★★★★☆
刊行は2014年2月。最近の小説も読んでみようと思いamazonで適当に評価が高そうなやつを選んでターゲットにしました。といっても完全なランダムというわけではありません。ドリアン助川さんは前住んでいた家で取っていた新聞に時々人生相談で登場しており、最も好きな回答者でした。
舞台は沖縄(と思われる)の架空の離島。うさんくさいバイトの斡旋でやってきた3人の男女。この設定だけ見ればかるーい愛憎劇に発展するのかと思ったら全然違いました。文体こそ読みやすく軽快にサラサラ進んでいけませんが、ドリアンさんの人柄のまんま、無駄な濡れ場なども全く存在せずとても上品な作品でした。テーマは途中まで全く想像のつかなかった「発酵」です。文章も物語も後半に行くにしたがって熟成していきます。ラストの描写は作者も熟成チーズを作るような気持ちで文章を書いたことが想像できるようです。
本書を貫いている感覚は「負け」の感覚です。主な登場人物は20代後半、人生をドロップアウトしたと思っている人たちです。主要人物の一人、立川のセリフです
「だけど、そんなことで頭に来てる自分ってのも、オレ、嫌なんだよね。だから過去のことをさ、くそみてえな、そういう日々のことを忘れてえなって思って。それでずっとふわふわして、遊び半分みてえに生きてきたんだけれど……あのさ、全然ダメなんすよ。そうやって流れてても、なんも変わんねえの。リアルってのが無いんすよ。生きてるって感じがしねえの。だからいつまでも昔のことが気になるんだ。」
これの答えと思われることを主要人物の一人「ハシさん」60代が主人公の涼介に語ります。
「涼介さん、私は思うんですが……人生の節目という意味では、敗北も勝利もそう変わらないのではないでしょうか。むしろ勝利は、気付きを与えない分だけたちが悪い。あなたは敗北してよかったんだ」
人間は勝ち負けにこだわります。しかし「勝ち」「負け」が明確に定義されてることってほとんどないのではないでしょうか?20代後半というと私もそのような勝ち負け意識にさいなまれたことがありましたが、もうそこは乗り越えてしまいました。人生長いスパンで考えると勝ちも負けも全く意味をなしません。この観点からすると帯で煽りに煽られてるラストシーンは若干がっかり感がありますので★マイナス1つとさせていただきます。あと10年早く読んでいたら得るものがあったと思います。
関連書籍
似たようなテーマだと思います。特に下巻。
次の本を読んでいたので発酵については知識がありました。