CDレビュー: Great Pianists of the 20th Century Vol.9 – Daniel Barenboim (CD2)

★★★★★

 

2枚目はピアノソロがリストで4曲、これはオマケ扱いでメインはブラームスのピアノ協奏曲1番です。

堅焼きせんべい

先頭3曲はリスト「巡礼の年 第2年:イタリア」から4~6曲目のペトラルカシリーズの抜粋です。リストにしては珍しく静かめ(5曲目の中盤除く)で、彼の甘ったるいロマンチックな曲調を堪能することができます。

次はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から「イゾルデの愛の死」をリストがピアノアレンジしたものです。何つー大げさなタイトル、と思いますがタイトルに違わぬ美しさでメロディーラインは完璧。いや憎いっすね。リストがアレンジしただけあってクライマックスは低音バリバリの超ド派手編曲です。おすすめ。

ここまでは実はオマケで、CDの2/3を占めるのがブラームスのピアノ協奏曲1番でした。ブラームスの曲はいくつか聞いてますがこの曲も他と同じくクソ真面目でお前は忠君な武士かっつーの、ってくらい堅い。でも超かっちょいいです。第1楽章の2/3くらい進んだところで現れるオケ3連符連発ゾーンなんか十字軍の大量の槍に突き殺されそうなイメージがします死ぬ。この前後でピアノがトリルに入り損ねてぶっ飛んじゃってますがこれはこれで熱が入り過ぎている感じが出ていてよいです。

第3楽章も堅すぎて死ぬ。ベートーヴェンとはまた違った方向のダサカッコよさです。美しいんですがどことなく角が出て筋張っている。これは何だろう?堅揚げポテト?堅焼きせんべい?ブラームスは「武骨萌え」という新たなジャンルを私にもたらしました。やっぱり武士とか中世の騎士とかのイメージですね。例えるなら王宮戦士ライアンです。ドラクエ4です。すばらしい

 

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動画あがってました。千手観音突きな三連符ゾーンはyoutubeに飛ぶと見られる続きの2本目の動画の6分ちょいくらいのところです。

 

 

 

クラシックの他のCDレビューはこちらです。


CDレビュー: Great Pianists of the 20th Century Vol.9 – Daniel Barenboim (CD1)

★★★★☆

 

ダニエル・バレンボイム(1942-)はアルゼンチン出身のユダヤ人ピアニストです。またユダヤ人!金持ちと音楽家はみんなユダヤ人ですね。

20世紀代表のピアニストですが70歳を超えた今でも新譜が出続けています。

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番

  • アーティスト: ドゥダメル(グスターヴォ)バレンボイム(ダニエル),ブラームス,ドゥダメル(グスターヴォ),バレンボイム(ダニエル),ベルリン(シュターツカペレ)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2015/08/19
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

2014年録音。72歳で長丁場のブラームスのピアノ協奏曲を弾いてる。。体力あり過ぎ

 

彼は指揮者としても有名で大量のCDを出しています。またイスラエルに国籍を移し在住していますが、ガザに侵攻しまくる政府には批判的な立場を取る知識人でもあります。そういえば以前朝日新聞にイスラエルを批判するインタビューが出てました。

上手だが無難な印象

本CDは1967年の録音ですので25歳のときの演奏ですね。1枚目はモーツァルトのピアノ協奏曲25番とベートーヴェンのピアノ協奏曲1番です。

モーツァルトの方は非常に軽快にキラキラキラリンコと弾いていて華麗なのですが華麗で終わってしまうような感じで、儚いですが胸には迫りませんでした。もちろん大半は曲調のせいです。それにしても25曲目って作り過ぎですよね。協奏曲なんて1曲作曲したら精根尽き果てそうなもんですが。全部で27曲もあるそうですよ。

ベートーヴェンの1番は1794年作、ピアノソナタ1番と同じ時期くらいで交響曲1番よりも先に作られているだけあって、まだ彼の革新性がそれほど出ておらずモーツァルトの曲に似ています。といっても第3楽章のテーマは後のダサカッコ路線の萌芽が見られ、ラストはやりすぎなくらいの盛り上げで度肝を抜かれます。2枚目にも期待します。

 

youtubeに同じ録音がありました。ベートーヴェンのピアノ協奏曲1番第3楽章です。

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Tracklist:

Wolfgang Amadeus Mozart
1. Piano Concerto No. 25 In C, KV 503: 1. Allegro maestoso
2. Piano Concerto No. 25 In C, KV 503: 2. Andante
3. Piano Concerto No. 25 In C, KV 503: 3. Allegretto

Ludwig van Beethoven
4. Piano Concerto No. 1 In C, Op. 15: 1. Allegro cno brio
5. Piano Concerto No. 1 In C, Op. 15: 2. Largo
6. Piano Concerto No. 1 In C, Op. 15: 3. Rondo. Allegro scherzando

 


CDレビュー: Oliver Messiaen Complete Edition – Petites Esquisses d’oiseaux, Etudes de rythme, etc(CD2)

★★★★☆

 

鳥先生メシアンのボックスセット2枚目です。本CDは小~中規模のピアノ曲が収録されています。

鳥鳥鳥

2枚目も鳥がよく登場します。先頭のPetites Esquisses d’oiseaux「鳥の小スケッチ」はその名の通りrouge-gorge(ヨーロッパコマドリ)やmerle noir(クロウタドリ)などなどの鳥の声だけで構成される曲を6つ集めたものです。しかし6曲中rouge-gorgeが3曲も入ってますのでメシアン先生はよほどコマドリが好きだったと見えます。

鳥と馬鹿にするべからず、演奏者には相当体力が要求されるようです。時には爆音時には静謐、演奏者の荒い息遣いまで聞こえるという地味に燃える曲です。

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楽譜付きの素晴らしい動画がありました。リストのような殺人的な楽譜ではありませんがやはりすんげぇ変です。一体どのような感性が必要とされるのでしょうか。

 

もう一曲好きな曲があります。Rondeau(ロンド)という2分ちょいの小品です。練習曲めいていますが、所々ピチョーンとか鳥の鳴き声っぽいものが挿入され、軽く狂気を帯びた魅力的な子供のようなとても変な曲です。

Messiaen: Rondeau

Messiaen: Rondeau

 

練習曲っぽいという予想は当たり、youtubeには子供の演奏がいくつかアップロードされています。上のRoger Muraroさんの演奏(当BOX収録分です)と比べるとやはり情緒に欠けてしまいますが、12歳でこれ弾けるのはオソロシイですね。一体どんな練習を積んでいるのか、ピアノの世界はこわい。

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Tracklist:

Petites esquisses d’oiseaux
1 I. Le rouge-gorge [2:12]
2 II. Le merle noir [2:15]
3 III. Le rouge-gorge [2:18]
4 IV. La grive musicienne [2:08]
5 V. Le rouge-gorge [2:31]
6 VI. L’alouette des champs [2:14]
Etudes de rythme
7 I. Ile de feu 1 [2:00]
8 II. Mode de valeurs et d’intensités [3:28]
9 III. Neumes rythmiques [7:02]
10 IV. Ile de feu 2 [4:25]
11 Cantéyodjaya [13:05]
12 Rondeau [2:25]
13 Fantaisie burlesque [7:27]
14 Prelude pour piano [2:50]
15 Piece pour le tombeau de paul dukas [3:31]

 

 

 

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CDレビュー: Ludwig van Beethoven, Emil Gilels(pf) – Piano Sonatas, No.21, 26, 23(DG111 CD20)

★★★★★

 

111 Years of Deutsche Grammophon、ようやく20枚目です。DG111シリーズのピアノ作品は並行して聴いているGreat Pianistsシリーズとかぶることが多いのですがこのCDは運よく重複していなかったので、聴きました。

エミール・ギレリス(1916-1985)はソビエト・ロシアのピアニストです。例によってユダヤ人です。音楽家ってなんでユダヤ人ばっかりなんでしょうね。金持ちだからレッスンや教育に金をかけられるからなのかな。ジャケットを見ると72~75年の録音なので50代、そこそこ高齢の演奏ですね。本CDではベートーヴェンのピアノソナタ21番「ワルトシュタイン」26番「告別」23番「熱情」が収録されています。中期傑作選といったところでしょうか。

両手剣でぶった切るベートーヴェン

しょっぱなのワルトシュタイン第一楽章が硬い硬い。音切りまくりであっさり塩味か?と思っていたら油っ気がないだけでスピアーで突くような正確で力強い演奏でした。とても変わった音を持つ人ですね。ワルトシュタインは第三楽章が神展開なのですが見せ場でも音を切る切る。すっげぇ変わった弾き方。好みが分かれるところだと思います。私は慣れないので何とも評価できませんでしたがここまで極端だといやな感じはしませんね。

告別第一楽章も見せ場の和音を剣でも振り回すように切りまくりです。腹にはもたれないけれどコショウのように非常に刺激的な音です。第三楽章のフォルテッシモのあとのキラキラパートですら金属的で硬質です。

熱情は上記2曲よりも力が入っていて第一楽章は超爆音展開を見せ、第三楽章は今まで聴いた他のピアニストの演奏と比べるとテンポを落としていてかつ静かな狂気っぽいものを帯びるコワい演奏です。この曲だけ何故か硬質性が全くありません。ラストの16分ユニゾンパートは誰の演奏を聴いても素晴らしいですね。

 

amazonレビューは総じてベタ褒めですが私はとてもクセのある奏者であると感じました。嫌いな部類ではないのとベートーヴェンが好きなので評価は高めですが、Great Pianistsシリーズ(3組6枚もある)の彼の収録曲は一体どんな音を聴かせてくれるのか楽しみです。

しかしピアノ曲って言うのは創意工夫が難しそうな楽器のはずなのにピアニストによってなんでこんなに印象が変わるんでしょうね。不思議でなりません。

 

 

 

日本版は同じジャケなのに収録曲が違います。どうも悲愴・月光・熱情のいわゆる三大ソナタを1軍、それ以外を2軍と分けて2軍だけでCDを出したようです。これはいただけない。作曲時期で分けるべきです。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」、第21番「ワルトシュタイン」、第26番「告別」

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」、第21番「ワルトシュタイン」、第26番「告別」

  • アーティスト: ギレリス(エミール),ベートーヴェン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2012/05/09
  • メディア: CD
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CDレビュー: Claudio Monteverdi, John Eliot Gardiner(cond.) – Vespro della Beata Vergine (DG111 CD18, 19)

★★★★★─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ

 

クラウディオ・モンテベルディ(1567-1643)はイタリアの作曲家です。2枚組100分ちょいの長大なこの楽曲の邦題は『聖母マリアの夕べの祈り』。いつまで祈るんだ!

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/Portrait_of_an_Actor%2C_copy_after_Fetti%2C_detail_-_Robbins-Landon_1991_p60.jpg/220px-Portrait_of_an_Actor%2C_copy_after_Fetti%2C_detail_-_Robbins-Landon_1991_p60.jpg

クラウディオ・モンテヴェルディ – Wikipedia

いい感じのじーさんですね。

単純なのに爽快

この曲が作曲されたのは1610年。有名な作曲家の中では古株のモーツァルトが生まれるより146年も前です。ですので曲はとても古風、というか単純です。1曲目なんて同じ和音でずっと押しまくるだけです。アーメンでシメるお馴染みのラストも多発します。

ところが2枚組であるにもかかわらず、このCD、全く飽きません。それどころか演奏から感じられる異様な熱気と、独特の音響(教会内で演奏しているらしいです)により演奏中ずっと興奮しっぱなしになりました。昔の曲は単調で飽きるというイメージがあったのですが完全に裏切られました。このCDすごい。私は人間の持つ迫力が直接ぶつかってくる声そのものが大好きなのかもしれませんね。

 

動画ありました!2014年、ヴェルサイユ宮殿・王家礼拝堂(すごい名前)での収録です。ということはこのCDとはバージョン違いですが、やべーマジで大聖堂だよ、、


Monteverdi – Vespers, "Vespro della Beata Vergine …

本CDでは中央に穴が空いているかのような音場効果を感じることができたのですがこの動画を見て納得しました。教会って上部が巨大な空洞になってるんですね。壁画がきれいすぎます。ヨーロッパの人々の宗教心には本当に恐れ入ります。奏者真ん中の大きな素敵楽器はリュートというそうですよ。CDだと見えない独唱の人の表情が濃すぎてちょっと引きます。

なぜ魅力的?

私はこんな古い曲にどうして惹かれてしまったのでしょう?疑問が尽きません。人間の声の力?教会のパワー?実は祖先がイタリア人だった?最近仕事中にヘビーローテーションしているバッハのカンタータのせい?

音楽が人間の感情を喚起するためには音というただの空気の振動を脳が分析して一定のパターンを解釈して意味づけをすることでしか得られないと考えます。したがってより感情を動かすのは「慣れている」曲であるパターンが多いはずです。現代音楽みたいな訳わかめの曲を聴いたとしても「わかんねえよバカ」とか「眠い」と感じてオシマイになりがちです。ですが、本CDのような曲を聞くのはほぼ初めてで馴染みはありません。一聴して気に入る曲ってなんでしょう?一目惚れみたいなもの?一聴き惚れ?色々要素はあると思いますが引き続き考え続けていきたいと思います。

 

 

 

Vespro Della Beata Vergine [DVD] [Import]

Vespro Della Beata Vergine [DVD] [Import]

 

こっちが本CDに対応する映像のようです。イタリアはヴェネチア、サン・マルコ教会での収録。

 

 

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CDレビュー: Oliver Messiaen Complete Edition – Preludes, La Fauvette des jardins(CD1)

★★★★★

 

現代音楽のボックス・セット。次はオリヴィエ・メシアン(1908-1992)の全集を1枚ずつ聴いていきます。全32枚。今のペースだと1年半かかる予定です。

 

Olivier Messiaen 1930.jpg

オリヴィエ・メシアン – Wikipedia

21歳のときの写真です。見事な頭頂部ですね。もとい、彼は20世紀ヨーロッパを代表する現代音楽の作曲家で、神学と鳥類学にも博識、さらに音を聴くと色彩や模様を連想する共感覚の持ち主という4Hitコンボな作曲家さんです。

以前に聴いたDecca Soundというボックスの中に彼の「トゥーランガリラ交響曲」という曲が収録されていて、テルミンを使った非常に変わった曲でとても印象が強く、気になっていた音楽家の一人でした。

The Decca Sound

The Decca Sound

 

 

鳥曲

1枚目は初期のピアノ曲「8つのプレリュード」と後期の「庭のほおじろ」の2本立て。プレリュードはやや印象薄いですが「庭のほおじろ」は彼の最も得意とする鳥曲です。というのも、彼は鳥類学者として鳥の声を大量に譜面に起こすというわけの分からない偉業を成し遂げた作曲家なのです。他の現代音楽作家もおそらく誰一人として真似できない、超オリジナルな作風です。試しに聞いてみてください。30分以上あるので注意!


Messiaen: La Fauvette des Jardis – YouTube

↑の演奏は本CDとは違う人の演奏です。本CDの演奏はRoger Muraroさんによる息継ぎの音が聞こえるほどの超熱演でした。なお、本ボックスには7枚のピアノ曲のCDがありますがうち5枚は鳥曲がメインです。ホント鳥大好きなんですね。次のCDも楽しみ。

 

 

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CDレビュー: Great Pianists of the 20th Century Vol.8 – Wilhelm Backhaus(CD2)

★★★★★

2枚目はベートーヴェンのピアノソナタ25番とシューベルト・シューマン・リスト・ショパン・ブラームスからちょっとした曲を弾いた後に、メインのブラームスピアノ協奏曲2番という構成でした。1枚目もそうでしたがしょっちゅう拍手が入ります。ライブ版のようです。

ブラームスのピアノ協奏曲2番が見事

ベートーベン25番は小粒で演奏は面白いけれどあっさり終わってしまいます。他の小曲はリストの「ウィーンの夜会(シューベルトの「ワルツ・カプリス」)」という曲がダイナミックで楽しいですね。

真打はブラームスのピアノ協奏曲2番。クソ真面目という形容がぴったりです。この曲に限らず、ブラームスはベートーヴェンとも違う波動を帯びた気持ちいいダサさを感じさせる私好みの作曲家です。1952年録音、もちろんモノラルという技術上のハンデがあるにもかかわらず力強い演奏を聞かせてくれます。

この曲の萌えポイントは第一楽章の2回現れるダサカッチョいいソロゾーンでしょう。当CDと全く同じ音源の動画を見つけました。6:50~と13:48~です。


ブラームス ピアノ協奏曲第2番第1楽章 Brahms Piano Concerto No.2 – 1 …

 

何回聴いてもここが大好きです。ブラームスモエモエ

(Tracklist)

Ludwig van Beethoven:

1. Piano Sonata In G, Op.79: 1. Presto alla tedesca
2. Piano Sonata In G, Op.79: 2. Andante
3. Piano Sonata In G, Op.79: 3. Vivace

Franz Schubert:
4. Impromptu In E Flat, D.899 No.2: Allegro molto moderato

Robert Schumann:
5. Fantasiestucke, Op.12: No. 3: Warum?

Franz Liszt:
6. Soirees de Vienne: Valse-Caprice No.6, S.427 (After Schubert)

Frederic Chopin:
7. Etude In F Minor, Op.25 No.2

Johannes Brahms:
8. Klavierstucke, Op.119: No.3: Intermezzo In C
9. Piano Concerto No. 2 In B Flat, Op.83: 1. Allegro non troppo
10. Piano Concerto No. 2 In B Flat, Op.83: 2. Allegro appassionato
11. Piano Concerto No. 2 In B Flat, Op.83: 3. Andante – Piu adagio
12. Piano Concerto No. 2 In B Flat, Op.83: 4. Allegretto grazioso – Un poco piu presto

 

 

 

 

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CDレビュー: Great Pianists of the 20th Century Vol.8 – Wilhelm Backhaus(CD1)

★★★★★(*´ω`*)

ヴィルヘルム・バックハウス(1884-1969)は、ドイツ出身のピアニストです。

なんとベートーベン→ツェルニー→リストの直系、師匠はオイゲン・ダルベールというリストの弟子ということでこりゃ音楽的に純血のピアニストと言えますね。そんな彼が一番有名なのは無論、ベートーヴェンのピアノソナタの録音です。

天才ピアニストが一生を賭けて目指した境地

1枚目はベートーヴェンのピアノソナタから4点、第8番「悲愴」、第17番「テンペスト」、第26番「告別」、そして第32番。どれも有名なものばかりです。

第8番はのっけから彼の非常に特殊な歌い方を味わうことができます。とにかく溜める溜める。うねってうねって竜巻でも起こっているかのような演奏です。第17番も今まで聴いたどんな演奏とも違う弾き方です。

圧巻は26番の第3楽章と32番全部です。ベートーヴェンのピアノソナタは、以前にこのボックスで全曲通して聴いた(全部レビューを付けました)ことがあります。後期になるほど技術的にはもちろん高度な精神性が必要とされると感じました。バックハウスの演奏は、技術的にはよくとちるのですが、精神的には完璧に弾きこなしています。26番の第3楽章はピアノの間から光でも漏れてくるかと思いました。

32番は現時点、すべてのピアノ曲の中で最高傑作だと思っています。このCDでも強く感じました。第一楽章は全ベートーベンまとめとも言うべき密度の濃い曲ですが、奏者の脳血管切れるんじゃないかとくらいの熱演です。ベートーヴェンのどんな作曲家にも真似のできないダサカッコパワーとその美しさには与える言葉が見つからないほどです。第二楽章は中盤のスウィング部分が胸が張り裂けんばかりに美しく、ジャズの発祥という人までいるほどの宇宙を感じさせる異次元ピアノ曲です。やっぱりこの曲が最強だな。

backhaus beethovenで検索をかけると32番がまずヒットしました。やっぱりこれなんですね。

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収録日が2年違うので、このCDとはまた別録音のようです。彼は活躍した時期が20世紀前半であるため録音が軒並み古いのが残念です。しかし、古さを超えてお腹にずっしりと響く演奏でした。このCDに収録されているのは1954年の演奏。つまり70歳のときの録音です。すげぇ。ピアノだけに打ち込んだ天才が、70年かけて辿りついた境地と言えましょう。

 

 

ここにすんばらしい紹介文があります。もっともっとピアノ曲を聴いて、全身で味わえるようになったらここで紹介されているアルバムを聞いてみたいです。

このバックハウスの『最後の演奏会』の模様は録音されて残っており、CDとして聴くことができる。人生の最後の瞬間まで演奏家として生きた感動的な記録で あると同時に、音楽が肉体を飛び越えてしまった稀有な演奏として僕には響いてくる。鍵盤の獅子王も晩年になるとミスタッチが見られるが、それ以上に曲と戯れているような優しさが演奏から感じられるのである。
とりわけ、シューマンの「夕べに」と「なぜに」はもはやこの世の音楽とは思えない。辞世の歌である。

 

最後の演奏会

最後の演奏会

  • アーティスト: バックハウス(ウィルヘルム),ベートーヴェン,シューベルト,モーツァルト,シューマン
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1997/09/10
  • メディア: CD
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Track List:

Ludwig van Beethoven

1. Piano Sonata In C Minor, Op.13 ‘Pathetique’: 1. Grave – Allegro di molto e con brio
2. Piano Sonata In C Minor, Op.13 ‘Pathetique’: 2. Adagio contabile
3. Piano Sonata In C Minor, Op.13 ‘Pathetique’: 3. Rondo. Allegro
4. Piano Sonata In D Minor, Op.31 No.2 ‘Tempest’: 1. Largo – Allegro
5. Piano Sonata In D Minor, Op.31 No.2 ‘Tempest’: 2. Adagio
6. Piano Sonata In D Minor, Op.31 No.2 ‘Tempest’: 3. Allegretto
7. Piano Sonata In E Flat, Op. 81a ‘Les adieux’: 1. Das Lebewohl. Adagio – Allegro
8. Piano Sonata In E Flat, Op. 81a ‘Les adieux’: 2. Abwesenheit. Andante expressivo, 3. Das Wiedersehn. Vivacissimamente
9. Piano Sonata In C Minor, Op.111: 1. Maestoso – Allegro con brio ed appassionato

10. Piano Sonata In C Minor, Op.111: 2. Arietta. Adagio molto semplice e cantabile

 

(リンク先の曲リストは間違っています)

 

 

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CDレビュー: Ola Gjeilo – Stone Rose(2007)

★★★☆☆

ノルウェー出身の作曲家オーラ・ヤイロ(1978-)の2007年のアルバムです。前回聞いた2012年発売のNorthern Lightsが良かったのでこちらも聞いてみました。

 

 

ソロピアノ中心で美しいが満足できなかった

アルバムはほとんどがソロピアノで、ヤイロ自身が弾いています。時々弦やトランペットが共演します。クラシックに分類しましたがポピュラーかジャズピアノに分類するのが適当かもしれません。

The LineやThe Hudson, Manhattanなど彼に影響を与えた風景からインスピレーションを受けて作られた曲が多いですね。全体的に一般ウケしそうな美しさを放つのですが、これといったインパクトがありません。普通なのです。普通。聴き手としてはどうにも不完全燃焼っぽさが残ります。街の診療所の待合室あたりで流すのには適当なのでは。

1曲だけ例外、14曲目North Country II だけはとても良いですね。特に後半部のトランペットが入ってから盛り上がって3分30秒~50秒の間の、静かにゆっくりと連続していた波が突然反転するような和音の展開は大好きです。そうそうこういうのが欲しいの!!I need you うほうほ


NORTH COUNTRY by Ola Gjeilo – YouTube

 

せっかく名立たる音楽学校を出てるんだからもっとドキドキするものを作ってほしいなぁ。もったいないよ。まだ若いんだからエキセントリックに走っちゃってもいいのに。今後の活躍に期待します。

 

 

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CDレビュー: Robert Schumann, Joseph Haydn, Berliner Philharmonikier(orch), Wilhelm Furtwangler(cond) – Symphony no.4, Symphony no.88 (DG111 CD17)

(画像は新バージョン、1曲オマケがついたものです)

★★★★☆

 

DG111の17枚目。シューマンの交響曲4番、ハイドンの交響曲88番です。

古い演奏ながらシューマン4番が見事

前作に続いて1950年代の非常に古い演奏です。指揮者のフルトヴェングラーは最近亡くなった吉田秀和さんも絶賛している伝説名高い人物ですが1954年没であるため、彼の録音は軒並み古く、正直聞くに堪えないものも沢山出回っています。あと10年生きてくれていれば素晴らしい録音が残せていただろうのに残念です。

 

Wilhelm Furtwängler.jpg若きフルヴェン。かっちょいい~

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー – Wikipedia

このCDはリマスターがかかっているのかモノラルながらド迫力です。まずシューマン4番、ベートーベンから続いていると思われるドイツ系お得意の微ダサ旋律をくどいくらい繰り返す第一楽章はテンション上がること間違いなし!調べてみるとシューマンはベートーベンに憧れてたんですね。憧れてたってこのような胸をくすぐる旋律は一朝一夕で生み出せるもんじゃないです。素晴らしい。

第三楽章もやはり気持ちのいいダサさです。これでバレエできるんじゃない?

 

一方後半のハイドン88番は極めてお上品な印象です。まだまだ私にはこの手の曲を心から味わうことができません。もっと枯れなきゃ無理です。そういえば数年前に年配の彼のことを枯れ死と呼ぶと聞いたことを思い出しました。

ハイドンは108曲も交響曲を作曲しています。モーツァルトの倍以上。書きすぎです。モーツァルトの序盤の交響曲もそうですが、本曲も交響曲というよりは弦楽の合奏がちょっと発展しただけというような雰囲気です。木管金管が全然目立ってません。これが年を経るにしたがってどんどん楽器が増えていくわけですがどういう経緯で大編成化していったのでしょう?マーラーなんか1000人編成というキチガイ的な超編成の交響曲を作ってますし。西洋音楽史を学んだらそこらへん詳しく解説されてるのでしょうか?とても興味があります。西洋音楽史は西洋の本が一番詳しいでしょうから、探すのが大変です。

 

 

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