書籍レビュー: だまされないために『情報操作のトリック その歴史と方法』 著:川上和久

★★★★☆

 

川上和久(1957-)さんは社会心理学者。現在、明治学院大学の教授(出版当時は准教授)だそうです。

序盤で著者の定義する情報操作とは次のようなことです。

「情報操作とは、情報の送り手の側から見れば、個人、もしくは集合的な主体が、何らかの意図を持って、直接、もしくはメディアを介して、対象に対して、意図した方向への態度・行動の変化を促すべく構成されたコミュニケーション行動とその結果の総体である。また、情報の受け手の側から見れば、意図的・非意図的によらず、受け手の態度・行動に影響を及ぼすコミュニケーション行動。およびその結果の総体である」

これはめちゃんこ広い定義ですね。例えば最近流行の恋愛工学なんかまさに個人が個人を意図した方向に導く情報操作の典型ですね。本書はここで定義した通りかなり広い範囲について情報操作を網羅しようとする本です。そのため内容的にはどうしても薄くなってしまいます。終盤の広告についてはこっちの本を読んだほうがマシです。

 

細かなトピックでいくつか感銘を受けたものを紹介します。

人々が自発的に情報を歪めるシステムを作るのが望ましい

国家がある目的を効率的に遂行しようと思ったら、強権を振るうよりも自発的に目的を実行してもらった方がコストがかかりません。そのために必要なのは教育です。一党独裁政治政権では教育の場を家庭から学校に移すと効率が良いそうです。ナチはヒトラーユーゲントのメンバーが行進するときに家族の方を向くことを禁じましたし、中国の幼稚園には次のような歌を歌わせました。

「私の家は幼稚園、先生はお母さん。何でも教えてくれる先生についてお勉強できるのは何て楽しいことでしょう。ほかにはなんにもほしくない」

そういえば反戦小説には必ず「学校では天皇を敬うよう言われたのに親は天皇なんかくそくらえだという。非国民だ、親が恥ずかしい」という子供が出てきます。これも同じパターンですね。本書は記述が少なくメカニズムはかかれていませんが、おそらく、学校で過ごす時間の方が家庭で過ごす時間よりも長い上に、画一的に教育できますし人数の力で同調圧力が働くため効率的ということなのでしょう。

やはり大衆=アホ

ヒトラーが自ら語った情報操作の原則です。

「自由な選択を認めるよりも、対立的考えを一切許さない教旨によるほうが、国民はより強い安心感を抱くことができるであろう」

「大衆に語るべき思想を少数にとどめて、それをうまずたゆまずくり返すことが必要である。大衆は、何百ぺんと繰り返さないと、もっとも簡単な思想でも覚えこまないものである。」

「かくてスローガンは、種々のかたちで示されるべきであるが、しかし結論としては必ず一定の不変な公式に要約して示されなければならない」

小泉が人気のあったわけがよく分かりますね。ワンフレーズポリティクスはいつの時代でも強いです。これに対抗するためには、世界は複雑であること、思想は矛盾対立するものであること、繰り返すことは強力だが危険であることを常に頭の片隅に入れておかねばなりません。

7つの原則

7つの習慣っぽいですがこれはアメリカの宣伝分析研究所の作成した政治原則です。権力が行うとよい原則を調べると次のようになりました。

  1. 攻撃対象の人物・組織・制度などに、憎悪や恐怖の感情に訴えるレッテルを貼る「ネーム・コーリング」
  2. 権力の利益や目的の正当化のための、「華麗なことばによる普遍化」
  3. 権威や威光により、権力の目的や方法を正当化する「転換」
  4. 尊敬・権威を与えられている人物を用いた「証言利用」
  5. 大衆と同じ立場にあることを示して安心や共感を引き出す「平凡化」
  6. 都合のよいことがらを強調し、不都合なことがらを矮小化したり隠したりする「いかさま」
  7. 皆がやったり信じていることを強調し、大衆の同調性向に訴える「バンドワゴン」

 どれも身に覚えがあります。ニュースや他人の言説にこのような傾向があったら警戒しましょう。

 

選挙の争点は取り上げた時点で勝ち

1989年参院選の自民党の歴史的惨敗は消費税・リクルート疑惑・農政問題という材料が社会党の躍進に繋がりました。逆に、1990年の総選挙では消費税を脇に置いたため自民党が逆転して安定多数となりました。

ここからわかることは、「政党にとって有利・不利な点が争点になった時点で選挙が終わっている」ということです。したがって各党は、自らに有利な点を争点とし、不利な点をできるだけ争点からそらします。すべての政治団体について「本当にその争点は重要なのか」ということを常に考えないとだまされます。例えば今(2015年現在)なら、最も取り上げるべき争点は賃金の下方硬直による激しい格差社会と、人口減や地方崩壊につながっている高齢化だと思われます。これ以外の争点を過剰に持ち上げる党や団体のことは疑います。

ヤラセ以前に内容がどうかしてる

本書が出版された1994年はテレビのヤラセが問題になっていたそうですが、ヤラセが行われていた番組名が「激写!中学生女番長!!セックスリンチ全告白」や「追跡!OL・女子大生の性24時」であるということにがっくりしました。今でも、Yahooニュースの芸能欄すなわちトップニュースはそんなんばっかですので今も昔もみんな暇だなあと思いました。

 

操作されるということは、操作する人間にバカと思われていることに他なりません。くやしい。絶対に操作されないぞ!

 


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