広告についての大学用教科書という感じでややお堅く、表現にパンチが無いが内容は極めて面白い。広告というのは経済活動の最も末端に位置する生産者と消費者を結ぶ橋渡しの役目だけではない。情報発信こそが広告の役目であり、それは企業からだけではなく、政府から、個人からも行われる。目的も様々で、すぐに商品を買ってもらうものから、ブランドイメージのぼんやりとした構築、意見広告や専門家を対象にした広告まである。
マズローの欲求五段階説と広告訴求を対応させた記事が面白い。
・生理的欲求:商品の使用シーンに関係のあるシズル感
・安全の欲求:製品の安全性、保険商品の危険訴求、企業への信頼感
・所属と愛の欲求:スポーツチームの関連商品、ユーザークラブの設立
・自尊欲求:トップアスリート、成功者、一流と言ったユーザーイメージ
・自己実現の欲求:仕事、スポーツ、教育、文化などを通じた達成感
これは学者らしく、表現が控えめで甘いと思う。私ならこう思う。
・生理的欲求:肉汁など食欲をそそる表現、性的欲求をそそる雑誌のタイトル
・安全の欲求:中国の脅威を煽ったり、日本の行く末を極端に悲観して売らせる本や票を入れさせる政策
・所属と愛の欲求:出会い系サイトの広告、企業LOVEを前面に押し出すトップページ
・自尊欲求:身長が伸びる!など身体的コンプレックスを狙った商品、成功者はここが違う!など自分を成功者と同一視させる目的の商品
・自己実現の欲求:自己啓発セミナー、宗教の勧誘ポスター・冊子、芸術系大学・専門学校のパンフレット
ブランドイメージについて。マクドナルドの例が大きく取り上げられている。I’m lovin’ it をフレーズにしてにグローバル展開し、成功を収めていった過程が記録されている。しかし、フレーズと言うのは難しい。今マクドナルドは不振のズンドコに居る。消費者の健康志向が高まるにつけ、油まみれのハンバーガーやポテトにI’m lovin’ it と言われてもお前馬鹿じゃねえの?としか思えず、空疎である。ブランドイメージは高いうちはプラスがプラスを生む金の樹であるが、一度不祥事が起きればマイナスイメージを増大させるブースターに変わってしまう。
例えば週刊新潮にしてやられたライザップ。
株価もこの通り。
健康コーポレーションはライザップの広告のおかげで大成長した。あちこちでネタにされ、反響も高い。私は次のAAが好きだ。
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彡ハヽヽミ ( ´・ω・`) ブゥーチッブゥーチッ♪
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しかし一度「ライザップは危ない」と思われたらブランドはアウトなのである。回復には時間がかかる。その間に企業がつぶれてしまうこともある。ネガティブな表現もその情報伝達能力から広告の一種と言える。企業が好きで出してるものじゃないから狭義の広告ではないが。
買いか
買い。私は200円で買えたがこんな値段で置いてあることが信じられない。フルプライスは2000円でも十分のボリューム。広告について広く学びたければスタートの1冊として面白い。インターネット広告の隆盛と既存メディアの減速が既に予告されており、まだ古臭さはない。