★★★★☆
岩波ジュニア新書2冊目。ジュニアと言えど内容は普通の新書と全く変わりません。著者の一人中務哲郎(なかつかさてつお)さんは、どこかで聞いた名前だと思ったら放送大学(ここも中退しそう)で西洋古典文学の授業でギリシャ篇を担当していた方ですね。先生からはとてもいいお話を聞けました。
放送大学 授業科目案内 ヨーロッパ文学の読み方―古典篇(’14)
いまはradikoという便利なツールがありますので授業は誰でも無料で効くことができます。
こいつを使えばタイマー録音もできます。放送大学は良質な授業が揃っていてとても良い学習アイテムです。
昔話
ギリシャ哲学を学びたいという野望があるので、背景知識として必須と思われるギリシャ神話についてどうしても知っておきたくて読みました。本書はギリシャ神話を愛・罪と罰・生と死などのテーマからとらえるという構成になっていますが、単にぶつ切りにするのではなく導入~神~英雄~人間~各テーマというよく練られた構成となっており非常に読みやすかったです。
ギリシャ神話は我々いうところの「昔話」に相当します。しかし日本の昔話は民話の寄せ集めで、名前の固定した登場人物はいません。紀元後8世紀に古事記が成立してやっと固有名詞付きの昔話が出現します。ギリシャ神話は紀元前9世紀には記録が残ってますから彼らの知恵には恐れ入りますね。
神大杉
ギリシャ神話には膨大な人物が登場します。適当に画像検索すると目の痛くなりそうな系図が見つかりました。
実際にはもっといます。これ全部覚えるのはすぐには無理ですので、少しずつ慣れていくしかなさそうです。
ギリシャ神話の「神」はほとんど人間と変わりません。旧約聖書では神が自分に似せて人間を作りましたがギリシャ神話においては人間の誕生については特に語られません(上の図ではプロメテウスが作ったことになっていますが、本書ではこの説が比較的新しい作り話であると懐疑的です)。どうやらギリシャ人が自分たちに似せて神話を作ったようです。神は恋もするし全知全能じゃないし不死ではありません。上の系図から分かるように唯一神ではなく大量に存在します。違うところと言ったら、有名なゼウスの雷をはじめとしてみな特殊能力が使えることくらいでしょうか。サイヤ人みたいなものと考えればいいかもしれません。それから生殖方法は異常です(後述)。
神増え過ぎ
ギリシャ神話は旧約聖書なんてレベルじゃないほど人や神が死んだり生まれたりします。まず上の系図でいうとカオスが自然発生します。キリスト教徒はえらい違いですね。カオスは我々が思い浮かべるカオス(混沌)とは違い、すべての発生元の大きな穴、むしろ「何もない」というくらいの意味と思われます。
ここからが恐ろしくて、ギリシャ神話の世界では必ず何かから何かが生まれます。即ちカオスからガイアがポンと生まれるわけですがまあこれは穴から出てきたってわけだからまだ分かります。次にガイアからウラノスやらポントスやらが生まれます。ここまでもまだわかりますが、さらにガイアがその子ウラノスと夫婦の営みをしてその右側の大量の訳わからんものが生まれたことになっています。一番下にはドラクエにもいるキュクロプス(サイクロプスとも読む)やFFにもいるヘカトンケイルやらの名前も見えます。
モンスター/サイクロプス – ドラゴンクエスト モンスターパレード 攻略 Wiki
FINAL FANTASY ⅩⅢ | タイトル別カードリスト | ファイナルファンタジー・トレーディングカードゲーム(FF-TCG)
お前ら変なもの産み過ぎ。
また下ネタになってすみませんが、神の生殖能力は滅茶苦茶で、神が岩と交わってできた神すらいます。何だよ岩って!生物ですらない。他にもクロノスがウラノスのチンコを切り落としたらそこから泡が発生して生まれたアフロディテとか、そんな話ばっかりで現代人から見ると引きます。ちなみにアフロディテは美の神ですよ。チンコなのに。
最強の神として各地でシンボル化されているゼウス(私がまず思い出すのはスーパーゼウス)も超絶倫で、あちこちで子供を残します。シカになったり牛になったり、時には雨になるなどという謎の変装をして可愛い女の子を襲うのです。ゼウスが女の子に言いよる話はこの本だけで10回くらい出てきました。現代だったら確実にけしからん話ですがギリシャ神話には日常茶飯事。むしろ私たちの常識が間違っているんじゃないかと思わせられるほどです。神を通した生命賛歌と捉えるのが妥当かもしれません。
触らぬ神に・・・
なお旧約聖書と同様、人間が神に逆らうと大体死にます。ところがギリシャ神話の神は人間的だから余計にたちが悪い。例えば機織りの名手アラクネは女神アテネを機織りで打ち負かしたため嫉妬されて死にます。子供が多いことをレト神に自慢したニオベはレトに嫉妬され14人の子供全員を弓で射殺されます。すっげえ理不尽ですが、いずれも神に対する「傲慢」を突かれて罰を受ける、という共通点があるため、因果応報とみてよいのかもしれません。神に嫉妬されないように気を付けよう。
参考書籍
優れた本ですがやっぱり生の物語にはかなわない。紙面の都合で仕方ないですが物語をもっと引用しまくってほしかった。
というわけで次はこれですかね。石井桃子さんですし外れるわけがない。
さらに補強するならこれか。でも前著で十分な気もする。
これもよさそうなんだけどブルフィンチって人が作ったまとめだから生の物語はどのくらい収録されてるんだろう。。?
- 作者: ブルフィンチ,Thomas Bulfinch,野上弥生子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1978/08/16
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最終目標はこれ。
- 作者: ホメロス,Homeros,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/09/16
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本書のレビュー先で紹介されていました。これも読みたい。
- 作者: ジョーゼフキャンベル,ビルモイヤーズ,飛田茂雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/06/24
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