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新年1冊目です。
この本、昨年末から読んでいたのですが読み終わるのに1週間もかかりました。本文に独特の癖があって読解が大変でした。文体は私に似ています。私の文章はお世辞にも読みやすいとは言えません。読むのに気力が必要でした。内容はいいんですけどね。以下紹介していきます。
会社マニア
著者の奥村さんは肩書こそ元中央大教授・経済評論家ですが、実際のところは会社マニアと称するのが正確だと思います。特に日本の会社についての資料が膨大で詳しすぎます。本書はバージョンを変えながらどんどん加筆されていって2005年のこの岩波現代文庫版が最新版です。最新版に当たってアメリカや韓国などの会社の書籍も調べまくったそうですやはりマニアです。
何故マニアと即断するかというと普通は次のような執拗な書き方をしないからです。
持株会社指定時における三井財閥の持株関係を見ると、三井鉱山が三井化学、三井農林、三井軽金属の株式を所有し、三井生命が三井本社、三井物産、三井鉱山、三井信託、日本製粉、大正海上火災、東洋レーヨン、東洋高圧、三井軽金属の株式を、三井化学が東洋高圧の株式を、三井物産が三井造船、大正海上火災、三井本船の株式を、三井造船が三井木船の株式を、日本製粉が三井本社、三井物産、三井鉱山の株式を、大正海上火災が三井本社、三井物産、三井鉱山、東洋レーヨン、東洋高圧の株式を、東洋綿花が東洋レーヨンの株式をそれぞれ所有していた。(P29-30)
いや図にしろよこれ!!!三井三井うるさいよ!!でも奥村さんにしてみれば全部書きまくることが大切なのであり、彼の頭の中では把握できているのでしょう。すごいですね。私は無理です。ちなみにこのあと、三菱系列についてほぼ同じような文章がもう一度並びます。目が痛いです。本書ではこのような反復が頻発し、復習になって助かりますがくどいです。たぶん発達障害です。
株式持ち合い?
さてこの「株式持ち合い」が本書のキモとなります。「株式持ち合い」とは法人同士が示し合わせてお互いの会社の株を所有する、日本独特の流儀のことです。例えばA社がB社の株を10%買うから、B社もA社の株を10%買ってくれよ、というようにします。この奇妙な慣習が、実は日本の独特な形式の資本主義や、「会社人間」が生まれる風土を育んだのである、というのが著者の主張です。
なぜ株式持ち合いが日本で発生したのか、その歴史を前半まるまるかけて詳述します。戦前をカットして思いっきり圧縮すると、初めは会社の乗っ取りを防ぐためだったんだけど株価釣り上げとか相手の会社と談合しやすいから便利だね~とズブズブ続けていってしまった、という経緯でした。会社同士でお互いの株を買っていれば、残りの株を買い占めることは難しくなるので乗っ取りができなくなるし、A社がB社の株を買っていればA社がB社の経営に口を出せる、逆にB社もA社の経営に口を出せるので運命共同体のようになり、連帯感が生まれますしお互いの損になる取引もやりにくくなります。
会社がまるで人間のようだ
著者は根本的な疑問を投げかけます。
「そもそも法人が株買うのっておかしいんちゃう?」
事実、アメリカではこのような取引は禁止されています。会社は株主、つまり自然人が株券を買うことによって共同出資して成り立つものです。法人も株を買って他の会社の一部を所有することができるとすると、じゃあその会社は誰のものなのか?社長?取締役?それとも「トヨタ」とか「セブン&アイ」という人間がいるものとしてそいつが所有してるの?それっておかしくない?という話になります。著者はこの議論を次のようにしてばっさり切り捨てます。
A社がB社の株式を所有し、B社がA社の株式を所有するという相互持合いは自社株所有と同じであって資本充実の原則に反する。(P256)
株式の買占めによる乗っ取りを防止すること自体が株式会社の原理を否定するものである。なぜなら株式は売買自由であり、株式を買い占めて会社を乗っ取るのも自由であるというのが株式会社の原理だからである。(P261)
×資本主義 ○会社資本主義
端的に言うと日本は資本主義ではありません。会社資本主義です。会社がまるで人間であるかのように社会の中に存在しており、しかも会社が人間よりも有利な取り扱いを受けています。なぜなら会社は犯罪を犯しても自由刑(禁固とか懲役とか)を科すことができないので東電やチッソのように潰れずに残るし、スカイマークのようにたとえ潰れたとしても債権放棄してオシマイで、実際のところ誰も責任を取らないで済むからです。
日本人は会社に所属することでモチベーションの上がる人が多い奇妙な民族です。この特性のおかげで労働者の多くはサービス残業や低賃金によって会社に奉仕します。私は次の引用を読んで笑ってしまいました。「会社主義」は会社礼賛の立場、「会社資本主義」は著者の立場です。
「日本企業は運命共同体であるがゆえに競争力をもち、それゆえに経済的成功を収め得たのだというのが会社主義だとすれば、ゴーイング・コンサーンとしての企業が自己存続と自己拡大を図るために、経営者や従業員の忠誠を調達するというのが会社本位主義である(『現代日本社会Ⅰ 課題と資格』P207 東大出版)」。(P286)
これで結びとさせていただきます。
本書を紹介してくださったふかくささんありがとうございました。
参考書籍
なんとジュニア新書にも奥村さんの本が。気になる
これもよさげ
J.S.ミルの会社論の古典。いずれ読む
これも古典。
- 作者: T.ヴェブレン,Thorstein Veblen,小原敬士
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 1996/03
- メディア: 単行本
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企業が自己存続と自己拡大を図るために経営者や従業員の忠誠を調達。いい言葉です。このセリフは間宮陽介という人が書いたそうです。
間宮氏の経済思想史。