日本経済新聞社 – 検証バブル―犯意なき過ち

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日経がまとめたバブル通史。私はバブルが発生している真っただ中においてはほんの子供であったため、何が起こっているかは全く知らなかった。

そういえば80年代の終わりか90年代初めに、祖父が家族に株を買うことを頻りに勧めてきた記憶がある。もちろん当時は小学生くらいだったので株ってなんじゃ?と思っていた。もう一方の祖父に反対されて買わなかったらしいけれど。当時の祖父は羽振りが良かった。そして、しばらくすると祖父はおかしくなり、いつ遊びに行っても寝ているか酒を飲んでいるか怒鳴るかしていた。祖父は新世紀を迎えることなく癌で早死にした。私がバブルについて知っていたことはその1点だけである。

正にその時代、日本経済は空前のバブルに沸いていた。土地の値段が天井知らずで上がり続け、その土地を担保に企業はレバレッジ経営をしたり、さらに不動産に投資して利益を上げていた。要因となったのは円高不況脱出のための利下げと金融緩和による投資意欲の過熱、土地が値上がりし続けるだろうという人々の信仰、政府の認識能力の欠如による対応の遅れ、一番大きな原因は、日本人の横並び意識という国民性だった。最後の原因は文章中に明示的に書いてあるわけではないが、私はそう感じた。

誰もかれもが土地が値上がりするという誘惑に取りつかれたため、みな土地に投資する。ある銀行が土地を担保にして過剰に融資を始めた。その土地がのちに値下がりするとも知らず。そして、ここが驚くべきところだが、明らかにおかしな状況なのに、他行に負けまいとどの銀行も他に倣って融資を始めてしまうのだ。

土地も株式も以上に加熱し、平均PERは80-200倍まで膨らんだそうだ。今そんな事態になったら私は怖くて全額引き揚げる。やばすぎる。東京圏の土地は最大4倍ほどまで値上がりし、バブル崩壊後1/4になった。

企業も個人も財テクと言って投資に走った。「今買えば絶対儲かるから」小金持ちほどそんなフレーズに欲望を刺激されて財産を破裂させる羽目になる。

祖父はある特例市の中心駅から歩いて10分程度というそれなりの土地に家を持っていた。おそらく、この土地を担保にして株を買ったらどうかと、証券会社や悪い友達に唆されたに違いない。バブル崩壊とともに、株が大幅に値下がりして夢破れ、飲んだくれになったのだろう。しかし家を売り払ったわけではなく暮らし向きが貧乏になったようにも見受けられなかったので、失うものはあったが致命的ではなかったのだろう。飲んだくれるほどのことじゃないじゃん、って今では思う。70代くらいだったろうから、一世一代の博打に敗れた気持ちにでもなったんだろうか。もはや知る由はない。

この本からは大事なことをいくつか学んだ。

・金は経済の血液である。金が回らなければ経済は死ぬ。公的資金注入=輸血である。

・銀行をつぶすのは簡単だ。預金者が預金を引き出すだけでよい。

・人間は過ちを認めたがらない。当事者はみんな仕方がなかったんだという。

・バブルが止められなかったのと太平洋戦争から引き返せなかった構図は同じである。

本のタイトルに反して、バブルには次のような犯意があると言いたいように感じた。「俺は儲けたい」「俺は大丈夫」「やばいけど誰かが何とかする」「俺に責任はない」

 


森生明 – MBAバリュエーション

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バリュエーションの入門書。この本の要点は次の式に集約される。

 

PV=C/(r-g)

 

PV→現在企業価値(Present Value)

C→キャッシュフロー(Cache flow)

r→キャッシュフローの安定性・リスク(risk)

g→キャッシュフローの成長性(growth)

 

大部分の記述がこの式を基礎として成り立っている。1冊かけてこの式の重要性を説いていると言っていいと思う。キャッシュフローを基にして考えている点が特徴的だ。

なお、(r-g)はほぼPERと等しい。つまりPERの高い企業は、PVを高く評価されている。すなわち企業の生み出すキャッシュを超える価値を市場に認められているということになる。

後半のM&Aを使った実例も面白い。M&Aの世界では、一つの目安として5年後の企業価値を算出し、買収価格を決定している。現在の企業価値は、5年後の価値をおり機関投資家の目で見ると、株価は5年後の企業価値を反映しているとみなし、そこからマイナスに乖離していれば買うしプラスに乖離していれば売る、ということになる。

おそらく入門中の入門の本なのだろう。C, r, gの求め方は若干記述があるものの具体性に欠ける。骨子は十二分に掴めるがもっと勉強が必要なことはよくわかった。次なるステップには次の本が必要だろう。。

 

企業価値評価 第5版 【上】

企業価値評価 第5版 【上】

  • 作者: マッキンゼー・アンド・カンパニー,ティム・コラー,マーク・フーカート,デイビッド・ウエッセルズ,本田桂子,柴山和久,中村正樹,三島大輔,坂本教晃,坂本貴則,桑原祐
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2012/08/31
  • メディア: 単行本
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私のような新参者にとっては非常に優れた本だが、著者の意見やコラムの分量が多く、体系的な内容が充実しているわけではない。フルプライス¥2,592を払うにはちょっと高い。


望月 実, 花房 幸範 – 有価証券報告書を使った 決算書速読術


★★★☆☆
有価証券報告書とは何かも知らない頃に買った本で、読みやすく2時間くらいで一気に読めてしまった。読みやすいということは内容が薄いこととリンクしやすく、本書も例外ではなかった。決算書を貼り付けたページが多いことと、財務以外の解説を行う前半部分は特に内容に乏しくあまり読む価値がなかった。
後半の財務分析実例は2のブルドックソース(TOB)、5の伊勢丹・三越(合併)のトピックが面白かった。ハゲタカを読みたくなった。伊勢丹・三越の分析は実際に足を使ったリサーチがされており興味深い。ただし1の吉本興業、3のミクシィについては決算書を読み始めて3か月程度の私でもできそうな分析だったのでがっかりした。しかし会計士が決算書を見るにあたって、最も重視しているのは営業利益率のようだ、ということが分かったのは大きい。
出鱈目が書いてあるわけではなく著者の意気込みが感じられるものの、軽い読み物や入門書としてならよいが本格的に勉強しようと思っている人間にとっては不満の残る内容だ。気になる会社の有価証券報告書をいくつも読んだ方がためになる。フルプライスの1620円は割高、私が買った値段200円なら妥当と思われる。


ジョージ・ソロス – ソロスは警告する(2008)


★★★★★
ジョージ・ソロスという人間に興味があったので読んだ。2008年前半、すでにサブプライムローン危機が表面化しリーマンショックに至る直前の著作で、彼は構造的で長い不況に至るであろう原理を自身の「再帰性」を論拠に粘り強く説明する。再帰性理論は人間の可謬性を基礎としている。人間は真理に到達することは不可能で、必ず不完全な知識に基づいて行動する、という信念のことだ。これは実感として非常に納得のいくものであり、感動した。さらに認知機能と操作機能の区別についても、半年ほど前に読んだ三木清氏がしきりに「人間は環境に働きかける生物である」「人間は世界を変革する生物である」と述べており、彼と全く同じ事を言っているので腑に落ちた。金融市場は彼の理論が展開されるのにもってこいだ。金融商品の価格を決めるのはまさに私たちなのだから、操作機能が即時に市場に反映される。価格を解析するための認知機能も複雑に発展している。認知機能と操作機能が相互作用し、極端な正のフィードバック(バブル)や負のフィードバック(恐慌)が起こる、という主張を核に据えた直感的にも極めて確からしい明快な書であった。彼の著作は全部読むべきだと感じた。また金持ちになりたければ経済と歴史と哲学の勉強が必要であることも痛感した。ああ十数年棒に振ってたよな。まだ間に合うかな。


財務諸表入門(第五版)


★★★★☆
ブックオフで100円で購入した。簡潔かつ丁寧にまとまっていて、入門書としてはよく出来ている。細かい解説は不足しているので更なる詳解が必要なのは仕方ないが、はじめの1冊としてはよくできている。
最後に日本オラクルの平成18年5月決算短信が読解例として紹介されている。一目見て、雲の上の素晴らしすぎる決算だと思った。まずは驚愕の営業利益率35%!日本の会社の営業利益率平均は3%程度であることを考えると、とてつもない儲けだ。自己資本比率は71%、短期借入金長期借入金0円、今期も来期も売上・利益共に2ケタ成長、配当性向は圧巻の100.3%(前期は104.9%)!神様のような会社だ。何がこの会社を転覆できるのだろう。本文にも「財務面から採点すると100点満点」と書いてあった。さらに資産の部に有価証券が多いことが指摘されており、儲けを運用してさらに稼いでいることが予想される。さらにROE24%、ROA17%とこちらも優秀すぎる数字だ。
ところが、チャートを見るとこの後株価は下がる。
http://rokujo.esy.es/StockHoloscope/chart.php?mcode=4716&start=20060101&end=20061231
決算発表日は2006年7月6日。この日の終値は5250円で、このあと突然4000円台の底に突入する。こんな順調な会社がなぜ!?
計算したところ2006年7月6日終値の実績PERは35.1倍、来期予想で31.8倍。すでに買われすぎだったのだろう。10%以上の成長率をコンスタントに叩きだす企業でさえ、PER30倍を超えたら株価的には美味しくないことが分かる。ここまでくると20%以上の成長率を期待されるのだろう。そんな大きな数字が何年も続くわけがない。この例で分かったことは、PER30倍を超えるような銘柄は、その企業が一発当てて20%以上の成長を遂げることが確実な場合以外は買ってはならないということ。以前トレダビで持っていたセブン銀行は、成長率がここと同じ約10%の企業かつ現在のPER30倍なので、ほぼ同じ状況の危険水位にあることがわかる。ATMの数は頭打ちになってきたので、赤字になることはないものの成長率が5%程度に減速すれば大幅下落もありうる。もう売ってしまった。下がるのがいつの日になるのか予想するのも勉強になりそうだ。


証券アナリストのための企業分析 第三版


★★★★☆
通勤中に読了。コンパクトにまとまった良書だった。いやアナリストってすごいですね!投資判断とは、理論的に求められる株価からの乖離によって買い・売りの判断をすること。彼らはEPSを求めるために未来の成長率をはじめとする財務諸表を数年分(!)予測し、1社ごとに複雑なモデル式を組み立てているらしい。このセグメントのこの要素に不安が生じる情報があったらここの数字が何%減るから補正した値はこうなる、ってところまで決めるらしい。それができれば理論的な株価が求まるので、割安・割高がわかる。自分もこのような分析ができるようになってみたいものです。内容自体はまだ入門書、さわりしか紹介されておらず、体系的ではあるが内容は薄め。全体像をざっと掴むには最適の本だった。新宿のブックオフの100円コーナーでざっと見て直感ですぐ選んだ本だけれど、勘が当たって嬉しい。