書籍レビュー: セブン流ここに極まる 『セブン-イレブン 終わりなき革新』 著: 田中陽

★★★★★

私はほぼ毎週セブンイレブンを利用しています。生活に密着する企業の本には興味が出るものです。

セブンイレブンの成長過程とその手段を熱い筆致で綴る

この本は日経の記者がセブンイレブンを長期間取材して書いた熱のこもった一冊です。連載なのか書き下ろしなのか記載がないので分かりませんが、基本的にはセブンイレブンに好意的な立場から書かれています。セブンイレブンに思い入れがあるのかもしれません。

セブンイレブンの成長過程を追いかけることをベースに書かれています。イトーヨーカドーの多角化戦略の一つとして始まり、米国サウスランド社から看板と経営理念をロイヤルティを支払うことで獲得し、ヨーカドーとサウスランドを親として生まれたセブンイレブンですが、サウスランド社が経営危機に陥った際はこれを助け、紆余曲折ののちにサウスランド社を逆に買い取ってしまうまでのストーリーは読んでいてワクワクするものです。セブン&アイホールディングスとなった今でも、セブンイレブンの収益性はグループ内で飛び抜けて高いです。

ただの提灯記事ではない

見た目セブンイレブンの暗部には触れていませんが、所々気になる記述はあります。例えばNDF(日本デリカフーズ協同組合)はセブンイレブンが1円も金を出さない非営利組織の商品開発チームです。90社もの食品メーカーが集まり、セブンイレブンのための商品開発を日々議論を戦わせながら行う部隊です。敵同士である企業同士が一堂に会するのは異様なことです。しかも、ここで開発された商品はメーカー出資のセブンイレブン用の専用工場で作成されることになります。どう見てもメーカー側に不利な条件です。本のだけ見るとこの組織を称賛しているように見えますがしれっと1行タネが書いてありました。

ただ、セブンイレブンのPOSデータによって、販売情報が毎日手に取るように確認できることは、消費者の嗜好を知る上で極めて重要であった。

要はPOSデータ(競合他社と違い食品メーカー相手なら漏れても痛くない)とセブンイレブンという市場を餌にして企業同士を無償で戦わせるという、セブンイレブンにとって美味過ぎる仕組みなのですね。このような客観的に見てずるい手法が他にもいくつも公開されています。わざととしか思えません。

鈴木氏に依存し過ぎ

また、現会長の鈴木敏文氏(82)を頂点としたピラミッド型の組織形態や、彼の一言で業務が変わる記述が何カ所も出現すること、また彼の思想が末端まで行き渡るように最大限の工夫がされた火曜の集会とOFS(店を回って店主に本部の意向をアドバイスする人たち)システムの仕組みを読むにつけ、鈴木氏への過度の依存が見て取れます。彼が引退したらセブンイレブンは潰れるかもしれないと思うほどです。これも意識して書いていると思われます。

カリスマ経営者の力で大成長する巨大企業は他にもファーストリテイリング、ソフトバンクなど新興の企業に多く見られます。少し前だとアップルやマイクロソフトもそうでした。ワンマンであることは急成長の必須条件なのかもしれませんね。

日々の改善をやめないことが利益を生む:具体的な商品開発ストーリーは秀逸

この本から学べる最も大きなことは、他の本でもしょっちゅう登場する「仮説を立て実行し検証することを繰り返す」ことの重要性です。チャーハン、赤飯おにぎりなどの商品開発、商品陳列コンテナの改良と開発などの具体的な商品開発ストーリーは読んでいて飽きません。どれも1日としてならず、試行錯誤の末に開発された商品や設備であることが分かります。セブンイレブンだけでなく、様々な企業の工夫を店から読み取れるようになったら面白いでしょうね。

この本では流通システムの記述が一番多いですね。商品を納入する運送トラックは創業時1店当たり1日70台も到着していたそうです。これでは店に人が 入れませんし、伝票が多すぎて店主は事務作業に追われるだけで1日が終わります。現在は、なんと1日9台まで減っているそうです!もちろんすぐに減ったわけではなく、共同配送センターを作ったり、常温品をひとまとめにして運ぶようにしたり…などの日々の改善から生まれた手法です。

買いか

買いですね。持ち上げ過ぎなのは筆者の立場上仕方ないでしょう。そこを差し引いて具体的なストーリーを糧にすることを薦めます。日経ビジネス人文庫は当たりばかりですね!

 


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