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第5巻の舞台は紀元前205年~146年です。第二次ポエニ戦争、第三次ポエニ戦争を経てマケドニア、カルタゴが滅亡し、ローマが地中海の覇者となるまでを辿ります。
戦力の非戦力化
前半の山場はやはり、カルタゴの天才策略家ハンニバルと、ハンニバルを戦略の師匠としたと思われるローマのスキピオの師弟対決でしょう。地中海の覇者となる運命を決定づけた戦いは、北アフリカのザマで行われました。
ザマの戦い – Wikipedia ザマは図の下の方にあります。現在のチュニジアあたりです
3~5巻の「ハンニバル戦記」において、もっとも重要な軍事上のポイントは「敵の主戦力の非戦力化」でした。相手の最も力のある兵力を包囲したり逃げ場を無くしたりその他様々な方法をもって無力化することで、圧倒的な勝利を収める戦いがほとんどでした。ローマ軍がハンニバルにボロ負けした前216年のカンネの戦いでも、ハンニバルは機動力に優れたヌミディア騎兵を操り、ローマ自慢の重装歩兵の四方を包囲することで無力化し、ローマ軍死者6万(兵力は7万なのでほぼ全滅)、カルタゴ兵の死者6千という圧勝に導きました。
ザマの戦いではスキピオがこの方針を取り入れ、隊列をうまく整えてカルタゴの象(戦車代わり)を避けた後に、更に隊列を左右に大きく広げて、後ろから騎兵をもって包囲しました。
結果はカルタゴ軍戦死者2万人、ローマ側1500人。カンネの戦いと正反対です。この戦略のオリジナルはもちろんハンニバル。カンネの戦いの時点ではヌミディア騎兵はカルタゴ側についていたので、彼らを引き抜き事前に騎兵力を強化することのできたスキピオの根回し勝ちともいえます。「主戦力の非戦力化」の効果はすさまじく、この戦法を熟知したローマ軍は他の戦いでも圧勝続きとなります。
私は戦略ものをやったことがないので実感はないのですが、これはあらゆる戦略で非常に重要な概念なのではないでしょうか。
盛者必衰
さてこの巻はハンニバルvsスキピオの他に、もう一つ大きなテーマがあります。「盛者必衰」です。日本の中高生も「平家物語」でこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
カルタゴは紀元前5世紀に興ったと言われています。ローマよりも歴史のある商業大国でした。ローマに何度も負けても、賠償金の支払いなんて余裕でできてしまうくらい金がありました。それがシチリア島をめぐる小競り合いから、滅亡へと進んでいってしまいます。
ローマをズタボロにした第二次ポエニ戦争終結後、カルタゴと結ばれた講和条約では自治は認められるわ賠償金は少ないわ意外にもゆるいものでした。しかしカルタゴは、国内改革を断行するハンニバルに謀反の疑いをかけて追い出したり、ローマの許可なく戦闘してはいけないのに隣国と戦争したり、自らの失策から自滅してしまうのです。第三次ポエニ戦争は首都カルタゴの籠城戦のみで、食料が尽き決壊した首都カルタゴは徹底的に破壊され不毛の地と化します。国破れて山河在り。
ローマの英雄スキピオはマルクス・カトーという粘着質な政治家の手によりスキャンダルをでっち上げられ失脚、隠遁生活を送り数年後死にます。
スキピオの生涯のライバルであるハンニバルも、カルタゴから追放された後はシリアに亡命し、シリアでは対ローマ戦に担ぎ出されるも周りの嫉妬に寄り意見が採用されず結局負け、更に逃亡してクレタ島やらビテュニア王国(今のトルコの一部)に逃げ、そこにもローマの追手が来たので毒を飲んで自殺します。二人とも、偶然にも紀元前183年に亡くなったそうです。
歴史ある国、大ヒーロー2人が相次いで後味の悪い滅び方をしたこの巻ではかなり衝撃を受けました。
憧れの有名人は必ずいつか死にます。アメリカも日本も、人類も地球もいつか滅びる時が来ます。そんなとき私達はどんな感慨を抱くのでしょう。
カルタゴ滅亡時のスキピオ・エミリアヌス(スキピオの長男の養子)の叙述の引用で締めくくりたいと思います。文中のポリビウスというのはエミリアヌスの友人で歴史家(つまり次の記述を残した人)です。
勝者であるにもかかわらず、彼は想いを馳せずにはいられなかった。人間にかぎらず、都市も、国家も、そして帝国も、いずれは滅びることを運命づけられていることに、思いを馳せずにはいられなかったのである。トロイ、アッシリア、ペルシア、そしてつい二十年前のマケドニア王国と、勝者は常に必衰であることを、歴史は人間に示してきたのであった。
(中略)
「ポリビウス、今われわれは、かつては栄華を誇った帝国の滅亡と言う、偉大なる瞬間に立ち会っている。だが、この今、私の胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じ時を迎えるであろうという哀感なのだ」
参考動画
ハンニバル戦記関連の映画を探してみましたが、意外なことにまともな映画がありませんでした。一番よさそうなのはBBCのドキュメンタリーです。貼っておきます。
英語字幕がついていて、やった!勉強になる!と思っていたらこれがトンデモで、
聴き取り「The ancient empire of Carthage ruled the mediterrenean, until Caltage is challenged, and brutally defeated by war, by Rome」
↓
字幕「the ancient empire of Carthage ruled at the moment, it’s raining into caffeine which was challenged and brutally defeated by, world」
と、カルタゴがカフェインになっていたり、何故か雨が降っていたり、カルタゴは戦争でなく世界に滅ぼされていたり、ローマが省略されていたり、もうめちゃめちゃです。使い物になりません。残念。死ぬ気で聴き取るしかなさそうです。