の心配をすることになるなんて夢にも思っていませんでしたが、関わってしまったことは仕方ない、レヴィナス言うところの「善きサマリア人」を見習って生きていきます。

たまたま通りかかった道端で苦しんでいる者を見捨てなかった「善きサマリア人」を人間の本質とし、否応なく他者と関わり責任を負うことが課されているのが人間だ

 

わたしゃ上の記事ではサマリア人にはなれないと書きましたが、否応ないですね人生ってホントに。マジで本質でした。聖書すごい。また読むの再開しなきゃ。

地元の友人やネット上で知り合った人も大切にしていきたいです。一人になってからいろんな人と関わるようになりました。日常では同調圧力が嫌いなので「自分だけで生きているんだ」という気持ちが強いことが多いのですが、節目節目で他人に生かされている自分のことも感じます。カネをいただけるのは他人様からだし、食料を買うことができるのも生産者さんがいるおかげです。本だけでなくtwitterやブログからは生きるための言葉をもらえます。言葉が無ければ今の自分はありませんでした生きてもいけませんでした。はじめに言葉があった。西洋人の昔の人はえらいなぁ。古代人からだって沢山言葉をもらえます。

 

ずいぶん沢山ありますね。全部できるんでしょうか心配です。できるだけのことはします。